はあっ? いちいち僕を巻き込むんじゃねぇっ!

栞遠

文字の大きさ
11 / 39

目が覚めたら……

しおりを挟む
 太陽の光がカーテン越しに暁人に当たる。
 「ん…………」
 身動ぎをして暁人は身体を起こす。
 「あ、れ……?」
 ベッドには暁人一人しかいなかった。
 「ルイ………………?」
 昨日一緒にいたルイがいない。どこに行ったんだろう。
 ここはルイの家だから、勝手に動くことも出来ない。
 「どこ……?」
 ベッドルームにはいない。どこにもいなかった。
 「ルイ、ねぇ……」
 呼んでもルイから返事は返ってこない。

 ——呆れられた……?

 いや、まさか。あれだけ暁人に「好き」と言って、急にいなくなるなんて。
 しかも、ルイの家の中で見捨てるなんて。
 「ふっ……グス……っ」
 捨てられた。置いていかれた。

 そう悪い方向に考えると、なぜだか、涙が止まらない。
 拭っても拭っても、涙は止まらない。

 「る、ルイ……ぃ…………」

 あぁ。どうしよう。
 ——見捨てられたら、僕は……。


 「暁人ー。ご飯出来たよー」


 ——え……?

 遠くの方から、ルイの声が聞こえる。
 「る、い……?」

 「暁人? 起きてこれる?」

 ——ルイが、いる……っ!
 それだけで涙が引っ込む。
 「うん……っ!」
 暁人は弾むような声でルイに返事をする。
 「今から行く……!」

 「早くおいで。今日は和食だよ」

 ——すごい……僕の好きな料理だ……
 ベッドルームから出て、匂いのするほうへ向かう。

 広すぎるリビングには、エプロンを身につけたルイがいた。
 「おはよう、暁人」
 ルイの右手には美味しそうな朝食を持っていて、それをテーブルに置く。
 もうすでに料理は完成していて、暁人の腹はぐぅぅぅ~っと鳴る。
 「ふふっ。お腹空いてるんだ?」
 「あ……」
 「まぁ、昨日あんなに頑張ったからね」
 クスクスと笑うルイに暁人は、一発拳を入れる。
 でもひょいっとかわされて、逆に腕を出した手を掴まれてしまう。
 「っ……! んぅ……!?」
 ルイは暁人の腕を引っ張って自分の方に引き寄せる。
 そのままルイは、暁人の唇にキスをした。

 「ふ…………はぁ……」

 ルイがしたキスは、唇が触れ合うだけですぐに離れていった。

 「おはようのキスだな」

 恥ずかしいことをサラッと言うルイに、暁人の顔は赤くなる。
 「なっ……何言って…………!」
 「さ。朝飯、食べようぜ」
 上手いことはぐらかされて、暁人はぶすっと、頬を膨らませる。
 「リスみたいだぞ……暁人…………」
 頬を膨らませ、ルイを見る暁人の姿は、本当にリスみたいなんだろう。
 「……………………別に…………?」
 「ほ、ほら。暁人の好きそうなのを想像して作ったから!」
 ルイが手の動作を加えて、暁人に説明する。
 暁人は料理に引かれて、ストンとルイの前の席に座った。
 「……………………」
 「食べて、暁人」
 「………………………………いただきます」
 かなりの間の後に暁人は手を合わせて、ご飯に手をつける。
 しゃけを頬張った暁人の目が、キラキラと光る。
 「…………美味しい?」
 ルイが頬杖ほおづえを突いて暁人に感想を聞く。
 「美味しい……っ」
 「よかった……」
 ルイは心底うれしそうに、自分の作った料理を食べる暁人を眺めていた。
 「俺も、いただきます」
 しばらく暁人を見つめて、満足したルイは、自分も朝食を取り始めた。


 「はー……っ。美味しかった!」
 「また作ってやるよ」
 「本当に? ありがとう!」
 ——和食、美味しかったなぁ……
 家で作ってくれる和食より美味しかった気がする。
 暁人は後片付けをしているルイの後ろ姿を見つめて、ポツリと声を漏らす。


 「——好き……って、こういうこと……かな」


 ——まだ、全然分かんないけど……
 ルイの姿を見ると、心臓が痛くなるし胸が締め付けられる感じがする。

 見つめられたりすると、どうしても目を合わせられなくなる。

 キスされると、もっとして欲しくなる。
 

 これが、そうなのだろうか。


 「ねぇ、ルイ……教えて……………………」


 暁人がルイに手を伸ばした時——


 ——ピリリリ……………………


 「っ!?」
 「なんの音?」
 ルイが水を止めて、暁人に駆け寄る。
 「分かんない…………」
 「でも、暁人の携帯じゃない? 着信音、俺と違うから」
 たしかに、音が鳴っているのは、暁人の携帯だった。二人がいる場所から、ほんの少し離れた机に置いてある暁人の携帯が鳴っていた。
 「え、僕……の?」
 「取ってくるよ」
 ソファで横になっている暁人をそのままにして、ルイが率先して動く。
 すぐに戻ってきたルイから携帯を受け取って、暁人は急いで電話に出る。
 「も、もしもし!」

 『暁人!? 今どこにいるんだ!!?』

 キーンッと頭に強烈な音が響く。
 声の主は、兄の玲於奈れおなだった。
 「あ、ごめ……」
 『電話一つも寄越さないで! 何してた!?』
 怒涛の質問と説教攻めに圧倒されて、暁人は声が出なくなる。
 「あ、の…………」
 『言い訳は聞かないから! いいから早く帰っておいで!』
 暁人の言葉を聞かず、次々と言葉を放つ玲於奈。
 少しぐらい話を聞いてくれてもいいのに、と思って暁人は覚悟をして声を出す。
 「聞いて、お願い……」
 『迎えに行くから、場所教えて! 暁人、聞いてるのか!?』
 「ねぇ、聞いてよ……っ玲於奈兄さん……っ」
 やはり聞いてくれない。鼻の奥がツンとして、暁人の瞳にうっすら涙が浮かぶ。

 「兄さ……っ」

 『暁人! 場所は? どこにいるの!?』

 玲於奈の強い口調に、暁人の恐怖が倍増する。
 いつもと違う玲於奈の声に、暁人は一言発するだけで、声が震えてしまう。
 「玲於奈……兄さ……っ、あ……」

 『暁人!?』


 「アンタ、なに暁人、泣かせてんの?」


 ドスの効いたルイの声に、玲於奈も一回黙った。
 『は、はぁ? 君は誰なんだ?』
 ハッとした玲於奈は、声を荒らげてルイに怒鳴りつける。

 「俺? ククッ……多分、アンタがかわいい弟に『近づくな』って言ってる男だよ」

 そんな簡単に素性さらしていいのか、と暁人は思ったが、ルイが涼しそうな顔をしているので気にしないことにした。
 『は?』
 弟にあれほど強く言ったのに、なぜ、と思っているのか、玲於奈は呆けた声を出す。
 『す、スピーカーにしろ!』
 「はいはい」
 ルイが通話機能をスピーカーに切り替える。
 『暁人!? なんで!?』
 「あ、う……ごめんなさい……言いつけ……破って…………」
 『どうして一緒にいるんだ!』
 「怪我、してて……」
 『放っておけばいいだろう!?』
 いくら言っても、玲於奈は暁人の言葉を聞いてくれない。
 だから、暁人もだんだんイライラしてきた。
 「僕の性格上、それが出来なかったんだよ!」

 『見捨てればいいだろ!?』
 「だから言ってんじゃん! 僕がそんなこと出来ないの知ってるだろっ!?」
 電話越しに喧嘩をし出す暁人と玲於奈。お互いヒートアップしてきたのか、声が大きくなる。

 『暁人は俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだよ!』

 「僕は玲於奈の人形じゃないッ!!」

 『兄さん、を付けろ!!』

 「今言うことじゃなくない!? ねぇ、違くない!?」

 『バカか! こう言う時こそ付けなくてどうする!!』

 「玲於奈の感覚が分かんねぇ! あー、もうっ!!」

 暁人と玲於奈の言い争いが続く中、ルイは考えていた。
 ——この兄弟ケンカが収まるには……
 まず、玲於奈、とか言う兄貴を静かにさせないと話にならない。
 過保護すぎて、ルイは少し笑ってしまう。
 ——まぁ俺も、人のこと言えねぇけど
 ルイは腰に手を置いてうーん、とうなる。

 ——おっ。いいこと思いついた……

 ピーンと閃いた様子のルイは、ドSモードの顔をしていた。
 その顔を、暁人は見ていない。
 ヒートアップしすぎて、周りが見えていないようだった。

 「暁人」


 「——!? なに!?」

 ルイに名前を呼ばれた暁人は、ものすごい形相で振り返る。
 「——…………っあ」
 一気に声が小さくなる。

 ルイは暁人を後ろから強く抱きしめて、暁人の耳にふぅーっと息を吹きかけた。
 『暁人!? 聞いてるのかっ!』

 「ゃあ……やめて……っ」
 ぐっとルイの腕を掴むが、ビクともしない。
 力の差を見せつけられる。
 「ルイ、なに……っ」
 「暁人。今みたいに言い返さないと、お兄チャンに怪しまれるよ?」
 暁人の耳に顔を近づけて、ルイは声をかける。
 「ひぅ…………っ!」

 『暁人! おいっ!』
 「ほら、暁人?」
 「無理……声、でちゃ…………っ」
 『どうかしたのか、暁人!』
 電話から玲於奈の声が聞こえる。暁人は顔を真っ赤にさせながら声を出した。

 「なんでも、ないっ!」



 「ひっ……ふぅ……っ!」
 「暁人……? 身体、ビクビクしてる」
 『いい加減にしなさい、暁人っ!』
 ——怒られ、てる……っ
 「っ、玲於奈兄さん……迎え、来なくていいから……ぁぅ……っ」

 「いい子だね」

 ルイがまた暁人の耳に顔を寄せて、耳朶みみたぶを甘噛みする。
 噛んだところを舐められて、暁人の背中にゾクゾクした物が流れる。
 「僕、一人で……帰れる、から……っ、ンぅ……」

 耳のふちを舐められて、また甘噛みされる。
 その度に、暁人の身体は震え上がる。
 「も……電話、切って……っ」
 『電話切って? まだダメに決まってるだろう?』

 「限、界…………っ、ひゃん……っ!!」

 ビクッと一番大きな衝撃が暁人を襲う。その衝撃で声が抑えられない。
 明らかに玲於奈にも聞こえただろう。
 『あ、暁人……? なに、今の声……』
 「なんでもな……んぁ…………」
 暁人は必死に声を抑えようとする。でもその声は、微かに漏れる。

 「玲於奈兄さん、ごめ……家帰ったら……聞くから…………ひぅっ!」

 『暁人? 体調でも悪いのか?』

 「ごめ……もぅ、切る……っ!」

 暁人は限界になって、自分から電話を切った。

 『は? ちょっ、あき……』

 玲於奈の言葉を最後まで聞かず、暁人は通話終了ボタンを押した。
 「ひぅ……は、あ……ルイ、やめて……ってば……」
 「暁人、耳弱いんだ?」
 ルイは暁人の左耳ばかりを愛撫あいぶする。
 「くすぐった……い、から……っ!」
 「震えちゃって……。本当にかわいいな」
 また息を吹きかけられて、暁人はルイの腕を掴んで——


 「やめろって言ってんだろッ!」


 ——叫んだ。


 
 
 
 
 
 








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※恋愛大賞の投票ありがとうございました(o´∀`o)参加したみなさんお疲れ様です! 毎週火曜・金曜日に投稿予定 作者ブル

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...