竜王の俺が、クソ女神に地上に突き落とされました

栞遠

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南波斗が起きたのは、九時過ぎだった。

「……遅かったな、南波斗」

南波斗が起きるまで、ひまを持て余していたルメアは、ベッドには入らず壁にもたれかかって二度寝した。
「おはよう」
くあーっ、と大きな欠伸をした南波斗は、寝ぼけながら「おはよう」と返した。

「眠いか?」

「……ぅん……」
珍しく遅起きな南波斗を、ルメアは不思議そうに見つめる。
視線に気付いた南波斗が目を擦りながら、首を傾げた。

「なに……?」
「いいや、珍しいな、と思って」
「……あ、あぁ……なるほど……ね」
南波斗はもう一度、欠伸をして立ち上がった。
「ルメアこそ、何かあったのか?」
「なぜ?」

顔には一切出していないはずだ。


「夜。うなされてたから」



——……夜?
大方、昨日の夢だろう。
——それにしても、目ざといな……
すぐに南波斗は、ルメアの異変に気付く。
こうなると、南波斗に対して隠し事は出来ないだろう。

「不思議な夢を見たんだ」
「どんな夢? 聞かせてよ」
ずいっ、とルメアに一気に近付く。

「……また、父上に会ったんだ。夢の中で」


「……そっか。良かったね、ルメア」

多分、反応に困っている。
いやまぁ、『多分』じゃないな。


「……病んでないからな」



——ね、念の為な……

ジトーっと南波斗の目を見ると、彼はあからさまに目を泳がした。
「……大丈夫。もう引きづってない」
「…………ごめん、ルメア」
「話を戻すが……」

やはり少しだけでも『病んでいる』と思ったらしい。
「うん」
「そこで、俺は父上に忠告された」
「忠告?」
南波斗は必死にルメアの話を理解しようと頑張っている。

ルメアはハッキリと覚えている夢を、声に出していく。


「俺は、このまま地上にいれば、死んでしまうらしい」


ドクン、と南波斗の血液が逆流する。
「は?」
頭の理解が追いつかない。

「死ぬ。
やはり、天空と地上とでは空気や気圧が違いすぎる」

「な……ッ……」


「期限は一年」

 
言葉が出てこない南波斗を置いて、ルメアは話を進める。
「待って…………ッ」

「一年の内に、俺は戻らないといけない」
来年の今頃は地上ではなく、天空にいないとダメだ。

まだ死にたくはない。

こんな無様な姿で死ぬよりかは、戦って死んだ方がマシだ。
『竜王』としての仕事をやり遂げた後に死ぬのは別に構わない。


「まだ死にたくないからな」


「待って、ルメア!」

ガシッとルメアの腕を掴んだ南波斗。
「っ?」
痛いほど強く握られた腕を、ルメアは解こうとする。
「なに?」

「死ぬって……本当…………かよ」



俯いた南波斗の声は、微かに震えていて。
前髪で、顔が見えない。

——泣いているのか……?


「……南波斗」
ギリッ、とルメアの腕を掴む力が増す。
振りほどこうとしても、南波斗の馬鹿力で出来なかった。

「…………聞いてくれ、南波斗。まだ話には続きがある」

「…………。る、ルメアが死ぬなら、俺も死ぬ……ッ!」


——南波斗……
ルメアのことを好きでいてくれるのは、とても嬉しいのだが。


「聞け、南波斗」


少し強めに、彼の名前を呼ぶと、南波斗はビクッと肩を揺らした。
恐る恐る、と言った感じで、南波斗は顔を上げた。

「…………」

顔を上げてもなお、しっかりとルメアの瞳には映らない。
だから、掴まれている腕とは反対の手で、南波斗の前髪をかき分けた。


「……泣くことじゃないよ、南波斗」



やはり泣いていた。


号泣、とまではいかない、涙が勝手に出てくる感じだった。

優しく涙を拭うと、南波斗はピクリ、と反応して肩を竦めた。

「やっ……めろ、ルメア……」
「南波斗。まだ続きがあるんだ。聞いて?」


そう。
まだ話は続く。


「人間は、天空では生きられないのは知っているな?」

そう尋ねると、南波斗はコクン、と頷いた。
「でも俺の父上が、約束してくれた」
「やく、そく……?」

ルメアは一呼吸置いて、南波斗の心に届くように言う。



「南波斗と一緒に、天空に行けるようにするっていう、約束」




「……え…………?」

「多分、南波斗に特殊な能力を付けてくれるんだと思う。
完全になったら、また夢で話してくれる」


だんだん南波斗にも、ルメアの言っていることが分かってきたらしい。

表情が、明るくなっていく。


目を細めて、ルメアの手をぎゅっ、と握る南波斗。

そしてポツリと呟く。



「一緒に、行けたらいいなぁ…………」













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