異世界召喚?そんなこと望んでません!元の世界に帰してください!

翡翠と太陽

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36.辺境伯領へ

 「…っ!大聖女様、ご無事で何よりでございます」

 瞬間移動でまたさっきまで座っていた貴賓室のソファーに戻ると、私の前に座っていた宰相と側近、隣の一人掛けのソファーに座っていた王子様が息を飲んで固まっていた。

 「戻りました。着地できる場所も確認できたので、もうすぐにでも出発できますが、何人くらい一緒に行きますか?」

 消えた私がまた突然現れたので、物凄く驚いている。
 宰相はさっきライルさんが私に触ろうとしたから消えたのを見てるけど、そうだよね、何度見ても目の前で人が消えたり現れたりは驚くよね。

 3人ともポカンと口を開けていたが、やはりここも側近の人がすぐに我に返り、

 「…はい、大聖女様のお力をお貸し頂けるので、騎士を20名と神官を5名、それと私と…殿下は?どうなさいます?」
 
 まだ口の開いていた王子様が、
 「…行く、もちろんだ、私も行く」と言い、熱の籠もったような視線で私を見ていた。

 お城の広場に移動する全員が集合した。
 それ以外にも私が何かすると噂に聞いた城の人たちや、宰相も国王陛下もいた。


 私が触れていないと一緒に瞬間移動できないが、このたくさんの人数に触れることは無理なので、全員まとめてカプセルバリアで覆い、このカプセルごと瞬間移動することにした。

 「すっ凄い…これが大聖女様の結界か!?」

 「限定して結界が張れるなんて、しかもこの強度は並じゃないぞ」

 「このような結界は初めてですが、何故かこう癒やされる力もありますね」

 「わかります!私も先程から心が穏やかになるというか落ち着くというか不思議な感覚です」

 騎士さんたちも神官さんたちもこのカプセルバリアを好意的に受け入れているようなので、私はこのカプセルバリア内の会話を外に聞こえないようにしたあと、

 「あのー、私もこの人数の移動は初めてなので、もし不安だと思う方はこの輪から抜けて下さい。ちなみに今だけこの会話は外に聞こえていませんので安心して下さい」

 私の言葉にカプセルバリア内にいる者たちが、バリアの外の者を見ると皆、ん?という顔して、聞こえない!というジェスチャーをして口をパクパク動かしているのが見える。

 「凄い、音も遮断できるなんて…」

 「こんなことが出来るなんてもう神の魔法よね」

 私の言葉にこのバリアから抜ける人はいないようだった。

 私も失敗する気はまったく無いけど、恐らくは陛下から私に従うようかなり厳しく言われているみたいだから、本当は怖くて行きたくない人がいるかもと、一応私が確認しておかないとと思ったが抜けると言う人はいなかった。

 「大聖女殿、騎士たちに対する気遣いに感謝します。このような最強の結界を張れる貴女に不安なんて微塵も抱きません。貴女の魔法は素晴らしい」

 私の横に並んでいた王子様が、私を何故かうっとりと見ながら言った。やめて欲しい。

 私はカプセルバリアの音の機能をオフにして大きな声で、
 「それでは移動します。そのまま動かないでいてくれれば大丈夫ですので!」

 『あの砦へ』

 瞬きするのと同じ感覚で、予定していた砦の中庭に立っていた。

 「大丈夫かと思いますが、皆さんいますよね?」
 まずは全員の安否確認が大事だ、そう思い声を掛けると、皆が周りを見渡し絶句していた。

 「本当に砦だ…、こんな一瞬で移動出来るなんて、信じられない」

 「俺も実はもしかして騙されてるかもって、何かの実験かもって少し思ってたけど、まさかほんとに転移魔法が存在するなんて…」

 そりゃ信じられないよね、やってる私だって驚きだもん。でも皆さん無事なようで良かった。そう思っていると、

 「大聖女殿、貴女こそ女神だ。このような魔法が使えるなんて、貴女を使わしてくれた神に感謝したい」

 王子様はそう言うと私の前に跪き、私の手を取ろうとした。
 多分聖女判定のあとに宰相や騎士団長さんが私の手を取って手の甲にキスしたやつをしようとしてるのだろう。

 私は慌てて両手を腰の後ろで組んだ。嫌だ、この人にこそそんなことされたくない。

 「私は私に与えられた仕事をするまでです。あなたからの感謝も不要です」

 一応この国の王子様だしプライドもあるだろうと思い、王子様にだけ聞こえる声で言った。
 すると王子様は、ハッと悲しい顔を見せてから手を引っ込め、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、突然現れた私たち一団に驚いている砦の兵士たちに、辺境伯を呼んでくれと伝えると砦の中に向かって歩き出した。

 「大聖女様、まずはこの辺境伯領の領主にお会いして、状況を確認しましょう。ご案内します」
 側近さんが声を掛けてきたので、ノアさんと一緒に向かった。

 そこは広い応接室のようだった。机には地図が広げられており、色分けをして書込みがされていた。少し待つと扉の向こうがザワザワしてノックのあとに人が入ってきた。

 「はじめまして大聖女様、私はこの辺境伯領の当主、ハルバード·メイザーと申します」

 銀色の輝く髪に濃い紫色の瞳だった。これまた初めて見る瞳の色と、ノアさんと同じくらいの背の高さは180cm以上は間違いなく、そのうえ体は鎧をしていてもガッチリ筋肉質なのがわかった。

 私が一瞬ボーっと見ている隙に私の前に跪き、私の手を取ると、

 「女神クリスティーナに感謝致します。今この時に大聖女様を授けてくださったことを。この奇跡に感謝し大聖女様に忠誠を誓います」

と言い、私の手の甲を額に当てた。あとで聞いたけど、これは騎士の忠誠の誓いで唇ではなく額を当てるそうだ。   
 それにしても顔が恐ろしく美しい。
 
 でもサラッとスマートな対応に拒絶する間もなく挨拶が終わってしまった。
 本来ならきっとこうなんだよね。あのお城の人たちも最初からこの方のように好意的なら良かったのに。

 そう思ってチラッと王子様の方を見ると、さっきよりも悲しい顔になっていた、なんで? 

 「大聖女様、転移魔法をこの目で拝見しました。大聖女様の魔法も魔力量も素晴らしいです。この辺境の地に降り立って下さり感謝致します。どうか私のことはハルバードとお呼び下さい」

 今、この方は私の手をスルッと取った。私のカプセルバリアをすり抜けることが出来るのは、ノアさんを始め村の皆さんだけなのに。何よりこのハルバードさんに嫌悪感が湧かない。

 「はじめまして、私はこの世界では大聖女と呼んでもらっています」

 ハルバードさんは一瞬考えたあと、わかりましたと言った。そして、私の隣にいるノアさんを見ると、

 「おい、ノア、お前何してるんだ?なんでここにいる?」
 
 「おいハル、久しぶりに会ったのに何してるはないだろ?俺は大聖女様の付き添いだ」

 ハルバードさんは、ん?という顔をしたあと、楽しそうに笑顔を作ると、

 「ノア、あとでゆっくり話そう」

と言って、その笑顔をそのまま私に向けた。


 


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