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第1章 森の子ネコーお船へ行く
第11話 ゆったりお魚気分
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お風呂は、浴場の一番奥にあった。大きいお風呂と、小さいお風呂が、二つ仲良く並んでいる。
どちらのお風呂の壁からも、ごっついお魚の頭が飛び出していた。もちろん、本物のお魚ではない。そういう装飾だ。パカッと開いたお魚のお口の中から、浴槽に向かってドボドボと湯が流れ込み、もわもわと湯気を立てていた。
中に何かが詰まった布の袋が、両方のお風呂でプカプカしていた。草の汁で染め上げたような色の、目の粗い生地で作られた袋。大きさは、人間の大人の、合わせた手のひらの上にすっぽり収まるくらいだ。袋の中には、疲れを取るための薬草が、いっぱいに詰められている。
今日は、薬湯の日だったのだ。
にゃんごろーは、大きいお風呂と小さいお風呂の境目に立ち、「ほほぅ」と中を覗き込んだ。小さいお風呂の方が、底が浅い造りになっていた。
「大きい方は人間用で、小さい方は体の小さいネコーと人間の子供用じゃな。大きい方は、お湯の温度もアチチじゃからな。気をつけるんじゃぞ?」
「はーい」
長老が、小さい方の湯船の中をジャボジャボと進みながら教えてくれた。にゃんごろーは、素直にお返事をしたものの、人間用のお風呂が、どのくらいアチチなのか気になって仕方がなかった。
「うぅん、どのくりゃい、アチチにゃのか、きににゃるぅ。お、おててのしゃきを、ちょっちょらけ…………」
にゃんごろーは、大きいお風呂の縁にしゃがみ込み、人間用の大きなお風呂に片手をチャポンとつけてみた。
「にゃ!?」
思っていたよりも、ずっと熱くて、にゃんごろーは小さく叫んで、チャポンしたばかりのお手々を早々に引き上げてしまった。
こんなに熱いお湯の中なのに、平気な顔どころか、気持ちよさそうにしているセンリとニコルの二人が、信じられなかった。
こんなところに浸かっていたら、スープの具になってしまいそうだ、とにゃんごろーは思った。
「ねぇ、ねぇ? こんにゃに、あついおゆにはいっちぇ、シュープのぐに、にゃっちゃりしにゃいの? ろーしちぇ、ふちゃりは、へーきにゃの?」
思ったことを、そのまま告げると、二人は笑い出した。けれど、肝心の答えの方は帰って来ない。お返事どころか、笑いすぎて、呼吸すら覚束ない有様なのだ。
どうして笑われているのか分からずに、にゃんごろーがお目目をパチクリしていると、長老に呼ばれた。その長老の声も笑っている。
「にょっほっほっ。ほれ、にゃんごろー、こっちに来るがよい」
「…………はーい」
どうしてなのか疑問は残ったけれど、初めてのお風呂にも興味津々だったので、にゃんごろーは気持ちを切り替えて、元気にお返事をした。笑われたことはすっかり忘れて、いそいそと小さい方の湯船へ向う。小さい湯船は浅い造りになっているといっても、湯の高さは、にゃんごろーのお胸のあたりまでありそうだった。けれど、縁に沿って、湯船の内側に段差が設けられていたので、にゃんごろーひとりでも何とか中に入れそうだった。
にゃんごろーは湯船に背を向けて縁に手を付けながら、そろりと片足を湯の中に降ろしていった。
お湯は、熱すぎずぬるすぎず、ちょうどいい案配だった。
後ろを向いたまま、段からも降りると、にゃんごろーは一人で出来た達成感に顔を輝かせながら、長老を振り返る。
長老は、にこにこ笑いながら頷いて、にゃんごろーを手招いた。
「うむ。一人で入れたの。その段差に座ってもいいんじゃが、今日は長老のお膝にのせてやろう。ほれ、こっちに来い。あ、ゆっくりじゃぞ」
「うん!」
褒められて嬉しくなったにゃんごろーは、バシャバシャとお湯を掻き分けながら、泳げそうな湯の中を進む。無事到着して、いそいそと長老のお膝の上に納まると、「ほれ」と薬草の入った袋を渡された。手渡された袋をモミモミしたり、お湯に沈めたりして、手を遊ばせながら、右へ左へと頭を動かす。
一面の青に囲まれながら湯に浸かっていると、本当に海の中にいる気分だった。
壁に描かれた躍動感のあるお魚は、今にも壁を飛び出してきてそうだ。にゃんごろーの目の前まで、スイーっと泳いできて「一緒に泳ごう」と誘いをかけるお魚を想像して、にゃんごろーは「にゃふふ」と笑った。綺麗な青い空間を、大きなお魚や小さなお魚の群れと一緒に自由に泳ぎ回るのは、とても楽しそうだ。
泳ぐのは苦手だけれど、ここでなら上手に泳げそうな気がした。
想像の中で、お魚さんにも負けない見事な泳ぎを披露し、妄想スイミングを堪能すると、にゃんごろーはポツリと呟いた。
「でも、にゃんごろーは、やっぱりおさかにゃさんは、たべるほうがすきだにゃあ…………」
「な、なんじゃ? いきなり?」
「ん? うん。いみゃねぇ、おしゃかにゃしゃんの、きるんをあじわってちゃの。いっしょにおよいれ、たのしかっちゃ」
「お魚さんの気分…………。ふむ、なるほど。壁に描かれている魚たちと泳ぎ回る空想を楽しんでおった、と。でも、やっぱり、食べる方が好きだ、とな」
「うん!」
長老に呟きを拾われて、特に恥じらうこともなく、素直に理由を説明するにゃんごろー。湯船に浸かって気分がふわふわしているせいか、口調も大分ふわふわしている。
いろいろとふわふわしている子ネコーは、こういうところが食いしん坊だといわれる所以なのだということにも、長老が呆れていることにも気が付かない。
けれど、大きい湯船の二人の様子がおかしい事には気が付いた。
「んん? ねえ、ちょうろう。センリしゃんとニコルしゃん、どうしちゃったの? らいりょうるかにゃ? ましゃか、ほんとうに、シュープのぐに…………」
「うん。大丈夫じゃ。ああして、疲れを癒しているのじゃ。今は、そっとしておいてあげなさい」
「しょ、しょっか。おちゅかれしゃま! ゆっくり、やしゅんれね」
顔を真っ赤にしてプルプル震えながら笑うのを堪えていた二人は、長老の言葉を素直に信じたにゃんごろーに労われたことで、むしろ笑いの限界に達し、湯船に沈みそうになったけれど、何とかギリギリで耐えた。
「おー、そうじゃ、にゃんごろー。今日は、お船にお泊りじゃぞ」
「え? おちょみゃり!?」
話を変えようとしたのか、それとも単に今思い出しただけなのか。長老に告げられてにゃんごろーは、ぐるんと頭を後ろに傾げて長老を見上げた。お耳の先っちょが、長老の首元にあたる。
夕ごはんをお船で食べることは聞かされていたけれど、お泊りとは聞いていなかった。
子ネコーの瞳が期待と喜びに煌めく。
「うむ。ネコーの住処は、あの匂いが広がっていてのー。あれを何とかしないと、眠れそうもないからの」
「ええー? ちゃいへん! にゃんとかにゃるの?」
「うむ、問題ない。今日はもう疲れたから、何とかするのを明日にしただけじゃ」
「しょか。あ、ほかのみんにゃは、どうしゅるのかにゃ?」
お泊りの理由があの匂いだと聞いて、にゃんごろーは森へ逃げていったみんなのことが心配になった。火が消えたことに気付いて住処に戻ってきても、匂いのせいでお家に帰ることは出来ないかもしれないのだ。
けれど、長老は呑気に答えた。
「んー? まあ、大丈夫じゃろ。ルシアの家の傍と、広場と長老の家には、魔法の看板で書置きを残してきたからの。長老たちはお船に泊まる、みんなも来ていいぞー、とな」
「みんな、おふねにきてくれるかにゃあ?」
「まあ、にゃんごろー以外は、みんなおとなのネコーじゃしな。来ないなら来ないで、なんとかするじゃろ。森で野宿するなり、自分の家だけ魔法でなんとかするなり、のう」
「しょれも、しょっかー」
のんびりと理由を説明されて、にゃんごろーは納得した。頷くと、同時にお腹がクーと鳴った。おやつのトマトもご褒美のコーンスープも、お風呂に入っている内に、すっかり消化されてしまったようだ。
「よーし、そろそろ上がるとしようかの」
「うん!」
お風呂はお風呂でいいものだったし、少し名残惜しくはあるが、夕ごはんの魅力には抗えない。
にゃんごろーは、勇んで長老のお膝から立ち上がった。
「そろそろ、そろーり、と行くとしようかの。にゃんごろー、長老に続け!」
「にゃい!」
溢れ出てくる涎をゴックンしながら、にゃんごろーは先に歩き出した長老の後に続く。長老も、お船での夕ごはんをかなり楽しみにしているようだ。声が弾んでいる。
ザパリ、と湯船から上がると、長老はにゃんごろーが出てくるのを待ってから、そろそろ、そろーり、と前進する。
「転ばんように、気をつけるんじゃぞー! それ! そろ、そろ、そろー…………うぉっとお!」
「にゃ!? ちょ、ちょーりょー!?」
慎重に進んでいるつもりでいて、長老も浮かれていたのだろう。タイルの上に踏み出した足が、ツルリと滑った。両手を振り回しながら後ろに倒れてくる長老を、にゃんごろーは支えようと踏ん張ったけれど、子ネコーの力で支え切れるものではない。
潰されるー、と目を閉じると、何か暖かいものがにゃんごろーの背中を支えてくれた。同時に、長老の体が、ふわっと軽くなる。
「大丈夫かー?」
「気を付けてね、二人とも」
ニコルとセンリの声がすぐ傍から聞こえて来て、にゃんごろーは目を開けた。
どうやら二人も、にゃんごろーたちに続いて湯船から出ていたらしい。センリがにゃんごろーの背中を、ニコルが長老を片手で支えて助けてくれたのだ。
「おお、すまんな。二人とも」
「あ、ありあちょー! きょーは、いろいろ、いっぱい、ありあちょー!」
ルシアが引き起こした火柱の消火を手伝ってくれただけでなく、夕ごはんの前に転んで怪我しちゃったかも事件からも助けてもらったのだ。
感激のあまり目を潤ませながら、にゃんごろーは二人にお礼を言った。
それから、長老をビシッと𠮟りつける。
「もーう、ちょーりょーはー! りるんれ、きをちゅけろっちぇ、いっちぇちゃのにぃ!」
「うむ。すまんのじゃ」
「つぎゅは、にゃんごろーら、しゃきにありゅくかりゃね!」
「うむ」
反省して項垂れる長老の前で、にゃんごろーは調子にのって、むんと胸を張った。そして、案の定、バランスを崩して後ろへ転びかけ、またしてもセンリに助けてもらう羽目になる。
「ふたりは、いいコンビだなぁ」
「もう、こうしたほうが早いな」
センリとニコルは笑いながらひょいひょいと、それぞれ子ネコーとネコーを抱き上げる。細身のセンリはにゃんごろーを、体格のいいニコルは長老を。
こうして、食い意地のはった似た者同士の子ネコーとネコーは、センリとニコルに抱えられて、無事タイルの罠を切り抜け、脱衣所へと辿り着くのであった。
どちらのお風呂の壁からも、ごっついお魚の頭が飛び出していた。もちろん、本物のお魚ではない。そういう装飾だ。パカッと開いたお魚のお口の中から、浴槽に向かってドボドボと湯が流れ込み、もわもわと湯気を立てていた。
中に何かが詰まった布の袋が、両方のお風呂でプカプカしていた。草の汁で染め上げたような色の、目の粗い生地で作られた袋。大きさは、人間の大人の、合わせた手のひらの上にすっぽり収まるくらいだ。袋の中には、疲れを取るための薬草が、いっぱいに詰められている。
今日は、薬湯の日だったのだ。
にゃんごろーは、大きいお風呂と小さいお風呂の境目に立ち、「ほほぅ」と中を覗き込んだ。小さいお風呂の方が、底が浅い造りになっていた。
「大きい方は人間用で、小さい方は体の小さいネコーと人間の子供用じゃな。大きい方は、お湯の温度もアチチじゃからな。気をつけるんじゃぞ?」
「はーい」
長老が、小さい方の湯船の中をジャボジャボと進みながら教えてくれた。にゃんごろーは、素直にお返事をしたものの、人間用のお風呂が、どのくらいアチチなのか気になって仕方がなかった。
「うぅん、どのくりゃい、アチチにゃのか、きににゃるぅ。お、おててのしゃきを、ちょっちょらけ…………」
にゃんごろーは、大きいお風呂の縁にしゃがみ込み、人間用の大きなお風呂に片手をチャポンとつけてみた。
「にゃ!?」
思っていたよりも、ずっと熱くて、にゃんごろーは小さく叫んで、チャポンしたばかりのお手々を早々に引き上げてしまった。
こんなに熱いお湯の中なのに、平気な顔どころか、気持ちよさそうにしているセンリとニコルの二人が、信じられなかった。
こんなところに浸かっていたら、スープの具になってしまいそうだ、とにゃんごろーは思った。
「ねぇ、ねぇ? こんにゃに、あついおゆにはいっちぇ、シュープのぐに、にゃっちゃりしにゃいの? ろーしちぇ、ふちゃりは、へーきにゃの?」
思ったことを、そのまま告げると、二人は笑い出した。けれど、肝心の答えの方は帰って来ない。お返事どころか、笑いすぎて、呼吸すら覚束ない有様なのだ。
どうして笑われているのか分からずに、にゃんごろーがお目目をパチクリしていると、長老に呼ばれた。その長老の声も笑っている。
「にょっほっほっ。ほれ、にゃんごろー、こっちに来るがよい」
「…………はーい」
どうしてなのか疑問は残ったけれど、初めてのお風呂にも興味津々だったので、にゃんごろーは気持ちを切り替えて、元気にお返事をした。笑われたことはすっかり忘れて、いそいそと小さい方の湯船へ向う。小さい湯船は浅い造りになっているといっても、湯の高さは、にゃんごろーのお胸のあたりまでありそうだった。けれど、縁に沿って、湯船の内側に段差が設けられていたので、にゃんごろーひとりでも何とか中に入れそうだった。
にゃんごろーは湯船に背を向けて縁に手を付けながら、そろりと片足を湯の中に降ろしていった。
お湯は、熱すぎずぬるすぎず、ちょうどいい案配だった。
後ろを向いたまま、段からも降りると、にゃんごろーは一人で出来た達成感に顔を輝かせながら、長老を振り返る。
長老は、にこにこ笑いながら頷いて、にゃんごろーを手招いた。
「うむ。一人で入れたの。その段差に座ってもいいんじゃが、今日は長老のお膝にのせてやろう。ほれ、こっちに来い。あ、ゆっくりじゃぞ」
「うん!」
褒められて嬉しくなったにゃんごろーは、バシャバシャとお湯を掻き分けながら、泳げそうな湯の中を進む。無事到着して、いそいそと長老のお膝の上に納まると、「ほれ」と薬草の入った袋を渡された。手渡された袋をモミモミしたり、お湯に沈めたりして、手を遊ばせながら、右へ左へと頭を動かす。
一面の青に囲まれながら湯に浸かっていると、本当に海の中にいる気分だった。
壁に描かれた躍動感のあるお魚は、今にも壁を飛び出してきてそうだ。にゃんごろーの目の前まで、スイーっと泳いできて「一緒に泳ごう」と誘いをかけるお魚を想像して、にゃんごろーは「にゃふふ」と笑った。綺麗な青い空間を、大きなお魚や小さなお魚の群れと一緒に自由に泳ぎ回るのは、とても楽しそうだ。
泳ぐのは苦手だけれど、ここでなら上手に泳げそうな気がした。
想像の中で、お魚さんにも負けない見事な泳ぎを披露し、妄想スイミングを堪能すると、にゃんごろーはポツリと呟いた。
「でも、にゃんごろーは、やっぱりおさかにゃさんは、たべるほうがすきだにゃあ…………」
「な、なんじゃ? いきなり?」
「ん? うん。いみゃねぇ、おしゃかにゃしゃんの、きるんをあじわってちゃの。いっしょにおよいれ、たのしかっちゃ」
「お魚さんの気分…………。ふむ、なるほど。壁に描かれている魚たちと泳ぎ回る空想を楽しんでおった、と。でも、やっぱり、食べる方が好きだ、とな」
「うん!」
長老に呟きを拾われて、特に恥じらうこともなく、素直に理由を説明するにゃんごろー。湯船に浸かって気分がふわふわしているせいか、口調も大分ふわふわしている。
いろいろとふわふわしている子ネコーは、こういうところが食いしん坊だといわれる所以なのだということにも、長老が呆れていることにも気が付かない。
けれど、大きい湯船の二人の様子がおかしい事には気が付いた。
「んん? ねえ、ちょうろう。センリしゃんとニコルしゃん、どうしちゃったの? らいりょうるかにゃ? ましゃか、ほんとうに、シュープのぐに…………」
「うん。大丈夫じゃ。ああして、疲れを癒しているのじゃ。今は、そっとしておいてあげなさい」
「しょ、しょっか。おちゅかれしゃま! ゆっくり、やしゅんれね」
顔を真っ赤にしてプルプル震えながら笑うのを堪えていた二人は、長老の言葉を素直に信じたにゃんごろーに労われたことで、むしろ笑いの限界に達し、湯船に沈みそうになったけれど、何とかギリギリで耐えた。
「おー、そうじゃ、にゃんごろー。今日は、お船にお泊りじゃぞ」
「え? おちょみゃり!?」
話を変えようとしたのか、それとも単に今思い出しただけなのか。長老に告げられてにゃんごろーは、ぐるんと頭を後ろに傾げて長老を見上げた。お耳の先っちょが、長老の首元にあたる。
夕ごはんをお船で食べることは聞かされていたけれど、お泊りとは聞いていなかった。
子ネコーの瞳が期待と喜びに煌めく。
「うむ。ネコーの住処は、あの匂いが広がっていてのー。あれを何とかしないと、眠れそうもないからの」
「ええー? ちゃいへん! にゃんとかにゃるの?」
「うむ、問題ない。今日はもう疲れたから、何とかするのを明日にしただけじゃ」
「しょか。あ、ほかのみんにゃは、どうしゅるのかにゃ?」
お泊りの理由があの匂いだと聞いて、にゃんごろーは森へ逃げていったみんなのことが心配になった。火が消えたことに気付いて住処に戻ってきても、匂いのせいでお家に帰ることは出来ないかもしれないのだ。
けれど、長老は呑気に答えた。
「んー? まあ、大丈夫じゃろ。ルシアの家の傍と、広場と長老の家には、魔法の看板で書置きを残してきたからの。長老たちはお船に泊まる、みんなも来ていいぞー、とな」
「みんな、おふねにきてくれるかにゃあ?」
「まあ、にゃんごろー以外は、みんなおとなのネコーじゃしな。来ないなら来ないで、なんとかするじゃろ。森で野宿するなり、自分の家だけ魔法でなんとかするなり、のう」
「しょれも、しょっかー」
のんびりと理由を説明されて、にゃんごろーは納得した。頷くと、同時にお腹がクーと鳴った。おやつのトマトもご褒美のコーンスープも、お風呂に入っている内に、すっかり消化されてしまったようだ。
「よーし、そろそろ上がるとしようかの」
「うん!」
お風呂はお風呂でいいものだったし、少し名残惜しくはあるが、夕ごはんの魅力には抗えない。
にゃんごろーは、勇んで長老のお膝から立ち上がった。
「そろそろ、そろーり、と行くとしようかの。にゃんごろー、長老に続け!」
「にゃい!」
溢れ出てくる涎をゴックンしながら、にゃんごろーは先に歩き出した長老の後に続く。長老も、お船での夕ごはんをかなり楽しみにしているようだ。声が弾んでいる。
ザパリ、と湯船から上がると、長老はにゃんごろーが出てくるのを待ってから、そろそろ、そろーり、と前進する。
「転ばんように、気をつけるんじゃぞー! それ! そろ、そろ、そろー…………うぉっとお!」
「にゃ!? ちょ、ちょーりょー!?」
慎重に進んでいるつもりでいて、長老も浮かれていたのだろう。タイルの上に踏み出した足が、ツルリと滑った。両手を振り回しながら後ろに倒れてくる長老を、にゃんごろーは支えようと踏ん張ったけれど、子ネコーの力で支え切れるものではない。
潰されるー、と目を閉じると、何か暖かいものがにゃんごろーの背中を支えてくれた。同時に、長老の体が、ふわっと軽くなる。
「大丈夫かー?」
「気を付けてね、二人とも」
ニコルとセンリの声がすぐ傍から聞こえて来て、にゃんごろーは目を開けた。
どうやら二人も、にゃんごろーたちに続いて湯船から出ていたらしい。センリがにゃんごろーの背中を、ニコルが長老を片手で支えて助けてくれたのだ。
「おお、すまんな。二人とも」
「あ、ありあちょー! きょーは、いろいろ、いっぱい、ありあちょー!」
ルシアが引き起こした火柱の消火を手伝ってくれただけでなく、夕ごはんの前に転んで怪我しちゃったかも事件からも助けてもらったのだ。
感激のあまり目を潤ませながら、にゃんごろーは二人にお礼を言った。
それから、長老をビシッと𠮟りつける。
「もーう、ちょーりょーはー! りるんれ、きをちゅけろっちぇ、いっちぇちゃのにぃ!」
「うむ。すまんのじゃ」
「つぎゅは、にゃんごろーら、しゃきにありゅくかりゃね!」
「うむ」
反省して項垂れる長老の前で、にゃんごろーは調子にのって、むんと胸を張った。そして、案の定、バランスを崩して後ろへ転びかけ、またしてもセンリに助けてもらう羽目になる。
「ふたりは、いいコンビだなぁ」
「もう、こうしたほうが早いな」
センリとニコルは笑いながらひょいひょいと、それぞれ子ネコーとネコーを抱き上げる。細身のセンリはにゃんごろーを、体格のいいニコルは長老を。
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