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数ある部屋の一つに通された子爵家令嬢ベルーラ・モーリスは一人心拍数を上げながらこの邸の侍女から出された紅茶を一口飲んだ。
(はあー・・・気が重いけど今日こそはちゃんと伝えなくちゃ)
静かな部屋で一人、何度も深呼吸をするベルーラは、気持ちを落ち着かせ待ち人が来るのを待っていた。
コンコン。
ベルーラが二口目の紅茶を口に含んだと同時に重厚な扉からノック音が室内へと伝わる。返事をしようとするが、それよりも先に勢いよく扉が開いた。
開いた扉の先に立っていたのは、感情の読めない表情をした青年貴族だった。入室と同時にべルーラへ不機嫌な視線を向けるも言葉はなく部屋へ足を踏み入れた。
「待たせてすまない。本日付で送らなければならない書類があって仕上げるのに少し時間が掛かってしまった」
少し疲れた表情を浮かべた青年は、べルーラが座る対面に腰を下ろし、淡々とした口調で遅れた理由を述べた。その間すぐさま先程の侍女が青年へ紅茶を注ぎ役目が終わると静かに部屋を退出した。淹れたての紅茶は彼好みの茶葉と温度設定だったのか、一口含むとピリついた雰囲気がほんの少し和らいだ。
「キ、キリウ様、お忙しいところ急な訪問、申し訳ございませんでした。こういうことは早く終わらせた方がお互いのためだと思ったので」
含みを持たせる言い方のべルーラに、先程の雰囲気から一転、キリウは怪訝な表情を浮かべ、ベルーラを一瞥した。不穏な空気が漂う中、キリウは無言のまま静かにカップをソーサーに置くと小さく息を吐いた。カチリ、と陶器の冷たい音の響きと彼の表情が相まってベルーラの身体は一瞬で硬直した。
「早く終わらせる、とは?」
キリウの涼し気な表情に圧を感じつつ、緊張の表情を浮かべたべルーラは、大きく息を呑み意を決して目の前のキリウへ視線を向け、口を開く。
「スクヴェルク侯爵家と我がモーリス子爵家の婚姻を結ぶきっかけは、当時の当主たちの口約束から始まりました。その頃、王都を中心に流行り病が蔓延。我が領地は王都から離れていたことで難を逃れましたが、スクヴェルク家の領地は例外なくかなりの被害に遭い危機的状態に陥りました。それを助けたのが当時のモーリス家当主。彼は元々医療に精通する傍ら、商売上手でかなりの資金を蓄えていたので資金繰りに困窮していた侯爵家に援助しました」
急に両家が繋がったきっかけを話し出したベルーラに、何を今更?といった表情をキリウは浮かべるも彼女の話に同調し口を開いた。
「そうだな。当主の祖母同士が女学校時代の同級生であったことから、少なからずモーリス家とは親交があった。その縁もあって治療はもちろん、物資や資金援助など多方面にわたり支援を受けることができた。家格の差はあれど、更なる繋がりと信頼関係を強めた両家は今日まで交流は絶えず続いている」
そして、その時交わされた約束事。
「将来、もし両家に年の近い男女が誕生した暁には婚姻を取り決め、さらなる繁栄を願う、と誓約された。・・・がしかし、それから幾世代を重ねても、巡り合わせに恵まれることはなかった」
興味のなさそうな表情のキリウが話し終えるとベルーラは小さく頷いた。
「ええ、仰る通りです。そしてようやく私たちの代でそれが叶うこととなりました。でも婚姻がない時代でも互いに助け合い、当時モーリス家からの援助金もスクヴェルク家は既に完済されております。同様にモーリス家も王族との繋がりが深いスクヴェルク家のおかげで社交界はもちろん王家との信頼関係を築くことができました」
「ああ、そうだな。我々が幼い頃から嫌というほど聞かされ続けてきた話の流れだ」
ベルーラが何を伝えたいのか全く意図が見えないキリウは、少し訝しげな表情を浮かべたが、特に問い質すこともせず紅茶を口にした。キリウは視線をベルーラに移すと先ほどまで悠長に話をしていた彼女の口が急に止まり歯切れの悪そうな様子を見せていた。
「・・・なので・・・えっと・・・それをひっくるめても・・・その・・・私たちのこのしがらみによる・・・えっと、婚約を・・・その・・・もう解消にしてもいいのではないかと・・・・・・思いまして」
「婚約を解消だと?」
ベルーラが口にしたある言葉の一部に対しキリウは片眉を小さくピクリと動かした。冷たい視線と同時に無機質なまでの声色は挙動がおかしくなったベルーラを更に追い詰めた。一瞬、彼からの視線に怯みそうになりながらも、ベルーラは腿に重ね添えていた両手に力をぎゅっと込めると唇を一文字に引き締めた。
「は、はい。今、この話をするのは初めてで、もちろんモーリス家の者にはまだ伝えてはおりません。それにいくら子爵家が援助した側とは言え、爵位は格下になり此方からは言い出すなんて出来ません。なので失礼を承知で侯爵家側からの申し入れとして頂きたくご相談に参った次第でございます」
「何故、今になって?」
キリウの動じないまでの冷静な態度にべルーラは再び身体を硬直させた。緊張感に襲われたベルーラは、無意識に唾を飲み込んだ。それでも失神しそうな緊張をキリウにバレたくなかったベルーラは、奥歯を噛み締め毅然とした態度を見せた。少しの沈黙の後、キリウの凍るような視線に対抗するかのように真っ直ぐ凛とした強い眼差しで見つめ言い放った。
「私には、心に想う方がいるからです」
☆☆☆
「お待たせ、ノア」
侯爵家側の見送りを断ったベルーラは、馬車が停められた待機所へと一人向かった。そこには、やきもきした面持ちで待つベルーラの専属侍女、ノアが今か今かと待ち侘びていた。ベルーラはノアに気づくと、そっと声をかけ柔らかく微笑んだ。
「ただいま」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
一先ずベルーラを誘導すべくノアは御者に馬車の扉を開けさせ中へと促した。
かなりの緊張を伴っていたためか乗り込んだ瞬間、ベルーラは大きな溜息と共に安堵の表情を浮かべると背凭れに体を預け姿勢を崩した。
「はあーーーーーーー緊張したーっ。一生分の汗が全身から噴き出たかと思った」
ノアから手渡されたハンカチで額や首筋の汗を拭いながらベルーラは再び大きな息を吐く。
「お嬢様、旦那様に一言もなくこのような強硬手段・・・本当によろしかったんでしょうか。やはり個人的には賛同しかねるのですが・・・」
向かいに座るノアは心配そうな表情でベルーラを見つめた。
「そうね、確かに良くないとは思っているわ。これは私たちだけではなく侯爵家と子爵家の問題でもあるのだから・・・でも時間がなかったんだから仕方ないわ。私が18歳になってしまえば私たちの婚姻が正式に決まってしまい後戻りは出来なくなってしまう。そうなったら不幸よ・・・キリウ様が」
向かいに座るノアは力なく笑顔を向けるベルーラに複雑な表情を見せた。
「・・・でも、確信があるわけではないじゃないですか」
べルーラは、ノアの言葉を否定するように首を横に振り自嘲するような笑みを浮かべた。
「いいえ、私に対する彼の態度を見ていればわかるわ。この婚姻は私たちが生まれた時点で互いの意思に関わらず決まっていた、それが納得出来ない相手でも・・・。キリウ様にとって私はそういった類の女だったの。現に私たちは交流という交流を深めることはなかった。・・・私ね、キリウ様が私に向けて微笑んだ顔、一度も見たことがないの。でも、ある女性にだけにはその表情を見せていたわ」
ベルーラのずっと心に刺さっている痛々しい話にノアは更に複雑な表情を浮かべた。
「女性、というのはマーヴェル姫君のことですよね。幼い頃からの関係性はあるにせよ、所詮は一貴族の騎士と王女の関係。それに噂では、同盟国の王太子様との婚姻が決まっておられるとか。だからお嬢様が心配されることはないと思うのですが」
前のめりになり少し興奮気味で話すノアにべルーラは眉尻を下げ力なく微笑んだ。
「そうかしら、彼が心を許せるのはマーヴェル王女様だけ。噂だと私とのことがなければ、マーヴェル様をより護れてずっとお側に仕えられる親衛騎士として志願したいほどらしいわ。しかもそれは王女様も同じお考えだとか。互いに想い合うもそれが叶わない、私の所為で・・・。でも、邪魔な私さえいなくなれば全て丸く収まるの」
「ベルーラ様・・・」
何故か今にも泣き出しそうなノアに驚きつつもべルーラは慰めるように彼女の手を優しく握った。
「もう!ノアったら、そんな顔しないで。キリウ様は“自分だけの判断で即決は出来ない”とは仰ってたけど、特に反対もしなかった。それが彼自身の答えなのよ。もし、このまま解消出来ればお互い晴れて肩の荷が降りる」
車内の重い空気を少しでも払拭すべく、ベルーラは明るい声を出しながら先を見据える話を始めた。
「私ね、商売とかしてみたいの!領地の村で採れる果物でジャムとか作って王都で売るの。そしたら村もモーリス家も潤うしどうかしら?あとは、そうね、ご先祖様が残してくれた薬学書で薬を作ってそれを売るとか?」
楽しそうに展望を話すべルーラに、半べそ状態だったノアも気合を入れるように鼻息を荒くし、ベルーラの両手を握り返す。
「薬剤に関しては、直接の知り合いではございませんが、声をかけられる人がおります!もしそうなったら、お手伝いさせてもらいますので遠慮なくお申し付けください!!私、お嬢様に一生ついて行く覚悟でございますから!!」
「ふふ、ありがとノア」
意外とノリノリなノアに、ベルーラは思わず笑顔がこぼれた。しかし、先ほどのキリウとのやり取りが過ぎり、ベルーラはほんの一瞬哀しそうな笑みを浮かべた。
(はあー・・・気が重いけど今日こそはちゃんと伝えなくちゃ)
静かな部屋で一人、何度も深呼吸をするベルーラは、気持ちを落ち着かせ待ち人が来るのを待っていた。
コンコン。
ベルーラが二口目の紅茶を口に含んだと同時に重厚な扉からノック音が室内へと伝わる。返事をしようとするが、それよりも先に勢いよく扉が開いた。
開いた扉の先に立っていたのは、感情の読めない表情をした青年貴族だった。入室と同時にべルーラへ不機嫌な視線を向けるも言葉はなく部屋へ足を踏み入れた。
「待たせてすまない。本日付で送らなければならない書類があって仕上げるのに少し時間が掛かってしまった」
少し疲れた表情を浮かべた青年は、べルーラが座る対面に腰を下ろし、淡々とした口調で遅れた理由を述べた。その間すぐさま先程の侍女が青年へ紅茶を注ぎ役目が終わると静かに部屋を退出した。淹れたての紅茶は彼好みの茶葉と温度設定だったのか、一口含むとピリついた雰囲気がほんの少し和らいだ。
「キ、キリウ様、お忙しいところ急な訪問、申し訳ございませんでした。こういうことは早く終わらせた方がお互いのためだと思ったので」
含みを持たせる言い方のべルーラに、先程の雰囲気から一転、キリウは怪訝な表情を浮かべ、ベルーラを一瞥した。不穏な空気が漂う中、キリウは無言のまま静かにカップをソーサーに置くと小さく息を吐いた。カチリ、と陶器の冷たい音の響きと彼の表情が相まってベルーラの身体は一瞬で硬直した。
「早く終わらせる、とは?」
キリウの涼し気な表情に圧を感じつつ、緊張の表情を浮かべたべルーラは、大きく息を呑み意を決して目の前のキリウへ視線を向け、口を開く。
「スクヴェルク侯爵家と我がモーリス子爵家の婚姻を結ぶきっかけは、当時の当主たちの口約束から始まりました。その頃、王都を中心に流行り病が蔓延。我が領地は王都から離れていたことで難を逃れましたが、スクヴェルク家の領地は例外なくかなりの被害に遭い危機的状態に陥りました。それを助けたのが当時のモーリス家当主。彼は元々医療に精通する傍ら、商売上手でかなりの資金を蓄えていたので資金繰りに困窮していた侯爵家に援助しました」
急に両家が繋がったきっかけを話し出したベルーラに、何を今更?といった表情をキリウは浮かべるも彼女の話に同調し口を開いた。
「そうだな。当主の祖母同士が女学校時代の同級生であったことから、少なからずモーリス家とは親交があった。その縁もあって治療はもちろん、物資や資金援助など多方面にわたり支援を受けることができた。家格の差はあれど、更なる繋がりと信頼関係を強めた両家は今日まで交流は絶えず続いている」
そして、その時交わされた約束事。
「将来、もし両家に年の近い男女が誕生した暁には婚姻を取り決め、さらなる繁栄を願う、と誓約された。・・・がしかし、それから幾世代を重ねても、巡り合わせに恵まれることはなかった」
興味のなさそうな表情のキリウが話し終えるとベルーラは小さく頷いた。
「ええ、仰る通りです。そしてようやく私たちの代でそれが叶うこととなりました。でも婚姻がない時代でも互いに助け合い、当時モーリス家からの援助金もスクヴェルク家は既に完済されております。同様にモーリス家も王族との繋がりが深いスクヴェルク家のおかげで社交界はもちろん王家との信頼関係を築くことができました」
「ああ、そうだな。我々が幼い頃から嫌というほど聞かされ続けてきた話の流れだ」
ベルーラが何を伝えたいのか全く意図が見えないキリウは、少し訝しげな表情を浮かべたが、特に問い質すこともせず紅茶を口にした。キリウは視線をベルーラに移すと先ほどまで悠長に話をしていた彼女の口が急に止まり歯切れの悪そうな様子を見せていた。
「・・・なので・・・えっと・・・それをひっくるめても・・・その・・・私たちのこのしがらみによる・・・えっと、婚約を・・・その・・・もう解消にしてもいいのではないかと・・・・・・思いまして」
「婚約を解消だと?」
ベルーラが口にしたある言葉の一部に対しキリウは片眉を小さくピクリと動かした。冷たい視線と同時に無機質なまでの声色は挙動がおかしくなったベルーラを更に追い詰めた。一瞬、彼からの視線に怯みそうになりながらも、ベルーラは腿に重ね添えていた両手に力をぎゅっと込めると唇を一文字に引き締めた。
「は、はい。今、この話をするのは初めてで、もちろんモーリス家の者にはまだ伝えてはおりません。それにいくら子爵家が援助した側とは言え、爵位は格下になり此方からは言い出すなんて出来ません。なので失礼を承知で侯爵家側からの申し入れとして頂きたくご相談に参った次第でございます」
「何故、今になって?」
キリウの動じないまでの冷静な態度にべルーラは再び身体を硬直させた。緊張感に襲われたベルーラは、無意識に唾を飲み込んだ。それでも失神しそうな緊張をキリウにバレたくなかったベルーラは、奥歯を噛み締め毅然とした態度を見せた。少しの沈黙の後、キリウの凍るような視線に対抗するかのように真っ直ぐ凛とした強い眼差しで見つめ言い放った。
「私には、心に想う方がいるからです」
☆☆☆
「お待たせ、ノア」
侯爵家側の見送りを断ったベルーラは、馬車が停められた待機所へと一人向かった。そこには、やきもきした面持ちで待つベルーラの専属侍女、ノアが今か今かと待ち侘びていた。ベルーラはノアに気づくと、そっと声をかけ柔らかく微笑んだ。
「ただいま」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
一先ずベルーラを誘導すべくノアは御者に馬車の扉を開けさせ中へと促した。
かなりの緊張を伴っていたためか乗り込んだ瞬間、ベルーラは大きな溜息と共に安堵の表情を浮かべると背凭れに体を預け姿勢を崩した。
「はあーーーーーーー緊張したーっ。一生分の汗が全身から噴き出たかと思った」
ノアから手渡されたハンカチで額や首筋の汗を拭いながらベルーラは再び大きな息を吐く。
「お嬢様、旦那様に一言もなくこのような強硬手段・・・本当によろしかったんでしょうか。やはり個人的には賛同しかねるのですが・・・」
向かいに座るノアは心配そうな表情でベルーラを見つめた。
「そうね、確かに良くないとは思っているわ。これは私たちだけではなく侯爵家と子爵家の問題でもあるのだから・・・でも時間がなかったんだから仕方ないわ。私が18歳になってしまえば私たちの婚姻が正式に決まってしまい後戻りは出来なくなってしまう。そうなったら不幸よ・・・キリウ様が」
向かいに座るノアは力なく笑顔を向けるベルーラに複雑な表情を見せた。
「・・・でも、確信があるわけではないじゃないですか」
べルーラは、ノアの言葉を否定するように首を横に振り自嘲するような笑みを浮かべた。
「いいえ、私に対する彼の態度を見ていればわかるわ。この婚姻は私たちが生まれた時点で互いの意思に関わらず決まっていた、それが納得出来ない相手でも・・・。キリウ様にとって私はそういった類の女だったの。現に私たちは交流という交流を深めることはなかった。・・・私ね、キリウ様が私に向けて微笑んだ顔、一度も見たことがないの。でも、ある女性にだけにはその表情を見せていたわ」
ベルーラのずっと心に刺さっている痛々しい話にノアは更に複雑な表情を浮かべた。
「女性、というのはマーヴェル姫君のことですよね。幼い頃からの関係性はあるにせよ、所詮は一貴族の騎士と王女の関係。それに噂では、同盟国の王太子様との婚姻が決まっておられるとか。だからお嬢様が心配されることはないと思うのですが」
前のめりになり少し興奮気味で話すノアにべルーラは眉尻を下げ力なく微笑んだ。
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「ベルーラ様・・・」
何故か今にも泣き出しそうなノアに驚きつつもべルーラは慰めるように彼女の手を優しく握った。
「もう!ノアったら、そんな顔しないで。キリウ様は“自分だけの判断で即決は出来ない”とは仰ってたけど、特に反対もしなかった。それが彼自身の答えなのよ。もし、このまま解消出来ればお互い晴れて肩の荷が降りる」
車内の重い空気を少しでも払拭すべく、ベルーラは明るい声を出しながら先を見据える話を始めた。
「私ね、商売とかしてみたいの!領地の村で採れる果物でジャムとか作って王都で売るの。そしたら村もモーリス家も潤うしどうかしら?あとは、そうね、ご先祖様が残してくれた薬学書で薬を作ってそれを売るとか?」
楽しそうに展望を話すべルーラに、半べそ状態だったノアも気合を入れるように鼻息を荒くし、ベルーラの両手を握り返す。
「薬剤に関しては、直接の知り合いではございませんが、声をかけられる人がおります!もしそうなったら、お手伝いさせてもらいますので遠慮なくお申し付けください!!私、お嬢様に一生ついて行く覚悟でございますから!!」
「ふふ、ありがとノア」
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