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第十八話 エルフの村人

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 森の中は、木の実や、キノコが食い散らかされている。
意外にも、魔物の死体は無かったのだが、血痕があちこちに残されていた。

「ゴブリンって、やっぱり狂暴なんですね......」

 杖を両手でギュッと握りながら、マリが心配そうに言った。
彼と同様に、今回で初見となるらしい。

 彼とマリは警戒心を露わにしている中、サリネは堂々と歩いていた。
だが、後ろ以外スキの無い歩き方。
全身がスラーっと細いため、それほど内股歩きではないのに、
彼は、女性のモデルを連想した。

 サリネは先頭を切って、歩いていると思えば、いきなり立ち止まった。
口の前に、指を一本止めて、振り返り、止まれの合図を二人に送る。
二人は、同時に頷き、固唾を飲んだ。

「見ていろ」

 自信が溢れているようなサリネの目と声。
剣を鞘から、ゆっくりと抜き、中心を合わせるように、身構える。
数秒後には、彼とマリにも、木の隙間から棍棒を持ったゴブリンが二体が見えた。
ゴブリンたちは、立ち構えた剣士の姿に、まだ気が付いていない。

 その時、サリネの片足が、強く一歩目を踏み出す。
そのままの勢いであるかのように、二歩、三歩と間合いが詰まる。
両手で握った剣は、瞬く間に、ゴブリンの背中に這いより、
豆腐のごとく、容易に、ゴブリンの腹を貫通させた。

 もう一方のゴブリンは、状況を瞬時に理解できなかったらしく、
いきなり、仲間の腹から、謎の金属が現れた様に見えている。
その認識が間違いである事すらわからないまま、
仲間の背後から這い出た何かに、剣を振るわれ、
防御や回避は、もちろんのこと、
恐怖などという感情すら浮かべることなく、惨殺された。

 サリネは、自分の汗と緑色の返り血を、
ポケットから取り出したハンカチで、ふき取る。
振り向いたサリネの顔は、普段より輝いて見えた。

「私、たぶん付いて行けないです......」
「ハハハ......」

 映画でも見ているかのように、彼とマリは呆然とする。
サリネは、「何か、変だったか?」
または、「これがお手本だ」と言ったよう顔を見せる。
二人の苦笑が含まれた白けた表情に、サリネは、ぽかんと首を傾げた。

 それから数分歩くと、ようやくアイル村に着いた。
大きな木製の家が数件建っているが、人気が無い。
だが、いかにも村長だ、と言わんばかりの身なりである老人は、
キョロキョロと家の前で立っている。
そして、彼らを発見すると、元気な事に、手を振ってきた。

「ようこそ、来てくださいました、冒険者様」
村長(?)は、笑顔で握手を求める。

「はい。ギルドの依頼で来ました」
少年は、彼の手をしっかりと握った。 

「私がアイル村の村長、アイル・フォート・タウジャウスです。
町の者を集めてくるので、私の家でお待ちください」

 アイルは、そう言って、丁寧な接待なことに、ドアを開けた。
少年は、靴を脱ぐのか迷いながらも、マリがそのまま入って行くので、
彼も、土を少し落とすと、土足のまま入って行った。

 家の中は、大きなテーブルに、たくさんの椅子が並べられている。
少し待つと、ゾロゾロと、筋肉自慢のような男たちが座り始めた。
こちらを見る目がギランとしていて、睨んでいる様に感じる。
最後に村長が、席に着いて、少しざわついていた空間を、咳払いで軽く治めた。

「こちらは、ミコラの町から来てくださった冒険者一同だ。
ゴブリンの討伐をお願いをしようと思う」

 すると、また、ざわつき始めた。
一人一人の声は、聞き取れなくとも、
歓迎されていない現状である事は感じ取れた。
マリは冷や汗を流し、サリネは下を向いていた。

「はぁ? こんなヒョロヒョロした奴が、ゴブリンを倒せるかね」

 どこからかだが、しっかりと全員に届いた声。
その言葉に賛成するように、村の者は、ザワザワと話し始めた。

「ギルドは、ランクC以上の依頼とした。実力は十分なはずじゃぞ」

 アイルが誰となく、村の者に反論をした。
だが、村の者は、三人に、厳しい視線を向ける。
村長は、深くため息を吐いた。

「まずは、信じるんじゃ......。彼らを信じよう」

 そう言って、アイルは席を立ち、家の階段を上って行った。
この空間の中で、仲間以外の唯一の味方が去ってしまい、
気まずい中、アイルの家を出る。

「リーダー、かなり睨まれましたね」
「あぁ、何か恨まれてるようだな」
平常心を保ったように彼は言ったが、内心ショックが強かった。

「ありったけのゴブリンの死体を並べて、信頼をもぎ取るんじゃ!」
サリネが、拳を握って、強く言った。真剣な眼差しを広い森へと向ける。

「そ、そうだな......。結果を出せば良いんだよ」
「そうです。三人でやれば、今日中に絶滅させれますよ!」

 絶滅させるのは、如何なものかと彼は一度、再考するが、
それほどのやる気だという隠喩表現として、捉えた。
真剣な眼差しで、今にも殺しそうだったが、気のせいだと顔を背けた。

「ゴブリンは、それほど強くないでござるから、一人ずつに分かれるぞ。
これで、耳を切り取るんでござる」

 サリネは、彼とマリに、日本らしさのある小刀を渡した。
彼は頷いて、ソレを受け取る。そして、マリは硬直する。

「み、耳を切る......」

 マリは、想像してしまったらしく、倒れそうなほど、顔から血の気が無くなる。
感電や麻痺耐性を付けたマリでも、グロ耐性は、なさそうだった。
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