もふっとにゃ!

蜜りんご

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第1章 森の子ネコーお船へ行く

第17話 長老の重大発表

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 船内から後部デッキへと出て、デッキから森を抜ける大きな道へと渡されたスロープを下りれば、炊き出しスペースのある広場はすぐそこだ。
 道の右手には畑と倉庫。左手には、炊き出しスペースがつくられた空き地がある。空き地の奥には、ネコーの住処へと通じる森の小道への入り口もあった。
 テントの中や、外の空き地で、ネコーたちは思い思いにくつろいでいた。長老は、みんなに朝の挨拶をしながら、テントの外に集まるように伝えて回った
 きっと、今日やるべきお仕事の予定なんかを話すのだろうな、とにゃんごろーは思っていた。
 みんなが集まると、なぜか、にゃんごろーも長老と並んで、みんなの前に立たされた。
 お手伝いをしなければという気持ちと、ミルゥたちとの別れを惜しむ気持ちで揺れ動いていたにゃんごろーは、そのことを深く気に留めなかった。
 気もそぞろなにゃんごろーを、長老はニヤリと見下ろした。
 昨夜、にゃんごろーが寝ている内に、長老と打ち合わせ済みのネコーのみんなは、そんな長老を見てみぬふりで、子ネコーの反応を楽しみに笑いを堪えている。
 沈痛なお顔で俯いている子ネコーをチラ見し、「にゃふっ」と笑ってから、長老は高らかに言い放った。

「みなのもの! 長老より、重大発表じゃ! 長老とにゃんごろーは、今日からしばらくお船でお泊りすることになった! その間、ネコーの住処のことは、みんなに任せるのじゃ! よろしく頼むぞ!」
「おー!」
「………………………………にょ?」

 にゃんごろーは、俯いていたお顔を上げて、お目目をパチクリした。想像すらしていなかった寝耳に水の発表だった。ポカンとしたお顔で、まず長老を見上げ、それから前に集まっているみんなのお顔を見回した。
 ネコーのみんなは、任せろというように拳を突き上げて、長老の呼びかけに答えていた。誰一人、驚いている様子はない。長老の決定に、不満を言うものもいない。
 子ネコーだけが、不思議そうなお顔をしている。
 長老は、ニヤニヤしたお顔で子ネコーを見下ろした。視線を感じた子ネコーは、お顔を長老へ戻す。
 ニヤニヤ長老は、吹き出すのを堪えているようだった。
 そのお顔を見つめている内に、さっきの宣言の内容が、子ネコーの頭の中にジワジワと広がっていった。ただの言葉の羅列が、ちゃんと意味を伴って子ネコーの脳内を駆け巡っていく。
 後ろから頭をポンと叩かれたら目玉が零れ落ちそうなくらいにお目目を真ん丸に見開いて、にゃんごろーは叫んだ。

「にょえええええええええ!?」

 子ネコーの叫び声に被せるように、ネコーたちの笑い声がよく晴れた空へと響き渡った。
 叫んだお口のまま、にゃんごろーは長老を見つめる。びっくりしすぎて、みんなの笑い声は耳に届いていなかった。

「え? らって、しょんな? い、いいにょ?」

 青猫号でのお泊り継続は嬉しいのだが、今はそんな場合ではないはずなのだ。森の住処では、住処に充満しているかもしれない変な臭い問題と、ルシアの工房兼倉庫兼家を建てるという大仕事が待っているのだ。まだ子ネコーのにゃんごろーはともかく、長老がいなくていいのだろうか。心配になってオロオロと尋ねると、長老はにゃんごろーの頭を肉球のお手々でポンポンした。

「うむ。だって、じゃ。みんな逃げだしたのに、長老はたった一人で残って、火柱を何とかするのを頑張ったしのー。それに、長老はもうお年だじゃからのー。昨日、頑張りすぎて疲れたから、お船に残って、ちょいとばかり骨休みしないとの~」

 そう言って長老は、「にょほほ~」と笑った。
それはまあ、そうかもしれなかった。けれど。でも。みんなは、それでいいのだろうか、と視線を前に移すと、みんなも笑っていた。大笑いしていた。
 それで、ようやくにゃんごろーは気が付いた。
 これは、長老が企てた「にゃんごろーをびっくりさせよう大作戦」だったのだと。
 みんな、グルだったのだ。共犯だったのだ。
 みんな、いつの間にやら長老に巻き込まれていて、にゃんごろーだけが知らされていなかったのだ。
 にゃんごろーは、ぽっかりとお口を開いて、楽しそうに笑っている長老と森のみんなを交互に見つめる。

 喜べばいいのか、怒ればいのか、子ネコーには分からなかった。

 もっとお船で遊びたいと駄々をこねなかったのは、ネコーの住処が大変な時だと分かっていたからだ。だから、ミルゥとのお別れも我慢したというのに、それなのに。
それなのに、こんな、そんな。いいのだろうか?

 青猫号に、もっとお泊り出来るのは、にゃんごろーだってもちろん嬉しい。でも、同じくらいにルシアの工房兼倉庫兼自宅を建て直すお手伝いをしたいという気持ちもあるのだ。だからこそ、我儘を言わずに、寂しいのも名残惜しいのも我慢して、住処に帰ろうと健気に思っていたのに、それなのに、なのだ。本当に、みんなのお手伝いをしなくていいのだろうか?
 みんなが頑張っているのに、にゃんごろーだけ青猫号で楽しく遊んでいるというのは、いくら子ネコーでも気が引ける。せっかくの青猫号のごはんも、みんなのことが気になって、美味しさが半減してしまいそうだ。
 素直に心からは喜べず、困惑のあまりお耳をぺしゃりとさせて頭を抱えるにゃんごろーを見下ろして、長老はニンマリと笑った。
 どうしていいか分からない複雑な子ネコー心なんて、長老にはお見通しなのだ。
 
「あ、そうじゃ。長老は骨休みじゃが、にゃんごろーはお船で魔法の練習だぞー?」
「え?」

 からかうような長老の言葉に、にゃんごろーは顔を上げた。それはそれで話が違うような気がする。
 長老はもちろん、子ネコーの気持ちを分かったうえで取り合わない。

「魔法が上達したら、ルシアの工房を建て直す手伝いが出来るかもなー?」
「はっ!? しょ、しょれは…………」
「どうじゃー?」
「にゃ、う、にゃ……」

 畳みかけてくる長老に、にゃんごろーの心は、大きく揺らいであっさりと傾いた。
 青猫号で美味しいごはんを食べながら魔法を練習して、あっという間に上手になって、颯爽とみんなのお手伝いに行く。
 それは、すべての問題を解決する、とても素敵なアイデアに思えた。
 みんなのお手伝いをするために、魔法の練習をするのならば、にゃんごろーひとりで遊んでいるということにはならない。にゃんごろーも青猫号で頑張っている、ということになるからだ。それなら、みんなに引け目を感じることなく、美味しくごはんが食べられそうだ。
 それに、ルシアの工房は、にゃんごろーとにゃしろーの思い出の場所だ。もしもそうなったら、魔女の元で療養中のにゃしろーにも、いい報告が出来そうだ。そう思うと、なんだかワクワクしてくる。

 それに。それに、それに。

 もっと魔法が上手になれば、にゃんごろーひとりでも森を抜けて、青猫号とネコーの住処を行ったり来たり出来るようになるかもしれない。そうしたら、森の住処に戻ってからも、いつでも好きな時に、青猫号のみんなに、ミルゥに会いに行ける。
 会いに行くことが出来る。
 それは、とても素敵な考えだった。
 子ネコーの小さくて、もふもふな体の中に、やる気がみなぎってくる。キラリとお目目を光らせると、にゃんごろーは両手を「にゃおー!」と振り上げた。そして、元気な声で、みんなに宣誓する。

「わかっちゃ! まきゃせて! にゃんごろーは、おふねで、まほうのれんしゅーを、しゅる! しょれれ、しゅぐに、りょーるになっちぇ、みんなのおてちゅだいに、いきゅからね!」
「うむ。よく言ったぞ、にゃんごろーよ!」

 その気になったにゃんごろーを、長老がすかさず褒めた。心得ているネコーのみんなも、やんややんやと囃し立てる。

 迷走するルシアに翻弄されるみんなの前に、救世主のごとく現れて、素敵な工房をこしらえ拍手喝さいを受ける未来を思い描いて、キラキラと張り切るにゃんごろー。

 そんな子ネコーの考えていることなんて、長老だけじゃなくて、ネコーのみんなもお見通しだった。そう都合よく思い描いた通りに行くわけもないのだが、せっかくやる気に満ち溢れている子ネコーの水を差すようなことは、誰も言わない。
 みんな優しく笑いながら、子ネコーの決意を見守っている。


 長老とにゃんごろーの青猫号での長期お泊りが計画された、その理由。
 骨休みをしたいな、というのも長老の別に隠していない本当の本音だ。にゃんごろーに魔法を上達させたいというのも、もちろん本当だ。それに加えて、長老的には、これを機会に若いものに色々任せて、そろそろ隠居の準備をしたいな、などという思惑もあった。
 でも、一番の目的は、というと。
 お手伝いをしようと張り切りまくった子ネコーが、むやみやたらに現場をウロチョロして、邪魔にならないように。そして、余計な怪我をしないように、というおとなたちの配慮だった。
 そんなこととは露知らず、子ネコーは素敵な未来を夢見て、ただただ瞳を煌めかせている。

 ヒーローのように颯爽と現れて、工房をあっという間に再建するなんてことは、夢のまた夢だろうけれど、ちゃんと魔法を練習するようなら、何か少し位は手伝わせてやらねば、と長老はもふぁもふぁの胸毛を撫でさすりながら考える。

(どうせ、みんなの様子は、何度か見に行かねばならんしの。みんなへの差し入れをお手伝い、とかがいいかのー)

 それは、子ネコーの夢見るお手伝いとは、だいぶかけ離れているけれど、長老には舌先三寸で子ネコーを丸め込む自信があった。
 小さい体に、やる気をいっぱい漲らせて張り切る子ネコー。
 朝の柔らかい陽ざしを受けて、白の混じった明るい茶色が輝いて見える。
 お日様も、子ネコーのやる気を応援してくれているようだ。

 長老はもっふぁもふぁな白い胸毛を撫でながら、もふもふキラキラしている子ネコーを優しい瞳で見下ろした。
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