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第二十二話 これからについて

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「マリ、まだ起きてるか?」

 入浴を済ませた彼は、部屋のドアを開けて中に入る。
すると、マリはスヤスヤと寝ていた。
しかし、彼の声を要因に、ムニャムニャと起きてしまう。

「先輩、すみません。寝てました」
体を置きあげて、マリは、ベットの上で女の子座りをする。

「いや、こっちがゴメン。起こしちゃって......」
そんな事ないですよ、と言うように、マリはパッチリ目を開ける。

「それで、どうかしましたか?」
「あぁ、明日の予定を立てて置きたいんだけど......」

 マリは、小首を傾げて、目を閉じる。
ギルドの張り紙を思い出しているようだ。
だが、その答えが出る前に、彼が口が一つの意見として、提案した。

「冒険者の捜索をしないか?」
「えっと......。心当たりは、あるんですか?」
「無いけど、黒龍剣を持っているっていうのが、少しの手掛かりかな」

 黒龍剣......。
有名な物ならば、すぐに見つける事は可能であるだろう。
だが、知られていない物であれば、
あの冒険者達にたどり着くなんてことは、ほぼ不可能だ。
さらに、有名だとしても、売り飛ばしてたりしていたら、
それも遠回りとなってしまう。

「先輩は、そんなに私が鬱陶しいんですか?」
マリが、うつむいて言った。少年は、「え?」と目を開く。
彼からは、マリの表情が水色の髪に隠されて、見えなくなる。

「何で、いきなり?」
「だって、私、冒険者を見つけるために、先輩に付いて行ってるんですよ」
「あぁ、それは重々承知だ」

 マリは、何故か口ごもる。何かを言いだせない様子であった。
彼は、自分のベットに腰掛ける。その時、マリの顔がようやく、見えた。

「こ、婚約だってしてくれたのに......」
マリが、小さく呟く。彼は即席に理解が追い付かず、数秒後に反論した。

「俺、婚約何てしてないぞ!」
「え!? 先輩、私の両親にあいさつするって」
「いや、それは、まだ結婚は早いって言ってあげるだけの話で......」

 マリは、ボンっと赤面した。ぎこちない沈黙が続く。
赤くした顔を見られたくないのか、彼から目をそらして、
マリは「そういう......」と、独り言つ。

「アイル村の村長なら......」
「えっと、何が?」
「アイル村の村長なら、黒龍剣を知ってるかもしれません」
マリは、そっぽを向いたまま語り出す。

「今日、聞いたんです。
よく、物の値打ちを聞きに、商人が訪ねてくるっていう話。
その冒険者たちも、一度は売ろうと思ったりしたんじゃないですか?」

 その言葉で、彼は黒龍剣にかなり近づいた気がした。
明日の予定だけではなく、その後の筋道まで見えてくるからだ。

「でも、あの村、苦手なんだよな......」
「なぜか、恨まれてるみたいですよね」

 二人は、感じていた。村人の目から伝わる、嫌悪感を。
エルフ以外の種族が気に入らないという理由だったら、
村長だけ、二人を許しているような様子は合点がいかない。

「仕方ないか......。明日は、またアイル村に行く事にしよう」
「そうですね、今日ゴブリンを倒してあげましたし、
態度は、変わってるかもしれませんよ」

 マリのポジティブ思考が、彼の気持ちを楽にする。
こうやって、気づかないうちに救われてきたのかもしれない、と彼は深く思った。
洞窟で一年過ごせたのも、マリのおかげかもしれない、とも。

 それでも、言葉で感謝を伝える事はできないまま、彼はベットにつく。
さっきのマッサージもあり、すぐに眠くなっていった。
横に体を倒すと、マリの寝顔が見える。そこで、脳裏を横切る疑問。

(部屋、別でも良かったんじゃね!?)



 次の日の朝。彼の目覚めは、とても良かった。
「もう一週間は寝なくても大丈夫かもしれない」と、
無茶な発言をしてしまうほどに......。
縮こまっている様に動きずらい体を、うんと伸ばして、彼は体をほぐす。
ふと、横で寝ているマリが彼の目には入った。

(そういえば、マリはまじめな性格な割に、良く眠るよなー。
成長期だからか? って、俺もまだ成長期か......。)

 身長など測っていないので、正確な身長は分からないが、
たぶん170センチメートルは、あるだろうと彼は、自分を客観視する。
異世界に来てから、そこそこ伸びたため、彼はスライムとの関係性を疑った。

「せ、先輩? おはようございます」

 彼が、一人でブツブツ言っていると、マリが目を覚ます。
ベットから降りて、立ち上がったマリを、じっと観察した。
すると、キョトンとした顔でマリは、彼に近づく。

「先輩、どうしましたか?」

(推定150cm......。
女子は15歳前後くらいで思春期を終えて、骨端線が閉じてしまうから、
この身長でストップしてしまう可能性もあるのか)
と、真面目に、今後のマリの身長について考察していた。

「えっと......。何なんですか?」
「いや、何でもない!」

 低身長なのを気にしてる、と彼は聞いたことがあったので、
言わないでおくことにした。
そして、今日は牛乳を買って帰る事にした。
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