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第一章
記憶
「エーデル、シュタイン。今日は音楽祭に連れて行ってくれてありがとう」
音楽祭も終わり、公爵邸へと戻って来たリーナたち。
執事長のアルバートとメイド長のエマに迎えられながら、リーナは隣にいるエーデルとシュタインにお礼を言うと、エーデルは「あぁ」と優しく笑みを浮かべ頷き、シュタインは「また行こうぜ!」と無邪気な笑みを浮かべる。
そんな三人のやり取りを見ていたエマとアルバートは、驚きながら顔を見合わせると、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ラインハルト、バルドゥールもありがとう」
リーナにお礼を言われた騎士団長、副団長は「いえ」「またいつでもお供します」とそれぞれ言う。
「ちゃんと毛布を被って寝るんだぞ!」
もう夜も遅いので、それぞれ部屋に戻ろうと別れる際、シュタインはリーナを指差し言うので、リーナは可笑しそうに笑い「シュタインもね。お腹を出して寝てはだめよ」と返す。
シュタインは「出さないし! お休み!」と恥ずかしそうにしながら、自身の部屋へと歩いて行く。
そんなシュタインを、リーナは微笑ましそうに見送り、隣に立つエーデルに「エーデルも、お休みなさい」と伝えると、エーデルが「リーナ」との名前を呼ぶ。
リーナは「なぁに?」と首を傾げると、エーデルはジャケットの内ポケットから、綺麗に包装された細長い箱を取り出すと、リーナに渡す。
「これ……開けても良いの?」
リーナの問いにエーデルは頷き、リーナは包装を丁寧に開け、箱の蓋を開ける。
「わぁ……! 綺麗……!」
箱の中には、美しく輝くアメジストで作られたネックレスが入っており、リーナはエーデルに「これは……?」と尋ねる。
するとエーデルは「……このネックレスを見た時に、お前の瞳が思い浮かんだんだ」と話し出す。
「きっとリーナに似合うんだろうなって。リーナが着けているところを見たくなったんだ」
「え……」
そう真っ直ぐリーナを見つめ、真剣な表情で話すエーデルの瞳から、リーナは視線を外すことができない。
エーデルは「それに……」と話を続ける。
「普段あまり、こう言った物を身につけないだろ? だから、たまには良いかと思ったんだ。それに、アメジストは愛の守護石と呼ばれていて、邪悪な物から守ってくれるらしい」
「だからリーナにと思って……」
エーデルはそこまで言うと、何も言わずに驚き、エーデルを見るリーナを見て「悪い、いきなり……いらなかったら処分してくれて構わないから……!」と焦ったように言う。
そんなエーデルにリーナは「え!?」と言うと「いらなくなんかないよ……!」と、前のめりになる。
「エーデルが選んでプレゼントしてくれたんだと思ったら、凄く嬉しくて……思わず驚いちゃったんだ」
そう眉を八の字にし、リーナは笑うと「エーデル、つけてくれる?」とエーデルに頼む。
エーデルは頷くと、箱からネックレスを取り出し、リーナはエーデルに背を向け、髪を避ける。
リーナにネックレスをつけるエーデル。
その時に当たるエーデルの手が、何処か熱く感じられる。
「どう? 似合っている?」
エーデルにネックレスをつけて貰ったリーナは、エーデルを振り返ると、嬉しそうにエーデルにそう問いかける。
リーナの瞳と同じ色のアメジストのネックレスは、とても良くリーナに似合っており、リーナのために作られたのではないかと思うほど。
エーデルは「あぁ、凄く。似合ってるよ、リーナ」と穏やかな笑みを浮かべる。
気のせいなのはわかっているが、その表情が、瞳があまりにも愛おしそうで、リーナは「さ、流石エーデルが選んでくれただけあるね」と視線を逸らす。
そんなリーナの言葉にエーデルは「ずっと見て来たからな」と言うので、リーナは「え……」と顔を上げる。
すると、エーデルはまるで子どものように、いたずらな笑みを浮かべ「お前の兄としてな」と言う。
リーナは「そ、そうね……!」と慌てて頷くと、エーデルはリーナの頭に手を置き「今日はもう疲れただろ。ゆっくり休みな」と優しく言う。
「うん、エーデルもね」
「あぁ」
リーナはそう言って去って行こうとしたが、エーデルを振り返ると「ネックレスありがとう。大切にする」と礼を言う。
そして「お休みなさい、エーデル」と言うと、再び前を向き歩いて行く。
そんなリーナの後ろ姿を見つめるエーデルの顔は、赤く染まり、頬が緩み切っていた。
エーデルは額に手を当てると、深いため息をつく。
(大切にすると言われただけで、こんなに嬉しいだなんて……シュタインが見ていなくてよかったよ)
エーデルはそう心の中でホッとしながら、自身の部屋へと向かうのだった。
◇
「本当に、凄く綺麗……」
部屋に戻ったリーナは、鏡でネックレスをつけている状態を見る。
自分で言うのもなんだが、エーデルから貰ったネックレスは凄く自身に合っていて、流石はエーデルだと思う。
(そう言えば、過去に一度だけエーデルからプレゼントを貰ったことがあったっけ。)
(確かあれは、デビュタントを控えていた時だから16歳の誕生日ね)
(突然、部屋にやって来たかと思えば、周りを金で装飾され、間に花の形にカットしたダイヤモンドがついたイヤリングだったっけ。いきなり渡して来たかと思えば、デビュタントにつけて行くと良いって言って、出て行ったんだっけ)
そう昔のエーデルとのやり取りを思い出しては、今日、一緒にお祭りに行ったことが嘘かのように思える。
リーナはベッドの上に大の字に寝転がると(どうして急に、エーデルもシュタインも私の事をお祭りに誘ったんだろ?)と疑問に思う。
過去のエーデルもシュタインも、リーナを祭りに誘うと言った行為は絶対にすることはなかったはずなのに。
(私が回帰して来たことによって変わったのかな? でも、特にこれと言って何もしてないけど)
(過去の私がしなさそうな事と言えば、パーティーに参加するって言った事くらい? あとシュタインと言い合いをしなくなったとか……?)
いくら頭を悩ませても、エーデルとシュタインの態度が変わった理由はわからず、リーナは(まぁ、今日楽しかったからいっか)と思う。
(それにしても、本当に今日は凄く楽しかったな。エーデルとシュタインとずっと行きたかった音楽祭に行けて。途中で危ない目に遭いそうになったけど……助けてくれて)
リーナは男達から助けてくれた少年のことを思い出す。
(黄金色の瞳がキラキラとして、吸い込まれてしまいそうなくらい綺麗だったな……)
少年の瞳を思い出しながら、リーナの胸がざわつく。
そしてリーナは「黄金の、瞳……?」と確認するかのように言うと、勢いよく体を起こす。
その表情は焦っているようで。
かと思えば「黄金の瞳……それに漆黒の髪って……」と何かに気づいたように言う。
そしてみるみるうちに、顔色は青ざめていき頭を両手で挟む。
「どうして気づかなかったんだろ……黄金の瞳に漆黒の髪って、グランべセル家の特徴じゃない……って事は、彼って……」
その事実に気づくと、あの少年が去り際に放った『またお会いすると思うので、自己紹介はその時に』と言う言葉も理解できる。
リーナは「どうして直ぐに気づかなかったのぉぉ……!」とクッションに顔を埋め、叫ぶのだった。
◇
「お帰りなさいませ。お祭りの方はお楽しみになられましたでしょうか」
片眼鏡をかけ、七三に分けた髪を綺麗に固めた、テールコートを着、まるで背中に棒でも入っているのではないかと疑うくらい背筋の伸びた年配の男性が、たった今、屋敷に帰って来た少年少女をゆったりとした口調で出迎える。
肩くらいまでの明るい茶色の髪をした、華やかなドレスを着用している少女は「凄く楽しかったわ。けれど人が多くて疲れちゃった。来年はもう行かないわ」と眉を八の字にする。
そんな少女の後に屋敷に入って来た、漆黒の髪の少年は「それ、去年も一昨年も聞いたけど?」と少女を見る。
少女は少年を振り返ると「今回は本当よ」と返す。
「それも聞いたな」
「そうだったかしら?」
とぼける少女に少年は呆れた笑みを浮かべる。
そんないつもの二人のやり取りを、七三分の男性はほっこりとした表情を浮かべ見る。
その時、玄関から真っ直ぐ向かった先にある、大階段の方から「あら、帰っていたのね」と言う女性の声が聞こえてくる。
「お父様! お母様!」
大階段の方を見て、少女は嬉しそうな表情を浮かべたかと思えば、そちらに駆け寄って行く。
先程まで、大人びた話し方をしていた少女だが、嬉しそうに駆け寄る姿は見た目の通り、幼く見える。
少女と同じく明るい茶色の髪をした女性に、少女は抱きつくと「ただいま」と女性を見上げる。
そんな少女を愛おしそうに見つめ、女性は「お帰り」と返すと、隣に立つ少年と同じく漆黒の髪をした男性は「帰って来て早々、熱烈だなぁ」と笑う。
「音楽祭は楽しめた?」
「うん! けど、人が沢山いて疲れてしまったの」
「もう遅いし、部屋に行って休みなさい」
そのやり取りは、皆が想像する仲睦まじい家族そのものだ。
そんな三人のやり取りを、玄関の前に立つ少年は視線を向けたかと思えば、直ぐに逸らし、歩いて行こうとする。
「リヒト」
歩いて行こうとする少年を、女性は呼び止めると、少年は立ち止まるも、振り返ろうとはしない。
女性は少年を窺う素振りを見せながら「もう寝るの?」と問いかける。
少年は少し振り返ると「はい。もう遅いですから」と笑みを浮かべる。
そんな少年に女性は「そう……エミリアを音楽祭に連れて行ってくれてありがとう。お休みなさい」と言うと、少年は「お休みなさい」と笑みを浮かべ歩いて行く。
少年は笑みを浮かべているが、女性にはその笑みは作られたものだと分かる。
少年が歩いて行くのを見つめる女性に、隣に立つ男性は「あまり気にするな。リヒトも疲れているんだろう」と声をかける。
「そう、ね。私たちも遅いし、休みましょう」
男性は女性の肩に手を置き、少女に声をかけ部屋へと戻って行くのだった。
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