彼に据え膳無自覚彼女

山吹花月

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彼に据え膳無自覚彼女

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 ぐらぐらする頭を押さえ、奈津なつはやっとの思いでベッドへ潜り込む。茹だるような熱が体内にこもり汗が滲む。発熱のせいで瞳には涙が浮かんで周りがぼやけて見える。
 疲労が一定以上溜まると発熱してしまう体質は昔からだ。普段なら気を付けているが今回は少し油断した。これぐらいなら大丈夫だろうと過信してしまった結果、見事に発熱し食事もままならない。
「なっちゃん! 来たよ!」
 りくの慌ただしい声と共に落ち着きのない足音が駆け寄ってくる。
 薬の在庫もなく途方に暮れていた時、恋人の陸から電話があった。すぐに奈津の異変に気付いた彼が買出しと看病に駆けつけてくれたのだ。
「りっくん……」
 いつもなら陸の賑やかな部分も楽しくて好きだが、今は床から伝わるわずかな振動すらしんどい。
「あっごめんね、ちょっと騒がしかったね」
 ぴたりと動作を止めた陸は出来るだけ物音を立てないように奈津の側へ寄った。やることが極端だ。
「おでこ冷やすの買ってきた。貼るね」
 フィルムを剥がす音がして額に冷たいジェルがくっつく。じんわり熱が奪われていき気持ちがいい。
「ごはんは?」
「んー……」
 力無く首を振る。
「なにか食べられそう?」
 正直固形物を噛むことすらつらく、再び首を振る。
「じゃあこれ、ゼリー。ちょっとでいいから」
 袋状の外装に太めの吸い口が付いているタイプのゼリーだ。これなら少し食べられそうだ。体を起こそうと肘を付くがうまく力が入らない。肘が滑り体勢が崩れそうになる。
「あっ無理しないで。……ほら」
 抱き寄せられ陸の胸に寄りかかる。差し出されたゼリーの吸い口を含み、少しだけ飲み込む。熱い体にゼリーの冷たさが心地いい。何口か飲んだところで口を離した。
「じゃあ次、薬ね」
 出された錠剤を口に含みなんとか水で流し込む。陸が気付いてくれるまで解熱剤も飲めずにつらいまま一晩を過ごすと覚悟していたので、薬を飲めたという安心感から力が抜ける。もう一度陸にもたれかかった。柔軟剤の華やかな香りの中に交じって彼の匂いが鼻腔に広がった。少し鼓動が早い。急いで駆けつけてくれたのだと心が温かくなる。
「ん……りっくんの匂い、安心する……」
 頬をすり寄せ身を任せれば、ぎゅっと逞しい腕に包み込まれた。
「匂いって……なんか、照れる」
 恥ずかしそうに笑いながらも、すんと鼻を鳴らす奈津を拒まず好きなようにさせてくれる。頬を撫でる陸の手が冷たくて火照る体に気持ちいい。
「りっくん……明日まで居てって言ったらだめ?」
 体調が良くないせいで急に心細くなり、普段はあまり言わないお願いをしてしまう。
「だめじゃないよ。ちゃんと側にいるからね」
 嬉しくて微笑めば、頬に彼の唇が触れる。柔らかくてひんやりした。

 陸の助けで着替えを済ませ横になる。ベッドの脇に座る陸を見上げると、ゆっくりと頭を撫でてくれた。側にいてくれる心強さと安堵で落ち着くのだが、もっと近くに居てほしい寂しさがほんの少し押し寄せた。
「ねえりっくん、一緒に寝たい……」
 思わず口をついて出ていた。頭を撫でる陸の手が止まる。
「えッ! えっと……隣に寝ちゃうと狭くて休まらないよね。俺ならソファーで寝られるから」
 陸が視線を彷徨わせ自身の首を触る。困ったときの癖だ。普段ならこの癖にも、表情から困惑していることにも気付ける。が、熱に浮かされた頭では思考もままならず、思ったことをそのまま口走っていた。
「……寂しい。だめ?」
 ほんのり涙が溢れてくる気配がした。熱で情緒と涙腺が不安定になっている。
「だ、大丈夫! 一緒に寝よっか!」
 慌てた様子で陸は奈津の手を取る。きゅっと包まれると安心した。
「ありがと、ね」
 側に居てくれるのが嬉しくて笑いかけると、陸の焦る表情が和らぎ優しい笑みが返ってきた。

「お邪魔します……」
 風呂に入り着替えてきた陸が奈津の隣に寄り添う。陸から使い慣れたシャンプーの香りが漂ってくる。
「うちの、シャンプーの匂い……嬉しい」
 思ったことがそのまま口に出てしまう。彼をもっと感じたくて陸の胸へすり寄る。鼻が付くほど寄るとふわりと香る甘い陸の香りにほっとした。
「なっちゃん、一緒に寝ようとか、今とか、わざと……?」
「ん?」
 なんのことかわからず聞き返すが返事はなかった。小さく息を吐く気配がする。
「なっちゃんは俺の忍耐に感謝するんだよ?」
「ん、来てくれて、ありがと……」
 火照る思考と眠気で陸の言葉が遠くに聞こえる。内容もあまりわからない。
「聞こえてないな……もう寝な?」
「……ん、おやすみ……」
 熱と睡魔でふわふわする意識の中、控えめに背中に腕がまわされる感覚がした。包まれているのが心地よくて、奈津はそのまま意識を手放した。



 翌朝、目が覚めた奈津は上体を起こす。昨日の発熱が嘘のように体も頭もすっきりしている。倦怠感も残っておらず全快だ。伸びをして体の緊張を解し隣の陸を窺った。奈津に背を向け縮こまる背中が可愛いく見える。
 愛おしさと、ちょっとしたいたずら心が湧いて、丸まる背中へ抱きつく。彼の胸へ手を這わせ胸板の感触を楽しむ。奈津の目の前に無防備にさらされたうなじへ唇を寄せ、音を立てて何度も口付けた。
 唇に触れる肌が気持ちよくて夢中でキスをしていると、まわした腕を掴まれ目の前の景色が反転した。
「……なっちゃん」
 視界が陸で満ちる。語気は奈津を咎めているようであり拗ねているようでもある。物言いたげに揺らぐ瞳が奈津を捕らえた。
「おはよう?」
 的外れな奈津の言葉に陸の唇が尖る。
「おはよ。……そうやって無邪気に誘うのずるいんだけど。どんだけこっちが据え膳されてたと思ってるの」
「えっと、ご苦労様、です?」
「もぉ……」
 呆れたように陸が笑う。触れるだけのキスが降りすぐに離れる。
「熱は?」
「下がったみたい」
「体は? しんどくない?」
「うん全快! 元気余ってる」
「ん、よかった」
「……」
「……」
 少しの沈黙が流れる。奈津の腕を拘束する陸の手はそのまま動かない。
 奈津にのしかかる陸の足に自身のそれを添わせた。ゆっくりと、彼の情欲を煽るように刺激する。
「っ……無理させたくなかったのに。なっちゃんがやらしいことするから、我慢できなくなっちゃった」
 ふとももに硬いものが押しつけられる。瞳が扇情的に潤んでいる。
「ん、私も我慢できなくなっちゃった」
 首を伸ばし彼へ口付けると陸が嬉しそうな顔をする。彼の逞しい体に触れて奈津も少し昂っていた。
 腕が解放され代わりにその手が背中へまわされた。昨夜は冷たく感じた彼の掌が今は熱い。
 唇を重ね柔らかく擦り合いついばみその感触を楽しむ。徐々に深く角度を変えて貪っていく。陸の濡れた舌が奈津の唇をなぞりしっとりと濡らした。そのまま差し込まれ、舌根から舐め上げられぞくりと背筋が疼く。
 されるがまま舌を差し出せば、しゃぶられ唇に挟んで吸い上げられる。奈津を離したくないという独占欲みたいで少し嬉しくなった。
 陸の手が布越しにふくらみを包み上げた。まだ柔らかい先端に指先が埋められ、じわりと生まれたわずかな愉悦に奈津の肩がぴくりと跳ねる。
 押し込んでは離れ、また押し込んでを繰り返す。じれったい刺激に胸の飾りは立ち上がり、もっとと求めるように陸の指先へ頭をもたげた。
 服の中へ陸の両手が侵入しそのまま脱がされる。ずり上げられ、奈津の頭が衣服から解放された途端陸が胸の先端へ吸いついた。反対側は指で摘ままれ捏ね繰りまわされる。
 性急な刺激に甘い声が漏れた。湧き出る快感が乳首から腰の奥へ重くじくじくと溜まっていく。
 唇から解放されないまま添わされた熱い舌が凝った先端へ押し込まれた。硬く尖らせた舌先が奈津の敏感な蕾を執拗に攻め立て疼かせる。絶え間ない悦楽に奈津の体は反応が止まらない。
 吸いつきながら陸が鼻を鳴らし息を吸い込む。奈津ははっとして焦った。昨日はシャワーを浴びていない。発熱のせいで汗もかいていることに今更気付いた。
「っぁ、ごめ……おふろ、汗くさいから……嗅がないっ、で……」
 両手で陸の肩を押すがびくともしない。
「全然。いい匂い……」
 胸の谷間に顔を埋め陸が深く呼吸する。
「俺、すっごい好き」
 鼻先が肌に触れたまま上目遣いに微笑まれる。恥ずかしさでくらくらした。
「ぅっ、……えっち」
 ささやかな反抗で陸の頬をつねるが、彼を嬉しげににやつかせる効果しかなかった。
 陸の唇が奈津のお腹を這い、すんすんと鼻を鳴らし嗅ぎながら下腹部に着く。下着もろとも衣服を剥がれ局部が外気に晒された。
「あっそこはほんとに待っ……」
「昨日の朝は入ったんでしょ?」
「そうだけど……っ」
 奈津の静止は意味をなさず、陸の顔が白いふともものあいだに埋まる。
 べろりと陰核が舐め上げられ快感で腰が痺れた。
 脱力した肉厚な舌が肉粒をまんべんなく舐め転がす。濡れた感触が柔らかいのに鋭く官能を刺激する。絶え間ない責めに蜜壺から愛液が溢れてきた。
「あぁ……やらしい匂い……」
 唇が離れ蕾が解放されたとほっと息をついた瞬間、濡れた花弁が開かれ陸の舌が這う。硬く尖った舌先が入り口を撫でまわす。
 驚きと気持ち良さに思わず腰を引いて逃げようとするが、両腕で掴まれ阻まれた。強く引かれ彼の顔が局部に埋まり密着する。舌を出し入れされ肉襞を舐めまわされた。放置されていた充血する粒も指で摘まみ上げられ愉悦が増す。腰が揺れるたびに彼の腕が強く巻きつき快感を逃がすことが許されない。蓄積される切ない悦楽が腹の奥でのたうつ。極限まで高められ迫る絶頂感に体が強張ってきた。潤む入り口を吸われながら指で花芯が潰され、奈津の熱が弾け散る。奥から蜜が溢れ秘口はさらに潤っていく。果てても陸は止まらず、ぢゅうぢゅうと音を立て愛液が吸われ、痙攣がやまない体は再び限界を迎えた。
「ッ、ぁ、ぅ……今、だめ……」
 奈津の言葉は舐め啜る音に掻き消された。秘裂から離れない陸の唇を次々溢れる潤みが濡らしていく。
 執拗に吸い続けもう一度頂を越えさせられ、奈津はやっと解放された。肩で息をし言葉を発する余裕もない奈津を見ながら、陸は口角に付く吐蜜を美味しそうに舐める。その妖艶な絵に痙攣冷めやらぬ奈津の熱が再び燻る。手を伸ばし、びくつく陸の猛茎へ指を這わせた。
「っもう、いいよ、っ」
「ぅぁ、でも……もっと慣らした方が」
 指先で鈴口をきゅっと押さえ微笑んで見せる。
「待たせないでよ」
 ごくりと陸の喉が鳴った。手早くゴムを装着した陸は奈津のふとももを割り開いた。露わになった熱い入り口に猛る熱杭が宛がわれる。
「ゆっくり、入れるから……」
 荒ぶる呼吸と情欲の灯る瞳から余裕のなさが見て取れる。欲望と理性がせめぎ合う彼の瞳にぞくりと奥の悦が疼いた。
 ちゅぶりと水音を立て、張り詰めた彼の先が入ってきた。肉壁を押し広げゆっくり奥へと侵入する。肉を開き擦る感覚が官能をくすぐっていく。最奥へ辿り着き、のしかかる陸が体をぴたりと寄せ頬やこめかみにキスが降る。視線を絡ませ唇が重ねられた。
「動いて、いい?」
 すぐにでも穿ちたくて仕方がないくせに奈津を気遣う陸に愛おしさが溢れる。微笑み頷けば剛直がゆるく律動を始めた。
 内壁を擦られじわじわと秘処に切なさが溜まり込んでいく。中の浅いところを小刻みに突かれればきゅんと彼を締めつけた。蜜が溢れ、繋がるところからいやらしく水音が響く。
 次第に抽挿の幅が大きくなり限界まで引き抜かれる。寂しさにひくつく蜜壺に、再び杭が押し入り奥へと着く。密着した最奥から愉悦が滲み襞が彼へ絡みついた。
 奥に押しつけられたまま軽く揺すられると、じゅくじゅくに熟れた快感が奥から溢れてくる。直に響く刺激に奈津の口からは甘い嬌声がとめどなく零れた。
「ここ……ッ、好き、だよね」
 ぐりぐりとえぐるように弱いところばかりに当てられる。肉壁の痙攣がやまずさらに剛直を握り込んでしまう。絶え間ない快感に力む足は陸の腰に巻きつき離すことができない。
 出入りが激しくなり肌のぶつかる乾いた音が早く大きくなっていく。ぐちゅぐちゅと掻き出された愛液がお尻まで垂れていた。
「……ッ、なっちゃん……大好き、なっちゃん」
 熱に浮かされた陸の声が耳元に吹き込まれる。耳殻がくすぐられさらに奈津の情欲を煽ってくる。
「んぁッ、好き、りっくん……っん、ぁ、ぁあッ!」
 激しく穿つ肉棒に揺さぶられ奈津の熱が弾けた。ぎゅうぎゅうと陸を締めつけ蜜壺が脈打つ。何度も体が跳ね、やまない絶頂感に必死で陸にしがみつく。絡みつく奈津に追い立てられた陸も背を震わせどくりと欲を吐き出した。
 呼吸が落ち着くのを待たずついばむように唇が触れ合う。少しずつ熱が去り心地よい幸福感に包まれた。
 ずるりと陸が抜かれ、後の処理を終えた彼が隣に倒れ込む。後ろから陸の両腕がお腹に巻きついてきて背中に彼のしっとり温かい肌が密着した。
「大丈夫? なっちゃん」
「うん、平気」
「……やっぱりさ、体調悪い時と病み上がりにくっついたりキスは、ちょっと……」
「嫌だった?」
「逆だから困ってるの。……不謹慎だけどさ、熱あるなっちゃん、心配なんだけどそれとは別で目ぇとろんとしてて可愛いから」
 ちゅっとうなじにキスをされる。
「なっちゃんのこと大切にしたいのに……」
 腕に力がこもり首筋に彼の顔が埋まる。
「無理させたくないから、病み上がりは誘惑禁止」
「そんなつもりなかったけど、りっくんが我慢するっていうのは……」
「出来ない」
 即答が返ってくる。潔い返事に思わず奈津は吹き出した。
「笑わないでよ! 毎回据え膳とか……どんな拷問だよ」
 首を捻ると拗ねて膨れっ面の陸と目が合う。頬を引き寄せ口付けると尖っていた唇が緩んでいき笑顔になる。拗ねた顔も可愛いな、と思ってしまった奈津は、次も誘惑してしまうかも、と予感がして心の中で先に謝っておいた。

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