公爵家の養女

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第二章

彼との出会い

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 いよいよ、デビュタントも終わりに近づいて来た頃、最後のダンスとして少年少女は集まる。

 リーナはもう踊る予定はなく、他の子たちが踊っているのを見ていようと、エーデルとシュタインと端の方で休んでいた。



 「リーナ、疲れたでしょう。もう少し頑張ってくださいね」



 今回、シャペロンとしてデビュタントについて来てくれたヨハンナが、リーナの元にやって来て声をかける。

 シャペロンは基本、見守ることが仕事なので、ダンス以外の時は常にヨハンナと行動していた。


 回帰前のデビュタントでは、エーデルと一曲踊った後は、直ぐに誰もいないバルコニーに隠れていたから、こうして楽しむことはなかったけれど、今日は楽しめて良かったと思うリーナ。

 少し、疲れてしまったけれど。


 そう考えながら飲み物を飲んだ時だった。

 足元に、影ができたかと思えば「ヴァンディリア令嬢」と名前を呼ばれ、リーナはその声に驚き下げていた顔を上げる。


 そこには、エーヴィッヒが立っており、いつの間に目の前に? と驚くも、更に驚くことをリーナに言うのだ。



 「僕と一緒に、最後のダンスを踊ってはいただけませんか?」



 全くの予想外の人からのダンスの誘いに、リーナは「え…………」と驚いている。

 最後のダンスにエーヴィッヒが、婚約者であるブリューテではなく、リーナを選んだため、周りの人たちも騒いでいる。



 ど、うしよう……。

 リーナは頭の中で考える。


 きっと、殿下はヴァンディリア家の娘だから、交友の意味で、ダンスに誘ってくださっているんだろうけど、もしこれで、殿下とダンスを踊れば、きっとまた変な噂が流れてしまいそう……。

 リーナは恐れていたのだ。

 過去に〝帝国一の魔性の女〟などと言うふざけたあだ名をつけられ、今回、エーヴィッヒと踊る事でまたそんなあだ名をつけられないかと。


 けれど、エーヴィッヒがダンスに誘うことは、極めて普通のことで、断る理由もない。

 というか、こんな人前で第一皇子殿下である彼のダンスを、断ることはできない。


 それを分かって誘って来たのかは定かではないが、とにかく、エーヴィッヒの手を取る他ない状況。

 リーナは「よ、ろこんで……」と手を取ると、エーヴィッヒに連れられ、ホールの中央に行く。



 その時一瞬、視界の端にブリューテが見えた気がしたが、そちらを見ないようにする。

 最後のダンスを踊る少年少女たちが集まると、曲が流れ始める。



 何組も踊る中、洗練されたリーナとエーヴィッヒの踊りは、とても目を惹き、美しい二人が踊る様は実に絵になる。

 そんな二人を見て、他の者たちが「お似合いですわ……」「何とも美しい」と口にする。



 「わぁ……殿下と踊るリーナ、すごく綺麗だね。ねえ、兄貴」



 シュタインがそう言って、エーデルに問うも、エーデルはただ二人が踊るのを見つめるだけで、何も返さない。

 そんなエーデルを「兄貴?」とシュタインは不思議そうに見る。


 そして同じく、少し離れた場所でリーナとエーヴィッヒが踊るのを見ていたリヒトも、何か思う所があるような表情を浮かべていた。



 「……流石はヴァンディリア令嬢ですね。先ほどから周りの視線が痛くてしょうがない」



 踊っている最中、突然、エーヴィッヒがそう言って笑うので、リーナは何のこと……? と思いながらも「……殿下は女性に人気ですから」と答える。

 すると、エーヴィッヒは「女性ではなく、男性の目ですよ」と眉を下げ笑う。



 「ヴァンディリア令嬢と踊りたいという者はたくさんいるので、こうして踊っていただけるとは思いませんでした」

 「殿下のお誘いを断るわけにはいきませんので」



 そう話すリーナに、エーヴィッヒは「なるほど……役得と言うわけですね」と言うと「是非とも次は、僕と踊りたいと思っていただきたいですね」と笑みを浮かべる。

 そんなエーヴィッヒの言葉に、たくさんの視線を集めながら踊るのはもうごめんだわ……と、次がないことを願うリーナ。



 「ヴァンディリア令嬢だけですね」

 「え……?」

 「アサーナトスを代表する三家と踊ったのは」



 そう言うエーヴィッヒの言葉に、リーナは確かに……と気付く。

 結局、エーデルは私以外と踊っていないし、リヒトも、エミリアと私以外踊っていない。


 二人と踊りたいと願う人は、たくさんいるはずなのに。

 まぁ、私がヴァンディリアの令嬢だからだろうけど、私こそ役得になるな


 そう考えているうちに曲は終わり、足を止めると、エーヴィッヒはリーナの手を取ると「ヴァンディリア令嬢にとって、大切な日に、少しでもこうして共に過ごせたこと嬉しく思います」と言い、手の甲に口づけをする。

 その瞬間、上がる歓声にリーナはギョッとし「お、恐れ多いですわ~……」と笑みを浮かべると、早く戻りましょうと言いたげに歩き出す。


 そんなリーナを見て、クスッとエーヴィッヒは笑みを浮かべるのだった。



 「……よろしいのですか?」



 リーナとエーヴィッヒが踊るのを見ていた、ヴィルスキン辺境伯は、同じく二人が踊るのを見ていた皇帝にそう尋ねる。

 「何のことだ?」ととぼける皇帝に、ヴィルスキン辺境伯は「殿下には婚約者がおられます。あのように、あからさまに他の者とは違う対応をヴァンディリア令嬢にしては、誤解が生まれるのでは?」と話をする。


 ヴィルスキン辺境伯の言う通り、エーヴィッヒのリーナへの態度は、あからさまに他の令嬢たちに取る態度とは違う。

 ヴィルスキン辺境伯の言葉に皇帝は「皇室とヴァンディリアは馴染みが深い。ゆえ、親しくしても何ら問題はなかろう?」と答える。



 「それに、そんな事をいちいち気にしていては、第一皇子の婚約者は務まらない。」



 皇帝はそう言っては、隣に座る皇后に「皇后も、そうは思わぬか?」と話を振る。

 その瞬間、皇后が持つ扇が強い音を立て閉じられ、一気にその場に緊張した空気が流れる。


 ヴィルスキン辺境伯らの視線が、皇后に向けられる中、皇后は数秒黙った後「……陛下。せっかくの祝いの場で、そのような発言はなされない方がよろしいかと」と笑みを浮かべる。

 そんな皇后に「そ、そうだな」と返す皇帝。


 丁度その時、司会がデビュタントの終わりを告げ、その話はそこまでとなる。

 それぞれ帰路に就こうと、会場から出て行く中、大司教とナハトも帰る準備をしていた。



 「……それにしても、よくもまぁ皇后様の前で陛下もあの様な発言をなさりますね」



 皇帝と皇后、ヴィルスキン辺境伯が席を外し、ナハトにそう話す大司教。

 そんな大司教に、ナハトは何も答えず、ふと視線をある人物に向ける。


 その先にはリーナがおり、エーデルたちとともに楽しそうに話しながら、会場を出ようとしていた。

 そんなリーナたちを眉を顰め見ると「……やはり、愛というものは人を愚かにさせますね。」と言うのだった。



 こうしてリーナは、華々しくデビュタントを迎えることができたのだった。







 会場内では、優雅な音楽が流れ、煌びやかな衣装を身に纏った紳士淑女らが優雅に踊り、話をしている。

 そんな場は、やはり慣れないと当時十七歳のリーナは、人を避け、バルコニーへとやって来た。



 『え……?』



 どうやら、バルコニーには先客が居たらしく、リーナはバルコニーにある椅子に腰掛ける彼を見て、思わず驚いてしまう。
 

 パーティーの最中に、バルコニーで読書をしている人なんて初めて見た……。



 そう、彼は優雅に読書をしていたからだ。

 普通、パーティーの最中に、バルコニーで優雅に読書をする人なんていない。

 少なくとも、リーナはそんな人にこれまで会ったことがなかった。


 パーティーのバルコニーで、わざわざ読書をするなんて、余程読書が好きなのかしら?

 何て思いながら、驚きのあまりじっと見ていると、彼はゆっくりとリーナの方を見て、目が合う。


 何処か冷たさがある彼の瞳が、真っ直ぐリーナを捉えたかと思えば『……座ります?』と問いかけて来たのだ。

 まさか声をかけられるなんて思っていなかったリーナは『い、いえ……!』と両手と首を振ると、彼は『そう……』と言うと、再び手に持つ本に視線を移し、何事もなかったかのように読書の続きを始めた。


 そんな彼に驚くリーナ。

 だが、そんな事が初めてだったので、何だか面白く、リーナは『何の本を読んでいるんですか?』とついつい、尋ねる。


 すると彼は、こちらに視線を向ける事なく、手元の本に視線をやったまま『生と死について』と答える。



 『生と死……?』

 『はい。何故、人は生まれて来て死ぬのかについて、考えてあるんです』

 『はぁ……何故なんですか?』



 リーナの問いに、彼は『さぁ……よくわかりません。』と答える。

 分からないの……? と思いながら『面白そうですね』と言うと、彼は『いえ、全く』と答えるのだ。


 そんな彼に、えぇ……面白くないのに読んでるの……? と困惑するリーナ。

 すると彼は、本を閉じると『私は人が生まれて死んでいく理由を知りたくてこの本を読んだのですが、全くそのことについて書かれていない。だから面白くはないです』とリーナを見て言うので、リーナは『なるほど……』とうなずく。



 そして、リーナに『令嬢は、何故、人は生まれて死んでいくのだと思いますか?』と尋ねるのだ。

 そんな事、一度も考えた事がなかったわ……と思いながら、その理由を考えるも、やはり分からないので『わかりません』と素直に答えると、彼は『私もです』と頷く。


 その様子といい、彼との会話の空気感といい、リーナのツボにハマったのか、リーナは思わず声を上げ笑う。

 突如、笑い出すリーナにさほど驚いた様子もなく『楽しそうですね』と言った目を向ける彼。


 今まで出会って来た男性たちは、家柄もあり、堅苦しい会話や、政治の話などであまり話について行けず、話す事に億劫だった。

 彼の話していることは不思議だが、彼の空気感というか、着飾っていない感じが何だか心地好く、初めてリーナから仲良くなりたいと思った相手だった。


 不思議だな……初めて会ったのに、何だか話しやすくて落ち着く。

 リーナは、もう少し話をしていたいと『その本の内容、詳しく教えてください』と頼むと、彼は『構いませんが』と了承してくれる。


 そして、会場内から楽しげな会話が聞こえてくる中、リーナと彼は、星空の下、彼が読んでいた本について話をした。

 それはもう、時が経ち、自分たちは今、パーティーに参加している最中であるということも忘れて。



 話し終えた頃には、もう、パーティーも終わっており、リーナは、エーデルたちのもとに戻らないと! と椅子から立ち上がる。

 そんなリーナに続くように、彼も立ち上がると、リーナは思い出したかのように『そうだ……! お名前をお伺いしても?』と尋ねる。


 彼は、リーナを真っ直ぐ見るとゆっくりと口を開く。

 無表情だが、決して怖くはない表情に、淡々とした話し方。



 『ノア・シセルバンです』



 それが、後にリーナの婚約者となる、シセルバン伯爵家の当主、ノア・シセルバンとの出会いだった。
 
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