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お互い、精神的にも、肉体的にも落ち着いた午前十一時頃。

南波斗の家に、客人がやって来た。

ドンドン、とドアをノックされ南波斗が返事をする。

「はーい!」

「……誰だ?」
ルメアが不信そうにドアの方を見つめる。
苦笑いを零しながら、南波斗は歩く。

「はいはーい……。今出ますよー」

あまりにもドアを叩くから、小走りで玄関まで行く。

ガチャッとドアを開けると、ゴチッと鈍い音が聞こえた。


「痛っぁー…………ッ!」


デコを両手で抑えて、うずくまる少年。

——いくつだ?

歳が分からない。
少年のように見えるし、青年のようにも見える。
きっと十代だろう。

二十代には全く見えない。


「南波斗? 誰だっ……」


話し声すら聞こえないのがおかしいと思ったルメアが、リビングからひょこっと顔を覗かせる。



「——ルメア!!!」




ルメアの声に大きな反応を見せる男は、勢いよく立ち上がって、家の中に入った。

「は?」

ガタン、と椅子を引いて立ち上がるルメア。
彼にも状況が分かっていないし、南波斗の方がより分からない。


「会いたかった……ルメア!」


すごいスピードで走ってきた男が、ルメアに抱きつく。
「ぐえっ……」と情けない声を出しながらも、何とか男の突進に耐えた。


「なっ……! 誰だよ、お前!」


見覚えのない男だ。
——誰だ、こいつ?


「私が分からないのか?」


——男のくせして、一人称が『私』……

とルメアはそこまで考えて、ふと動きが止まる。

——父上も一人称……『私』だ……


そう言えばそうだった。
自分の父親も、自分の事は『私』だった。


「……む、残念だな……。あの姿じゃ、ここには来られないから、仮の姿を用意したのだが」


男はルメアから少し離れて、顎に手を置いて考え出す。

「……気配で分からな——」


「分からん」


秒速で返事を返すルメア。

ここまで速く返答されるとは思っていなかった男は、ピタッと動きが止まった。


「……む……。そうか、分からないか……じゃあ、特別だ」

南波斗の存在を完全に忘れている男は、ルメアに指を差す。


「本当の姿になってあげる」


——ご自由にどうぞ……


どうでもいい。

至極、ルメアには興味がない。
男がどんな姿だろうと、別にいい。

バケモノだろうと、なんだろうと。



「目、かっぽじって見てなさい!」



声高々に言い張る男の口調は、まるで自信に溢れている女のようだった。












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