58 / 90
57(夢の中)
しおりを挟むまた、身体が動かない。
けれど、この感覚には覚えがある。
こういう時、必ずルメアの父上が出てくるのだ。
『正解だ、ルメア』
ほら、声がした。
『よく分かったな』
そりゃあ、父上の息子だから、分かるに決まっている。
上を見ると、案の定父上が腕を組んで立っていた。
『さすが、我が息子だ』
父上が俺の頭に手を置く。
嬉しくなって、ついつい俺の頬が緩む。
『もう分かっていると思うが……』
と、父上が真剣な顔になって俺を見つめた。
父上が何を言いたいのか、俺はしっかりと分かる。
多分、完成したのか、または失敗してしまったのか。
どちらかだろう。
父上は一呼吸置いて、話し出す。
『結論的に言うと、彼に術を施すのは出来た』
そうか、出来たのか!
あぁ、とても嬉しい。こんなにも嬉しい。
『だが、一つだけ問題が起きた』
ん? 問題?
けれど今は、その問題が小さいものに見える。
……いや、聞こえる、が正解か?
『彼は天空で生きられるようにはなった』
それはいい事ではないか。
『けれどそれは、禁忌なのだ』
…………禁忌?
確かに、世界には約五つの『禁忌の術』が存在している。
一つは、『不老不死』と呼ばれる、それ相応の対価を支払って、永遠の命を授かる禁忌。
二つ目は、『合成生物』を作り出すこと。
三つ目は、『人体実験』。
生身の人間を使って、「悪魔」を召喚させる、という禁忌。
四つ目は、『限界突破』。
自分の身体の限界を、禁忌を使って突破させるという技。
最終的にその禁忌の力に負けて、身体が崩壊する。
そして最後。
五つ目は、あまり知られていない、不思議に包まれた禁忌の術。
『生命維持』。
そう呼ばれている、一番危険で恐ろしい技。
術者の身体を徐々に蝕んでいき、細胞の全てを死滅させる。
誰もこの禁忌を侵したことはない。
まさか——っ。
『そのまさか、だよ』
父上は困ったような顔をして、俺を見つめる。
なんで?
どうしてそこまで……してくれるの……?
『なんでって……。——私の可愛いルメアの、彼氏だからだよ』
父上は、俺を抱きしめようと両腕を伸ばす。
けれど俺には、抱きしめられている、という感覚がない。
夢だからかな?
『私はもう死んでいるから、大丈夫』
それでも俺は嫌です。
父上が禁忌を侵してまで、俺は天空には戻りたくない。
『彼氏と一緒に行くためには、こうするしかなかったんだよ?』
俺をなだめるように、父上は話す。
……もちろん、俺は嬉しい。
南波斗と離れるのも絶対嫌だし、かと言って天空に戻れないのも嫌だ。
けれど……俺たちのために、父上が傷付くのは、もっと嫌だ。
『ルメアは優しいな。……だが、もう私のことは心配するな』
厳しい言葉に、俺はビクリ、とする。
夢の中なのに……怖いと感じるのは、おかしいだろうか?
『前だけを向け。自分の道を進め』
——あぁ、昔……父上に聞いた言葉だ。
『このことは、お前が心配することじゃない』
ポンッと、また俺の頭に手を置いた父上は、乱暴に頭を撫でる。
『もう、天空に戻るといい』
もうすぐに戻れるのか?
『あぁ。お前の力は、完全に戻っているから、簡単に帰れるよ』
そう……か。
だったら、早く準備しないとダメだな。
『今度こそ、お別れだルメア。ありがとう』
すると突然、父上が感謝を俺に伝えた。
え? 何を言っているんだ、父上は……。
『お前の夢の中に来れるのは、今日が最後だ』
もう、こうやって会えないってことか?
『そうなるね』
そんな……ッ!
どうして? なんで?
『またな、ルメア』
会えない理由を言わず、父上は勝手に消えていく。
そんな、待って……。
まだ行かないでください、父上!
俺は、まだ話したいことがたくさんあるんだ!
『ありがとう。楽しかったよ、ルメア』
手を伸ばしたいけど、忌々しいことに身体は動かない。
消えてしまう、本当に会えなくなる。
嫌だ、嫌だ!
まだ行かないで!
嫌だ、父上!!!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる