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しおりを挟む「…………ん……?」
うっすらと、太陽の日差しが強くなった気がして、ルメアは目を開ける。
「…………」
パチパチ、と瞬きを何回か繰り返す。
そして、まだ覚醒しきっていない頭を回転させる。
——なぜ、俺はここにいるんだっけ……
かなり爆睡してしまったから、どうして自分がここ——森の中にいるのか分からない。
少し身を乗り出した時、ルメアは自分の肩に違和感を覚えた。
——なんだ? 重い……?
左の肩が信じられないほど、重く感じる。
別に、肩が凝っているわけでもないのに。
上手く首を捻ると、そこには。
寝息を立ててルメアの肩に、頭を預ける南波斗がいた。
驚いて、ルメアは息を止める。
「っ…………」
なぜここに南波斗がいるのか、という疑問より、気になる点があった。
——いつ、から……?
ルメア自身、覚えていない。
必死に記憶を探るが、全然思い出せない。
色々考えたが、全く検討が付かなかったので諦めることにした。
このまま南波斗を寝かしてもいい気がするが、日が落ちてしまったらこの森も危ない。
ルメアは南波斗の肩を掴んで、前後に揺さぶる。
ぐわん、ぐわんと南波斗の首が抵抗なしで動くから面白くなる。
クスッと笑ったルメアは、南波斗の耳元に顔を近付けて「南波斗」と名前を呼んだ。
「……ッ!?」
ビクゥッ、と大袈裟に反応を見せた南波斗。
目を見開いて、ルメアが囁いた耳を手で抑えている。
その顔は、見たことないくらい真っ赤に染まっていた。
「おはよう、南波斗」
にこっと笑ってみせると、南波斗は金魚のように口をパクパクさせた。
「っ、おは、……おは、よう……」
——カタコト……
ぶふっ、と息を吹き出す。
南波斗の寝起きの反応が想像の斜め上を行くから、ルメアのツボを刺激しまくる。
「ふっ……くふふ……っ!!」
「……? ?」
なぜルメアが笑っているのか全く分かっていない南波斗は、眉を寄せて、首を傾げた。
「ごめっ……くっふふふ…………」
目に涙が溜まるほど、笑いのツボを刺激されたルメア。
——こんなに笑ったのは、久しぶりだ……っ!
「ルメア……?」
呼びかけられて、ルメアはハッとする。
「すまない、南波斗」
「いつから起きてたの?」
「……ついさっきだよ」
「…………起こしてくれれば良かったのに……」
ぷくっ、と頬を膨らませる南波斗。
その行動がかわいくて、ルメアの胸がキュンっと鳴る。
「起こしただろう?」
「……まぁ、そうだけど……」
ガリガリ、と頭を掻く。
何が気に入らないのだろう。
「……ルメアが寝てたから、隣に座って起きるの待ってたんだ」
ポツリ、と南波斗が急に語り出す。
南波斗は片足を上げて、そこに顎を乗せた。
「そしたら、なんか……俺も寝ちゃって……」
恥ずかしいのか、南波斗の声はだんだん小さくなる。
「……俺が起きてなきゃいけないのに」
バツが悪そうに南波斗は、ルメアと目を合わせようとしない。
情けない、とでも思っているのだろうか。
「昼寝は大事だから」
そう言うと、南波斗は、ジトーっとルメアを見つめる。
視線に気付いたルメアは、南波斗を見つめ返して、ニコッと笑った。
「俺は嬉しかったよ」
その言葉に弾かれたように、バッと顔を上げる南波斗。
「え?」
「俺を無理やり起こさずに、自然に起きるまで待っててくれたのだろう?」
南波斗は一体、いつ頃からルメアの傍にいたんだろう。
その時間はルメアには分からない。
けれど、なぜか『嬉しい』のだ。
「傍にいてくれて、ありがとう」
礼を言うと、どうしてか、南波斗が一滴涙を流した。
ルメアは、ぎょっ、として「な、南波斗?!」と彼の名前を呼ぶ。
「あ、いや……。なんでだろ、なんか…………幸せで……」
ぐいっと涙を拭った南波斗は、ルメアを抱きしめる。
「……俺も、幸せだよ、南波斗」
南波斗の肩に頭を預けたルメアは、彼の背中に腕を回してぎゅっ、と抱きしめる。
「——……あー、やばい……」
何かを我慢するような声が聞こえる。
「……好きすぎて、おかしくなりそ……」
ルメアは、なぜかその言葉に、恐怖心を覚えた。
背筋に、何かが走ったような感覚がする。
——その理由は、分からない。
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