交わることのない二人

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最終話 この先もずっと

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 やばい……! もう約束の17時を過ぎてる……!

 
 あの日僕は、帰り際に教授に捕まってしまい、大学を出たのは17時前ギリギリだった。



 自転車で来ていたものの、公園に着いた頃には既に約束の時間から10分も過ぎており、僕は間に合わなかったか……と思いながらも、公園内を走る。

 帰ってしまっているはずなのに、僕は、もしかしたらまだ居るかもしれない。という淡い期待を抱き、待ち合わせをしていたベンチへと走る。


 
 晴臣さんだ……!



 もう帰ってしまっただろうと諦めていたが、晴臣さんは丁度、帰ろうとしていた所だったのか、歩いて行こうとする晴臣さんの後ろ姿が見えた。

 僕は『晴臣さん……!』と気づいたら名前を口にしており、その声に、晴臣さんは足を止めると、こちらをゆっくりと振り返る。


 そして『菖蒲、くん……?』と驚く晴臣さんの元へ僕は走り、そのまま晴臣さんの胸の中へと飛び込む。



 『良かった……間に合って……』



 僕はそう言うと、晴臣さんを抱きしめる腕に力を入れる。

 そんな僕に晴臣さんは『……来うへんかと思ってた。ほんまにいいん?』と聞いてくる。


 僕は『良いに決まってる』と言うと、晴臣さんから少し体を離し、晴臣さんを見上げる。



 『晴臣さん、好きです。これからもずっと僕のそばにいて』



 そう言うと、晴臣さんは驚いた表情を浮かべるも、直ぐに真剣な表情を浮かべ『それはこっちのセリフ。ずっと側におって菖蒲くん。』そう言って晴臣さんは、顔を近づけてくる。

 僕は驚くも、目を閉じる。


 だが、予想とは違い、僕の唇に触れる事なく、晴臣さんは僕のことを抱きしめる。



 『……離れるとか言わんといてな。俺置いてどっか行ったらあかんで』



 そう、僕の肩に顔を埋める晴臣さん。

 僕より背も体格もずっと大きいはずなのに、小さく見え、僕は晴臣さんの頭に顔を傾けると『晴臣さんこそ。いきなりいなくならないでね』と晴臣さんを抱きしめる。


 この一週間、ずっと考えていた。

 僕は晴臣さんとどうなりたいのか。本当に、これからもずっと晴臣さんと一緒にいて良いのか。


 考え過ぎてどうすれば良いかわからなくなった。

 けれど、晴臣さんのこれからの未来に僕がいないことを想像して、晴臣さんの隣に違う誰かが立っていることを想像したら、涙が出て来た。


 そして、そんなのは絶対に嫌だと、僕の中でずっとぐるぐるとしていた想いがようやく固まった。

 この先もずっと、何があっても晴臣さんと一緒にいたいと。



 『……すみません。帰り際に教授に捕まってしまって、遅くなっちゃって。でも、晴臣さんがまだいて良かった』



 そうベンチに並んで座り、話をする僕たち。

 晴臣さんは『そうやったんや……。往生際が悪く待ってて良かった』と言い笑う。



 『なんか安心したら、お腹減ったなぁ。菖蒲くん、なんか食べに行こ。車向こう停めてるから』



 そう言って立ち上がる晴臣さんに『あ。僕自転車で来てるんだった』と思いだす。



 『自転車?』

 『晴臣さん車で行ってください。その後を自転車で追いかけるんで』



 そう言って立ち上がる僕に、晴臣さんは『えぇー!? 置いていけば良いやん』と言ってくる。



 『嫌ですよ。僕、自転車で大学通ってるのに』

 『じゃあ菖蒲くん自転車乗って、俺歩きで行くわ』

 『車どうするんですか』



 僕は『仕方ない。マスターに頼んで、自転車置かせてもらいます。』と提案すると、晴臣さんは嬉しそうに『久しぶりやな。菖蒲くんが俺の車乗んの』と言う。



 『ですね。僕眠いんで寝ても良いですか』

 『えぇ……久しぶりに会うたんやから喋ろうや~』

 『ここ最近、寝不足なんです』



 そう話ながら、どちらかともなく手を繋ぐ。







 「この花束、わざわざ買って来てくれたんですか?」



 晴臣さんの車へと向かう途中、並んで歩く僕たち。

 晴臣さんがプレゼントしてくれた、花束を見てそう聞くと、晴臣さんは「卒業式には花束は必須やからな」と言う。


 こんな大きな花束、初めて貰った……なんて考えながら、晴臣さんが花屋さんで花束を買っているところを想像しては、似合わないなぁとおかしくなってしまう。

 一人、想像してくすくすと笑う僕に、晴臣さんは「あ、今、花屋似合わんなって思ったやろ?」と言って来る。


 流石は晴臣さん。

 僕が考えていることなんて、何でもお見通しだ。



 僕は「ありがとうございます、花束。凄く嬉しいです」とお礼を言うと、晴臣さんは僕の事をじっと見つめて来る。

 そんな晴臣さんに「何ですか?」と問いかけると、晴臣さんは「いや、菖蒲くんのスーツ姿初めて見たけど、よう似合ってるなぁって思って」と言う。



 「流石は月9に出てそうな匂いをさせてるだけあるわ」

 「月9? 何ですかそれ」



 そんなくだらない話をしながら、晴臣さんの車へと着いた僕たちは、車に乗り込むと、僕は「それで、今日はどこに連れて行ってくれるんですか?」と問いかける。

 晴臣さんと卒業式の後会うと決まった時、晴臣さんは『卒業祝いしに行こ! 楽しみにしといて』と言っていた。


 そして、卒業式当日になってもどこへ連れて行ってくれるか聞かされていない僕は、今からどこに行くかわからなかった。

 そんな僕に晴臣さんは「はい、これ」と何かを差し出して来る。



 「これ……! 僕が行きたかったお笑いイベント……! え、どうしたんですか? これ、入手困難なはずじゃ……」

 「チケット応募始まる10分前から待機して、開始と同時に入ったらいけてん。凄いやろ!」



 そう得意気に言う晴臣さん。

 ヤクザの若頭が、チケット争奪戦に参加してるなんて……と僕は思う。



 「今からそこ行くで! その前にご飯食べに行こ。何食べたい?」

 「ハンバーガー! ハンバーガーが食べたいです!」



 そう言うと、晴臣さんは「いいなぁ。じゃあハンバーガーで決まりやな」と車を走らせる。







 「――いや、予想はしてましたよ。予想は。でもまさか、こんなに可愛いところだとは思わないじゃないですか」



 あれから僕たちは、ハンバーガーを食べに行き、お笑いイベントを堪能し、晴臣さんがまだ行く場所があると僕は晴臣さんに連れられるがままやって来た。

 何となく、いつもお笑いからのスイーツ屋さんへと行っていたため、今日もそうだろうなとは予想していた。


 していたけど……。



 「ぜっっったい、スーツ姿の野郎二人が来るような店じゃないですって!」



 晴臣さんが連れて来てくれたところは、キャラクターとのコラボカフェで、それはもう、店内が可愛いで溢れていた。

 そんな所に、スーツ姿の野郎二人はもう浮きまくりで、先ほどから周りの女性たちの視線が痛い。



 落ち着かない僕とは裏腹に、晴臣さんはやはりいつも通りで。



 「あ、菖蒲くん。これ、頼んだら菖蒲くんの好きなふわふわたまごちゃんついて来るって~」



 相変わらず、晴臣さんは気にしていない。

 睨みつける僕に、晴臣さんは「どうしたん? 頼まんの?」と言うので僕は「頼みますけど……」とメニューを受け取る。

 
 出会った頃から、付き合った今でも、晴臣さんには振り回されてばかりだ。

 何度振り回され、何度ヒヤヒヤとさせられたか、数えていたらキリがない。


 けれどそんな人を振り回す事の天才な晴臣さんのことを、好きになってしまったのだから、仕方がない。
 


 「――そう言えば菖蒲くん、うちに時計忘れて行ってたで」



 スイーツを食べている最中、晴臣さんは思い出したかのようにそう言う。

 僕はどおりで見当たらないわけだ。と思いながら「あー……また取りに行きます。いつ行けますか?」と聞くと、晴臣さんは「いつでもええで~。何なら今日来ても」と言うので僕は「行きます」と頷く。



 ふと、僕は思う。

 出会った時から、していることは変わらないけど、出会った時より関係が変わった。


 初めはあんなに怖くて、怯えていたのに、今は怖いどころか晴臣さんといると凄く安心する。

 それが何だか不思議で。


 けれども、今はもう、晴臣さんが隣にいない日常なんて考えられないほど、晴臣さんが隣にいるのが当たり前になっている。

 この先、きっと色々なことがあると思うけど、何があっても僕は、もう二度と晴臣さんから離れたくない。



 「菖蒲く~ん」

 「はい?」

 「はい、口開けて~」



 晴臣さんはそう言って、僕に食べさせようとして来る。

 そんな晴臣さんに僕は「嫌です」と断ると、晴臣さんは「つれないなぁ……前は自分から食べたのに」と僕に食べさせようとした分を食べる。



 「何のことですか。記憶にありません」



 本来なら、交わることのないはずの僕たち。

 けれど、僕たちは、互いに望んで今こうして一緒にいる。


 もし、もう一度選択を迫られる日が来たとしても、僕はきっと晴臣さんと生きる未来を選ぶだろう。



 「あ、見てください、晴臣さん! これ頼んだら、くねくねわかめくんがついて来るって!」

 「よっしゃ、それも頼も」



 交わることのない二人  ―完―
 
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