はあっ? いちいち僕を巻き込むんじゃねぇっ!

栞遠

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優しすぎるのは、損ばかり

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 大きな街にたくさんの人がごった返している。その誰もが、腰や、ベルトに恐ろしい武器を持っている。
 ——銃。

 どこかで殴り合いが発生すれば、必ずその銃が使用される。
 喧嘩だろうと、まず銃に手を伸ばしてしまうのが、いけないのだ。
 だから、死者が絶えない。

 それなのにも関わらず、政府は一般人の武器所持を禁止しない。

 そのことにも、秘密がある。

 ——小さな子供を虐待する大人が、この街は一番多いのだ。
 街の政府は、そのことを考慮して、一般人に武器の所持を許可した。
 子供にも武器を持たせた。

 そしてこの街の秘密を知った他国は、真似をし出し、あっという間に、全世界の人間が銃を持つようになった。

 そして、西暦四百二年。

 「はぁ? 僕はいらないよ」

 一人だけ、武器を持つことを拒んだ少年がいた。

 彼の名は〈紅柳こうやなぎ暁人あきと〉。

 今年で十七歳になった。
 彼の誕生日の日に、両親から護身用の銃を渡された。
 でも、彼は——

 「僕には必要ないよ。僕、そんなに可愛くないし」

 ——断った。

 「でも……」
 両親は自分の息子が襲われないかと心配して銃を渡したのだが、彼はしっかりと拒否した。
 その理由に、暁人の兄は、爆笑した。
 「はははっ! あ、暁人……っお前……っ!」
 クツクツと、喉を鳴らして笑う兄の腹を殴る暁人。
 「うるさいなぁ……っ」
 真っ赤になった顔を片腕で隠す。
 「暁人ぉ。持ってても損はないぜ? お前、結構かわいいから」
 頭をくしゃくしゃにされて、暁人は兄の手を払い除ける。
 「やめてよ、髪ボサボサに……」
 「暁人。持っていなさい」
 父からもう一度持つように言われたが、暁人は首を縦には振らなかった。
 「どうして? 私たちはあなたのことが心配で」
 「自分の身くらい、自分で守れるよ」
 暁人は説得力のある言い方で、父親を諭した。口ごもったことをチャンスに、暁人は家を飛び出す。
 「とにかく。僕にはそんなのいらないからね!」
 もう一回強く両親に言って、暁人はスキップしながら家を出た。



 「なんでみんな、あんな物持てるんだろう」
 一人になった暁人は、顎に手を置いて考えた。この街が物騒なことはもちろん、知っている。
 たくさんの少年少女が誘拐されたり、虐待、性的虐待を受けたりしている。

 それらから自分を守るために、ああいう武器を持たせていることは、暁人にも分かってはいるのだ。
 でも暁人は、何があっても持ちたくはなかった。

 「引き金を引いたら、人殺しになっちゃうからなぁ……」
 自分がそんな目にあった時、恐怖に駆られて引き金を引いてしまったら。


 ——人殺しに、なる。


 自分の手を汚すのは、嫌だった。

 「はぁ……」

 ため息をついて、上着のポケットに両手を突っ込んだその時。

 「おはよぉ、暁人くん!」

 後ろから声を掛けられて、ぎゅうっと抱きしめられる。
 「ぐっ……おはよ、〈一ノ瀬いちのせ〉」
 一ノ瀬は、暁人の幼馴染みで一個年上。
 茶髪で、少しつり目の彼はよく女子からモテる。でも、暁人の記憶上、女子と『付き合った』という噂とかは聞いたことがない。
 ——まぁ、僕には関係ないけど……。

 学校でも、休日でも暁人を見つけたら駆け寄って抱きついてくる。
 もう一ノ瀬は十八歳なのに、全然暁人から離れない。

 「何してたの?」
 「親から逃げてきた?」
 「また受け取らなかったの? 俺は持ってるのに」
 「一ノ瀬はすごいね……」
 暁人の幼馴染みは、いつの間にこんなに、たくましくなったのだろう。
 「まぁ、いいじゃんか」
 ぐりぐりと頭を撫でられる。今日で——頭を乱暴に撫でられるのは——2回目だった。

 「そこが、かわいいんだから」
 「僕はかわいくないって」
 「かーわいい」
 もう一ノ瀬の周りにはハートが飛び交ってるんじゃないかっていうくらい、語尾が気になる。
 暁人が歩き出すと、自然と一ノ瀬もついてくる。
 「どこ行くの? 暁人くん」
 「自販機だよ」
 一ノ瀬は物心ついた時から、ずっと暁人のことを『くん』付けで呼んでいる。

 どうしてか聞くと、「自分を抑えるため」っていう、意味不明な返事だった。

 「ついてこないで」
 「えー、いいじゃんかぁ」
 一ノ瀬が頬を膨らませながら、暁人の背中を強めに叩く。
 「痛い……から、やめて」
 「あ、ごめん」
 暁人が苦痛に顔を歪めながら、一ノ瀬を振り返る。
 そうしたら、すぐに一ノ瀬の大きな手は離れた。

 「許して?」

 軽い上目遣いを使ってくるけど、暁人より一ノ瀬の方が身長高いから、意味がない。
 「…………ジュース奢ってくれたら、許してあげるよ」
 「ホント? やった」
 ——そんなに、嬉しいことかな?

 暁人は手に何も持っていなかった。財布も、何もない。
 だから、一ノ瀬に奢ってもらおうかと考えた。
 ——あとでお金はちゃんと払おう……

 「何がいい?」

 自販機の前に行くと、一ノ瀬はズボンのポケットから長財布を取り出す。
 「ジュースがいいんだっけ?」
 「……ん」
 コク、と暁人が頷くと、一ノ瀬はくしゃっと笑った。
 「なんでもいいよ」
 「…………じゃあ、これがいい」
 暁人が指さしたのは、果汁百%のオレンジジュースだった。
 「いいよ」
 一ノ瀬はすぐにお金を入れて、オレンジジュースを買う。
 「はい」
 手渡されたジュースは、ヒンヤリと冷たくて、気持ちよかった。
 「ありがとう」
 「どーいたしまして」
 にこっと、屈託のない笑顔を暁人に向ける一ノ瀬。
 「あのさ、暁人くん。また、お願いしていい?」
 プシュッとオレンジジュースの缶のふたを開けて、口に付ける。
 「いいよ」
 断る義理もないから、素直に頷く。
 「ありがとう」
 「今日はどうすればいいの?」
 「うーんとね…………」
 一ノ瀬は暁人の両肩に手を置いて、懇願するように頼み込んだ。

 「お願いだ! ————」


 💫💫💫


 「よ……いしょ」
 暁人は脚立にまたがって、両腕を天井に伸ばしていた。
 「ごめんねー。俺届くけど、怖くてさ」
 「全然いいよ。一ノ瀬、高所恐怖症だもんね」
 今、暁人は一ノ瀬の家の電球を取り替えている。吉華那よしばな家で一番身長が高いのは、一ノ瀬だが、彼は高所恐怖症だから高い所には登れない。
 「何かお礼させて、暁人くん」
 「いや、もう十分だよ?」
 「足りない。俺が足りないの」
 「えぇ……」
 これは困った。ここまで言われると、暁人は断れない。
 多分その性格を悪利用して、一ノ瀬は言っている。
 「…………ん」
 「わーい。んじゃあ……」
 暁人が頷いたのを確認した一ノ瀬は、ただでさえ小さい脚立に登ってきた。
 「え、ちょっ……落ち…………っ」
 ガタガタと脚立が悲鳴を上げる。
 でも一ノ瀬は止まらない。脚立が壊れようとも、お構いなしだった。
 「一ノ瀬……っ!?」
 暁人は身体をのけ反って一ノ瀬から、距離を取ろうとする。
 でも脚立の上、ということで逃げ場はない。
 後ろに行けば、地面に落ちてしまう。
 「ちょっ……と」
 無言が怖い。
 どうして何も言わないんだろうか。
 ぎゅっ、と目をつむる。
 「一ノ瀬…………っ!」

 「——ねぇ、暁人くん」

 声が聞こえて、暁人は瞑っていた目をうっすらと開ける。
 「……っ?」

 鼻と鼻が触れてしまいそうなくらい、一ノ瀬と暁人の距離が近い。
 「な、なに…………」

 「俺ね…………ずっと」
 一ノ瀬が話すごとに、吐息が耳にかかって身体が震える。
 「っ、一ノ瀬……」

 何故だろう。

 彼の言葉の先を聞いちゃいけない気がする。

 「ずっと、暁人くんのこと…………——」

 「や、だ」

 ——聞きたくない、聞きたくない……っ


 「いやだ……っ!」




 「——お人好しだな、って思ってた」





 「……………………………………は?」


 なんだろう。すごく拍子抜けだ。

 「あ、あぁ……そんなこと…………」
 「えー? そんなことなの?」
 暁人は、自分でも呆れてしまうほどお人好しだ。
 他人の頼み事は、断れないし、『お願い』っていう言葉に、めちゃくちゃ弱い。
 両親や兄はそんなことない。
 誰から譲り受けたのかわからない、この『お人好し』は、暁人を悩ませる。
 断れるようにならないと、自分が大変になるってわかっているのに。
 「自分でも分かってるから」
 「へぇ、そうなんだ」
 一ノ瀬は関心するように暁人を見つめる。
 「ってか、一ノ瀬、怖くないの?」
 忘れていたが、一ノ瀬、脚立に登っている。
 一ノ瀬自身も気付いたのか、「あぁ」と声を漏らす。

 「なんか、暁人くんがいたら登れた」

 ——なに、それ?

 ガクリ、と肩から力が全部抜ける。
 「なんでもいいから、一ノ瀬、降りて」
 「え、ごめん。無理」

 ——分かってたよ! そう言われるって分かってたよっ!!

 暁人が先に降りて、下から一ノ瀬を呼ぶ。でも怖い怖いって言って、全く降りてこない。
 一ノ瀬の方が年上なのに。

 「はーやーく」
 「無理、怖いって! 暁人くん、助けて」
 一ノ瀬がいる脚立は、地面から三メートルほどしか離れてないのに怖がるって……。
 彼の高所恐怖症は侮れない。

 「一ノ瀬、じゃあ飛び降りる?」
 「へ?」
 そう提案すると、彼は呆けた声を出した。
 「僕が受け止めるから。ね?」
 「いや、でもぉ……」
 ——少し涙目になってないか?
 「降りてこないなら、僕帰るね」
 「ええっ!? 待って、置いていかないで、暁人くん!」
 脚立の上から暁人を呼び止める一ノ瀬。
 はぁ、とため息をついた暁人はくるっときびすを返した。
 「降りるから、待って」
 「うん」

 ようやく決意したのか、一ノ瀬はプルプル震えながら脚立を降りていく。
 「頑張れ」
 たった五段くらいの脚立をものすごい慎重に降りていく。
 これだけで五分はかかった。

 「おつかれ——」

 「うわあぁぁぁあぁあんっ!」

 一ノ瀬は脚立から降りてすぐ、暁人に抱きついて、号泣した。
 「え?」
 「暁人くん、暁人くん……っ!」

 暁人は困ったように眉を下げて、一ノ瀬の頭を撫でる。
 「よく頑張ったね」
 ——どういう状況なの、これ

 脚立から降りただけで、この状況。

 「暁人くん……っ」

 「はいはい」

 泣き続ける一ノ瀬が落ち着いたのは、昼の十二時を少し過ぎた後だった。
 
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