公爵家の養女

透明

文字の大きさ
23 / 36
第二章

帝国の闇

しおりを挟む
 

 『アサを所持していた男はフェイクで、別の件が絡んでいる。そう思った私は、陛下にこの事を話し、シャッテンヴェヒターが内密に捜査を始めました』



 シャッテンヴェヒター

 皇帝付き騎士団、皇室騎士団とはまた違う、皇命を受け極秘任務や特殊作戦を行う、実力のある者たちで作られた騎士団。


 マティアスもシャッテンヴェヒターのうちの一人なため、ヴィルスキン辺境伯とともに、アサの件を捜査していた。



 『そして調べて行くうち、一部の貴族らと神聖国の者が、裏のルートを使い隣国サマリンへと出入りしている事を掴んだ我々は、サマリンへと向かいそこでも調査を進めました』

 『そこで分かったのは、一部の貴族、神聖国の者たちがサマリンを通し、パラディースととある取引をしていると言う事でした』



 パラディースとは、アサーナトスと停戦中のアサーナトスに次いで力のある国。

 そんなパラディースと、アサーナトスの貴族と神聖国がしていた取引き。

 それは



 『アサ、そして人身の売買でした』



 何となく予想はついていたのか、エーデルもリヒトも顔を顰めるだけで、さほど驚いてはいないよう。



 『ですが、確かな証拠やアサの出所、人身売買のために連れて来られる子どもたちの出所、関わっている人数など分かっていない状態で』

 『捕まえようにも捕まえられないと言うわけか』



 エーデルの言葉にマティアスは『シャッテンヴェヒターなら、疑わしい時点でも捕らえることは出来ますが、完全に根絶やしにするには、動くこともできません』と返す。



 『その件を調べるため、マティアス閣下がサマリンへと向かうと言うことは分かりましたが、どうしてこれらがヴァンディリア前当主の死へと繋がるのですか?』



 今の話では、クラウスは出て来ておらず、何故、クラウスが殺害されたのかが分からない。

 冷静に尋ねるリヒトに、ヴィルスキン辺境伯は頷くと、ゆっくりと口を開く。



 『私とクラウスが親しかった事はご存知ですよね?』



 ヴィルスキン辺境伯の言葉に頷くエーデルとリヒト。

 ヴィルスキン辺境伯の者は、立場も相まり、他者とあまり交流をとらない事で有名だった。

 そんなヴィルスキン辺境伯を唯一と言っていいほど、親しくしていたのがクラウスだったため、他の貴族たちも知っていた。



 『あともう一人、私とクラウスが親しくしていた者がいるのです。』

 『それは?』



 リヒトの問いに、ヴィルスキン辺境伯は頷くと『ヴァンディリア令嬢のお父上であるフィンスと言う者です』と言う。

 予想外の人物に、エーデルもリヒトも『リーナの父上……?』と凄く驚いといるようだ。


 そんな二人の反応を見て、ヴィルスキン辺境伯は『やはり、クラウスは話していなかったみたいですね』と頷く。



 『私とクラウス、フィンスの三人は国境付近の町、ニートリッヒにある、フィンスが営んでいる酒屋で出会いました』

 『何度か酒屋で会う度に、私たちは親しくなっていき、特にクラウスは随分とフィンスの事を気にっており、よく楽しそうに話をしていました』

 『フィンスが亡くなり、ヴァンディリア令嬢を、親族の猛反対の元、クラウスが養子として迎え入れたのも、彼が何よりも大切にしていたからでしょう』

 『フィンスが亡くなった後も、クラウスはフィンスが営んでいた店を買い取り、たまに訪れているようでした』

 『そんなある日、丁度、アサの件を調べている時でした。突如、クラウスからフィンスの店に来て欲しいと手紙を貰い、私はフィンスの店へと向かいました』


 
 そう話すヴィルスキン辺境伯の表情はだんだんと険しくなり、エーデルとリヒトの表情も更に真剣になっていく。



 『フィンスの店に行くと、約束通りクラウスがおり、私はクラウスに連れられ、店の地下、と言っても貯蔵庫のような場所へ向かいました』

 『そこは埃を被り、人の出入りした気配は全くないところでした。そんな場所にクラウスは私を連れて行くと、この部屋を見てくれと貯蔵庫の奥にある扉を開けました』

 『扉の先は、人一人入るのがギリギリと言った小さな部屋があり、そこには大量の本や資料のような者が置かれてありました』

 『そして、クラウスが一枚の手紙を私に渡して来たのです』



 ヴィルスキン辺境伯はそう言うと、組む足を変える。

 そして、クラウスから受け取った手紙の内容を話す。



 『その手紙は、フィンスとパラディースにいる、フォルモントの長である人物からの手紙でした』



 〝フォルトモント〟と言う言葉を聞き、眉を顰めるエーデルとリヒト。

 フォルトモント

 パラディース帝国にかつて存在した半独立国家であり、そこに住んでいた者たちは皆先祖が同じで、血が繋がっていると言う。


 だが、人口の減少により、国は無くなり、残ったフォルモントらはパラディースの各地に散らばり、生活していると言う。

 そして、その者たちには共通するがある。



 『手紙の内容はこうでした。最近、パラディースでフォルモントを狙った連れ去りが頻繁に起きている。どうやら、アサーナトスの神聖国の連中が関わっているようだ。リーナの存在がバレぬよう、気をつけるんだぞと』

 『手紙の内容はそれだけでしたので、何故、神聖国がフォルモントの人たちを狙っているのかは分かりません』

 『ですが、パラディースでフォルモントの者たちが、複数行方不明になっているのは事実のようです。我々は、アサや人身売買の件とこのフォルモントの件は繋がっていると踏み、クラウスも含め調査を進めました』

 『そして、クラウスが亡くなったあの日、クラウスは何かを掴んだようで私の元に訪れたようですが、あの日私とクラウスは会う事はできず……』



 殺されてしまった。

 クラウスが掴んだと言う物が何なのかは分からないが、クラウスだけが殺害されたのを見ると、確信的な何かを掴んでいたのだろう。


 あまりにも衝撃的な内容に、エーデルとリヒトは黙り込む。

 そして、エーデルは口を開いたかと思えば『まさか、リーナがフォルモントの人間だったなんて……』と呟く。


 『フォルモントの人たちは、共通の特徴を持ちます。お二人もご存知でしょうが、それは珍しく特徴的な紫の瞳です』

 『フォルモント以外の者が、紫の瞳を持って生まれることもありますが、フォルモントの者の瞳は満月の光に照らされると薄らと花模様が浮かび上がります』

 『満月の光に照らされることがなければ、その花模様は浮かび上がらないので、気づかないのも当然です』



 ヴィルスキン辺境伯の言う通り、フォルモントの者たちは美しく珍しい紫色の瞳を持つ。

 だが、紫の瞳を持つ者は、珍しいとは言えフォルモントの者以外にも居るので、満月の光に照らされるまで、フォルモントの人間だと言う事は分からないだろう。



 『リーナの父上がフォルモントの人間だったのですか?』



 リヒトの問いに、ヴィルスキン辺境伯は首を横に振ると『ヴァンディリア令嬢の母方が、フォルモントの血を引いているそうです。』と言う。

 そんなヴィルスキン辺境伯に、今度はエーデルが『リーナの母親はかなり前に亡くなっているのですよね?』と問う。


 すると、ヴィルスキン辺境伯は『えぇ。ヴァンディリア令嬢が生まれて直ぐのことでした。元々、体が弱く、ヴァンディリア令嬢を生まれ、持っていた病が進行し……』と話す。

 そして、懐かしそうに笑みを浮かべると『ヴァンディリア令嬢ととても良く似ており、とても美しい方でした』と呟く。


 その表情や、話し方からヴィルスキン辺境伯と、リーナの母親は親しかったことが窺える。



 『幸いにも、神聖国や他の者たちは、ヴァンディリア令嬢がフォルモントの血を引いていると言うことには気づいておりません』

 『ですが、気づかれるのも時間の問題でしょう』

 『引き続き、捜査はして行きますが、ヴァンディリアの当主であり、ヴァンディリア令嬢の兄君であるエーデル様と、グランべセルの公子であり、ヴァンディリア令嬢、エーデル様と共に親交の深いリヒト様にはお話ししとくべきと思い、今回お話しさせていただきました』

 『マティアスはサマリンへと立ちますし、私もずっとはヴァンディリアにはいられませんので。ヴァンディリア令嬢を守れるのはお二方しかいません』



 ヴィルスキン辺境伯は、真っ直ぐ二人を見ると『どうか、ヴァンディリア令嬢の事をお守りください』と頼むと、エーデルとリヒトは『当然です』と頷く。







 ヴィルスキン辺境伯から聞いた話を思い出しては、シュタインとともに楽しそうに話すリーナを見るエーデル。

 リーナがフォルモントの血を引いていることには驚いたが、あの美しい瞳を見れば納得だった。



 『――まさか、裏であんなことが起きていたとはな』



 ヴィルスキン辺境伯らと別れた後、ブティック店へと二人残ったエーデルとリヒトは、先ほどヴィルスキン辺境伯らから聞いたことについて話をする。



 『アサや人身売買の事もそうだけど、フォルモントの件はリーナやシュタインに知られないようにしないとね』



 リヒトの言葉にエーデルは頷くと『これからリーナはデビュタントを迎えて、より多くの人の目に触れることになる。しっかり見ていないと』と眉を顰める。



 『せめて、父上が掴んだと言う何かが分かればいいんだけど、まだ当主になった俺じゃ思うように動けないだろうな……』



 エーデルがそう呟くと、リヒトは『そう、だな……』と返すと、何かを考えるような素振りを見せる。

 そんなリヒトにエーデルは『どうした?』と尋ねると、リヒトは『いや……』と何も言わなかった。



 「エーデル!」



 リヒトとのやり取りを思い出していた時、突如エーデルの耳に、美しく澄んだ声が届く。

 ハッとし、顔を上げるとリーナとシュタインが、エーデルの方を振り返り「何してんのー? 早く中に入ろうよー!」とシュタインは言う。


 エーデルは「あぁ……」と頷き、リーナとシュタインの元へ行くと、リーナは心配そうに「ぼーっとしてたけど、大丈夫?」とエーデルに尋ねてくる。

 そんなリーナの瞳はきらっと輝くも、フォルモントの特徴である、花模様は見えない。


 エーデルは柔らかく笑うと、リーナの頭の上に手を置き「大丈夫だよ。中に入ろう」と言う。



 それから日は経ち、エーデルが当主を継承してから、気が付けば二月が経とうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

どうやら婚約者の隣は私のものではなくなってしまったようなので、その場所、全てお譲りします。

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

ヒロインはモブの父親を攻略したみたいですけど認められません。

haru.
恋愛
「貴様との婚約は破棄だ!!!私はここにいる愛するルーチェと婚約を結ぶ!」 怒鳴り声を撒き散らす王子様や側近達、無表情でそれを見つめる婚約者の令嬢そして、王子様の側には涙目の令嬢。 これは王家の主催の夜会での騒動・・・ 周囲の者達は何が起きているのか、わからずに行く末を見守る・・・そんな中、夜会の会場の隅で・・・ (うわぁ~、これが乙女ゲームのクライマックス?!)と浮かれている令嬢がいた。 「違いますっ!!!! 私には他に愛する人がいます。王子様とは婚約は出来ません!」 今まで涙目で王子様の隣で大人しくしていた令嬢が突然叫び声をあげて、王子様から離れた。 会場にいた全員が、(今さら何を言ってるんだ、こいつ・・・)と思っていたその時、 「殿下っ!!! 今の言葉は誠でございますっ!ルーチェは私と婚姻いたします。どうかお許しください!」 会場にいた者達を掻き分けながら、やって来た男が叫び、令嬢を抱き締めた! (何か凄い展開になってきたな~)と眺めていたら・・・ (ん?・・・何か見覚えのある顔・・・あ、あれ?うそでしょ・・・な、なんでそこにいるの?お父様ぁぁぁぁ。) これは乙女ゲームから誰も気づかない内にヒロインがフェードアウトしていて、自分の父親が攻略されてしまった令嬢(モブ)の物語である。 (・・・・・・えっ。自分の父親が娘と同い年の女の子を娶るの?・・・え?え?ごめんなさい。悪いけど・・・本当申し訳ないけど・・・認められるかぁぁぁぁ!) 本編・ー番外編ーヴィオレット*隣国編*共に完結致しました。

愛なんか消えてしまえと願う私は悪くないと思う

ましろ
恋愛
「赤ちゃんができたの」 母の言葉に目眩がした。 我が家の両親は恋愛結婚。身分差から駆け落ち同然で一緒になった二人は未だにその愛は消えず、燃え上がり続けているのだからある意味凄いわ。 でもね? どうしてそんなにも子どもを作ってしまうの⁉ 私を入れて子どもは七人。お父さんの給料ではお手伝いさんなんか雇えるわけもなく、おっとりしたお嬢様気質の抜けないお母さんだけで家事育児などできるはずもなく。 そうなると働き手は長女の私だ。 ずっと小さな頃から弟妹のお世話と家事に明け暮れ、それなのにまだ産むと言うの? 「……ねえ、お母さんにとって子どもって何?」 「うふふ。それはね、愛の結晶よ」 愛。愛って何? 私はあなたの愛のために働き詰めなのですけど? 自分達の手に余るなら、そんなモノなど捨ててしまえっ! ❦R-15は保険です。 連載中のものが止まったままのくせに!とは言わないで(泣) 現在、作業中のものがなかなか終わらなくて息抜きのための不定期連載です。

『あなたを捨てたのは、私です』 〜冷酷公爵を追い出した元恋人ですが、隠し子ごと溺愛されています〜

ria_alphapolis
恋愛
「あなたを捨てたのは、私です」 そう告げて、公爵である彼を追い出した日から数年。 私は一人で、彼との子どもを育てていた。 愛していた。 だからこそ、彼の未来とこの子を守るために、 “嫌われ役”になることを選んだ――その真実を、彼は知らない。 再会した彼は、冷酷公爵と噂されるほど別人のようだった。 けれど、私と子どもを見るその瞳だけは、昔と変わらない。 「今度こそ、離さない」 父親だと気づいた瞬間から始まる、後悔と執着。 拒み続ける私と、手放す気のない彼。 そして、何も知らないはずの子どもが抱える“秘密”。 これは、 愛していたからこそ別れを選んだ女と、 捨てられたと思い続けてきた男が、 “家族になるまで”の物語。

兄の婚約解消による支払うべき代償【本編完結】

美麗
恋愛
アスターテ皇国 皇帝 ヨハン=シュトラウス=アスターテ アスターテ皇国は周辺国との関係も良く、落ち着いた治世が続いていた。貴族も平民も良く働き、平和で豊かな暮らしをおくっている。 皇帝ヨハンには 皇妃に男の子が一人 妾妃に女の子が一人 二人の子どもがある。 皇妃の産んだ男の子が皇太子となり 妾妃の産んだ女の子は降嫁することが決まっている。 その皇女様の降嫁先だった侯爵家の とばっちりを受けた妹のお話。 始まります。 よろしくお願いします。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

処理中です...