異世界召喚?そんなこと望んでません!元の世界に帰してください!

翡翠と太陽

文字の大きさ
87 / 94

87.この世界での仕事

 この旧ユストル王国の神殿は、規模はそのままで、エルドレッドさんが選任した新たな神官長を迎え再スタートした。
 
 「大聖女様、私が神官長の務めをするなど身に余る光栄にございます。与えられた役割を全うするために、誠実に民のために身を捧げる所存です」
 
 新しい神官長は、メグりんのお兄さんのブライアンさんが就任した。

 メグりんのご家族は神官一家で、メグりんのご両親とお兄さんのブライアンさん、ブライアンさんの奥さんのアマリアさんも全員が神力を持つ神官さんだった。

 そして、ブライアンさんはまさにあの神官長に僻地に追いやられた人たちの一人だった。




 元は領地を持たない伯爵家を継いだ私は、ザイカラル帝国の統治により子爵家へと爵位を下げられた際に、神力を授かっていることもあり、爵位を返上しようか迷っていた。

 しかし、3年前に我が息子のブライアンが、何故か僻地へ左遷されたことで、子爵家を維持することにした。

 神力を持つ誠実で優しい息子が、更に神官の従事すら外された場合の保険として思い直した。神官長を信頼していなかったから。

 私たち夫婦は神官を退職したが、この仕事に誇りを持つ息子の意志に任せたい。

 ブライアンの妻のアマリアは心を病んでしまっている。恐らく神官どころか、自立した生活は無理だろう。寝込んでから2年が経った。

 そんな時に大聖女様が我が家に来てくださった。何度もアマリアの回復のためお願いしようかと思っていた。
 しかし、我が家以外にも他に大聖女様の治療を必要としている方がいるかもしれない。個人的に頼むことなど許されるのか。

 なんとメグが偶然にあのお茶会で大聖女様と出会い、親しくさせていただいたことで叶ったのだ。なんというお優しい方なのだ、なるべくして大聖女様になったのだと思った。

 そうしているとあっという間に、神殿の問題も解決し、ブライアンが大神殿に復帰し、新たな神官長として任命されたのだ。
 なんというお方だ、我が家を救ってくれたと言っても良い。感謝してもしきれない。これからは、大聖女様のお役に立てるように生きていくことが我が家の務めだ。
 


 「ブライアンさん、私、お願いがあるんです」

 今まで平民の人たちは、女神に祈ることさえ金銭を要求された。
 それはもちろん無くし、週に2~3日くらい私が相談窓口の人になって、国民の皆さんの困り事を聞く係になろうと思った。

 そして、とりあえず私が来れない時に体調の悪い人には、マーゴットさんの置き薬を飲むように渡して欲しいと頼んだ。
 これは私がちゃんとマーゴの薬屋さんから購入したものを置かせてもらった。

 本当は体調だけではなく、他人からの悪意に傷ついている人を見つけたいと思っている。
 私が出来ることは限られているが、その悪意から離れ心穏やかに生活できるお手伝いがしたいのだ。

 「民のためにここまでしていただけるなんて…とてもありがたいお話です。もちろんよろしくお願い致します。大神殿として目いっぱい大聖女様のお手伝いをさせて頂きます…!」

 ブライアンさんは高圧的な所もなく、かと言って優しいばかりでもない。国民の事を中心に考え、今までのような振る舞いをする神官にはきっちり指導していた。

 エルドレッドさんの人を見る目に、やっぱり皇帝になる人なんだなーと改めて尊敬できる人だと思った。

 私が神殿に出勤する日は、カイルさんの作ってくれたスイーツを毎回手みやげでたくさん持っていき、休憩時間にはその日に出勤している神官さんたちと一緒に食べて、毎度プチパーティーのようだった。

 皆さんメグりんくらい気の合う優しい楽しい人たちばかりで、人見知りの私でもすぐに打ち解けることが出来た。
 毎日出勤したいくらいだったけど、さすがに無理なので、出勤の前の日から楽しみで仕方なかった。

 「美麗、お仕事終わったらすぐ帰って来てね?約束だよ?夕食は絶対に一緒に食べたいからね?」

 「うん、わかった!相談事で残業になったらすぐ連絡するから!」
 
 「……この前もそう言って残業で遅くなったよね…?早く美麗に会いたかったのに…」

 「ごめんねハル、うーん、家族が具合悪いって言われたら家まで行かないとならない時もあるし、この前みたいに逃げたアヒルを全部捕まえるのに時間かかる時もあるし…」

 「もう!美麗はアヒルと俺とどっちが大事なの!?」

 「ごめんねハル、時と場合によるけど…ハルが大好きだよ?」

 「もうっ!そこは、ハルだよ?チュッてしてくれないと拗ねるからね!?」

 「ハル大好きだよ!チュッチュッチュッ…」

 「……奥様、お仕事に遅れます。この大きな子供は構わず、すぐに転移されてくださいませ」

 「あーん!美麗、行ったらやだよー!」

 「坊ちゃま、昼食はすべてニンジンにしますよ?」

 「………美麗、行ってらっしゃい!」

 「ハルありがとう!行って来まーす!」

 私が神殿に仕事に行く日は毎度このやり取りをする。

 私はわかっている、ハルはわざとやっているのだ。私がハルにとって必要な人間だと、いつだって実感させてくれる。

 私には本当にもったいないくらいの旦那さんだ。

 私は常にメルトル村のみんなの生活の安全と健康を第一に考えて行動している。

 本当は毎日でもメルトル村に行きたいけど、毎日行くと逆に気を使われるので、神殿と半々で出勤している。

 私の大切な人たちを支えて、その人たちの望む姿を叶えたり、維持できるように見守りたい。私がそうしてもらったから。

 
 今は大切にしたい人たちが増えて幸せだ。私の願いは、その人たちが毎日平和に過ごせること。

 メグりんのようにたまたま出会うことができて、体調を崩していたお義姉さんにもたどり着いた。
 でもこんな風に巡り合うこともなかなかないだろう。

 誰かの悪意で傷付き、心も身体も傷めるような事になってほしくない。誰も大切な人生を無駄にしてほしくない。
 一番は、その悪意が回り回って、私の大切な人たちに届いてほしくない。
 

 でも、せっかくすごい力を授かったから、この力を使って、辛い思いをしてる人の役に立ちたい。
 たくさんの辛い気持ちは、経験した私が一番よく知ってる。

 だから、相談窓口で働かせてもらうことにした。

 相談にくる人の信用を得るためにも、大量の堆肥を道路にぶちまけたと言われたら回収して、倒れた木で川が溢れたと言われたら木を除けて溢れた水で被害に遭った場所を修復した。とにかく何でもやった、私には魔法があるから。

 そして悪意で悩む人の相談とそれをぶつける人の対応も慎重に行った。

 魔法が使えても人の心は難しい。
 でも一方的な嫌がらせや、体格差のある相手を虐めている者は容赦なく成敗した。

 
 私が生きている限り、平和で穏やかに生きて行けることは幸せな事だと共感してもらえる人を増やしたい。

 闇の神の仕事をどんどん潰していったらますます引きニートになりそうだけど、まぁ…いいよね…?

 私も相談事から学んで説得力のある大人に成長したい。そこからまた私にできることが増えていれば、この世界での私の存在価値を見つけて行けるだろうから。

 
 今日も私に幸せな時間をくれる大切な人たちと過ごす。

 「今日はねー、なんと!エルドレッドさんからの差し入れでーす!」

 「……………。」

 「……あれ?みんな、これなかなか手に入らない大人気のクリームサンドなんだけど……?しかも、エルドレッドさんが朝から3時間並んで買ってきてくれたんだけど……?」

 「…!…レイレイ……怖くて食べれないよ…。皇太子殿下からの差し入れなんて…しかも朝から並んだって、皇太子殿下って暇なの……?」

 …!エルドレッドさんをスイーツ仲間としか見てなかった…。だからお金も受け取ってくれなかったのか……。ヤバいよコレは。

 「えぇーっ!?皇太子殿下って気さくな方なんですねー!」
 「ホントホント!美味しそう~!いただきまーす!」

 慎重なメグりんをよそに、他の神官さんたちはガツガツと食べ始める。もちろんメグりんもすぐに食べ始めた。

 
 今はただ、平和だった大学時代の友だちと、学食でお菓子を食べて笑っていた頃を思い出すようなこの時間がとても愛おしくて、大切にしたいと思っている。

 


 
感想 22

あなたにおすすめの小説

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。