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8 生い立ち
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リビングではランディとレイが酒を飲みながら、ポツリポツリと話をしていた。
「リュウがおとななのには驚いたが、いい子だ。何にでもまっすぐ向かっていくタイプだな。考え方もしっかりしてるし、言いたいことをハッキリ言う」
レイの相好が崩れた。自分が誉められたように喜んでいる。いや、レイを誉めても喜ぶことはめったにないが。
「そりゃあ、育て方がいいからね」
「よく言うぜ。まあ、リュウはあんたを見て、あんたに憧れて育ったのは間違いなさそうだけどな。しかし、お手本がレイじゃ、リュウはツラいか」
「どうして?」
「いや、いくらがんばっても、なかなか追いつけないからさ。あんたには技術や能力だけじゃなくて、底知れない強さがある。どんな困難な局面に立たされても、あんたは最後まで生き延びるぜ」
「ひとを化け物みたいに言わないでもらいたいね。俺だって撃たれたら死ぬよ。殴られれば痛いし、砲を向けられればびびる」
へえっ? とランディは驚いた顔をしてみせた。
「あんたでもびびるのか! 知らなかった。でも、そんな顔、見たことないぜ」
「怖がってるのがバレたら、生きていられないとこにいたからね。平気な表情を装うのがくせになってる」
手にしたグラスに口を付けながら何でもないようにレイが言う。
「おっ、冷酷で人を寄せつけない顔してるのが自分でもわかってたんだな」
レイは首を縦に振った。いやに素直な態度にランディが問いかける。
「訊いてもいいか?」
「ん…」
「俺はあんたのことをほかのやつみたいに、冷酷だとも感情がないとも思っていない」
レイは黙って言葉の続きを待っている。
「いつも不思議だったんだ。あんたはどんなところで育ったんだろうってね。その美しい顔で傭兵の中でも超一流とうたわれた抜群の腕。銃もナイフもだ。それに、右に出るものがいない操船技術。コンピュータの知識。あんたは謎に包まれてるよ。いったい誰に教わったんだ?」
冷たい沈黙が流れた。
レイは表情を固くして何もしゃべらない。ランディはしばらくレイを見つめていたが、深入りしすぎたかと心の中で舌打ちする。
「話したくないなら、忘れてくれ」
遠くを見ていたレイの視線が、ランディに戻ってきた。
濃いエメラルド・グリーンの瞳は何とも名付けがたい表情をしていた。
「どうして今頃、そんなことを?」
「今まで恐くて訊けなかったんじゃないか」
レイは口もとを歪めた。
「ランディは俺が恐いの?」
そう問う顔は、落とすとカシャンと壊れるクリスタルグラスのように繊細に見えて、ランディは戸惑ってしまう。
「いやあ、どう言ったらいいんだろうな」
ランディは頭をかく。
「う~ん。あんたには、どうしても踏み込めない何かがあって、そこに近寄ろうとするとピシャリとドアが閉まるって感じなんだ。誰にも心を見せない」
「俺は…、氷のように冷たいと思われてるんだってね。よく言われたよ」
しばらく考えてから、レイは話しだした。
「おもしろい話じゃないけど、訊きたいなら話すよ。
俺はね…、物心がついた時にはスラムにいた。結構でかい星のいちばん底辺って感じのね。親は知らない。そこでは自分で自分の面倒を見られなくちゃ、生きていけなかったんだ」
レイの顔から表情が消えていた。いい思い出などなかったのだろう。
スラムで小さい子どもが自分の力で生きるとなると辛いことばかりだ。それくらいはランディにもわかった。
そのうちに、ふっとレイの顔がほころんだ。
「変なじいさんがいてね、可愛がってもらったよ。身の守り方とコンピュータはじいさんに教わった」
その話をした時だけ、レイの声に感情が生まれた。
「10歳の時、じいさんが死んで…、本当の意味で俺はひとりになった。家もない。頼るものもない。自分ひとりってわけ。たぶん、その時から俺は、心をなくしたんだろうね。リュウと出逢うまで、俺は腹の底から笑った記憶がないからね」
えっ! リュウと出逢うまで…とランディは驚く。
「俺とリュウが本当の兄弟じゃないってこと話さなかった?」
「ああ、知らなかった」
レイはひとつうなずいた。
淡々と物語るレイの言葉は、感情を交えないだけにうすら寒く感じられた。
──この男は、どれほどの地獄を見てきたのだろうか。
冷酷でなければ生きられなかった。それが、レイをこれほど強くしたのだろうか──
「でも、今は…。家にいる時と宇宙船に乗ってる時は自分でいられるような気がする。リュウと暮らしだして、俺はこんな人間だったんだって、びっくりしたよ」
スラム育ちなら、気の強さや最低限の武器の扱いはできるだろう。しかし。地面に這いつくばるように生きているスラム育ちのものが、どうしてこれほど見事に宇宙船を操れるのか。それに、静かな言葉を発するだけで、逆らえないと思わせる、命令慣れした態度。
ランディには、不思議に思うことは数知れずあった。
「スラムでみなを束ねていたのか?」
「まさか。群れてるように見えるけど、スラムに仲間意識はないよ。みんなひとりだ。それに、俺はほんのガキだったんだ。自分の面倒を見るだけで精一杯」
「それなら、なぜ…」
レイはランディの問いを手で制して耳をすませたかと思うと、おもむろに立ち上がった。
「どこへ行くんだ?」
「リュウの部屋」
どうしてだという言葉を発する前に、苦しそうな声がリュウの部屋からもれてきた。
「リュウがおとななのには驚いたが、いい子だ。何にでもまっすぐ向かっていくタイプだな。考え方もしっかりしてるし、言いたいことをハッキリ言う」
レイの相好が崩れた。自分が誉められたように喜んでいる。いや、レイを誉めても喜ぶことはめったにないが。
「そりゃあ、育て方がいいからね」
「よく言うぜ。まあ、リュウはあんたを見て、あんたに憧れて育ったのは間違いなさそうだけどな。しかし、お手本がレイじゃ、リュウはツラいか」
「どうして?」
「いや、いくらがんばっても、なかなか追いつけないからさ。あんたには技術や能力だけじゃなくて、底知れない強さがある。どんな困難な局面に立たされても、あんたは最後まで生き延びるぜ」
「ひとを化け物みたいに言わないでもらいたいね。俺だって撃たれたら死ぬよ。殴られれば痛いし、砲を向けられればびびる」
へえっ? とランディは驚いた顔をしてみせた。
「あんたでもびびるのか! 知らなかった。でも、そんな顔、見たことないぜ」
「怖がってるのがバレたら、生きていられないとこにいたからね。平気な表情を装うのがくせになってる」
手にしたグラスに口を付けながら何でもないようにレイが言う。
「おっ、冷酷で人を寄せつけない顔してるのが自分でもわかってたんだな」
レイは首を縦に振った。いやに素直な態度にランディが問いかける。
「訊いてもいいか?」
「ん…」
「俺はあんたのことをほかのやつみたいに、冷酷だとも感情がないとも思っていない」
レイは黙って言葉の続きを待っている。
「いつも不思議だったんだ。あんたはどんなところで育ったんだろうってね。その美しい顔で傭兵の中でも超一流とうたわれた抜群の腕。銃もナイフもだ。それに、右に出るものがいない操船技術。コンピュータの知識。あんたは謎に包まれてるよ。いったい誰に教わったんだ?」
冷たい沈黙が流れた。
レイは表情を固くして何もしゃべらない。ランディはしばらくレイを見つめていたが、深入りしすぎたかと心の中で舌打ちする。
「話したくないなら、忘れてくれ」
遠くを見ていたレイの視線が、ランディに戻ってきた。
濃いエメラルド・グリーンの瞳は何とも名付けがたい表情をしていた。
「どうして今頃、そんなことを?」
「今まで恐くて訊けなかったんじゃないか」
レイは口もとを歪めた。
「ランディは俺が恐いの?」
そう問う顔は、落とすとカシャンと壊れるクリスタルグラスのように繊細に見えて、ランディは戸惑ってしまう。
「いやあ、どう言ったらいいんだろうな」
ランディは頭をかく。
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「俺は…、氷のように冷たいと思われてるんだってね。よく言われたよ」
しばらく考えてから、レイは話しだした。
「おもしろい話じゃないけど、訊きたいなら話すよ。
俺はね…、物心がついた時にはスラムにいた。結構でかい星のいちばん底辺って感じのね。親は知らない。そこでは自分で自分の面倒を見られなくちゃ、生きていけなかったんだ」
レイの顔から表情が消えていた。いい思い出などなかったのだろう。
スラムで小さい子どもが自分の力で生きるとなると辛いことばかりだ。それくらいはランディにもわかった。
そのうちに、ふっとレイの顔がほころんだ。
「変なじいさんがいてね、可愛がってもらったよ。身の守り方とコンピュータはじいさんに教わった」
その話をした時だけ、レイの声に感情が生まれた。
「10歳の時、じいさんが死んで…、本当の意味で俺はひとりになった。家もない。頼るものもない。自分ひとりってわけ。たぶん、その時から俺は、心をなくしたんだろうね。リュウと出逢うまで、俺は腹の底から笑った記憶がないからね」
えっ! リュウと出逢うまで…とランディは驚く。
「俺とリュウが本当の兄弟じゃないってこと話さなかった?」
「ああ、知らなかった」
レイはひとつうなずいた。
淡々と物語るレイの言葉は、感情を交えないだけにうすら寒く感じられた。
──この男は、どれほどの地獄を見てきたのだろうか。
冷酷でなければ生きられなかった。それが、レイをこれほど強くしたのだろうか──
「でも、今は…。家にいる時と宇宙船に乗ってる時は自分でいられるような気がする。リュウと暮らしだして、俺はこんな人間だったんだって、びっくりしたよ」
スラム育ちなら、気の強さや最低限の武器の扱いはできるだろう。しかし。地面に這いつくばるように生きているスラム育ちのものが、どうしてこれほど見事に宇宙船を操れるのか。それに、静かな言葉を発するだけで、逆らえないと思わせる、命令慣れした態度。
ランディには、不思議に思うことは数知れずあった。
「スラムでみなを束ねていたのか?」
「まさか。群れてるように見えるけど、スラムに仲間意識はないよ。みんなひとりだ。それに、俺はほんのガキだったんだ。自分の面倒を見るだけで精一杯」
「それなら、なぜ…」
レイはランディの問いを手で制して耳をすませたかと思うと、おもむろに立ち上がった。
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