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第一章
1 入校の朝
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「レイ! レイったら。時間だよ。仕事に遅れても知らないからな」
サッと開いたカーテンから眩しいほどの光が射し込んだベッドの上に、ウェーブのかかったやわらかい蜂蜜色の髪が散っている。無意識にシーツを引っ張り上げようとする細くてきれいな指から、シーツを引き剥がして、ついでに枕も取り上げる。
「レイ! 早く起きろよ。ったく、世話が焼けるったら!」
「乱暴だね…。朝は弱いんだから、もっとやさしく起こしてくれてもいいだろう?」
「だーめ。手ぬるいことしてたら、いつまでたっても起きないじゃないか。俺も今日から連合宇宙軍の士官予備訓練生だからな。忙しいんだよっ!」
ようやく、ベッドでもぞもぞ動きだしたレイが半身を起こした。
陽の光にキラキラ輝く前髪を無造作にかき上げる。濃いエメラルド・グリーンの瞳がやさしい光を宿して…。
「おはよう、リュウ」
「な~にがおはようだ! 朝飯できてるんだから、早くキッチンへ来てくれよ。冷めるだろっ」
憎まれ口をたたきながらベッドルームを出る。でも、実のところリュウは、レイを起こすのが嫌いじゃない。
寝起きの悪さはハンパじゃないが、起き抜けの寝ぼけ眼でふわっと微笑む姿は、ドキッとするほどきれいだと思う。
しなやかで、無防備なレイを見るのがうれしいのか恐いのか…、最近、リュウにはわからなくなった。
「う~ん。リュウの作るパンケーキは最高だね」
マグカップに注いだコーヒーと一緒に、たっぷりのメイプルシロップをかけたパンケーキをおいしそうに口へ運ぶレイは天使のように見える。暴力や争いとはかけ離れた存在。
なのに、銃の腕も宇宙船の操縦も抜群、どんな危険な宙域をも恐れず確実にブツを届ける『クーリエ』だった。それも超一流というお墨付きである。
しかし。レイは宇宙船や武器は器用に操るのに、料理はまるでダメ、整理整頓だっていい加減。放っておくと洗濯物はたまるわ、ゴミはたまるわで…。知らないうちに家事全般がリュウの担当になっていた。
本来なら年上で保護者代わりのレイがやって当然なのだが…。
マグカップを手にしたまま、レイがうれしそうに目を細めてリュウの姿を眺めた。
そして、
「ブルーの制服、よく似合ってるよ。これでリュウも晴れて宇宙軍の一員か」
「違うって! まだ連合宇宙軍士官予備学校の仕官予備訓練生になっただけ」
リュウは、一般に士官訓練センターと呼ばれる予備学校の長ったらしい名前をきちんと強調した。
「いくら訓練生になれたからって、エリート士官候補としてセントラルの士官学校に行けるやつは、数えるほどなんだ。レイが言うように宇宙軍のエリート士官になるなんて無理だよ。それに、宇宙軍に入るつもりはないって、言ってるだろ」
レイに向かって乱暴な言葉づかいをするようになったのは最近だ。リュウは子ども扱いされるのが悔しくて、ついきついもの言いになってしまっている。
なのにレイはふっと笑みを浮かべた。
「リュウには力があるから、宇宙軍でも上の方にいけると思うけどな」
「ありがと。一応、礼を言っとく。でも、持ち上げてくれても全然うれしくないからな。俺の力が足りないからレイの宇宙船には乗せてくれないんだろっ。働かせてほしいって言ってもすぐにはぐらかす。
仕方ないから、士官訓練センターにはいったんだ。最新施設で練習を積んで、レイが認めてくれるくらいに腕を上げる。目的はそれだけだ。宇宙軍に入るつもりはないよ。俺は、レイと一緒に『クーリエ』をやるんだからなっ」
「ふ~ん。もったいないね」
何を言ってるという顔をしたリュウが口を挟もうとするのを、レイが制した。
「そろそろ行かないと遅れるよ」
時計を見たリュウがあっと声をあげる。
「レイも急がないと。仕事だろっ」
あわてて部屋を出ていく制服の後ろ姿をレイが見送っていた。
すっきりと伸びた手足。この3年で、リュウはすっかり背が高くなった。細身のレイとは違って、筋肉質の広い肩幅。黒い髪を短く刈り込み、意思の強そうなしっかりした顎とくっきりした眉を持つリュウは誰が見ても男らしく、ハンサムである。
それに、もうおとなの男になりかけていた。
――リュウは俺みたいに姿を隠す必要はないんだから、『クーリエ』なんて仕事をしなくてもいい。
危険なだけで、誰にも尊敬してもらえやしない配達屋なんて、つまらない仕事。
ま、誰にも縛られずに自由に宇宙を飛べるのは魅力だけど。
リュウは俺から離れて、好きなことをやればいいんだ――
サッと開いたカーテンから眩しいほどの光が射し込んだベッドの上に、ウェーブのかかったやわらかい蜂蜜色の髪が散っている。無意識にシーツを引っ張り上げようとする細くてきれいな指から、シーツを引き剥がして、ついでに枕も取り上げる。
「レイ! 早く起きろよ。ったく、世話が焼けるったら!」
「乱暴だね…。朝は弱いんだから、もっとやさしく起こしてくれてもいいだろう?」
「だーめ。手ぬるいことしてたら、いつまでたっても起きないじゃないか。俺も今日から連合宇宙軍の士官予備訓練生だからな。忙しいんだよっ!」
ようやく、ベッドでもぞもぞ動きだしたレイが半身を起こした。
陽の光にキラキラ輝く前髪を無造作にかき上げる。濃いエメラルド・グリーンの瞳がやさしい光を宿して…。
「おはよう、リュウ」
「な~にがおはようだ! 朝飯できてるんだから、早くキッチンへ来てくれよ。冷めるだろっ」
憎まれ口をたたきながらベッドルームを出る。でも、実のところリュウは、レイを起こすのが嫌いじゃない。
寝起きの悪さはハンパじゃないが、起き抜けの寝ぼけ眼でふわっと微笑む姿は、ドキッとするほどきれいだと思う。
しなやかで、無防備なレイを見るのがうれしいのか恐いのか…、最近、リュウにはわからなくなった。
「う~ん。リュウの作るパンケーキは最高だね」
マグカップに注いだコーヒーと一緒に、たっぷりのメイプルシロップをかけたパンケーキをおいしそうに口へ運ぶレイは天使のように見える。暴力や争いとはかけ離れた存在。
なのに、銃の腕も宇宙船の操縦も抜群、どんな危険な宙域をも恐れず確実にブツを届ける『クーリエ』だった。それも超一流というお墨付きである。
しかし。レイは宇宙船や武器は器用に操るのに、料理はまるでダメ、整理整頓だっていい加減。放っておくと洗濯物はたまるわ、ゴミはたまるわで…。知らないうちに家事全般がリュウの担当になっていた。
本来なら年上で保護者代わりのレイがやって当然なのだが…。
マグカップを手にしたまま、レイがうれしそうに目を細めてリュウの姿を眺めた。
そして、
「ブルーの制服、よく似合ってるよ。これでリュウも晴れて宇宙軍の一員か」
「違うって! まだ連合宇宙軍士官予備学校の仕官予備訓練生になっただけ」
リュウは、一般に士官訓練センターと呼ばれる予備学校の長ったらしい名前をきちんと強調した。
「いくら訓練生になれたからって、エリート士官候補としてセントラルの士官学校に行けるやつは、数えるほどなんだ。レイが言うように宇宙軍のエリート士官になるなんて無理だよ。それに、宇宙軍に入るつもりはないって、言ってるだろ」
レイに向かって乱暴な言葉づかいをするようになったのは最近だ。リュウは子ども扱いされるのが悔しくて、ついきついもの言いになってしまっている。
なのにレイはふっと笑みを浮かべた。
「リュウには力があるから、宇宙軍でも上の方にいけると思うけどな」
「ありがと。一応、礼を言っとく。でも、持ち上げてくれても全然うれしくないからな。俺の力が足りないからレイの宇宙船には乗せてくれないんだろっ。働かせてほしいって言ってもすぐにはぐらかす。
仕方ないから、士官訓練センターにはいったんだ。最新施設で練習を積んで、レイが認めてくれるくらいに腕を上げる。目的はそれだけだ。宇宙軍に入るつもりはないよ。俺は、レイと一緒に『クーリエ』をやるんだからなっ」
「ふ~ん。もったいないね」
何を言ってるという顔をしたリュウが口を挟もうとするのを、レイが制した。
「そろそろ行かないと遅れるよ」
時計を見たリュウがあっと声をあげる。
「レイも急がないと。仕事だろっ」
あわてて部屋を出ていく制服の後ろ姿をレイが見送っていた。
すっきりと伸びた手足。この3年で、リュウはすっかり背が高くなった。細身のレイとは違って、筋肉質の広い肩幅。黒い髪を短く刈り込み、意思の強そうなしっかりした顎とくっきりした眉を持つリュウは誰が見ても男らしく、ハンサムである。
それに、もうおとなの男になりかけていた。
――リュウは俺みたいに姿を隠す必要はないんだから、『クーリエ』なんて仕事をしなくてもいい。
危険なだけで、誰にも尊敬してもらえやしない配達屋なんて、つまらない仕事。
ま、誰にも縛られずに自由に宇宙を飛べるのは魅力だけど。
リュウは俺から離れて、好きなことをやればいいんだ――
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