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急いで山を駆け下りる。
時々、木の根に足を取られて、転びそうになるがギリギリで耐え抜く。

はぁ、はぁ、と息がすぐに上がる。


『ルメアが待っている』。


ただこれだけのことだが、南波斗を突き動かすには、十分だった。


「ゔ……ッ!?」


足元を見なかった瞬間、何かに足首を掴まれて、体制が崩れる。

そのまま山道をゴロゴロ転がっていく。


身体を縮めて、その衝撃を和らげようとする。

「っ……! うぅ……っ!」


口を開けば、舌を噛む。
だから、傾斜がある程度緩やかになるまで、南波斗は転がっていく。

かなり転がって、一旦平坦な場所に、南波斗は到着した。

そして流れるような動きで立ち上がって、また走り出した。

転がった影響で、なぜか体力は回復した。
足首を掴んだのは誰なのか、何なのか、を考える余裕は、今の南波斗にはない。


✩.*˚✩.*˚✩.*˚


走り続けて、ようやく別れた場所に戻ってきた。

はぁはぁっ、と息が上がりまくっているため、南波斗は距離を取った。
「っ……」

深呼吸を繰り返した南波斗は、胸を撫でる。

よしっ、と小さく呟いて歩いて近づいた。


「ルメア……?」

いないかも知れないし、いるかも知れない。


どっちなのか分からないから、一応声を小さめに問いかける。

「いるのか?」

けれど、返事が帰ってこない。
南波斗は、まだルメアは来ていないと思って、彼を待つことを決めた。

そして近くに立っている、大きな木の幹に座ろうと歩み寄る。



「——ッ!!!?」



そして、発見する。

ドキッと南波斗の心臓が大きく飛び跳ねる。


木の幹に寄りかかるようにして眠っている、ルメアの姿を見つけた。

スースーと寝息を微かに立てて眠っているルメアは、南波斗から見て刺激が強かった。


森の中を駆け回ったのか知らないが、若干上着がズレている。
いつも鎖骨が見えているが、今は一段と見えている気がする。

ゴクッと南波斗は生唾を飲み込んだ。



——あー……キス、したい…………



そんな欲求が南波斗を満たし始める。
一度考えてしまうと、その欲求を抑えることが難しくなってくる。
——気付かれないかな……?

まぁ気付かれてもいいけど。

いつもしているし、と前向きな捉え方に自分で持っていく。

「…………」

無防備に寝ているルメアに、ゆっくりと近付く。



ちゅっ、と触れるだけのキスをルメアの唇に落とす。

どうやら、気付かれていないようだった。


少しだけムカッとした南波斗だが、ルメアの頭を一撫でして、身体を離した。


「……好きだよ、ルメア」



何度言っても言いきれない、言葉。
好きすぎて、何があっても傍にいて欲しいし、離したくない。


いつも好き。

けれど、ルメアはああ見えて、かなりの恥ずかしがり屋だから、毎日『好き』って言うと、殴られてしまう。


でも不意打ちで伝えると、ルメアは毎回かわいい反応をしてくれる。



——だから毎日、ルメアを好きになる。


ぐっ、と南波斗は唇を軽く噛んで、ルメアの横に腰を下ろした。

木の幹に頭を預けているルメアを引き寄せる。


グラッと、身体に力が入っていないルメアの肩を抱く。

こてん、と南波斗の肩に頭を預けるルメアのデコに、もう一度キスをした。



南波斗はそのまま目を閉じて、ルメアが起きるまで待つことにした。



——いつも、ありがとう……


ルメアの寝顔を見つめながら、南波斗は微笑んだ。



「…………好き……」




















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