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第1章 星渡りのステラ
第4話 地球外へ駆け落ちしちゃいました☆
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青にも蒼にも紫にも見える不思議な色合いの瞳。
青くて蒼くて紫でもある炎が燃え盛る星のような瞳。
その瞳が。
強く激しく焦がれるように求めるようにわたしを射抜く。
空気が揺れて、声が聞こえた。
焦がれるような声。
長い間、離れ離れになっていた恋人を見つけたみたいな、焦がれるような熱を帯びた声。
『見つけた』
知らない言葉。異国の言葉。ううん、異星の言葉?
聞いたことがない言葉のはずなのに、どこか懐かしい。
なのに、なぜか意味が分かる。
前世のわたしの仕業だ。
懐かしんでいるのは、前世のわたしで。
脳内通訳してくれているのも、前世のわたし。
いや、これ。
通訳……なのか?
普通に意味が分かるんだけど?
知らない間に睡眠学習させられてたみたい…………な感じで、スルッと意味が分かるんだけど?
関連事項とはいえ、乙女イベント的には完全なる他所事を考えていられるのは、余裕があるからじゃなくて、むしろ余裕がないからだった。
他所事でも考えていないと、自分が何をしでかすが分からない。
自分が信用できない。
中学生の頃の自分なら、今頃とっくに麗しの幻影に飛びついていたはずだ。
前世のお姫様でさえ初対面の人っぽいのに、「わたしも、会いたかった!」とか一人で勝手に盛り上がって、すでに飛び出していたはずだ。
けれど、高校生の…………ちょっぴり大人になったわたしは。
うっかりヒロイン気取りになりそうな自分をギリギリで押さえている。
とはいえ。
地球のチャックが閉じて、地面が元通りのまばら雑草に地面になっていたら、行っちゃってたかもしれない。
だけど、まだチャックは開いたまま。
わたしを誘う彼は、鮮明な幻影のままなのに。
宇宙はリアルにそこにある。
美しいものは、恐ろしい。
宇宙は綺麗で、恐ろしかった。
地球に開いた小さな傷口から顔を覗かせている宇宙は。
広大すぎる宇宙の片鱗にすぎないけれど。
所々で星が瞬く暗闇の向こうには、果てというものが感じられない。
あそこに落ちたら、果て無き宇宙の迷子になるまでもなくお陀仏なんだろうけれど。
生身宇宙でお陀仏の恐怖よりも、ありえないはずの永遠の迷子状態への恐怖が、ひたひたとダークに押し寄せて来る。
寒くて寂しい感じがする。
孤独ってヤツ?
そう。
孤独への本能的な恐怖が、わたしを思いとどまらせている。
恋愛脳よりも危機感が勝ったのだ。
だって、宇宙がそこに見えているんだもん。
圧倒的な存在感を放ちながら、そこにあるんだもん。
そりゃ、危機感も仕事をするってもんだよね?
自分が、恋愛至上主義の恋愛脳タイプじゃなかったことにホッとしつつも、ちょっぴり残念にも思っていた。
せめて、彼が実体化していくれていたら……なんて思っている自分がいる。
うん。瀬戸際。
天秤は、まだ揺れている。
宇宙の危険なんてそっちのけで、落ちてしまいたい自分がいる。
そんな揺れる天秤を傾けたのは、他ならぬ彼だった。
『ずっと、探していた。やっと、見つけた。もう、逃さない』
彼は、そう言って、わたしに手を差し伸べた。
ああ、あの人は。
わたしを…………わたしを探しに来てくれたんだ。
どうしようもなく、胸が苦しくなった。
銀の彼は、胡坐を解いて、片膝を立て、わたしに手を差し出している。
絨毯の上で、身を乗り出すようにして、手を伸ばしている。
わたしに向かって。
彼の目が、わたしを捉えて離さない。
氷の刃のような冷たい印象の美貌なのに、その瞳には熱が宿っていた。
青く燃え盛る炎。
青く燃え盛る星。
瞳の色は不思議に揺らいで定まらないままだけれど。
イメージとしては、透き通るような青い星だった。
その青い光が、わたしを求めている。
その青い光は、わたしを求めているのだ。
ズルイ。
こんなの、反則だ。
別に、とりわけ面食いってわけじゃない。
わけじゃないけれど。
そうは言っても、綺麗なものはやっぱり好きなわけで。
うっかり見惚れちゃうくらいには、心に刺さる、心が震える美しさなわけで。
封印したはずの夢。
封印しただけの夢。
封印したってことは、なくなったわけじゃないってこと。
鍵をかけて、勝手に出てこないようにしただけってこと。
わたしの中に、まだちゃんと存在しているってこと。
その夢が、今。
青く美しい光を纏って。
青く美しい光の形をして。
向こうから手を差し出してきたのだ。
こんなにも強く、射るような瞳で。
焦がれるように、恋がれるように。
わたしを求めているのだ。
こんなの、卑怯だよ。
こんなの、どうやって抗えばいいの?
『さあ! この手を取れ! 来るんだ! 俺の光! 俺の星!』
ああ。もう無理。
こんなの無理だよ。
せめて、知らない名前を呼んでくれれば、抗えたかもしれないのに。
わたしの名前は星灯愛。
星に愛を灯すと書いて、ステラと読む。
彼は、わたしに手を伸ばして、こう呼んだ。
俺の光。俺の星――――と。
それじゃあ、まるで。
まるで、わたしを呼んでいるみたいで。
前世じゃない、わたしを求められているようで。
もう…………ダメだった。
足元の鞄に躓きそうになりながら、わたしは駆け出した。
宇宙で昇天しちゃってもいい。
宇宙で永遠の孤独を彷徨うよりも。
躊躇っている内に、この幻影が消えてしまうことの方が、今は怖かった。
だって、もう。なかった事には出来ない。
あの青い星の光を忘れて生きていくことは、もう出来ない。
ここでなくしてしまったら、きっと一生後悔する。
あの青い星の光を、わたしのものにしたい。
逃がさないで欲しい。
捕まえていて欲しい。
あなたのものにして欲しい。
そう思ってしまったから、だから。
わたしは、手を伸ばした。
幻影。蜃気楼。ホログラム。
ゆらゆら揺らめく、そんな不確かな。
けれど、確かにそこにある熱に。
差し伸べられた手を取るべく、手を伸ばした。
わたしが彼の手に触れるより早く、彼がわたしの手を掴んだ。
少しばかり乱暴なそれが、なぜかひどく嬉しかった。
こんなに不確かに揺らめいているのに、その手は確かにわたしを捕らえた。
わたしを引き寄せ、絨毯の上に誘い、胸の中に閉じ込める。
少し甘くて、でもどこか爽やかで、スパイシィな香りがした。
あ。好き。
好きな匂い。
ずっと、この匂いに包まれていたい。
うっとりしていたら、一際大きな揺らぎを感じた。
揺れがおさまると、視界の端に映る景色は見慣れないものになっていた。
ああ、ここはもう。
日本じゃない。
地球じゃないんだ。
夢で見たことがある、どこか遠くて何か違う世界。
理が異なる世界。
宇宙の向こう側の異星かもしれない。
なんにせよ、わたしは――――。
覚悟も書置きもないままに、地球外への駆け落ちを敢行してしまったのだ。
青くて蒼くて紫でもある炎が燃え盛る星のような瞳。
その瞳が。
強く激しく焦がれるように求めるようにわたしを射抜く。
空気が揺れて、声が聞こえた。
焦がれるような声。
長い間、離れ離れになっていた恋人を見つけたみたいな、焦がれるような熱を帯びた声。
『見つけた』
知らない言葉。異国の言葉。ううん、異星の言葉?
聞いたことがない言葉のはずなのに、どこか懐かしい。
なのに、なぜか意味が分かる。
前世のわたしの仕業だ。
懐かしんでいるのは、前世のわたしで。
脳内通訳してくれているのも、前世のわたし。
いや、これ。
通訳……なのか?
普通に意味が分かるんだけど?
知らない間に睡眠学習させられてたみたい…………な感じで、スルッと意味が分かるんだけど?
関連事項とはいえ、乙女イベント的には完全なる他所事を考えていられるのは、余裕があるからじゃなくて、むしろ余裕がないからだった。
他所事でも考えていないと、自分が何をしでかすが分からない。
自分が信用できない。
中学生の頃の自分なら、今頃とっくに麗しの幻影に飛びついていたはずだ。
前世のお姫様でさえ初対面の人っぽいのに、「わたしも、会いたかった!」とか一人で勝手に盛り上がって、すでに飛び出していたはずだ。
けれど、高校生の…………ちょっぴり大人になったわたしは。
うっかりヒロイン気取りになりそうな自分をギリギリで押さえている。
とはいえ。
地球のチャックが閉じて、地面が元通りのまばら雑草に地面になっていたら、行っちゃってたかもしれない。
だけど、まだチャックは開いたまま。
わたしを誘う彼は、鮮明な幻影のままなのに。
宇宙はリアルにそこにある。
美しいものは、恐ろしい。
宇宙は綺麗で、恐ろしかった。
地球に開いた小さな傷口から顔を覗かせている宇宙は。
広大すぎる宇宙の片鱗にすぎないけれど。
所々で星が瞬く暗闇の向こうには、果てというものが感じられない。
あそこに落ちたら、果て無き宇宙の迷子になるまでもなくお陀仏なんだろうけれど。
生身宇宙でお陀仏の恐怖よりも、ありえないはずの永遠の迷子状態への恐怖が、ひたひたとダークに押し寄せて来る。
寒くて寂しい感じがする。
孤独ってヤツ?
そう。
孤独への本能的な恐怖が、わたしを思いとどまらせている。
恋愛脳よりも危機感が勝ったのだ。
だって、宇宙がそこに見えているんだもん。
圧倒的な存在感を放ちながら、そこにあるんだもん。
そりゃ、危機感も仕事をするってもんだよね?
自分が、恋愛至上主義の恋愛脳タイプじゃなかったことにホッとしつつも、ちょっぴり残念にも思っていた。
せめて、彼が実体化していくれていたら……なんて思っている自分がいる。
うん。瀬戸際。
天秤は、まだ揺れている。
宇宙の危険なんてそっちのけで、落ちてしまいたい自分がいる。
そんな揺れる天秤を傾けたのは、他ならぬ彼だった。
『ずっと、探していた。やっと、見つけた。もう、逃さない』
彼は、そう言って、わたしに手を差し伸べた。
ああ、あの人は。
わたしを…………わたしを探しに来てくれたんだ。
どうしようもなく、胸が苦しくなった。
銀の彼は、胡坐を解いて、片膝を立て、わたしに手を差し出している。
絨毯の上で、身を乗り出すようにして、手を伸ばしている。
わたしに向かって。
彼の目が、わたしを捉えて離さない。
氷の刃のような冷たい印象の美貌なのに、その瞳には熱が宿っていた。
青く燃え盛る炎。
青く燃え盛る星。
瞳の色は不思議に揺らいで定まらないままだけれど。
イメージとしては、透き通るような青い星だった。
その青い光が、わたしを求めている。
その青い光は、わたしを求めているのだ。
ズルイ。
こんなの、反則だ。
別に、とりわけ面食いってわけじゃない。
わけじゃないけれど。
そうは言っても、綺麗なものはやっぱり好きなわけで。
うっかり見惚れちゃうくらいには、心に刺さる、心が震える美しさなわけで。
封印したはずの夢。
封印しただけの夢。
封印したってことは、なくなったわけじゃないってこと。
鍵をかけて、勝手に出てこないようにしただけってこと。
わたしの中に、まだちゃんと存在しているってこと。
その夢が、今。
青く美しい光を纏って。
青く美しい光の形をして。
向こうから手を差し出してきたのだ。
こんなにも強く、射るような瞳で。
焦がれるように、恋がれるように。
わたしを求めているのだ。
こんなの、卑怯だよ。
こんなの、どうやって抗えばいいの?
『さあ! この手を取れ! 来るんだ! 俺の光! 俺の星!』
ああ。もう無理。
こんなの無理だよ。
せめて、知らない名前を呼んでくれれば、抗えたかもしれないのに。
わたしの名前は星灯愛。
星に愛を灯すと書いて、ステラと読む。
彼は、わたしに手を伸ばして、こう呼んだ。
俺の光。俺の星――――と。
それじゃあ、まるで。
まるで、わたしを呼んでいるみたいで。
前世じゃない、わたしを求められているようで。
もう…………ダメだった。
足元の鞄に躓きそうになりながら、わたしは駆け出した。
宇宙で昇天しちゃってもいい。
宇宙で永遠の孤独を彷徨うよりも。
躊躇っている内に、この幻影が消えてしまうことの方が、今は怖かった。
だって、もう。なかった事には出来ない。
あの青い星の光を忘れて生きていくことは、もう出来ない。
ここでなくしてしまったら、きっと一生後悔する。
あの青い星の光を、わたしのものにしたい。
逃がさないで欲しい。
捕まえていて欲しい。
あなたのものにして欲しい。
そう思ってしまったから、だから。
わたしは、手を伸ばした。
幻影。蜃気楼。ホログラム。
ゆらゆら揺らめく、そんな不確かな。
けれど、確かにそこにある熱に。
差し伸べられた手を取るべく、手を伸ばした。
わたしが彼の手に触れるより早く、彼がわたしの手を掴んだ。
少しばかり乱暴なそれが、なぜかひどく嬉しかった。
こんなに不確かに揺らめいているのに、その手は確かにわたしを捕らえた。
わたしを引き寄せ、絨毯の上に誘い、胸の中に閉じ込める。
少し甘くて、でもどこか爽やかで、スパイシィな香りがした。
あ。好き。
好きな匂い。
ずっと、この匂いに包まれていたい。
うっとりしていたら、一際大きな揺らぎを感じた。
揺れがおさまると、視界の端に映る景色は見慣れないものになっていた。
ああ、ここはもう。
日本じゃない。
地球じゃないんだ。
夢で見たことがある、どこか遠くて何か違う世界。
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宇宙の向こう側の異星かもしれない。
なんにせよ、わたしは――――。
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