わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚

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第三五九話 シャルロッタ 一六歳 魔王 〇九

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「ぶった斬るッ! 剣戦闘術ブレードアーツ四の秘剣……狂乱乃太刀クレイジートレインッ!」

 わたくしが放つ狂乱乃太刀クレイジートレイン……恐ろしい速度で飛び出したわたくしを捉えようと、魔王トライトーンの複数の触手が伸びてくるが、そもそもこの剣戦闘術ブレードアーツは音速を超える速度で突き進み進路にある全てを破壊してのける圧倒的な攻撃力を誇る。
 迫り来る触手は音速で突き進むわたくしを捉えられずに、はるか後方に置き去りになっていく……そのままわたくしは魔剣不滅イモータルを一気に振り抜いた。
 ザンッザンッ! という音と共に斬撃に当たった触手が切り裂かれると、怒りなのかそれとも痛覚があるのかわからないが、魔王トライトーンは奇怪すぎる叫び声を上げる。
「グオオオオオッ! この……小賢しい女狐め……ッ!」

「まだまだあッ!」

「ウオオオオオオッ!」
 空中を蹴ってさらに魔王トライトーンへと突進する……だが今度は進路を予測してきたのだろう、漆黒にぬらぬらと輝く触手をまるで槍のように尖らせると、それら全てが直線的な軌道を通ってわたくしへと迫る。
 あの黒い触手はいくら破壊しても本体である魔王トライトーンにはあまり影響はないはずだ、それでもクリスが戦うに当たってわたくしが少しでも触手を破壊しておくに越したことはない。
 それに……魔王トライトーンは戦闘術アーツを知ってはいるが、その全てを理解しているわけではないらしい。
 狂乱乃太刀クレイジートレインは進路上にある全てを粉砕し、切り裂く剣戦闘術ブレードアーツ中最も速い突進攻撃なのだ。
「突き抜けろッ!」

「バカなッ!」
 わたくしが魔剣不滅イモータルを突き出すような格好で構え直し、再び空中を蹴って超加速したところに叩きつけられた黒い触手は、狂乱乃太刀クレイジートレインの威力に押し負けたのか勢いに押されて粉砕され、まるで大木が真っ二つに裂けるかのように切り裂かれていく。
 切り裂いた魔王トライトーンの触手は黒い煙をあげて狂乱乃太刀クレイジートレインによる圧力で瞬時に消滅し、周囲に嫌な匂いのする液体を撒き散らした。
 そのままの勢いでわたくしは魔王トライトーンの肉体へと大きな穴を穿つ……悲鳴とも狂乱の声ともつかぬ叫び声をバックに、地面へと着地するとのと同時に地面から凄まじい数の触手が飛び出しわたくしを貫こうと迫ってきた。
 あれだけの傷を負ってまだ……わたくしは半ば呆れ気味に瞬時に魔力による防御結界を強化すると、その触手はギリギリの位置で宙に静止するかのようにビタッ! と勢いを無くしていく。
「……呆れた、なんて生命力……」

「ふざけるな……ッ! 我は混沌の申し子、世界を滅ぼすために生まれた魔王トライトーンなるぞ……お前のような小娘に負けるわけにはいかんのだッ!」
 魔王トライトーンは瞬時に体に空いた大穴を修復すると、腹部にぽっかりと空いた口のように見える器官を開き、そこから耳をつんざくような凄まじい絶叫があたりへと響き渡る。
 これは超音波……?! 音は空気を振動させ、空間が歪み、そして衝撃波となって一気にわたくしの周囲を粉々に粉砕していく。
 だがわたくしは防御結界に守られ衝撃波を防ぎ切っていく……結界なかったら肉体は瞬時に塵と化して流石のわたくしでも修復にそれなりの時間を要するところだった。
 しかし……これが相手の手札ならなんとか……わたくしは少し離れた場所で、クリスとユルが防御結界を張ってどうにか先ほどの衝撃波を防いだのをチラリと見て確認すると一気に魔力を集中させていく。
「魔王トライトーンッ!!」

「かかってこいッ!」
 わたくしが魔力を集中させたのを見て、魔王トライトーンもほぼ同時に凄まじい量の魔力を集中させ始める……お互いが次に何をやろうとしているのか理解したのだ。
 わたくしが持つ最大の質量攻撃である神滅魔法……魔王トライトーンほどの質量を持つ巨大な敵に対して最も効果的な攻撃の一つ。
 莫大な魔力を有するわたくしと魔王トライトーンの魔力が一気に膨れ上がったことで、魔力の発する余波で周囲に点在していた城の壁を構成していた砕けた石材やありとあらゆる物体が、その波に押し上げられて宙へと舞い上がり始める。
 もはや王城は昔見た姿ではない……魔王トライトーンの巨躯により破壊され、屋根や尖塔なんかはどこかに吹き飛んでしまっており、挙げ句の果てに恐るべき魔王の姿を見て人々は王都から逃げ出し始めているのがわかる。
「この代償は高くつくわよ?」

「何をいうか……嬉々として周囲を破壊していたのはお前も同じことよ」
 わたくしの膨れ上がる魔力は輝きを増し差し伸ばした手のひらの先から放たれた白く輝く電流となって一つの形へと集約していく。
 本音を言うなら王城でぶっ放す気はなかったんだけど、もはや保全する建物がない以上周囲をむしろまっさらにしてしまったほうが再建も早くなるだろ。
 同じように魔王トライトーンの大きく開いた口からもドス黒い魔力が渦となって、凄まじく高い高周波を放ちながら集約していくのが見える。
 わかってらっしゃる……お互いが持つ超破壊魔法を叩きつけ合って、どちらかが根をあげたらそれが決着……わたくしの口の端に笑みが浮かぶ。
 真っ向勝負、魔王と勇者どっちが強いのかを決める我慢比べ……本気と本気、持てる力を振り絞って行く魔力合戦の火蓋を切ってやろう。

「神滅魔法……雷皇のライトニング一撃ストライクッ!」
「混沌魔法……送葬たるエレクトリック黒雷フューネラル

 双方同時に放たれた魔法……わたくしの放つ雷皇のライトニング一撃ストライクは巨大な球体状と化した雷となって周囲の物体を消滅させながら魔王へと迫る。
 だが魔王トライトーンの放った漆黒の渦より放たれた恐るべき高密度な魔力……それは幾重にも分かれた凄まじい黒い稲妻となって、まさに送葬たるエレクトリック黒雷フューネラルの名前に相応しい一撃が解き放たれる。
 わたくしと魔王トライトーンのちょうど中央付近、そこでお互いが放った超魔法同士の衝突が起きるとともに、どちらがより破壊を振り撒くのかを競うようにせめぎ合う。
 押し合うたびに周囲に電流と黒い稲妻が弾け飛び、王都の中へと落下してあちこちで破壊の渦を撒き散らして行く……ドガアアアン! という爆発音が響くたびに由緒ある王都の建造物が吹き飛び、消滅し炎を巻き上げていく。
「クハハハハッ! これではどちらが破壊しているか分かりはせぬな!!」

「うおおおおおっ!!」
 お互いの魔力が頂点に達し、放たれた超魔法はその優劣を助け切ることはなく淡い光の粒となって弾け飛び、消滅していく。
 それは美しい光の奔流ともいえる幻想的な光景に見えたかもしれない、だがわたくしと魔王トライトーンは間髪入れず次の魔法を行使するために魔力を再び集中させていった。
 ここで引き下がるわけにはいかない……調べていないのでわからないけど、王都に人が残っていないことを祈るしかない。
 魔力が膨れ上がり、お互いの視線が交差する中わたくし達は再びほぼ同時に超魔法を叩きつけ合った。

「神滅魔法……獄炎の裁きファイアパワーッ!」
「混沌魔法……焼尽のファイアー虚空インザスカイ



「うわああああッ!」
 目の前でシャルロッタ及び魔王トライトーンによって放たれた凄まじい魔力の応酬……巨大な雷球と漆黒の稲妻が衝突し周囲を焼失させていったかと思えば、次に放たれたあまりに巨大な火球と、空間を引き裂いて巻き上がる炎の渦が衝突し、周囲は一気に凄まじい高熱にさらされる。
 幻獣ガルムのユルは、二人が放っている超魔法の威力に直撃しないように必死に防御結界へと魔力を注ぎ込み、なんとか影響を最小限に食い止めていた。
 防御結界がなければクリストフェルはあっという間に焼き焦がされ、塵も残さないレベルで焼失するだろうし、炎の魔力に耐性のあるユルですらあの業火の中に身を投じれば存在が焼失しかねないあまりに規格外のものだった。
 しかし……とユルは傍でじっと婚約者であるシャルロッタを見つめるクリストフェルへと視線を向ける……彼もなんとかしてシャルロッタの助けになりたいと思ってはいるのだろうが、これほどの凄まじい魔法同士の衝突の中へ飛び込めばただでは済まないと本能的に理解しているのだろう。
 それ故に今は見つめているしかできない……ぎりり、とその手のひらがキツく握りしめられるのを見て、ユルはそっと鼻先を彼の手へと押し当てる。
「婚約者どの……気持ちはわかりますが今は防ぎ切らないと」

「あ、ああ……済まない僕にもっと魔法の才能があれば……」
 クリストフェルは唇を噛み締めながらもう一度シャルロッタへと視線を送った後、すぐにユルの首筋に手のひらを添えると魔力を送り込み始める。
 元々才能としてはかなり高い彼である、コツさえ掴んで仕舞えばこのような魔力の伝達なども見事に再現してのける。
 クリストフェルの有する魔力を得て、ユルは一気に魔力を絞り出すように放出し、二人の身を守る防御結界を一気に強化して退けた。
 一気に荒れ狂う熱が引いて行く感じがして、二人はほんの少しだけだがほっと息を吐く。
「……婚約者どの、我もシャルを助けたい……だが我々があそこに飛び込むのは自殺行為」

「わかってる……だがシャルを助けなければ」

「ええ……なんとかしないと……」
 なんとかしたいのはユルも同様なのだ……だが、契約を解除されてしまったユルは友情、いや信頼だけでこの場に残っているだけだ。
 何かできることはないか? クリストフェルは魔王トライトーンの体をじっと見つめる……巨大に膨れ上がった肉体、まるで出来損なったドラゴンのような仮初の身体、漆黒にヌメヌメと光る触手の間に何かが見えた気がした。
 あれは……とクリストフェルがじっと目を凝らしたその先に、彼の青い瞳に似た何かと目が合う、それは血を分けた兄弟、背中に追いつこうと必死に手を伸ばしていたあの頃、優しくも力強い微笑みを返してくれた兄の顔。
 アンダース・マルムスティーンの上半身が、魔王トライトーンの触手に覆われた器官の中に不自然なほどはっきりと生えているのが見える。
 クリストフェルはそれを見た瞬間に、己がなすべき事をはっきりと突きつけられたような気分に掻き立てられ、防御結界の淵に再び手をかけた。

「……兄上……? まさか、魔王トライトーンは兄上の体を元に作られて……そうかッ! ユル……僕たちの仕事ができたぞ!」
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