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第八章
1 操縦ミス
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「展開。一、二、三…十秒、反転、二列横隊。5番艇…、阿刀野っ! 何をやっているんだ、遅れるな!」
んなこと言ったって、俺だって精一杯やってんだ。下手なんだから仕方ないだろうという文句は心の中だけにして、通信機には殊勝な返事を返す。
「すみませんっ!」
それにしても、怒鳴っているのがルーインなのがつらいところだった。カプセルから解放されて、ようやく戦闘艇演習になったというのに。
ザハロフ教官は宇宙船を飛び出す前に指示を与え、後は基地での監督のみである。戦闘艇に乗ってからの命令はすべて戦闘隊リーダーのルーインが出すことになっていた。もちろん、失敗をすると地上にもどってから教官の叱責が待っているし、ペナルティーがもれなく付いてはくるが…。
リュウはルーインが戦闘隊のリーダーに任命されたとき、教官が彼の能力の高さを買っていることに感心すると同時に、戦闘艇演習の間はのんびりやれるだろうかと思ったのだが…、ルーインは予想以上に容赦なかった。
ザハロフ教官が担当するよりも、ずっと多く怒鳴られている気がする。
演習の終わった後、ルーイン相手の気安さからつい愚痴ってしまった。すると、
「僕なんか、レイさんに比べたらずいぶんやさしいよ」
あっさり言われて、それきり反論できなくなったのだ。
ルーインは3週続けて、休みの日にクリスタル号でレイに操縦を教わっていた。リュウが頼んでも断られるのに。しかも、「おまえと違って、見どころがあるからね」というのがレイの言葉である。
くそっ!
悔しいけれど、この戦闘艇演習を見ていると腕が違うと思う。いや、驚くほど上達したと言うべきか。それなのに、ルーインはリュウよりも長時間、カプセルで練習に励んでいるのである。
「いやに真面目だな」と揶揄しても
「きちんと練習しておかないと、恐くてクリスタル号の操縦席に座れないからな」と。
どんな風に教わっているのかと訊いてもルーインは答えないが、休み前の緊張ぶりを見ると、レイは相当厳しいらしい。
「そんなに嫌なら、毎週、行かなくてもいいだろうに」
「いや、レイさんが僕に教えてもいいと思っているうちに習っておかないと…」
途切れた言葉の続きをリュウが埋める。
「教えてもらえなくなるって?」
「ああ、やる気のなさそうな態度でも見せたら、すぐに見捨てられる。僕はキミと違って、弟ではないからな」
おまえは特別扱いなんだと暗に言われているようなモノだ。でも、ほんとうは弟でも何でもなく、俺がただの同居人でしかないことをルーインは知らないのだ。
だから、休みの日にルーインと一緒に家に帰ったとき。一週間たまった家事を片づけながら、2人の帰りを待っている間中、どうしようもなく取り残された気がする…。
この間は。
軽やかな足取りで帰ってきたレイとは正反対に、ルーインは疲労困憊の様子だった。しかも、くちびるの端が切れていた。
「……ッ。レイ! 殴ったのか!」
食ってかかろうとしたところを、あわてて遮られる。
「平手で張られただけだ。…僕がつまらないミスをした」と。
バスルームへと消えようとしていたレイが戻ってきて、ルーインの顔を検分する。
「冷やしておいた方がいいかな。ちょっと切れちゃってるね。リュウ、救急箱持ってきて」
手を出したことを謝りもせずに。
レイを睨んだ俺とは違って、ルーインが恐縮する。
「このくらい平気ですから。レイさんはシャワーを浴びてきてください」
その目が懇願している?
「そう? じゃあ、リュウ。後はお願い」
レイが部屋を出ていくとルーインはほっとため息をつき、強い調子で俺を詰った。
「阿刀野! 僕とレイさんの問題だから、キミは口を出さないでくれ!」
「しかし、手を出すことはないだろう。レイだってミスくらいするだろうに!」
ルーインはリュウを見つめて首をふる。レイはミスなどしないということか。それともつまらないミスではなかったのか。
「小さなミスで叱られたとき、僕も聞いたんだ。『今のは操縦にはあまり関係ないのではないですか』ってな。レイさんはこれ以上ないほど冷たい声で応えたよ。
『本物の操縦士になりたかったら、小さなミスくらいと思うその気持ちを今すぐ捨てろ。操縦士が小さなミスを犯したせいで、死ななくてもいい人間が死ぬこともある。殺さなくてもいい人間を殺さなくてはならなくなる。戦闘ではそれでなくても多くの人間が死ぬんだ』…とな」
「わ、わかったよ。それにしても、教官モードのレイは恐いな。しじゅう叱られてるのか」
「そうでもない。どうしようもない不可抗力のときは叱られない。僕が下手な操縦をして危なくなっても眉ひとつ動かさない。技術が足りないときは、『もっと練習しておけ』と言われるだけだ」
「それなら、今日は何か怒らせるようなことでもしたのか?」
「……クリスタル号に傷を付けた。怒らせたということではなくて、危険に対する認識が甘いと叱られたんだ。操縦しているときは、いつも緊張してろってね。それに、本気で怒ったわけじゃないと思う。僕は余裕のないレイさんなんか、見たことがないからな」
へえ~、そうなんだ。自分はいつもリラックスの極地のような操縦をしているくせに。
それより。
傷を付けただけで頬を張られるなら、初歩的なミスを冒して、インシャラーへ入り込みクリスタル号を大破させた俺など、どんな罰が匹敵するのだろうか。
あの時、レイは怒っていなかったし、冷静だった。俺は叱ってももらえなかった。
最初から相手にされてないのかと思いついて、心が痛む。
ところが。
レイからは見捨てられているのに、ルーインは少しも容赦してくれないのだ。戦闘艇演習で毎日たっぷり絞られている。ザハロフ教官に食らうペナルティーより、ルーインに命じられる補習の方が多いくらいだ。
レイがルーインを鍛えて、ルーインが俺を鍛えるというわけ、か。
どこか割り切れない思いである。
んなこと言ったって、俺だって精一杯やってんだ。下手なんだから仕方ないだろうという文句は心の中だけにして、通信機には殊勝な返事を返す。
「すみませんっ!」
それにしても、怒鳴っているのがルーインなのがつらいところだった。カプセルから解放されて、ようやく戦闘艇演習になったというのに。
ザハロフ教官は宇宙船を飛び出す前に指示を与え、後は基地での監督のみである。戦闘艇に乗ってからの命令はすべて戦闘隊リーダーのルーインが出すことになっていた。もちろん、失敗をすると地上にもどってから教官の叱責が待っているし、ペナルティーがもれなく付いてはくるが…。
リュウはルーインが戦闘隊のリーダーに任命されたとき、教官が彼の能力の高さを買っていることに感心すると同時に、戦闘艇演習の間はのんびりやれるだろうかと思ったのだが…、ルーインは予想以上に容赦なかった。
ザハロフ教官が担当するよりも、ずっと多く怒鳴られている気がする。
演習の終わった後、ルーイン相手の気安さからつい愚痴ってしまった。すると、
「僕なんか、レイさんに比べたらずいぶんやさしいよ」
あっさり言われて、それきり反論できなくなったのだ。
ルーインは3週続けて、休みの日にクリスタル号でレイに操縦を教わっていた。リュウが頼んでも断られるのに。しかも、「おまえと違って、見どころがあるからね」というのがレイの言葉である。
くそっ!
悔しいけれど、この戦闘艇演習を見ていると腕が違うと思う。いや、驚くほど上達したと言うべきか。それなのに、ルーインはリュウよりも長時間、カプセルで練習に励んでいるのである。
「いやに真面目だな」と揶揄しても
「きちんと練習しておかないと、恐くてクリスタル号の操縦席に座れないからな」と。
どんな風に教わっているのかと訊いてもルーインは答えないが、休み前の緊張ぶりを見ると、レイは相当厳しいらしい。
「そんなに嫌なら、毎週、行かなくてもいいだろうに」
「いや、レイさんが僕に教えてもいいと思っているうちに習っておかないと…」
途切れた言葉の続きをリュウが埋める。
「教えてもらえなくなるって?」
「ああ、やる気のなさそうな態度でも見せたら、すぐに見捨てられる。僕はキミと違って、弟ではないからな」
おまえは特別扱いなんだと暗に言われているようなモノだ。でも、ほんとうは弟でも何でもなく、俺がただの同居人でしかないことをルーインは知らないのだ。
だから、休みの日にルーインと一緒に家に帰ったとき。一週間たまった家事を片づけながら、2人の帰りを待っている間中、どうしようもなく取り残された気がする…。
この間は。
軽やかな足取りで帰ってきたレイとは正反対に、ルーインは疲労困憊の様子だった。しかも、くちびるの端が切れていた。
「……ッ。レイ! 殴ったのか!」
食ってかかろうとしたところを、あわてて遮られる。
「平手で張られただけだ。…僕がつまらないミスをした」と。
バスルームへと消えようとしていたレイが戻ってきて、ルーインの顔を検分する。
「冷やしておいた方がいいかな。ちょっと切れちゃってるね。リュウ、救急箱持ってきて」
手を出したことを謝りもせずに。
レイを睨んだ俺とは違って、ルーインが恐縮する。
「このくらい平気ですから。レイさんはシャワーを浴びてきてください」
その目が懇願している?
「そう? じゃあ、リュウ。後はお願い」
レイが部屋を出ていくとルーインはほっとため息をつき、強い調子で俺を詰った。
「阿刀野! 僕とレイさんの問題だから、キミは口を出さないでくれ!」
「しかし、手を出すことはないだろう。レイだってミスくらいするだろうに!」
ルーインはリュウを見つめて首をふる。レイはミスなどしないということか。それともつまらないミスではなかったのか。
「小さなミスで叱られたとき、僕も聞いたんだ。『今のは操縦にはあまり関係ないのではないですか』ってな。レイさんはこれ以上ないほど冷たい声で応えたよ。
『本物の操縦士になりたかったら、小さなミスくらいと思うその気持ちを今すぐ捨てろ。操縦士が小さなミスを犯したせいで、死ななくてもいい人間が死ぬこともある。殺さなくてもいい人間を殺さなくてはならなくなる。戦闘ではそれでなくても多くの人間が死ぬんだ』…とな」
「わ、わかったよ。それにしても、教官モードのレイは恐いな。しじゅう叱られてるのか」
「そうでもない。どうしようもない不可抗力のときは叱られない。僕が下手な操縦をして危なくなっても眉ひとつ動かさない。技術が足りないときは、『もっと練習しておけ』と言われるだけだ」
「それなら、今日は何か怒らせるようなことでもしたのか?」
「……クリスタル号に傷を付けた。怒らせたということではなくて、危険に対する認識が甘いと叱られたんだ。操縦しているときは、いつも緊張してろってね。それに、本気で怒ったわけじゃないと思う。僕は余裕のないレイさんなんか、見たことがないからな」
へえ~、そうなんだ。自分はいつもリラックスの極地のような操縦をしているくせに。
それより。
傷を付けただけで頬を張られるなら、初歩的なミスを冒して、インシャラーへ入り込みクリスタル号を大破させた俺など、どんな罰が匹敵するのだろうか。
あの時、レイは怒っていなかったし、冷静だった。俺は叱ってももらえなかった。
最初から相手にされてないのかと思いついて、心が痛む。
ところが。
レイからは見捨てられているのに、ルーインは少しも容赦してくれないのだ。戦闘艇演習で毎日たっぷり絞られている。ザハロフ教官に食らうペナルティーより、ルーインに命じられる補習の方が多いくらいだ。
レイがルーインを鍛えて、ルーインが俺を鍛えるというわけ、か。
どこか割り切れない思いである。
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