宙(そら)に舞う。 〜レイとリュウ〜

星野そら

文字の大きさ
100 / 108
第一章

1 入校の朝

しおりを挟む
「レイ! レイったら。時間だよ。仕事に遅れても知らないからな」

 サッと開いたカーテンから眩しいほどの光が射し込んだベッドの上に、ウェーブのかかったやわらかい蜂蜜色の髪が散っている。無意識にシーツを引っ張り上げようとする細くてきれいな指から、シーツを引き剥がして、ついでに枕も取り上げる。

「レイ! 早く起きろよ。ったく、世話が焼けるったら!」
「乱暴だね…。朝は弱いんだから、もっとやさしく起こしてくれてもいいだろう?」
「だーめ。手ぬるいことしてたら、いつまでたっても起きないじゃないか。俺も今日から連合宇宙軍の士官予備訓練生だからな。忙しいんだよっ!」

 ようやく、ベッドでもぞもぞ動きだしたレイが半身を起こした。
 陽の光にキラキラ輝く前髪を無造作にかき上げる。濃いエメラルド・グリーンの瞳がやさしい光を宿して…。

「おはよう、リュウ」
「な~にがおはようだ! 朝飯できてるんだから、早くキッチンへ来てくれよ。冷めるだろっ」

 憎まれ口をたたきながらベッドルームを出る。でも、実のところリュウは、レイを起こすのが嫌いじゃない。
 寝起きの悪さはハンパじゃないが、起き抜けの寝ぼけ眼でふわっと微笑む姿は、ドキッとするほどきれいだと思う。
 しなやかで、無防備なレイを見るのがうれしいのか恐いのか…、最近、リュウにはわからなくなった。

「う~ん。リュウの作るパンケーキは最高だね」

 マグカップに注いだコーヒーと一緒に、たっぷりのメイプルシロップをかけたパンケーキをおいしそうに口へ運ぶレイは天使のように見える。暴力や争いとはかけ離れた存在。
 なのに、銃の腕も宇宙船の操縦も抜群、どんな危険な宙域をも恐れず確実にブツを届ける『クーリエ』だった。それも超一流というお墨付きである。
 しかし。レイは宇宙船や武器は器用に操るのに、料理はまるでダメ、整理整頓だっていい加減。放っておくと洗濯物はたまるわ、ゴミはたまるわで…。知らないうちに家事全般がリュウの担当になっていた。
 本来なら年上で保護者代わりのレイがやって当然なのだが…。

 マグカップを手にしたまま、レイがうれしそうに目を細めてリュウの姿を眺めた。
 そして、

「ブルーの制服、よく似合ってるよ。これでリュウも晴れて宇宙軍の一員か」
「違うって! まだ連合宇宙軍士官予備学校の仕官予備訓練生になっただけ」

 リュウは、一般に士官訓練センターと呼ばれる予備学校の長ったらしい名前をきちんと強調した。

「いくら訓練生になれたからって、エリート士官候補としてセントラルの士官学校に行けるやつは、数えるほどなんだ。レイが言うように宇宙軍のエリート士官になるなんて無理だよ。それに、宇宙軍に入るつもりはないって、言ってるだろ」

 レイに向かって乱暴な言葉づかいをするようになったのは最近だ。リュウは子ども扱いされるのが悔しくて、ついきついもの言いになってしまっている。
 なのにレイはふっと笑みを浮かべた。

「リュウには力があるから、宇宙軍でも上の方にいけると思うけどな」
「ありがと。一応、礼を言っとく。でも、持ち上げてくれても全然うれしくないからな。俺の力が足りないからレイの宇宙船には乗せてくれないんだろっ。働かせてほしいって言ってもすぐにはぐらかす。
 仕方ないから、士官訓練センターにはいったんだ。最新施設で練習を積んで、レイが認めてくれるくらいに腕を上げる。目的はそれだけだ。宇宙軍に入るつもりはないよ。俺は、レイと一緒に『クーリエ』をやるんだからなっ」
「ふ~ん。もったいないね」

 何を言ってるという顔をしたリュウが口を挟もうとするのを、レイが制した。

「そろそろ行かないと遅れるよ」

 時計を見たリュウがあっと声をあげる。

「レイも急がないと。仕事だろっ」


 あわてて部屋を出ていく制服の後ろ姿をレイが見送っていた。
 すっきりと伸びた手足。この3年で、リュウはすっかり背が高くなった。細身のレイとは違って、筋肉質の広い肩幅。黒い髪を短く刈り込み、意思の強そうなしっかりした顎とくっきりした眉を持つリュウは誰が見ても男らしく、ハンサムである。
 それに、もうおとなの男になりかけていた。


――リュウは俺みたいに姿を隠す必要はないんだから、『クーリエ』なんて仕事をしなくてもいい。
  危険なだけで、誰にも尊敬してもらえやしない配達屋なんて、つまらない仕事。
  ま、誰にも縛られずに自由に宇宙を飛べるのは魅力だけど。
  リュウは俺から離れて、好きなことをやればいいんだ――
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。 だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。 互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。 ハッピーエンド 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/03/02……完結 2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位 2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位 2023/12/19……連載開始

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...