公爵家の養女

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第二章

取引

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 シセルバン伯爵領地、そこは緑豊かで行く先々に花々が咲き、穏やかな空気が流れている。

 そこに住む住民らも、心なしか皆表情が明るく、穏やかに見える。


 領地を治めるシセルバン伯爵家は代々、住民らに寄り添い、人々のために伯爵家当主としての仕事を真っ当しており、他の領地よりも比較的小さいが、争いもなく、とても穏やかで平和な場所となっている。


 そんな領地に建つシセルバン伯爵家に、エーデル、リヒト、マティアスそしてヴィルスキン辺境伯がやって来ていた。



 「それで、ヴァンディリア公爵、グランべセル公子を引き連れてまで私に会いに来られた理由を伺っても?」



 エーデルたちの向かい側に座るシセルバン伯爵家の当主、ノア・シセルバンはそう問いかけては、紅茶を一口飲む。

 
 明るく薄いブラウンのサラッとした髪に、明るい水色の瞳。

 全体的に色素が薄い見た目をしている彼、その整った顔立ちに、低く淡々とした話し方から、エーデルとリヒトは彼に対して〝冷たそうな人〟と言う印象を受けていた。


 貴族間での噂とは違い、国民らのシセルバン伯爵に対する噂は、貧しいものたちに食糧を分け与えているや、シセルバン家が受け持つ孤児院がいくつもあるやらと、どれも良いものだったので、貴族間で噂されている人物像の方が近いなと思うのだった。



 「突然のことにも関わらず、お会いしていただきありがとうございます。うだうだと話すのは時間がありませんので、単刀直入にお話しします」

 「我々に力を貸して下さい。シセルバン伯爵」



 言葉の通り、単刀直入なマティアスの言葉に、ノアは「……単刀直入すぎます。詳しくお話し願えますか?」と表情を変えることなく話す。

 
 マティアスは頷くと、サマリンを通してパラディースと、アサーナトスの一部の貴族、神聖国の人間がアサ、人身の売買を行っている事。

 そして、その件についてシャッテンヴェヒターと、ヴィルスキン辺境伯家が捜査をしていることを話し、もう直ぐ大きな取引が行われようとしていることを説明する。



 「恐らく、その取引で最後となるでしょう。そこを取り逃せば、取引が行われていた事は暴かれることなく、一生闇の中です」

 「ですので、そこで一気に主犯格である貴族、神聖国の者を捕らえ摘発し、逃れる事のできない状態にします」



 マティアスの話を聞いたノアは「なるほど……」と呟くと「貴族側は、取引を行いに来たところを押さえればいいが、神聖国側は自ら取引に参加しないため、摘発すると言う形を取ろうと」と言う。



 「けれど、それを行うためには神聖国側が言い逃れできない証拠を提示する必要があるが、確固たる証拠が見つかっていないため、皇室でも無闇に立ち入ることが出来ない神聖国に、唯一許可なしで立ち入ることができるシセルバン家に力を貸して欲しいと言うわけですね」



 マティアスは「流石はシセルバン伯爵。話が早い」と笑みを浮かべると、ノアは「……神聖国の誰が主犯格にいるかは知りませんが、到底、証拠を残しているとは思えませんけどね」と返す。



 「聖なる場所に、神聖国の人間が汚れた証拠を残しておくでしょうか?」



 ノアの言葉にヴィルスキン辺境伯が「……マテオ司祭が神聖国側の主犯格です」と答える。

 するとノアは「あぁ……なるほど。なら、神聖国内に証拠を残しているでしょう。恐らく彼の部屋に」と頷く。


 マテオ司祭は信仰心が強い。

 ゆえ、大事なものは全て神聖国に保管をしていれば、神のご加護を受けられ安全と言う思考回路を持っているような人。

 そんな人物が証拠となるものを、他の場所に隠すはずはない。

 マティアスやヴィルスキン辺境伯はそう判断し、今回ノアに力を貸して欲しいとお願いしたのだ。



 「貴族側の主犯格は恐らくバートン家ですね。前に一度、私に孤児院の運営についてあれこれ聞いてこられましたから。」

 「金遣いが荒く、酒癖の悪いあなたが孤児院を運営できるわけがないからやめろと言うと、それ以上は何も無く、特にそう言った噂なども聞かなくなり諦めたと思っていたのですがね」



 「まさか人目につかない場所で、孤児院を運営していたとは……」と言うノアに、マティアスは「やはり、シセルバン伯爵は話が早いですね」と笑みを浮かべる。

 そんな中、バートン家と聞き、リヒトは顎に手をやり何かを考えている様子だった。



 「貴族と神聖国のいざこざに巻き込まれるのはごめんですが、何の罪もない子どもたちが巻き込まれているのは見過ごせませんね」



 そう言うノアに、マティアスは「……お力を貸していただけると言うことでよろしいでしょうか?」と問う。

 「貸しひとつということで」とノアは頷き、シセルバン家の協力を得られることとなった。



 「一つ、私からもよろしいでしょうか?」



 ノアの協力が得られると決まり、エーデルはノアにそう尋ねるとノアは「まだ何か」と眉を顰める。

 そんなノアにエーデルは「……パラディースのフォルモントは知っていますか?」と問う。



 「かつてパラディースに存在した半独立国家、ですよね? もちろん存じ上げていますが」

 「最近、そのフォルモントの者たちを狙う連れ去りが多発しているようで、その件に神聖国の人間が関わっているようなのですが、伯爵は何かご存知ないですか?」



 シセルバン伯爵家は、中立派という立場からあらゆる者たちが、協力を要請して来たりするため、数多の情報を所有している。

 なので、フォルモントと神聖国の関わりについても何か知っている事はないかと、エーデルは尋ねたのだが、ノアは「神聖国との関わりについては聞いた事はありませんね」と返す。


 フォルモントは謎が多い者たちだから、いくら情報を持つと言うシセルバン伯爵家でも無理かと諦めかけた時、ノアは「フォルモントといえば、不思議な噂がありますが」と話を続ける。

 「不思議な話?」と首を傾げるリヒトに、ノアは「えぇ」と頷く。



 「フォルモントの先祖は聖なる力を持っていたとかで、その一つに特徴的な紫の瞳は、未来を予知することができるとか」



 ノアの話に「未来を予知?」「そんな噂が……」とエーデルとリヒトは呟くと、ノアは「それから」と続ける。



 「〝過去をやり直す〟ことができる力が使えるとか」



 ノアの言葉はとても現実的ではなく、マティアスたちは「初めて聞きましたね」と言うだけで、あまり驚いてはいないよう。

 ノアも信じてはいないようで「あくまで噂ですが。」とお茶を一口飲む。



 「噂……その噂を神聖国の人間が聞き、信じ込んだ可能性は?」



 エーデルの言葉にヴィルスキン辺境伯が「……もしそうだとしても一体何のために?」と言うので、エーデルは「分かりませんが……」と返す。



 「まぁ、そんな噂を信じるとは到底思えませんが」

 「なら一体何故、フォルモントの人を狙っているんでしょうか」



 リヒトの言葉に皆は考えるも、結局何もわからず終いでその場は終わった。

 それから日は経ち、取引が行われる日がやって来た。



 「今日は帰りが少し遅くなるだろうから、先に寝ているんだぞ」



 取引を行う貴族らを捕まえるため、シャッテンヴェヒター、ヴィルスキン辺境伯家の騎士団だけではなく、エーデルとリヒトも現場へ赴くこととなった。

 初めは、エーデルとリヒトはまだ未成年で叙任式も受けていないため、下手をすれば命を落とす可能性があるので、マティアスもヴィルスキン辺境伯もエーデルとリヒトは来ないように言っていた。

 だが、エーデルもリヒトも聞かず、一緒に現場を押さえることとなったのだ。


 見送りに来たリーナとシュタインに声をかけると、エーデルは「行ってきます」と屋敷を後にする。

 そんなエーデルをどこか心配そうに見送るリーナ。



 エーデルはヴィルスキン辺境伯に用があると言っていたが、最近、エーデルがマティアスとコソコソとどこかへ行っていることには気づいていた。

 そして、リーナとシュタインに言えない何かを隠していると言うことも。


 けれど、聞いたところでリーナにできる事はなく、エーデルが話をしてくれるまで待とうと決めたのだ。

 だが、やはり心配なものは心配だ。

 

 「リーナ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。それより、体が冷えちゃうから、早く屋敷に入りなよ」



 シュタインの言葉にリーナは「そう、ね」と頷くと、屋敷の中へと入る。







 「……では、我々はこれから神聖国へと向かいます」



 ノアの言葉にマティアスは頷くと、ノアとシセルバン家の騎士団は、マティアスたちを後にし、神聖国へと馬を走らせる。

 マティアスたちは時間になるまで、取引が行われる場所の側の森に潜んでいる。


 そこにはシャッテンヴェヒターとヴィルスキン辺境伯騎士団の姿もあり、殺伐とした空気が流れている。

 だがそこには、エーデルとリヒトの姿は無く、ヴィルスキン辺境伯が「ヴァンディリア公爵とグランべセル公子は?」とマティアスに尋ねる。


 
 「何か考えがあるようで、離れると言っていましたけど」

 「……二人だけで大丈夫なんでしょうか」

 「あの二人は賢いし、剣の腕も立つので大丈夫でしょう。それより、時間です」



 気づけば取引が行われる時刻となっており、マティアスの言葉にヴィルスキン辺境伯は頷くと、作戦通り、取引を行っているものたちを取り囲むため、ヴィルスキン辺境伯たちは場所を移動する。

 マティアス含めシャッテンヴェヒターらは、影から取引が行われているのを確認する。


 聞いていた通り、取引現場には貴族側の主犯格であるバートン家と、その取引相手の家紋が乗った馬車が止まっていた。



 「取引現場に普通、家紋が乗った馬車できますかね?」



 そう呆れたように言うマティアスに、シャッテンヴェヒター団長が「俺たちからすれば分かりやすくてありがたいけどな」と返す。



 「それもそうですね。子どもたちの姿が確認できましたし、押さえましょうか」



 マティアスの言葉に団長は頷くと、仲間に合図を送るり、シャッテンヴェヒターらは「動くな!!」と取引を行っていたものたちを取り押さえに行く。

 それと同時にヴィルスキン辺境伯騎士団も、現れ、逃げようとするものたちを取り押さえていく。



 「副団長! 子どもたち六名、全員保護いたしました」



 一人の団員の言葉に、マティアスは安堵したように「そのまま安全な場所へ」と指示を出す。

 
 子どもたちは無事に保護できた。あとは、アサの確認だけですが……。

 マティアスがそう考えていた時「マティアス副団長!!」と言う声が聞こえてくる。


 その声にハッとしたマティアスが、声のした方を向くと一人の団員が「バートン当主と取引されるはずのアサが見当たりません……!」と焦ったように言う。



 「何ですって?」

 「くそっ……逃げられたか」



 マティアスはヴィルスキン辺境伯に捕らえたものたちのことを頼むと、シャッテンヴェヒター騎士団を引き連れ、まだ近くにいるはずのバートン当主を探しに向かう。
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