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30.各々の罪 ライル長官②
この女性はいったい……
心臓がドクンと鳴るのと同時に、胸の奥になぜか切ないような苦しさを感じる。なんだこれは?
この女性から目を反らすことが出来ない。
吸い込まれそうなあの黒い瞳が私に向けられていることに、なぜだろう喜びすら感じる。
「…ライル、お前の目の前にいるのは大聖女様だ」
陛下が待ちきれない様子で私の方を見る。
大聖女だと?この女性が?
「っ…!だ、大聖女様、私は魔法省長官ライルです。覚えておられますか?この度は、ご帰還くださりありがとございます」
信じられなかった。
あの体型を晒すことに恥じ入ることもなかったあの女が、痩せてはいるが妖艶とも言える体型となっており、美しく麗しく完成された女性になっていた。
胸が高鳴った。あの凄まじいまでの癒しの魔力を放った大聖女様が、こんなに美しくなり戻ってきた。
しかしその後に続いた大聖女様の言葉に、絶望した。
「はい、覚えています。私の指を汚ない物のように摘まんだ人ですよね?」
穏やかな音楽を聞くような、いつまでも聞いていたい声色であっても、含まれる怒りは明らかだった。
「…っ!それはっ、そう思われたのならっ、その、申し訳ありませんでした。そんなつもりは──」
大聖女様は感情の無い目で私を見つめ、私の言葉を最後まで聞くことは無かった。
「謝らないで下さい。そんなつもりはなかった、ですか?でもあの聖女登録?でしたっけ?あの時、私の言葉を遮り、汚ない物のように私の指を摘まんで、目も合わせず、なんの説明もなく立ち去りましたよね?」
言葉が出なかった。
その通りだった…
見た目が醜いことに嫌悪感を抱き、その感情のまま、大聖女様であるにも関わらず疎ましいという態度をとった。
フェリクス殿下からも、王族の地位を望む強欲な女だと聞いていたのもあって、不敬な態度も当然だと躊躇いもなかった。
ただ、貴女の魔力に触れ、経験したことの無い感情が沸き、素っ気ない態度になったことも事実なのだ!
「でももうその事はどうでも良いです。今後は二度と私に触れないでください、まぁ触れることは出来ませんけど」
そう言った大聖女様のその言葉は魔王の断罪のようで、その顔はこの世に舞い降りた女神のように美しかった。
その言葉に動揺を隠しきれなかった私を、陛下の冷えた濃い青の瞳が見つめていた。
陛下から、大聖女様が自身にかけている結界の仕組みについて聞いた。
私ですら理解し難い魔法を、息をするかのように維持している。しかも隣に座っている付き添いだという男にも、同じ結界を施していると言う。
とてもじゃないが信じられない話しだった。次元の違う存在だと思った。もうすでに神と同じではないか。その上、目映いばかりの美しさに私の胸は高まるばかりだ。
そんな私にとって女神のような人の、その魔力に触れられないなんて。
私はなんてことをしたんだ。
見た目だけで愚かな者だと判断し、強欲な女だと聞いただけで、なぜあのような態度をとってしまったんだ──
あの時の魔力に触れたいと、想い人のように焦がれていた。この想いはどうしたら良いのだ。ほんの少し、ほんの少しでいいのに──
大聖女様を縋るように見ると、やはりなんの感情もない表情で私を見ていた。
「ライル、どのくらい大聖女殿が凄いのかお前が一番よくわかっているはずだ。
今後その大聖女殿に不敬をはたらくものは、それ相応の厳罰に処する。それは城にいるすべての者が対象だ。
貴族であろうと官僚であろうと、もちろん魔法省であろうと特例はない」
すでに大聖女様の記憶に残る失態を犯した私は、もう二度と大聖女様に触れることが出来ないという、私にとって最も絶望的な結果を招いてしまった。
どのような処罰よりも残酷な罰だった。
陛下の指示のもと、聖女登録証書にて聖女の確認を行った。
証書を渡して手形の位置を確認すると言うと、その時だけ結界を外すと仰ってくれた。
証書に登録した手形に大聖女様の手を重ねて、証書が登録時のように光れば本人として確認が出来る。
大聖女が証書に手をかざすと、それに反応した手形が柔らかく煌めいた。
「大聖女様に間違いありません。大聖女様、確認致しました。手をありがとうございました」
確認のため大聖女様の側に寄り、思わず大聖女様の手を掴み誘導しようとしてしまった。わざとらしかったかも知れない。
でもこのチャンスを逃したくなかった──
しかしその瞬間、そこにはそもそも誰も居なかったかのように、大聖女様が消えた。隣に座っていた男もろとも。
───(うわっ!て、えっ、また!?えっ?大聖女様!)
貴賓室の扉の外で護衛の大きな声が聞こえた。
大聖女様は転移の魔法で貴賓室の扉の外に移動していた。
「陛下!大聖女様が!」
大聖女の帰還は城の者には周知されている。
このタイミングでまた失踪されてはならないことは、全騎士団が理解している。
国王陛下に不敬であったとしても、大聖女を留めるなら許される事態と判断し、貴賓室の扉を無作法に開けた。
「大聖女様が、触れるつもりなら消えると仰ってます!」
困惑した表情の護衛騎士の後ろに、隠れるように立っている大聖女様は、怒りと恐怖がない交ぜになったような表情をしていた。
そしてその護衛の後ろから貴賓室を覗き込むような格好で、
「あの方は今、私の手を触ろうとしました。触らなくて良いと言ったのに…!
そちらが確認すると言うから厚意でバリアを外したのに、その少しの隙に触ろうとするなんて!
また次に私に触ろうとするのなら今のように消えます!今回は理解してもらうために扉の外に出ただけにしましたが、次はもう二度と戻りませんよ!」
大聖女様に指を指された私を見て護衛の表情がスンッと無になる。その後ろの大聖女様も、大聖女の後ろにいる男も皆同じ顔をして私を見ていた。
あの男は大聖女様と手を繋いでいるのに!歯軋りしたい程の悔しさは、陛下の言葉で激しい後悔へと変わった。
「ライル…!貴様ぁぁ!コイツを捕縛しろ!魔力拘束具を装着し貴族牢に入れておけ!!」
私が大聖女様にしたことは罪ばかりだった。
心臓がドクンと鳴るのと同時に、胸の奥になぜか切ないような苦しさを感じる。なんだこれは?
この女性から目を反らすことが出来ない。
吸い込まれそうなあの黒い瞳が私に向けられていることに、なぜだろう喜びすら感じる。
「…ライル、お前の目の前にいるのは大聖女様だ」
陛下が待ちきれない様子で私の方を見る。
大聖女だと?この女性が?
「っ…!だ、大聖女様、私は魔法省長官ライルです。覚えておられますか?この度は、ご帰還くださりありがとございます」
信じられなかった。
あの体型を晒すことに恥じ入ることもなかったあの女が、痩せてはいるが妖艶とも言える体型となっており、美しく麗しく完成された女性になっていた。
胸が高鳴った。あの凄まじいまでの癒しの魔力を放った大聖女様が、こんなに美しくなり戻ってきた。
しかしその後に続いた大聖女様の言葉に、絶望した。
「はい、覚えています。私の指を汚ない物のように摘まんだ人ですよね?」
穏やかな音楽を聞くような、いつまでも聞いていたい声色であっても、含まれる怒りは明らかだった。
「…っ!それはっ、そう思われたのならっ、その、申し訳ありませんでした。そんなつもりは──」
大聖女様は感情の無い目で私を見つめ、私の言葉を最後まで聞くことは無かった。
「謝らないで下さい。そんなつもりはなかった、ですか?でもあの聖女登録?でしたっけ?あの時、私の言葉を遮り、汚ない物のように私の指を摘まんで、目も合わせず、なんの説明もなく立ち去りましたよね?」
言葉が出なかった。
その通りだった…
見た目が醜いことに嫌悪感を抱き、その感情のまま、大聖女様であるにも関わらず疎ましいという態度をとった。
フェリクス殿下からも、王族の地位を望む強欲な女だと聞いていたのもあって、不敬な態度も当然だと躊躇いもなかった。
ただ、貴女の魔力に触れ、経験したことの無い感情が沸き、素っ気ない態度になったことも事実なのだ!
「でももうその事はどうでも良いです。今後は二度と私に触れないでください、まぁ触れることは出来ませんけど」
そう言った大聖女様のその言葉は魔王の断罪のようで、その顔はこの世に舞い降りた女神のように美しかった。
その言葉に動揺を隠しきれなかった私を、陛下の冷えた濃い青の瞳が見つめていた。
陛下から、大聖女様が自身にかけている結界の仕組みについて聞いた。
私ですら理解し難い魔法を、息をするかのように維持している。しかも隣に座っている付き添いだという男にも、同じ結界を施していると言う。
とてもじゃないが信じられない話しだった。次元の違う存在だと思った。もうすでに神と同じではないか。その上、目映いばかりの美しさに私の胸は高まるばかりだ。
そんな私にとって女神のような人の、その魔力に触れられないなんて。
私はなんてことをしたんだ。
見た目だけで愚かな者だと判断し、強欲な女だと聞いただけで、なぜあのような態度をとってしまったんだ──
あの時の魔力に触れたいと、想い人のように焦がれていた。この想いはどうしたら良いのだ。ほんの少し、ほんの少しでいいのに──
大聖女様を縋るように見ると、やはりなんの感情もない表情で私を見ていた。
「ライル、どのくらい大聖女殿が凄いのかお前が一番よくわかっているはずだ。
今後その大聖女殿に不敬をはたらくものは、それ相応の厳罰に処する。それは城にいるすべての者が対象だ。
貴族であろうと官僚であろうと、もちろん魔法省であろうと特例はない」
すでに大聖女様の記憶に残る失態を犯した私は、もう二度と大聖女様に触れることが出来ないという、私にとって最も絶望的な結果を招いてしまった。
どのような処罰よりも残酷な罰だった。
陛下の指示のもと、聖女登録証書にて聖女の確認を行った。
証書を渡して手形の位置を確認すると言うと、その時だけ結界を外すと仰ってくれた。
証書に登録した手形に大聖女様の手を重ねて、証書が登録時のように光れば本人として確認が出来る。
大聖女が証書に手をかざすと、それに反応した手形が柔らかく煌めいた。
「大聖女様に間違いありません。大聖女様、確認致しました。手をありがとうございました」
確認のため大聖女様の側に寄り、思わず大聖女様の手を掴み誘導しようとしてしまった。わざとらしかったかも知れない。
でもこのチャンスを逃したくなかった──
しかしその瞬間、そこにはそもそも誰も居なかったかのように、大聖女様が消えた。隣に座っていた男もろとも。
───(うわっ!て、えっ、また!?えっ?大聖女様!)
貴賓室の扉の外で護衛の大きな声が聞こえた。
大聖女様は転移の魔法で貴賓室の扉の外に移動していた。
「陛下!大聖女様が!」
大聖女の帰還は城の者には周知されている。
このタイミングでまた失踪されてはならないことは、全騎士団が理解している。
国王陛下に不敬であったとしても、大聖女を留めるなら許される事態と判断し、貴賓室の扉を無作法に開けた。
「大聖女様が、触れるつもりなら消えると仰ってます!」
困惑した表情の護衛騎士の後ろに、隠れるように立っている大聖女様は、怒りと恐怖がない交ぜになったような表情をしていた。
そしてその護衛の後ろから貴賓室を覗き込むような格好で、
「あの方は今、私の手を触ろうとしました。触らなくて良いと言ったのに…!
そちらが確認すると言うから厚意でバリアを外したのに、その少しの隙に触ろうとするなんて!
また次に私に触ろうとするのなら今のように消えます!今回は理解してもらうために扉の外に出ただけにしましたが、次はもう二度と戻りませんよ!」
大聖女様に指を指された私を見て護衛の表情がスンッと無になる。その後ろの大聖女様も、大聖女の後ろにいる男も皆同じ顔をして私を見ていた。
あの男は大聖女様と手を繋いでいるのに!歯軋りしたい程の悔しさは、陛下の言葉で激しい後悔へと変わった。
「ライル…!貴様ぁぁ!コイツを捕縛しろ!魔力拘束具を装着し貴族牢に入れておけ!!」
私が大聖女様にしたことは罪ばかりだった。
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