23 / 26
23
しおりを挟む湖の周りを散策途中、雑貨屋を見つけた。
看板には小さな花があしらわれておりかわいらしい印象だ。
「かわいい雰囲気ね」
「そうだね。入ってみようか」
アンティーク調のドアノブを引くと、カラン、と木のベルがふたりの入店を知らせる。
「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」
カウンターからは白髪を後頭部で上品にまとめた女性が顔を出した。
軽く会釈をして店内を見回る。
置物や食器が並ぶ中、クレオがひときわ目を惹く一角があった。
「レース?」
クレオの視線に気付いたロキが問う。
「うん、すごく綺麗」
細い金銀糸で繊細に編みこまれたレース。
角度によって輝きが変わり見ていて飽きない。
「花嫁のベールに使われることもあるんですよ」
店員の女性がおだやかに言う。
「近くに教会がありましてね」
「教会……」
クレオの瞳が輝く。
ふたりは入籍の手続きをしただけで結婚式は挙げていなかった。
「どこにあるか詳しく教えてもらってもいいですか」
ロキが女性に聞き返す。
「一本道でしてね」
女性は手元のメモにさらさらとなにかを書き始める。
「はい、いってらっしゃい」
手渡された紙には、この短時間で書き上げたとは思えないほど丁寧な道順が描かれていた。
「助かります」
ロキが紙を受け取り店員へ会釈する。
「折角だから行ってみようか」
ロキに促され店を出た。
「ありがとうございました」
店員の声を背に、もらった地図を頼りに教会へ向かう。
幸いにも一本道でわかりやすく迷うことなく辿り着けた。
大きな規模ではないが、趣のある親しみ深い教会がふたりの目の前に現れる。
入り口は解放されており、子供たちが無邪気に走り回っていた。
「よろしければどうぞ」
老齢のシスターに促され中へ足を踏み入れた。
厳かでありながら温かみのある雰囲気。
内装に見惚れていると、突然クレオの服の裾が引っ張られた。
見ると幼い女の子がふたりを見上げていた。
「おねえさんたち、ここでけっこんしきするの?」
「わあ! けっこんしきだあ!」
クレオの返事を待たず、女の子の言葉を聞きつけた他の子供たちがわらわらとふたりを取り囲む。
「こらこら、みんな落ち着いて」
シスターが子供たちをたしなめる。
「正式な挙式となると事前に相談が必要ですが……」
シスターがおだやかな笑みのままふたりに語りかける。
「互いに愛を誓い合うだけでしたら、今すぐにでも」
「やったあ! けっこんしきだ!」
ふたりの返事よりも先に子供たちがはしゃぎ始める。
正直クレオは胸が高鳴っていた。
慎ましやかに始まった結婚生活も気に入っていたが、やはり神の前で愛を誓い合う儀式には多少なりとも憧れはある。
窺うようにロキを見ると柔らかく微笑んでいた。
「しちゃおうか。結婚式」
「えっでも、こんな普通の格好じゃ……」
「じゃあ、これ」
ふわりと頭上になにかが乗せられる。
「これって……」
「さっきのお店でね」
それはクレオが気に入っていた金銀糸のベール。
「はなよめさんきれい!」
女の子たちはさらにはしゃいで黄色い歓声を上げた。
「行こう」
促されるまま祭壇へ立つ。
「難しい形式はわからないけど」
ロキが前置きをしてクレオの手を取る。
左手の薬指に指輪がはめられた。
「ッ、これ……!」
「結婚指輪」
なめらかな曲線を描いた銀に輝く指輪。
「準備はしてたんだけど、いつ渡そうかなって」
指輪をはめた薬指にロキの唇が触れる。
「ずっとずっと大切にします。クレオちゃん、大好きです」
ロキの柔らかな微笑みは滲んだ涙でぼやけてしまった。
「私、も……。ロキ、大好き……」
溢れる涙を拭ったロキに抱き締められた。
「一緒に幸せな人生を送ろうね」
「うん、うんっ……」
ぽろぽろと零れ続ける涙で頷くだけで精いっぱいだった。
子供たちとシスターの祝福を受けながら、これからも彼と人生を歩んでいくんだと決意を新たにした。
「あっという間だったね」
宿に戻り夕食を終えたひと時、ゆっくりと茶を飲みながらロキが呟く。
旅行最後の夜、明日には自宅へ帰ることになっていた。
「楽しかったなあ」
しみじみと呟くロキ。
目を細め遠くを見つめているような瞳、おそらくこの旅行の思い出を振り返っているのだろう。
「うん、楽しかった」
クレオも幸せな気持ちを噛みしめながら頷く。
「結婚式、嬉しかった」
「僕も」
ゆっくりとロキが近付くき唇が触れ合う。
鼻先が触れ合いそうな距離で見つめ合い、どちらからともなく笑った。
「……あ」
急にロキが間抜けな声を出す。
「なに?」
「あ、いや、なんでも……」
歯切れが悪いところを見るに、場違いな話か気まずい内容なのだろう。
「気になる」
クレオは慣れっこなので気にせず追及する。
「……えっと」
観念したのかロキはしぶしぶ口を開いた。
「結婚式の後ってことは、今日が初夜か、って、ふと……思っちゃって……」
気まずそうにロキが俯く。
「良い雰囲気なのになに考えてんだろ僕って思って……」
「いいんじゃない、初夜」
「え?」
「今日が私たちの初夜で」
「クレオちゃん……」
ロキの手が頬に触れ唇が重なる。
「うんと優しくするから」
33
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる