公爵家の養女

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第二章

帰国

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 「先日起きた暴動の件ですが、一部の国民による、政治への不満から起きたもので、怪我人は複数名出たものの死人はおらず、暴動を犯したものは全員、捕らえられました」



 ファルバーニ伯爵の説明に、グランべセル公爵が「これで今月に入り五度目だぞ」と腕を組む。



 「そのどれもがやはり、政治、皇室に対しての不満から来たものです。主に、度重なる増税に比べ賃金の低さ、そして、戦争による数多の犠牲に対して国民らには何も対価がないことに対してなど。上げ出したらキリがありません」



 国民らの多くも、パラディースとの戦争に駆り出され、多くの犠牲を払った。

 のにも関わらず、何の対価もないどころか、過去にないくらい税金は上がり、戦争の傷がまだ癒えぬまま働かなければならない状態に、国民たちからは不満の声が上がっていた。


 エズワルド侯爵は腕を組み、呆れたように「戦争に犠牲はつきものだ。それに国民には税を払う義務がある。何を不満に思うことがあると言うのか……」と呟く。

 その言葉に、エーデルは返す。



 「戦争に犠牲はつきものだと言うのであれば、それ相応の対価を支払うべきでは? それに、国民が税金を払うのは義務であったとしても、それが高いことに対して不満を挙げてはならない理由にはなりませんが」

 「そもそも、税金に関しては、高い税金を取ったとしても、賃金が上がったり、国民らに何らかの還元があれば、不満は出ません」



 エーデルの言葉に、エズワルド侯爵は「還元ならしているだろう? 街の復興やら」と言うので、エーデルは呆れた表情を浮かべ、同じくエーデルの隣で呆れた表情を浮かべるヴィルスキン辺境伯は「街の復興は当たり前のことです」とため息をつく。



 「ですが、このまま放っていても、皇室に対しての信用は落ちていくばかりです。何か策を取らなければ」



 ライハッド侯爵の言葉に、エーデルは「策を取る前に、国民の要望に耳を傾けるべきでは?」と提案するも、エズワルド侯爵の「いい事を思いついたぞ」と言う言葉に遮られてしまう。







 「……まさか、この全てが私に届いた手紙だなんて」



 デビュタントから五日経った日、屋敷の談話室のテーブルに広げられた手紙の数を見て、驚いているリーナ。

 デビュタントを迎え、本格的に社交界デビューしたリーナに、沢山のお茶会への招待や、一度会って欲しいなどの言葉が綴られた手紙がそれはもう山程届いたのだ。



 「とりあえず……お茶会の誘いから順に返事を出しましょう……」



 リーナがそう呟いた時、廊下が騒がしくなったかと思えば、エーデルとエーデルの友人たちが、談話室へとやって来た。

 談話室に入って来たエーデルたちを見て、リーナは「あ、退くね」とテーブルの上に置かれた手紙を慌ててまとめようとするも、エーデルは「いや、居て大丈夫だよ」と返す。


 二人のやり取りを聞いていた、エーデルの友人たちが「こんにちは、ヴァンディリア令嬢」「おじゃましています」と声をかける。

 そんな中にリヒトの姿もあり、リーナと目が合うなり笑み浮かべる。



 エーデルとリヒト、そしてその他数名の子息らは、時々こうしてヴァンディリアに訪れては、政治についてあれこれ意見を出し合っているのだ。

 エーデルは、若い人たちの意見を積極的に聞き、取り入れるようにしており、最近では、若い子息らの間でエーデルを支持する人たちが増えたそう。



 「――国民らのために、催しを開くだって?」



 しばらくエーデルたちが話をしている横で、手紙の整理をしていた時、突如、そう驚く声が談話室に響き渡り、思わずリーナはそちらに視線を向ける。

 どうやら、先日の議会で行われた内容について話をしているようだった。



 「ただでさえ、国民たちの生活は窮困していると言うのに、皇宮で催しを開くとは、どんだけ馬鹿げているんだ?」



 どうやら、下がる皇室への支持を挽回するため、数年前まで行われていた、皇宮内での催しを行う事となったらしく、それを聞いた子息らは呆れた表情を浮かべている。



 「そんなふざけた事、一体誰が考えついたんだ? エズワルド侯爵でもない限り、思いつかないぞ?」

 「ご名答だ。そのエズワルド侯爵の案だ」



 エーデルの言葉に子息らは「……流石は侯爵だ。期待を裏切らない」と皮肉を言う。



 「何故、更に金がかかる事をやるんだ? ヴィルスキン辺境伯やグランべセル公爵などもいたんだろ? なのにどうしてこんなふざけた案が通ってるんだ?」



 その問いかけに、エーデルは「……さすがに陛下も許可をなさらないと思ったんだよ。子どもでもこんな催しを国民が望んでいないと分かるからな。けれど、俺たちの予想とは裏腹に陛下は乗り気でな。二つ返事だったよ」と遠い目をする。



 「陛下がやると決めた以上、何を言っても取りやめる事はない。その時から頭痛が治らないよ」



 どんどん曇っていくエーデルの顔。

 その話を聞いていた子息らは「……頭、温めろよ」としか返すことができなかった。


 エーデルたちの話を聞き、リーナは、そう言えば回帰前もこの時期は皇室や皇室の意見に肯定的な貴族への反発が多く見られていたと思い出す。

 最近、よく暴動が起きているみたいだし……そして、今と同じように催しを開くことになって、結局、どうなったのだったかしら……?



 リーナがそう思い出そうと来ていた時「あの、ノア・シセルバンに!?」と言う声が聞こえてき、リーナの動きがピタッと止まる。
 
 そんなことには気づかず、エーデルたちは話を続ける。



 「催しを開くために、色々な店に声をかけたんだけど、どこも貴族俺たちに不満を持っているから、手を貸してくれないらしい。まぁ、当然だけど」

 「そこで、国民からの支持が高いシセルバン家に、協力を促すよう頼む事になったんだ」



 エーデルの言葉にリヒトが「それで、シセルバン伯爵は協力してくれる事になったの?」と聞くも、エーデルは首を横に振る。



 「いや、今日エズワルド侯爵とファルバーニ伯爵が頼みに行っているよ」

 「……エズワルド侯爵が? 大丈夫なの?」

 「まぁ……言い出したのは侯爵だしな。それに、ファルバーニ伯爵がいるから問題はないと思うけど」



 そう話すエーデルに他の子息は「あのシセルバン伯爵が協力してくれるとは思わないけどな」と腕を組む。



 シセルバン伯爵家。

 人脈も多くなければ、軍事力が特別強いわけではない。

 だが、代々〝中立派〟という立場を貫いてきたことにより、シセルバン伯爵家はアサーナトスの数多の情報を持ち、その代々貫いてきた中立派の立場から、許可なく立ち入れない皇室、神聖国に立ち入り、摘発できるという権限を与えられた唯一の家。

 その上、国民らからの支持は高く、どの家も彼らを敵に回したがらず、極力関わらないようにしているのだ。


 そして、そんなシセルバン伯爵家当主であるノア・シセルバンと、リーナは婚約関係にあった。

 中立派を貫くシセルバン伯爵家と、帝国の剣と呼ばれるヴァンディリア公爵家との婚約に、数多の批判が上がったものの、二人の想いは強く、批判に負けない姿を見たものたちは純愛だと称し、気がつけば批判も少なくなっていた。



 だが実のところ、リーナとノアの間に恋愛感情と言うものはなく、リーナにとってもノアにとっても、都合が良く、人としてお互い尊敬していたので婚約を結んだのだった。



 懐かしい、かつての婚約者だった彼の話に、リーナは自身が亡くなる前のことを思い出す。


 あのまま、私が殺されることがなければ、ノアの家に向かいそのまま結婚していた。

 あの後、ノアはどうしたんだろう。


 何だか久しぶりにノアの話を聞いて、顔を見たくなったけれど、今の私たちはまだ出会ってすらないから、会いに行くのは変だし……元気に過ごしていたらいいな。



 そう考えていると、エーデルたちの話の内容は、もう直ぐアサーナトスに訪れるアンデル国の皇帝陛下、皇后陛下の話になる。

 アンデル国民の皇帝陛下らとアサーナトスの陛下らが食事をする場所が決まらないと言う話なのだが、リーナはその話を聞きあることを思い出すと「エーデル」と話に入る。


 いきなり入って来たリーナに驚きながらも「どうした?」と尋ねるエーデル。

 そんなエーデルにリーナは「食事会の場所は、首都にあるカレンと言う店はどうかしら?」と問う。



 「カレン……? どうしてそこに?」



 リーナの言葉に、エーデルだけではなくリヒトや他の子息らも驚いている。

 そんなエーデルたちにリーナは「……前に、皇后陛下がアサーナトスに来られた時、カレンのお茶菓子を気に入られたらしく、カレンに行ってみたいと話していたみたいなの」と説明する。



 リーナの話に、エーデルは考える素振りを見せると「わかった。一度話してみるよ」と言ってくれる。


 
 「せっかくなら、来て良かったと思って貰いたいしな」

 「よく知っていたね、リーナ」


 
 リヒトの言葉に、リーナは「メイドたちが話していたのをたまたま聞いたの」と返す。


 別に、元々予定していた場所で食事会をしても、何ら問題はないのだが、どうせなら来て良かったと思って貰いたい。



 それから一週間経った頃、サマリンからリーナたちの叔父、マティアスが帰ってきたと知らせを受け、エーデルとリヒトはブティック店へと訪れていた。



 「サマリンへと滞在している間、取引をしているところを押さえることが出来たのですが、捕まえたのはどれも下っ端のものばかりで」

 「主犯であろう貴族や神聖国の人間は姿を現す事はなく、現在も捜査を続けている最中です」



 マティアスの話にエーデルは「……目星はもうついているんですよね?」と問う。

 マティアスは頷くと「後は証拠となる物の提示だけなのですが。貴族側はともかく、あの神聖国が相手となると、確実に証拠となるものを提示しなければ、こちらが不利になります」と話す。


 神聖国は独自のルールがあり、皇室でも無闇に立ち入ることが出来ない。

 なので、慎重に行かなければ、シラを切られてしまう。



 「そんな中もう直ぐ、新たな取引が行われると言う情報を掴みました。どうやら、今までよりかなり力のある相手と取引を行うようで。今まで下っ端にやらせていた取引に、貴族側が自ら参加するそうです」

 「そこで、我々シャッテンヴェヒターはその取引現場を抑えると同時に、神聖国へと強制調査を行うことにしました。」



 マティアスの言葉に、エーデルとリヒトは「強制捜査?」「まさか……」と言うと、マティアスは頷く。



 「この件について、シセルバン伯爵に協力を得ます。と言っても、これからシセルバン伯爵に会いに行くのですが」



 マティアスはそう言うと、エーデルとリヒトを見て「お二人にも同行していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」と問うとエーデルとリヒトは「もちろんです」と頷く。

 こうして一行はシセルバン伯爵家へと向かう事となったのだった。
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