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クリスマス番外編
『聖なる夜はお静かに』〈彩人目線〉
しおりを挟む「なぁ、サンタっていつまで信じてた?」
身長よりも背の高いツリーのそこここにゴールドベースのオーナメントを飾りつけながら、彩人は横で同じ作業をしているマッサに尋ねた。
十二月に入ると、街がいっきにクリスマスカラーに染まる。
まだ秋が終わったばかりだというのに、そこここで気の早いクリスマスソングが流れ、街全体がどことなく浮き足だった空気に包まれ始めていた。
『sunctum』も例に漏れず、毎年巨大なツリーを店内に飾る。
飾りつけは業者に依頼するのではなく自分たちで行うのが通例だ。若いホストたちは店内の飾りつけに精を出しているため、ツリー本体は彩人とマッサが担当することになったのだった。
脚立に乗って先端付近の飾り付けを担当している彩人からは、マッサのつむじが見えている。
目力の強い視線がこっちを向いたかと思うと、怪訝そうに眉を寄せつつもマッサはこんな答えを返してきた。
「サンタなぁ……うーーーん……覚えてへんけど、幼稚園くらいちゃう? そういうお前は?」
「んーーー……わかんねぇ」
「なんや、彩人も覚えてへんのかい」
「空が一年生にあがったろ? マセたクラスメイトが”まだサンタなんか信じてんのかよw”って夢をぶち壊したり、からかってきたりすんのかなーって」
「一年生やろ? まだみんな信じてんちゃうん?」
「そーなのかなぁ」
いじめられているわけではないが、周囲よりも小柄で幼く見えがちな空のことが心配な気持ちは、常日頃からうっすらと彩人の心の片隅にある。なので、こういうイベントごとが近くなってくると妙に気になり始めるのだ。
「そんな心配せんでも、空には金髪の王子様がベッタリくっついてんねやろ?」
「ベッタリって。まぁ、そうだけど」
「背ぇも高いし大人っぽいし、あの子がそばにおってボディガードしてんねやったら心配ないんちゃうん」
「まぁ……そーなんだけどさ。それはそれで別の心配があるっつーか」
「ほーん、そうなんや」
今年のクリスマスは高比良家の両親が揃って仕事で、今年は累を招いてクリスマスを祝うことになっている。
そいうわけで、イブの晩は早瀬家でお泊まり会なのだ。空も、当日のことを今からとても楽しみにしている。
累を預かってもらう代わりにといって、累の父・高比良陣吾はすでにケータリングの食事と豪華なホールケーキの予約を済ませてくれている。加えて高級な白ワインまですでに家に届いていて、さすが官僚は根回しに隙がないなと彩人は感心したものだった。
——ま、泊まるっていっても、累くんここんとこずっと距離感保って紳士的な態度だし、もうそんな心配しなくてもいいか。
彩人は気を取り直すようにひとつ息を吐き、ツリーの先端に金色の星をそっと載せた。
オーナメントは金色とクリアガラスのボール状のものに統一してあるため、シックな仕上がりだ。最後にぐるりとLEDライトをツリー全体にまとわせて、ツリーの飾り付けは完了である。
マッサとツリーの全体をチェックしたあと、ふたりで顔を合わせて同時に頷く。今年もいい出来栄えだ。
後片付けをしていると、後輩ホストの如月レイヤがコーヒーを淹れてくれた。あたたかいそれを手に客席のソファでひと息つきながら、彩人はふと唇に笑みを浮かべた。
「そうそう。空のやつ、”サンタさんのおてがみ、なんてかこうかなぁ。おれのじ、よめるかなぁ”って心配しててさ、学校の宿題より熱心にひらがなの練習してんだよね」
「ほー、かわいいやん」
「だろだろ、可愛いだろ~? 壱成ももーメロメロでさっ」
「はいはい、わかったわかった。わかったからいちいちくついてくんなウザいねん暑苦しい」
「そんな邪険にしなくてもよくね?」
気兼ねなく家族のことを話せるマッサなので、話しているとつい距離が近づいてしまう。だが毎度のごとく心底うんざりしたような顔をされ、彩人は尻の位置を少し離した。
「なんや浮かれてるみたいやけど、クリスマス前はイベント続くんやから体調万全にしとけよ。かき入れどきやねんから」
「わかってるって」
ドライにそう言ってさっさと着替えにいってしまったマッサを見送る。そういえば、マッサと忍はどんなクリスマスを過ごすのだろう。
職場が同じふたりのことだ、きっと帰宅する頃には揃ってへとへとで、家でまでクリスマスを祝うことはないのかもしれないが……。
——ま、それは俺も同じか。
クリスマス一週間前からは毎日のようにイベントだ。いつもより帰りが遅くなる。
今年のクリスマスは平日だが累を預かることになっているため、壱成はわざわざすでに休みをとってくれている。
子(弟)育てに関しては、相変わらず壱成に甘え切ってしまっていることが申し訳なくてたまらないし、本音をいうならば、店のイベントではなく自宅のクリスマスパーティに参加したい。
「ま、そーもいってらんねぇけどな……。頑張って稼がねーと」
彩人は大きく伸びをして立ち上がった。
そろそろきちんと身なりを整え、ホストモードにならなくては。
◇
「壱成、起きて。こんなところで寝たら風邪ひくぞ」
「んん……」
ソファで寝落ちてしまっていたらしい壱成の肩を軽く揺する。
空調が効いているとはいえ、リビングで朝まで眠っていては風邪をひいてしまう。
昨晩の空と累とのクリスマスパーティの余韻が部屋のそこここに残っている。
窓際のツリー、壁という壁に貼られた折り紙のクリスマス飾り、星やハート型に膨らまされた風船などなど。
微笑ましい気持ちで散らかった部屋を見回しつつ、彩人は壱成の腹の上で乱れていた毛布をそっと掛け直した。
するとその刺激で目を覚ましたのか、壱成がうっすらと目を開いて大欠伸をした。
「ふぁ……あやと、おかえり」
「ただいま、壱成」
ソファのかたわらに跪いて壱成の唇にキスを落とすと、とろんと眠そうな表情のまま壱成が微笑んだ。無防備な笑顔が可愛くて、大ぶりの指輪が嵌ったままの手で壱成の黒髪をそっと撫でる。夜の空気を纏ったままの彩人の手が冷たかったのか、壱成は目をこすりながらむくりと起き上がった。
「ごめんな、ふたりの相手ひとりでさせて」
「ううん、ふたりともいい子だったし。楽しかったよ」
「そっか」
「累くんいて、空くんも楽しそうだったよ。今はふたりとも和室でぐっすり」
「ああ、さっきのぞいてきた」
リビングの一角にある和室でふとんをくっつけて眠る空と累の姿の愛らしさに、ほっこりしてきたところである。累が空の布団に潜り込んでいたら引っ張り出そうと思っていたが、行儀良くそれぞれの布団に収まって眠っていた。
壱成に促されるままソファに腰を下ろすと、まだ眠たそうな壱成が肩に頭をのせてきた。
肩を抱き寄せ艶やかな黒髪に鼻先をすり寄せると、洗い立てのようなシャンプーの匂いが彩人の鼻腔をくすぐってくる。
壱成の体温と溶け合って香るこの匂いにホッとする。
と同時に、むらっと込み上げてくる欲をも感じてしまう。家でセックスをするときは必ず、この香りに包まれるからだ。
とはいえ、すぐそこの和室ではちびっこがふたり眠っているのだ。あまりよこしまなことを考えてはいけないと自分を律して、彩人は壱成を抱きしめるに留めておく。
「空くん、兄ちゃんもいたらよかったのにねーって言ってたぞ」
「え、ほんと?」
「うん。高比良さんが手配してくれた料理もケーキも普段食べない雰囲気のやつばっかで美味しかったから、にーちゃんも食べたらよかったのにねーって。ちょっと残しとこっかぁって言ってた」
「そっか……」
そこに自分がいなくても、そうして想いを馳せてくれたことが純粋に嬉しかった。
壱成は彩人にもたれかかったままハーフパンツからスマホを取り出して写真をみせながら、空と累がどんなふうにクリスマスを過ごしていたかを楽しげに話してくれた。
その表情は純粋に楽しげで、幸せそうだ。子どもたちの相手をひとりでさせてしまったことを申し訳なく感じていたことを逆に失礼に思えてしまうほど、壱成の口調は弾んでいる。
「いいなぁ、俺もこっちのパーティ参加したかったわ」
思わず、ぽろりと本音が口からまろび出てしまった。
壱成がやや驚いたように彩人を見上げ、そのあとすぐ破顔した。
「そりゃそうだよな。ごめんなぁ、俺ばっか楽しい思いしちゃって」
「普通に本気で羨ましい……壱成とも、こういうイベントどきに恋人らしいことしたことねーし」
「ええっ?」
壱成を抱きしめる腕に力を込めながらそうぼやくと、壱成がもぞもぞと身じろぎをして彩人に向き直った。
そして両腕を首にするりと絡め、どことなく彩人をあやすような表情で微笑んでいる。
「わざわざイベントに絡めなくても、じゅうぶん恋人らしいことしてんじゃん、俺ら」
「えっ……? え、そう……か?」
「クリスマスだからこうしたいとか、そういうのないし。普段からじゅうぶん大事にしてもらってるよ、俺」
「い、壱成……」
夜中とは思えない爽やかな笑みとともにそんなことを言われ、胸がぎゅんぎゅんとときめいた。
思わず口を手で覆って「壱成お前……イケメンすぎんだけど」と呻くと、壱成は「なに言ってんだか」といって笑った。
「はぁ……イチャつきて~……。イケメンな壱成めちゃくちゃに抱きたい」
「ちょっ……!! そ、そういうことを大きな声で言うなよっ! すぐそこにちびっこいんのに!」
「起きねーってこれくらいじゃ」
「いや、そうかもだけど……。……そんなこと言われたら俺だって」
壱成はちら、と和室に目をやり、気恥ずかしそうに彩人の肩口に顔を埋めた。抱きしめた壱成の体温がじわじわと上がっている気がする。
「……抱きたいなんて言われたら、俺だってしたくなるだろ」
「っ……ほんと? じゃあしようよ、二階で」
「で、でも……」
「二階なら聞こえねーだろ。……壱成、しよ? 抱かせてよ」
「うう……でも、でも声、出ちゃうしさ……」
「じゃあ俺がずーっとキスしとく」
「いやいや、それもっとヤバいから……」
耳元で囁くように誘ううち、壱成の体温はぐんぐん上がって耳も真っ赤に染まってしまった。
彩人の屹立を深くまで飲み込んでひくひくと締めつけながら、声を殺して健気に揺さぶられる壱成の痴態を想像するだけで、彩人の身体も熱を持ち始めてしまう。
本番がダメでも、口で壱成を気持ちよくしたい。感じてよがる壱成の姿が見たい——その一心で口説いている自分が直情すぎて恥ずかしい。
でも、壱成の表情もまんざらでもなさそうだ。
——可愛い。ああ……むり、キスしたい。キスしたら、壱成ももっとその気になってくれっかな……。
顎に手を添え、少し上を向かせてみる。
これから何をされるか悟ったらしい壱成の瞳が潤み、恥ずかしそうに唇を震わせる表情があまりにも可愛くて、色っぽくて、彩人はそのままかぶりつくように壱成の唇を奪おうとした。
そのとき……。
すーっとふすまが開く音がリビングに響き、ふたりは同時に飛び上がった。
弾かれたように和室を見ると、目をこすりこすり襖を開けて佇む累の姿がある。
気づけば壱成は風のように彩人の腕の中からいなくなり、累のそばにしゃがみ込んでいる。あまりの早技に彩人は目を瞬いた。
「る、るる、る、るいくんどうしたのかな!?!?」
「ん……トイレ、いきたい……」
「あっ、と、トイレかぁ~~!! すぐ行こう!! こっちだよ!」
「んん……」
累の手を引いてトイレまで連れて行き、そして和室にまた連れていって襖を閉めた壱成が、「はぁ~~~~~……」と長いため息をついている。
あまりにも手際がいい。壱成にあいこ先生の幻影を見た気がした彩人である。
「言い忘れてたわ……。累くん耳が良いから、ちょっとの物音で起きるかもって、高比良さんが……」
「あ~……なるほどすぎる」
「そ、そういうわけだから……まぁ、今日は寝よ。それか、なんか食う?」
壱成はふと思い出したように天井を仰ぎ、キッチンに入った。
ついていってみると、キッチンカウンターの上に歪な形をしたおにぎりがどどんと乗った皿がある。
彩人が目を丸くしていると、壱成はさらに冷蔵庫からオードブルが綺麗に盛られた皿を出してみせた。
「これ、彩人のぶん。おにぎりは、空くんと累くんがつくったんだぞ」
「へ、まじか! すげーじゃん!」
「もうこんな時間だけど、食べる?」
「うん、食べる。酒ばっかでろくなもん食ってなかったし、腹減ってたの思い出した」
彩人がそう言うと、タイミングを計ったように小さく腹の虫が鳴いた。
それを聞いた壱成が楽しげに笑っている。
——こういうクリスマスもいいもんだな……。
彩人のためにとお茶を淹れてくれる壱成の鼻歌を心地よく聴きながら、彩人は空の作ったぶかっこうなおにぎりを頬張るのだった。
クリスマス番外編『聖なる夜はお静かに』 おしまい♡
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飴玉先生、クリスマスプレゼントをありがとうございます🎄✨
今回は累くんが居るクリスマスだったのですね✨彩人くんと壱成くんとのイチャイチャは、やはりと言うか累くんが阻む?のだな、と笑ってしまいました🤭❤️
ちびっ子が居ると、どうしてもイチャイチャ出来ないのは仕方ないですが、夜遅くの二人だけのクリスマスパーティーがこの後開催されたのかな?と微笑ましく読ませて頂きました。
可愛いクリスマスをありがとうございました🥰❤️
橘春蘭さま
コメントをありがとうございます!🎄✨
耳のいい累、おそらく彩人が帰宅したあたりから眠りが浅くなっていたもよう……笑
イチャイチャはできなかったですが、
夜食を食べつつふたりだけのクリスマスパーティはできたでしょうね😊🍙💕
そういう時間も良い思い出になりそうです✨
こちらこそ、お読みいただきありがとうございました!
楽しいクリスマスをお過ごしください🎁💕
心が温かくなるお話です。いつも幸せを分けてもらっている気持ちになります。ありがとうございます😊
みけ様
素敵なコメントをありがとうございます🎄✨
幸せのおすそわけになったようで、私も嬉しいです😊💕
こちらこそ、いつもお読みいただきありがとうございます😆🙏✨
餡玉先生〜🙏💕
素敵な🎄番外編をありがとうございました💖
累くん空くんも大好きですが…
やはり、彩人くんと壱成くん…🩷大好きです🙌
壱成くんは可愛いし(今日はカッコいい👏)
彩人くんはカッコいい〜〜🤤
本当にこのおふたりの関係性は尊です✨
あ〜あのまま😘とも思いましたが、こんな日も
おふたりらしくて🤭素敵ですね💕
素敵な🎄🎁をありがとうございました💖
餡玉先生も素敵な🎄をお過ごしくださいませね🤗
ikuさま
コメントをありがとうございます🎄✨
久しぶりに彩人と壱成を書きましたが、私も楽しかったです😊💕
やはり大人なイケメン同士のラブラブはいいものですね……🙏
耳のいい累がいるからあれ以上のことはできませんでしたが、
おにぎりとオードブルで壱成と軽いクリスマスパーティはできたかなと🥂✨
お読みいただきありがとうございます!
ikuさまも楽しいクリスマスをお過ごしくださいませ🍗😄🎂