8 / 90
07
しおりを挟む南波斗の家に住まわせてもらってから、もうすでに二ヶ月は経った。
その間、ルメアは何度も何度も天空との交信を試みたが、やはり『交信不能』の文字が出てくる。
ルメアの竜王としての能力も、弱まってきているのが分かる。
全く持って、最悪の自体だ。
「ルメアー。ちょっと、こっち来て」
頭を抱えて唸っていると、少し離れた場所にいた南波斗に呼ばれた。
「なんだ?」
この二ヶ月間で、ずいぶん南波斗とは仲良くなった。
ルメアは、南波斗にだけ心を開いているようだった。
時々、南波斗に連れられて街へ行くが、終始ルメアは口を開かない。
地上で唯一、心が休まるのは、多分南波斗と一緒にいる時だけだろう、と思っている。
「南波斗?」
「いいから、早く!」
南波斗に急かされて、ルメアは駆け足で近付く。
用事はなんだろう、と頭の中で考えていると、ルメアは何かにつまづいてしまった。
——は……?
予想していなかったことで、ルメアは行動ができない。
そのまま身体が前のめりになっていく。
——こういうの、どっかで起きなかったか?
自分でも驚くほど冷静だった。
「っ、ルメア!」
叫ぶような声がルメアの両耳を穿つ。
ドサッとした音がして、ルメアは目を瞑った。
——……痛く、ない?
ゆっくりと目を開けると、ルメアは南波斗の腕の中にいた。
「!?」
「っあー、焦ったぁ……」
ルメアの身体を強く抱きしめた状態で、南波斗は大きく息を吐いた。
状況を理解していないルメアは、頭上にクエスチョンマークが出続けていた。
「大丈夫か?」
優しく声をかけられて、ルメアの身体はビクッと跳ねる。
「っ……あ、あぁ。平気だ……」
「よかった。ルメアが無事でよかった」
南波斗のゴツゴツした大きな手が、ルメアの頭に載る。
——?
よく分からない顔で、南波斗を見るが、彼は笑っているだけで感情が読めない。
「よしよし」
「……」
——馬鹿にしているのか、コイツ……
南波斗の手は、ルメアのふわふわの頭を優しく撫で始めた。
——久しぶりに撫でられた
だが、なんだかむず痒い気持ちになってくる。
ルメアは身動ぎをして、南波斗の手から逃れようとする。
「逃げんなって」
グイッと腰を抱き寄せられて、また南波斗と密着する。
「いい加減に…………」
「もうちょっと」
全然ルメアの話を聞いてくれない。
「……俺をガキ扱いしないでくれるか?」
「そんなつもりねぇけど?」
——じゃあなんなんだ……
南波斗の感情が分からない。
ルメアはまたため息を吐いて、南波斗に身体を預けた。
きっと抵抗しても、逃げられない。
竜王としての力も弱ってきているし、きっと南波斗と真剣勝負をしたらルメアは負ける。
「ルメアは……細いなぁ……」
「……殺すぞ……」
「冗談だって」
まだ頭を撫で続けている南波斗が、ケラケラ笑いながら話を振る。
地上でのルメアの姿は、外見は人間と同じ。
天空でルメアの地上での姿を、『幼少期』と言う。
幼少期の身体は、『成長期』——大人の姿になる——の頃より愕然と弱い。
だから肉付きもなくなる。
「……掴みやすいな……」
ボソッと何かを呟いた南波斗だが、ルメアには聞き取れなかった。
「何か、言ったか?」
ルメアが声をかけると、南波斗は弾かれたように顔を上げた。
「なんでも……ない」
言葉を詰まらせる南波斗に、ルメアは違和感を覚えるが、そのまま通り過ぎた。
「……離せ」
「えー? もうちょっとだけ」
さっきからそう言って、全然離してくれないだろう。
そうやって言ってやりたいが、ギリギリの所で言葉を飲み込んだ。
「…………何が、望みだ?」
突然言い放った言葉は、南波斗の手を止める。
「ん?」
首を傾げて、南波斗はルメアの顔を見つめる。
「……俺に何を望んでいるんだ、お前は」
きっとルメアに何かして欲しいから、こうして恩を売っているのだろう。
そう考えたら、勝手にあの言葉がルメアの口から紡がれた。
「望み……かぁ」
南波斗はルメアの肩に顎を置いて、モゴモゴと喋る。
「なんでもいいぞ」
「……なんでも?」
ピクリ、とルメアの言葉に素早く反応する南波斗。
——なぜその言葉に、過敏に反応するんだ?
「あぁ」
ルメアは目を閉じて、南波斗の言葉を待つ。
どんな言葉が返ってくるだろう。
さすがのルメアも、予想が出来ない。
「じゃあ………………」
低い声で、南波斗はルメアの耳に顔を寄せる。
薄紫色の髪の毛が、ルメアの頬に当たって、くすぐったい。
「っ…………」
南波斗の大きな手が、ルメアの頬を撫でる。
またもビクッとルメアの身体は反応する。
「——抱かせて」
——は?
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる