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「大丈夫か?」
その呼び掛けにハッと気付いた史果は、先程いたホテルの会場から最上階にあるBARに移動しており、座り心地の良いソファに腰を下ろしていた。いつ自分がここに連れて来られたのか記憶からすっぽり抜け落ち、声を掛けられ現実世界に呼び戻されるまで全く気付きもしなかった。
意識が戻ると今度は不安げな表情を浮かべながら史果は、場慣れない店内をきょろきょろと見渡した。
史果が座るテーブル席は、窓側にあたり壁全体が大きなガラス張りに覆われていた。高層ビルなどから発せられる光がキラキラと輝く夜景が一望でき開放感のある空間となっていた。
日中スカイラウンジになる店内は、食事をしながら一望できる市街の景色を一緒に楽しめ、夜は落ち着いた店内が夜の深い色づきと融合しアダルトな雰囲気を醸し出す内装となっていた。
普段の史果なら味わったことのないこの状況に感情が昂り目を輝かせていたであろうが、今は美しい夜光を前にしても感情の動きが現れることは無かった。
歩生は事前にカウンターから受け取っていたカクテルを手にしており史果に手渡した。
「モクテル持ってきた。“バージン・モヒート”っていうやつでミント入ってるから少しは気分転換になるかなと・・・」
「あー・・・ありがとうございます」
心ここにあらずの史果の様子に歩生は一瞬心配そうな表情をし、それと同時に小さく嘆息を吐いた。
二人掛け用のソファに座る史果の向かいに腰を下ろした歩生は、ガラス一面の夜景を眺望しながら自身もオーダーしたスコッチウイスキーを一口喉に流し込んだ。
「こうなることを見越して連れて来たけど・・・やっぱ流石にキツかったよな、ごめん。前にも言ったが、別に恨みはないしどちらかと言うと俺自身アンタに好印象だと思う・・・だから後々、今以上に傷つく姿はあまり見たくなかった・・・俺みたくなって欲しくなかったから」
「傷つく・・・どういう意味ですか?俺みたく、って・・・」
最後の言葉に引っかかりを覚えた史果は、向かいに座る歩生に視線を移し問いかけた。歩生は、余計なことを口走ったというかのような表情で口元を押さえ自身の失態を悔いた。誤魔化そうとしたが、それをやめた歩生は割り切ったように淡々と話し出した。
「俺と基希・・・さっき会場にいた神野美園はガキの頃からの幼なじみなんだ。親同士が公私とも仲が良くて互いの家に招待しあってその度に顔を合わせて遊んでた。基希の方が先に知ってて紹介されたんだけど俺、美園の第一印象最悪でさ。初めて会った時、年下のくせに俺のことこき使ってきやがって、ほんと生意気で・・・そのくせ一人にさせると俺らにしがみつくように離れなくて。だから妹がいたらこんな感じで振り回されるのかなーなんて思ってた」
普段の高圧的な態度と違い、懐かしみながら優しい表情で話す歩生を史果は俯きながらも耳を傾けていた。
「年を重ねるにつれどんどん女らしく成長する美園を・・・気付けば目で追うようになっていた。あの頃は正直好きとかよくわかんなくて・・・ただ昔とは違う感情が芽生えてきたのは何となく感じてた。・・・でも、自分を取り巻く環境が理解できる歳になっていくにつれどうしようもないことがあるっていうのもわかるようになった。・・・アイツとは一生結ばれないんだって。幸いそのおかげで抑制も出来たけど」
話終わると同時に歩生はウイスキーをぐいっと煽るように飲むと透き通った大きめの氷がグラスの中で耳障りの良い音を鳴らした。グラスを力強く握り締め、歩生は再び話し始めた。
「俺が高校の時、美園から基希とのことを聞かされた。俺は美園に聞くまで知らなかったけど、ガキの頃から二人は互いの親から結婚相手だって聞かされてたらしい。・・・多分、基希はきっと俺の気持ちを薄々気づいてたから言えなかったんだろうな」
「・・・・・・」
史果は言葉が出てこなかった。彼の顔を一瞥するとうっすら笑みを浮かべ、しかしどことなく哀しそうな表情が見え隠れし居た堪れなず再び視線を落とした。
「・・・私も歩生さんと同じようになると仰りたいのですか?」
「基希はいずれ会社を背負う人間になる。基希の親父・・・社長自身がハッキリと口に出しているわけじゃないが、そういう腹積もりでいると思うし基希も理解してると思う。会社が大きくなればなるほど従業員たちの生活も重く圧し掛かってくる・・・路頭に迷わせないよう、時には身を切ってでも会社のためにしなきゃいけないことだってある。神野グループとの提携は今後もうちの会社は勿論、傘下にある親父の会社にとってもプラスになる。今もそのおかげで事業拡大や大きなプロジェクトも成功できてると言っても大袈裟な話じゃない。もしここで頓挫したら・・・もし、基希が美園との婚約を解消したら・・・アンタも一会社員ならどうなるかわかるよな?この話は家と家の拗れだけじゃ済まされない、社運にも影響してくるってことを」
先程の弱々しい口調は消え、今は低く威圧的な声色と表情に変貌した歩生に剣呑した。
彼の話からやはり基希と自分では釣り合うわけがないことを改めて痛感させられ胸が締め付けられた。これから先、もし基希がピンチになることがあったとしても自分では助けどころか基希に負担だけを背負わせるだけのお荷物にしかならない。
史果は、俯きゆっくりと瞼を落とし感情をリセットするように深呼吸を何度もした。徐々に落ち着きを取り戻した史果は、ゆっくり顔を上げながら再び瞼を開いた。どこか吹っ切ったような清々しい表情で気まずそうな表情の歩生に視線を向け緩やかに口角を上げ目を細めた。
「少しだけ、時間頂けますか?その間に今度こそしっかり気持ちの整理をつけます。基希さんや美園さんのご迷惑になるようなことはしないとお約束します」
微笑む史果に一瞬、驚倒するも歩生は小さく「すまない」とだけ呟き苦々しい表情で残りのウイスキーを勢いよく流し込んだ。
その呼び掛けにハッと気付いた史果は、先程いたホテルの会場から最上階にあるBARに移動しており、座り心地の良いソファに腰を下ろしていた。いつ自分がここに連れて来られたのか記憶からすっぽり抜け落ち、声を掛けられ現実世界に呼び戻されるまで全く気付きもしなかった。
意識が戻ると今度は不安げな表情を浮かべながら史果は、場慣れない店内をきょろきょろと見渡した。
史果が座るテーブル席は、窓側にあたり壁全体が大きなガラス張りに覆われていた。高層ビルなどから発せられる光がキラキラと輝く夜景が一望でき開放感のある空間となっていた。
日中スカイラウンジになる店内は、食事をしながら一望できる市街の景色を一緒に楽しめ、夜は落ち着いた店内が夜の深い色づきと融合しアダルトな雰囲気を醸し出す内装となっていた。
普段の史果なら味わったことのないこの状況に感情が昂り目を輝かせていたであろうが、今は美しい夜光を前にしても感情の動きが現れることは無かった。
歩生は事前にカウンターから受け取っていたカクテルを手にしており史果に手渡した。
「モクテル持ってきた。“バージン・モヒート”っていうやつでミント入ってるから少しは気分転換になるかなと・・・」
「あー・・・ありがとうございます」
心ここにあらずの史果の様子に歩生は一瞬心配そうな表情をし、それと同時に小さく嘆息を吐いた。
二人掛け用のソファに座る史果の向かいに腰を下ろした歩生は、ガラス一面の夜景を眺望しながら自身もオーダーしたスコッチウイスキーを一口喉に流し込んだ。
「こうなることを見越して連れて来たけど・・・やっぱ流石にキツかったよな、ごめん。前にも言ったが、別に恨みはないしどちらかと言うと俺自身アンタに好印象だと思う・・・だから後々、今以上に傷つく姿はあまり見たくなかった・・・俺みたくなって欲しくなかったから」
「傷つく・・・どういう意味ですか?俺みたく、って・・・」
最後の言葉に引っかかりを覚えた史果は、向かいに座る歩生に視線を移し問いかけた。歩生は、余計なことを口走ったというかのような表情で口元を押さえ自身の失態を悔いた。誤魔化そうとしたが、それをやめた歩生は割り切ったように淡々と話し出した。
「俺と基希・・・さっき会場にいた神野美園はガキの頃からの幼なじみなんだ。親同士が公私とも仲が良くて互いの家に招待しあってその度に顔を合わせて遊んでた。基希の方が先に知ってて紹介されたんだけど俺、美園の第一印象最悪でさ。初めて会った時、年下のくせに俺のことこき使ってきやがって、ほんと生意気で・・・そのくせ一人にさせると俺らにしがみつくように離れなくて。だから妹がいたらこんな感じで振り回されるのかなーなんて思ってた」
普段の高圧的な態度と違い、懐かしみながら優しい表情で話す歩生を史果は俯きながらも耳を傾けていた。
「年を重ねるにつれどんどん女らしく成長する美園を・・・気付けば目で追うようになっていた。あの頃は正直好きとかよくわかんなくて・・・ただ昔とは違う感情が芽生えてきたのは何となく感じてた。・・・でも、自分を取り巻く環境が理解できる歳になっていくにつれどうしようもないことがあるっていうのもわかるようになった。・・・アイツとは一生結ばれないんだって。幸いそのおかげで抑制も出来たけど」
話終わると同時に歩生はウイスキーをぐいっと煽るように飲むと透き通った大きめの氷がグラスの中で耳障りの良い音を鳴らした。グラスを力強く握り締め、歩生は再び話し始めた。
「俺が高校の時、美園から基希とのことを聞かされた。俺は美園に聞くまで知らなかったけど、ガキの頃から二人は互いの親から結婚相手だって聞かされてたらしい。・・・多分、基希はきっと俺の気持ちを薄々気づいてたから言えなかったんだろうな」
「・・・・・・」
史果は言葉が出てこなかった。彼の顔を一瞥するとうっすら笑みを浮かべ、しかしどことなく哀しそうな表情が見え隠れし居た堪れなず再び視線を落とした。
「・・・私も歩生さんと同じようになると仰りたいのですか?」
「基希はいずれ会社を背負う人間になる。基希の親父・・・社長自身がハッキリと口に出しているわけじゃないが、そういう腹積もりでいると思うし基希も理解してると思う。会社が大きくなればなるほど従業員たちの生活も重く圧し掛かってくる・・・路頭に迷わせないよう、時には身を切ってでも会社のためにしなきゃいけないことだってある。神野グループとの提携は今後もうちの会社は勿論、傘下にある親父の会社にとってもプラスになる。今もそのおかげで事業拡大や大きなプロジェクトも成功できてると言っても大袈裟な話じゃない。もしここで頓挫したら・・・もし、基希が美園との婚約を解消したら・・・アンタも一会社員ならどうなるかわかるよな?この話は家と家の拗れだけじゃ済まされない、社運にも影響してくるってことを」
先程の弱々しい口調は消え、今は低く威圧的な声色と表情に変貌した歩生に剣呑した。
彼の話からやはり基希と自分では釣り合うわけがないことを改めて痛感させられ胸が締め付けられた。これから先、もし基希がピンチになることがあったとしても自分では助けどころか基希に負担だけを背負わせるだけのお荷物にしかならない。
史果は、俯きゆっくりと瞼を落とし感情をリセットするように深呼吸を何度もした。徐々に落ち着きを取り戻した史果は、ゆっくり顔を上げながら再び瞼を開いた。どこか吹っ切ったような清々しい表情で気まずそうな表情の歩生に視線を向け緩やかに口角を上げ目を細めた。
「少しだけ、時間頂けますか?その間に今度こそしっかり気持ちの整理をつけます。基希さんや美園さんのご迷惑になるようなことはしないとお約束します」
微笑む史果に一瞬、驚倒するも歩生は小さく「すまない」とだけ呟き苦々しい表情で残りのウイスキーを勢いよく流し込んだ。
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