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第三六八話 シャルロッタ 一六歳 魔王 一八
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——突然王城の地下より噴出した眩い光……それは雲を割って天へと伸び、それまで暗く澱んでいた天気を瞬時に変化させた。
「な……何……!?」
突然魔王とわたくしの眼前を貫くように、眩い光の柱が立ち上る……それは真っ直ぐに天高く伸び、それまで澱んだ厚い雲が覆う空があっという間に晴れ渡っていく。
それは王城の地下で澱んでいた魔力が、何らかの原因で圧力に耐えかね放出されたかのような、そんな勢いを持っていた。
言い得てみれば魔力の噴水、とでも言えばいいだろうか? 凄まじい力の奔流はやがて勢いを失っていき、空間へと溶けるように消えていく。
それまで余裕を持って戦っていたはずの魔王が、その光の柱を見つめて信じられないとでも言いたげな表情を浮かべた後、びくりと大きく痙攣した。
「……バカな……原始の海を人の力で止めたとでも……ガアアアッ!!」
「……クリスがやった……?」
欲する者の強さはわたくしがよく知っている……とはいえあの戦いで相当に削っているはずなので、戦闘力はガタ落ちしているだろうし、クリスでも何とかなったのかもしれない。
それ以上に原始の海という言葉を聞いて、わたくしは古い記憶の中にあるその言葉の示す意味を急に思い出した。
混沌という言葉が示す通り、全てが溶け合い混ざり合う停滞を好む彼らの神は本質的には一つであり、概念的には複数の個性を持っているとされる。
まあつまりは本来一つになっているものが、理由があって別々の個体として活動しているとでも考えればいいのだ。
原始の海と呼ばれる彼らが使う恐るべき力は、全ての生命や無機物、魔力などをごちゃ混ぜに溶かし意識を持ったまま混ぜ合わせる究極の状態を作り出す。
「……初めて聴いた時はどこの計画だよって思ったけど、実在してたのか……」
「うがあああああッ!」
そんなものが王城の地下にあったとか冗談抜きでとんでもないことだ……最終兵器の上でお茶会や舞踏会やっていたなんて洒落にもならない。
正直今まで全然そんなことにも気が付かなかった自分の迂闊さに若干引いているわたくしだが、そんなことを考えている前で、魔王の体に変化が生じた。
それは水分が急速に抜けた泥のように乾燥しひび割れ、そしてそれまで巨大な肉体を構成していたはずの肉がボロボロと腐り落ちていく。
そしてその肉体が完全に腐り落ちると共に、中心に位置する部分……そこに人間の姿をした翼を持つ魔王トライトーンの姿が現れる。
「随分小さくなったんじゃない?」
「ぐ……バカな……」
魔王トライトーンは荒い息を吐きながら憎しみに満ちた瞳をわたくしへと向ける……肉体は最初の人型であり蝙蝠の翼を持っていることは同じだが、肉体としてはかなり細くなったように思える。
ありがとうクリス……彼自身が何らかの形で魔王トライトーンが仕込んでいた罠を潰してくれたことで、反動が魔王自身へと跳ね返った格好となっているのだろう。
わたくしが虚空より引き抜いた魔剣不滅を構え直すと、魔王トライトーンは苦しそうな表情のまま同じように空間を引き裂くと、一本の戦斧を構えた。
だが、その魔力は驚くほど減衰しそれまでのような強大さは微塵も感じられない……今なら確実に倒せる?!
「……トライトーンッ!」
「舐めるなあああッ!」
一気に距離を詰めて剣を振り抜いたわたくしの一撃を、魔王トライトーンは何とか武器で受け止めてみせる……だが明らかに力が落ちており、その一撃を受け止めきれないのかググッ、とわたくしが押し込むような形で鍔迫り合いのような格好となった。
睨み合うわたくしと魔王トライトーンだが、確実に今真っ向勝負をすると負けると判断したのか、彼は口から漆黒の炎を吹き出した。
ギリギリのところで首を捻ってその攻撃を回避したわたくしだが、視線がそれた瞬間を狙って魔王の力強い前げりがわたくしの腹部に叩きつけられる。
だが魔力による防御結界が肉体への衝撃を受け止め、ズドンッ! という音を立てるが流石に勢いそのものは減衰しきれずわたくしの身体は大きく後方へと跳ね飛ばされた。
「く……まだこんな力が」
「クハハッ! 今この瞬間お前に分があることは認めよう……だが、時間さえあれば……!」
「……あ、ま、待てッ!」
魔王トライトーンはその巨大な羽を広げると、何度か羽ばたいた後空に向かって跳躍した……こいつ逃げる気か! わたくしは飛び立つ前に叩き落とそうと一気に前へと駆け出すが、一足早く彼は剣の届かない場所まで加速を始める。
ここで魔王トライトーンを逃がしてしまうと、世界の平和なんてものは一生訪れない……彼はすぐに力を取り戻すだろうし、次に倒せる機会がそれほどあるわけじゃない。
潜伏した混沌の眷属を見つけ出すのは非常に厄介だからだ……だからここで確実に滅ぼさなければ。
わたくしが飛翔するための魔法である天空の翼を発動するべく魔力を集中させ始めたその時、四つ脚の動物特有の足音をさせながら、ユルとその背に乗ったクリスがその場へと到着した。
「シャルッ! 魔王は……?」
「飛んで逃げようとしています……今から追いかけて倒しますわ」
わたくしの言葉にクリスは一度空を見上げて羽ばたく魔王トライトーンの後ろ姿を見つけると「あれか……」と呟き、すぐに真っ直ぐわたくしの瞳を見つめてじっと押し黙る。
真剣な瞳……そのまっすぐな視線に、どうしても平静でいられなくなる気がする……恥ずかしいという気持ちと、それ以上に彼に見つめられることに心地よさのようなものが芽生えてくるのは何故だろうか。
どうして良いのかわからず、わたくしは思わず視線を逸らしてしまうが、それを見たクリスは意を決したように話しかけてきた。
「……僕から君にお願いしたいことが一つだけある」
「……何でしょう?」
「必ず僕の元に帰ってきてくれ、シャル……僕は君と共にありたい」
その言葉はわたくしにとって力強く……そして心臓が大きく跳ね上がる言葉。
自分が一度認めたことだったが、自分が目の前の男性を女性として好ましく、いや本音を言うのであれば、彼のことを愛しているのだと改めて認めざるを得ない瞬間だった。
視線をそらしたまま、わたくしは足元に魔法陣を構成する……どう答えたらいい? なんて言葉を返せば彼に気持ちが伝わるのだろうか?
だけどなんて言って良いのかわからない、ぐちゃぐちゃに思考が乱れながらもわたくしはふわりと宙へと浮き上がる……それを見たクリスが何かを言おうとした瞬間、彼の顔を見ながら優しく微笑んでから言葉をかけた。
「……必ず貴方の元へ戻ります」
その言葉は小さすぎて果たして彼に伝わったかわからない……だけど彼の顔を見る勇気が出ないまま、わたくしは全力で魔王トライトーンを追いかけるために加速する。
少しだけ熱い頬を冷ますかのように、全力で天高く飛翔し翼を羽ばたいて必死に逃走を図る魔王の元へと近づいていく。
背後から恐ろしい勢いでわたくしが追いかけてきているのに気がついたのだろう、魔王は後ろを見ながら黒い炎を打ち出して何とか妨害しようと小細工を始める。
だが……その炎はわたくしの防御結界を突き破るには威力が足りない、さらに加速の勢いもあってまるで火花のようにぶつかっては舞い散っていく。
「トライトーンッ!」
「ぐ……シャルロッタ・インテリペリイイイイッ!!」
魔王トライトーンは逃げきれないと悟ったのだろう、逃走を諦めて空中で静止すると魔力を集中させていく……空中で結界でも構成するつもりか?
一定距離まで詰めたわたくしは魔力を集中する……魔王にはもう大魔法を連発する余力はなさそうだ。
対してこちらは魔力を使って飛行しているとはいえ、まだ余力は残したままだ、確実に混沌という世界の染みをここで滅ぼす。
わたくしと魔王トライトーンはほぼ同時にお互いが持つ魔法を撃ち放った。
「神滅魔法……真なる黒化!!」
「混沌魔法……病魔の使徒!」
わたくしの手から放たれた漆黒の球体……周囲の重力を捻じ曲げ、引き込みながら突き進むそれが魔王トライトーンの周囲に湧き出す腐敗した天使たちを押しつぶそうと凄まじい音を上げていく。
甲高い悲鳴を上げながら漆黒の球体を押し留めようと腐敗した天使達が接触した瞬間、ギュゴアアアアッ! という凄まじい轟音を上げながら球体は全てを飲み込もうと超圧縮を始める。
それは周囲の大気を巻き込み、押しつぶし……そして込められた魔力が限界を迎えるまで、混沌魔法による結界を引き裂いていく。
双方の魔力が限界を迎え、まるで輝く結晶のように弾けて崩れ落ちていく中、わたくしは魔王トライトーンとの距離を詰めるために加速する。
「……命を投げ打っても世界を救う、それが勇者の役目とか言われたけどさぁ……もうそんなの関係ねーよ!」
「……バカな、混沌魔法の威力が落ちているとでも……」
「わたくしはわたくしのために、愛する人のためにこの世界からアンタをぶっ飛ばすッ!!!!!」
「しゃ、シャルロッタアアアアッ!」
魔王トライトーンは接近するわたくしに向かって空間を割って取り出した戦斧を横薙ぎに振り払う……だが、それを避けることもなくまっすぐ飛び込んだわたくしの腹部へ魔王による渾身の一撃が叩き込まれるが、お構いなしにわたくしは剣を振りかぶる。
全身にみなぎる魔力が電流のように体の表面に走っていく……武器が食い込む腹部から鮮血が飛び散るが、常に展開している防御結界が致命的な斬撃の威力を弱めていて致命の一撃にはなり得ない。
そのことに気がついたのだろう……魔王トライトーンの表情にそれまで浮かばなかった絶望と恐怖の色が浮かぶ。
「——我が白刃、切り裂けぬものなし……ッ!」
前の世界では魔王と相打ちになりわたくしは生きて帰れなかった、仲間の元に帰りたかった、ずっとおかえりって言って欲しかった。
だけどそれが叶わずわたくしは再度転生しこの世界へとやってきた……望んだ姿ではなかったが、それでもわたくしを待ってくれている人ができた。
家族や友人、仲間……そしてあの人の元へと帰るために、わたくしは魔王トライトーンを切り裂く……そのままわたくしは雄叫びを上げて稲妻を纏って剣を振り抜いた。
「お前の世界までぶっ飛べ! 雷鳴乃太刀!!!!」
「な……何……!?」
突然魔王とわたくしの眼前を貫くように、眩い光の柱が立ち上る……それは真っ直ぐに天高く伸び、それまで澱んだ厚い雲が覆う空があっという間に晴れ渡っていく。
それは王城の地下で澱んでいた魔力が、何らかの原因で圧力に耐えかね放出されたかのような、そんな勢いを持っていた。
言い得てみれば魔力の噴水、とでも言えばいいだろうか? 凄まじい力の奔流はやがて勢いを失っていき、空間へと溶けるように消えていく。
それまで余裕を持って戦っていたはずの魔王が、その光の柱を見つめて信じられないとでも言いたげな表情を浮かべた後、びくりと大きく痙攣した。
「……バカな……原始の海を人の力で止めたとでも……ガアアアッ!!」
「……クリスがやった……?」
欲する者の強さはわたくしがよく知っている……とはいえあの戦いで相当に削っているはずなので、戦闘力はガタ落ちしているだろうし、クリスでも何とかなったのかもしれない。
それ以上に原始の海という言葉を聞いて、わたくしは古い記憶の中にあるその言葉の示す意味を急に思い出した。
混沌という言葉が示す通り、全てが溶け合い混ざり合う停滞を好む彼らの神は本質的には一つであり、概念的には複数の個性を持っているとされる。
まあつまりは本来一つになっているものが、理由があって別々の個体として活動しているとでも考えればいいのだ。
原始の海と呼ばれる彼らが使う恐るべき力は、全ての生命や無機物、魔力などをごちゃ混ぜに溶かし意識を持ったまま混ぜ合わせる究極の状態を作り出す。
「……初めて聴いた時はどこの計画だよって思ったけど、実在してたのか……」
「うがあああああッ!」
そんなものが王城の地下にあったとか冗談抜きでとんでもないことだ……最終兵器の上でお茶会や舞踏会やっていたなんて洒落にもならない。
正直今まで全然そんなことにも気が付かなかった自分の迂闊さに若干引いているわたくしだが、そんなことを考えている前で、魔王の体に変化が生じた。
それは水分が急速に抜けた泥のように乾燥しひび割れ、そしてそれまで巨大な肉体を構成していたはずの肉がボロボロと腐り落ちていく。
そしてその肉体が完全に腐り落ちると共に、中心に位置する部分……そこに人間の姿をした翼を持つ魔王トライトーンの姿が現れる。
「随分小さくなったんじゃない?」
「ぐ……バカな……」
魔王トライトーンは荒い息を吐きながら憎しみに満ちた瞳をわたくしへと向ける……肉体は最初の人型であり蝙蝠の翼を持っていることは同じだが、肉体としてはかなり細くなったように思える。
ありがとうクリス……彼自身が何らかの形で魔王トライトーンが仕込んでいた罠を潰してくれたことで、反動が魔王自身へと跳ね返った格好となっているのだろう。
わたくしが虚空より引き抜いた魔剣不滅を構え直すと、魔王トライトーンは苦しそうな表情のまま同じように空間を引き裂くと、一本の戦斧を構えた。
だが、その魔力は驚くほど減衰しそれまでのような強大さは微塵も感じられない……今なら確実に倒せる?!
「……トライトーンッ!」
「舐めるなあああッ!」
一気に距離を詰めて剣を振り抜いたわたくしの一撃を、魔王トライトーンは何とか武器で受け止めてみせる……だが明らかに力が落ちており、その一撃を受け止めきれないのかググッ、とわたくしが押し込むような形で鍔迫り合いのような格好となった。
睨み合うわたくしと魔王トライトーンだが、確実に今真っ向勝負をすると負けると判断したのか、彼は口から漆黒の炎を吹き出した。
ギリギリのところで首を捻ってその攻撃を回避したわたくしだが、視線がそれた瞬間を狙って魔王の力強い前げりがわたくしの腹部に叩きつけられる。
だが魔力による防御結界が肉体への衝撃を受け止め、ズドンッ! という音を立てるが流石に勢いそのものは減衰しきれずわたくしの身体は大きく後方へと跳ね飛ばされた。
「く……まだこんな力が」
「クハハッ! 今この瞬間お前に分があることは認めよう……だが、時間さえあれば……!」
「……あ、ま、待てッ!」
魔王トライトーンはその巨大な羽を広げると、何度か羽ばたいた後空に向かって跳躍した……こいつ逃げる気か! わたくしは飛び立つ前に叩き落とそうと一気に前へと駆け出すが、一足早く彼は剣の届かない場所まで加速を始める。
ここで魔王トライトーンを逃がしてしまうと、世界の平和なんてものは一生訪れない……彼はすぐに力を取り戻すだろうし、次に倒せる機会がそれほどあるわけじゃない。
潜伏した混沌の眷属を見つけ出すのは非常に厄介だからだ……だからここで確実に滅ぼさなければ。
わたくしが飛翔するための魔法である天空の翼を発動するべく魔力を集中させ始めたその時、四つ脚の動物特有の足音をさせながら、ユルとその背に乗ったクリスがその場へと到着した。
「シャルッ! 魔王は……?」
「飛んで逃げようとしています……今から追いかけて倒しますわ」
わたくしの言葉にクリスは一度空を見上げて羽ばたく魔王トライトーンの後ろ姿を見つけると「あれか……」と呟き、すぐに真っ直ぐわたくしの瞳を見つめてじっと押し黙る。
真剣な瞳……そのまっすぐな視線に、どうしても平静でいられなくなる気がする……恥ずかしいという気持ちと、それ以上に彼に見つめられることに心地よさのようなものが芽生えてくるのは何故だろうか。
どうして良いのかわからず、わたくしは思わず視線を逸らしてしまうが、それを見たクリスは意を決したように話しかけてきた。
「……僕から君にお願いしたいことが一つだけある」
「……何でしょう?」
「必ず僕の元に帰ってきてくれ、シャル……僕は君と共にありたい」
その言葉はわたくしにとって力強く……そして心臓が大きく跳ね上がる言葉。
自分が一度認めたことだったが、自分が目の前の男性を女性として好ましく、いや本音を言うのであれば、彼のことを愛しているのだと改めて認めざるを得ない瞬間だった。
視線をそらしたまま、わたくしは足元に魔法陣を構成する……どう答えたらいい? なんて言葉を返せば彼に気持ちが伝わるのだろうか?
だけどなんて言って良いのかわからない、ぐちゃぐちゃに思考が乱れながらもわたくしはふわりと宙へと浮き上がる……それを見たクリスが何かを言おうとした瞬間、彼の顔を見ながら優しく微笑んでから言葉をかけた。
「……必ず貴方の元へ戻ります」
その言葉は小さすぎて果たして彼に伝わったかわからない……だけど彼の顔を見る勇気が出ないまま、わたくしは全力で魔王トライトーンを追いかけるために加速する。
少しだけ熱い頬を冷ますかのように、全力で天高く飛翔し翼を羽ばたいて必死に逃走を図る魔王の元へと近づいていく。
背後から恐ろしい勢いでわたくしが追いかけてきているのに気がついたのだろう、魔王は後ろを見ながら黒い炎を打ち出して何とか妨害しようと小細工を始める。
だが……その炎はわたくしの防御結界を突き破るには威力が足りない、さらに加速の勢いもあってまるで火花のようにぶつかっては舞い散っていく。
「トライトーンッ!」
「ぐ……シャルロッタ・インテリペリイイイイッ!!」
魔王トライトーンは逃げきれないと悟ったのだろう、逃走を諦めて空中で静止すると魔力を集中させていく……空中で結界でも構成するつもりか?
一定距離まで詰めたわたくしは魔力を集中する……魔王にはもう大魔法を連発する余力はなさそうだ。
対してこちらは魔力を使って飛行しているとはいえ、まだ余力は残したままだ、確実に混沌という世界の染みをここで滅ぼす。
わたくしと魔王トライトーンはほぼ同時にお互いが持つ魔法を撃ち放った。
「神滅魔法……真なる黒化!!」
「混沌魔法……病魔の使徒!」
わたくしの手から放たれた漆黒の球体……周囲の重力を捻じ曲げ、引き込みながら突き進むそれが魔王トライトーンの周囲に湧き出す腐敗した天使たちを押しつぶそうと凄まじい音を上げていく。
甲高い悲鳴を上げながら漆黒の球体を押し留めようと腐敗した天使達が接触した瞬間、ギュゴアアアアッ! という凄まじい轟音を上げながら球体は全てを飲み込もうと超圧縮を始める。
それは周囲の大気を巻き込み、押しつぶし……そして込められた魔力が限界を迎えるまで、混沌魔法による結界を引き裂いていく。
双方の魔力が限界を迎え、まるで輝く結晶のように弾けて崩れ落ちていく中、わたくしは魔王トライトーンとの距離を詰めるために加速する。
「……命を投げ打っても世界を救う、それが勇者の役目とか言われたけどさぁ……もうそんなの関係ねーよ!」
「……バカな、混沌魔法の威力が落ちているとでも……」
「わたくしはわたくしのために、愛する人のためにこの世界からアンタをぶっ飛ばすッ!!!!!」
「しゃ、シャルロッタアアアアッ!」
魔王トライトーンは接近するわたくしに向かって空間を割って取り出した戦斧を横薙ぎに振り払う……だが、それを避けることもなくまっすぐ飛び込んだわたくしの腹部へ魔王による渾身の一撃が叩き込まれるが、お構いなしにわたくしは剣を振りかぶる。
全身にみなぎる魔力が電流のように体の表面に走っていく……武器が食い込む腹部から鮮血が飛び散るが、常に展開している防御結界が致命的な斬撃の威力を弱めていて致命の一撃にはなり得ない。
そのことに気がついたのだろう……魔王トライトーンの表情にそれまで浮かばなかった絶望と恐怖の色が浮かぶ。
「——我が白刃、切り裂けぬものなし……ッ!」
前の世界では魔王と相打ちになりわたくしは生きて帰れなかった、仲間の元に帰りたかった、ずっとおかえりって言って欲しかった。
だけどそれが叶わずわたくしは再度転生しこの世界へとやってきた……望んだ姿ではなかったが、それでもわたくしを待ってくれている人ができた。
家族や友人、仲間……そしてあの人の元へと帰るために、わたくしは魔王トライトーンを切り裂く……そのままわたくしは雄叫びを上げて稲妻を纏って剣を振り抜いた。
「お前の世界までぶっ飛べ! 雷鳴乃太刀!!!!」
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