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「柊生……? 入るよ?」
軽いノックのあと、ためらいがちな雪兄の声が聞こえてくる。俺はドキドキしながら拳を握り締め、震える声で「どうぞ」と言った。
ゆっくりと開かれてゆくドアの向こうに、雪兄が現れる。
綺麗な二重まぶたの瞳が俺を視界に写した瞬間、まん丸になった。
「しゅ、柊生!? どうしたの、その格好……!」
雪兄が驚くのも無理はない。だって今俺は、セーラー服に身を包んでいるのだから。
白地に紺色のセーラーカラー、赤いスカーフ。そして紺色の膝丈プリーツスカートという、オーソドックスなデザインのセーラー服。膝下には紺色のハイソックスを穿き、もちろん下着も女物の可愛いやつ。
無造作に放ってあった髪の毛にもきれいに櫛を入れ、サラサラ度をアップさせておいた。眉の上で揺れる前髪を少し気にしつつ、俺はうつむいて緊張と羞恥心をぐっと噛み殺す。
「……見て、けっこう可愛いくない……? 俺」
恥ずかしいという感情よりも、気持ち悪がられて嫌われたらおしまいだという恐怖のほうがはるかに大きい。心臓は痛いほどにバクバクと拍動し、緊張のせいで指先やつま先は氷のように冷たかった。
だけど、もうこのままじゃいられない。雪兄への気持ちを秘めたまま女装して自慰をして、報われず泣いてしまう情けない自分を終わりにしたい。
俺は顔を上げ、雪兄をまっすぐ見つめた。
「俺……雪兄のこと、好き」
「えっ……」
「ちっちゃい頃から、ずっと好きだった。好きっていうのも……家族みたいに好きとかじゃなくて、キスとかエッチがしたいっていう……そういう方向で好きって、意味」
雪兄の目がわずかに見開かれる。それは、今までに見たことのない表情だ。
驚いているのだろうし、困ってるんだと思う。俺を傷つけないようにどうやってこの告白を断ろうかって、今、必死になって考えているに違いない。
その時間をあげるためにも、俺はさらに募る想いを言葉にすることにした。
「でも俺、男だろ。男だから、どうやったって雪兄に選んでもらえるわけないじゃん? だからこうやって女装して、俺も女だったら雪兄に好きになってもらえてたのかなぁとか……女だったらエッチとかしてもらえたのかなぁなんて妄想しながら、ひとりで……してて」
「柊生……」
「ごめん、引くよね。わかるよ。だって俺も、抜いたあといつもがっくりするもん。こんなことしてたって何にもなんないのに」
冷たい両手をスカートの前で握り合わせながら、俺は俯いて唇を噛んだ。
——……ああ、おしまいだ。
これで終わりだ。雪兄はきっとこのあと、優しい笑顔で俺の女装を褒めたあと、一人で家に帰っていく。そして……二度と俺には連絡してこないだろう。
だけど、もういい。全部、全部ぶちまけてやるんだ。
「けど、どう? けっこう似合うだろ? 俺、チビだけどさ、女装したらけっこう可愛いじゃん? 物足りないからって理由で雪兄ふっちゃうような女たちよりずっといいと思うんだよね。……だって俺、ずっとずっと、雪兄のことだけ好きだったんだよ。絶対、誰よりも絶対、雪兄のこと大切にするのに……」
雪兄の沈黙が怖くて、恥ずかしくて、いたたまれない気持ちが俺を苛む。笑っているつもりだが、目からは涙があふれそう。もうこれまでみたいに雪兄と会えなくなるのかと思うと、心が痛くて痛くてたまらない。
ふと、スカートをきつく握り締めて小刻みに震えている俺の肩に、ふわりとあたたかいものが重なった。
見上げると、想像通り。雪兄が優しい笑顔を浮かべて俺を見つめている。
「柊生。可愛いよ、すごく」
「あ……ありがと。まぁ、そんな無理して褒めなくてもいいんだけどね。ま、これ見てもらえて俺もスッキリしたかな。もういいかげん女装オナニーなんてやめて、雪兄に執着するのも終わりに……」
「待って、柊生」
「……えっ?」
肩に乗せられていた手が、そっと俺の頬に添えられた。予想していなかった行動に出てきた雪兄に戸惑いながら、俺はかすかに小首を傾げる。
「柊生は可愛いよ。その格好も可愛いけど、素のままの柊生も、すごく、可愛い」
「え……?」
「……女の子と付き合っていれば、そのうち彼女たちを好きになれるかもって努力はしたんだ。そうすれば……柊生への気持ち、忘れられるかもしれないなって」
「えっ……? え? い、いまなんて……?」
——なんだ? 今のセリフは……。
なんだか耳の奥がすごく熱い。
さっきとは違った意味で、ドキドキドキと心臓が暴れている。
「俺も怖かった。柊生に嫌われたら、俺は絶対に立ち直れない。だからずっといい兄貴づらをして、抱きしめたりできなくてもいいから、柊生のそばにいようとしてた。けど……結局諦められない自分が、もどかしくてたまらなかった」
「ゆ、ゆき兄……それって、つまり」
雪兄はふわりと泣き笑いのような表情になり、俺の頭を柔らかく撫でた。
「俺も柊生のことが、好きだよ」
「は……!? え!? うそ……ほんとに!? うわぁぁ……っ」
これまで止まっていた血流が勢いよく駆け巡るような感覚に突き動かされ、俺は思わず雪兄に飛びついた。
喜びのあまり、ぼろぼろと涙が溢れてとまらない。それを受け止め、しっかりと抱き返してくれる雪兄の匂いに包み込まれながら、俺はしばらく大声で泣いた。
「うぐっぇ、うぇぇっ……ゆぎにぃ……うれじいよぉ……っ、うぇぇ」
「勇気出してくれてありがとう、柊生。俺は本当に臆病で、はっきりしなくてダメだな」
「そんなことあるけど、そんなことないよ! おれは雪兄のそういうとこも好きだもん……!」
「優柔不断なところも?」
頭の上から苦笑が聞こえてきて、俺は雪兄にしがみついたまま顔を上げた。
ああ……なんだろう。これまでとは笑顔の温度がまるで違う。俺を見つめる瞳の優しさにも、これまでにない甘やかさがあるような気がする。
俺はずびっと鼻を啜って、雪兄を見上げたままこう言った。
「相手のことを考えすぎて、自分の意見押し通せなくなっちゃうんだろ? 不器用だなって思うけど、俺はそれ、雪兄の優しさだと思うし」
「柊生……」
「ちっちゃい頃からそうだったもん。俺は全部わかってるんだ」
そう、俺は歴代彼女たちが知り得ない幼少期の雪兄を知っているのだ。優越感に浸りながらドヤ顔をして笑うと……ふわり、と柔らかなものが額に触れた。
——お……おでこにチュー……!?
再び全身の血流が良くなって、俺は真っ赤になって言葉を失ってしまった。雪兄はどこまでも愛おしげな笑顔のまま、俺の髪を優しく撫でている。……それだけでもう、かなりイキそう。
「ありがとう、柊生」
「ぅ、うん……うん……」
「さっきの子のことも、きちんと断る。柊生を不安にさせないようにする。だから……さっき怒らせたこと、許してくれる?」
「ゆゆ、許す!! 許すに決まってんじゃん!! 好き……雪兄、大好きだよ……!!」
申し訳なさそうに眉を下げて俺の表情を窺う雪兄の目つきの可愛さに、俺は思わず大興奮。小さい頃のように、勢いよくしがみついた。
すると雪兄は「うわっ」と後ろによろめいて、そのままふたりそろってベッドのほうへ倒れ込んでしまう。
……気づけば俺は、雪兄を組み敷くような格好で上に乗っかっていた。
「ごめん……勢い余った」
「い、いや……いいんだ。けど、ちょっとそこに乗られると……」
「へ?」
気づいてしまった。俺が今またがっている場所は、雪兄の股間の真上だと。
そして、薄手のショーツを穿いているからよくわかる。雪兄のそれが、硬さをもちはじめているということが。……俺は、ごくんと生唾を飲み下した。
「あ……! こら、柊生っ……!」
ゆす、ゆす……と、俺は雪兄の股間の上で微かに腰を前後してみた。すると雪兄は頬を桃色に染めて、慌てて俺の下から逃げて行こうとする。
「待って、雪兄! ……も、もうちょっとだけ」
「い、いや……でも」
「こういうの、いや? 気持ち悪い?」
雪兄の胸板に手をついて、腰の動きを止めずに訊いてみた。俺のショーツの下で、みるまに硬さを持ち始めている雪兄の反応を感じながら。
「気持ち悪いわけないよ……! だから余計、やめたほうが」
「なんで?」
「だって、やっと告白できたって日に、いきなり柊生を襲うわけには……!」
真っ赤な顔でそんなことを言う雪兄の可愛らしさに、愛おしさが爆発する。
一旦天を仰いで「ああ~~……」と呻いたあと、俺はさらに腰の動きを激しくした。
「ちょっ……柊生! こらっ……!」
「こら、なんて怒ってるくせに、雪兄のこれ、どんどん硬くなってるよ?」
「な、なんてこと言うんだ! そんな、エロ漫画みたいなセリフ……!」
「だって……スゴイよ。おっきくて、かたくて……」
しっかりと硬く盛り上がっている雪兄のペニスの形を、薄いショーツ越しにはっきりと感じ取ることができる。俺を相手に、雪兄が昂ってくれているってことだ。嬉しくて嬉しくて、自然と顔がとろけてしまう。
「雪兄……俺、エッチしたいよ」
「えっ!? いや、早すぎるだろ! 俺とそうなっていいのかどうかちゃんと考えて、」
「もうとっくに考えてある! 俺、何年も前からずっとこうなりたいって思ってたんだよ?」
「……そうかもしれないけど」
俺を股ぐらに乗せたまま、雪兄が身体を起こす。てっきり降ろされてしまうかと思ったけど、雪兄は俺を膝の上に抱いたまま、大きな手で腰を支えた。視線が急に近くなり、ますます心臓がうるさく高鳴ってゆく。
「雪兄が大好きだなんだ。もうぜったい、誰にも渡さない」
「柊生……」
「諦めなきゃって思ってたのに、雪兄も俺を好きだって言ってくれたんだ。……もう、嬉しすぎて我慢できないよ」
俺は雪兄の首に腕を回して、欲望のままに唇を押し付けた。不器用なファーストキスだ。だけど俺は夢中で雪兄の唇を味わい、キスの隙間で「すき、すきだよ……雪兄、大好き」と感情を吐き出した。
すると雪兄は、がっついて舌を突っ込む俺をなだめ、あやすように舌を絡めてくる。粘膜のやわらかいところを舐めくすぐられ、優しく愛撫されて、あっという間に骨抜きにされてしまった。
「んっ……ン。……ふ……ぅ」
うまく息継ぎができなくて、甘えた声音が鼻から抜ける。ふと唇を離した拍子に目が合った雪兄の表情は、妄想していたのよりもずっと妖艶で、色っぽくて、可愛くて——……腹の奥が、きゅうぅぅんと甘く疼いた。
「こんなエロいキスされたら……もっとしたくなっちゃうじゃん……」
「エロい……かな」
「エロいよ……!! くっそぉ、こんなキス、彼女たちにもしてたのかよぉ……!」
「ま、まぁ……キスくらいは、したことあるけど……」
「? キスくらいは? 彼女たちと散々エッチしてたんだろ?」
「……いや、してないよ」
「はぁっ!?」
思わず刮目した俺に向かって苦笑を見せ、雪兄はこう言った。
軽いノックのあと、ためらいがちな雪兄の声が聞こえてくる。俺はドキドキしながら拳を握り締め、震える声で「どうぞ」と言った。
ゆっくりと開かれてゆくドアの向こうに、雪兄が現れる。
綺麗な二重まぶたの瞳が俺を視界に写した瞬間、まん丸になった。
「しゅ、柊生!? どうしたの、その格好……!」
雪兄が驚くのも無理はない。だって今俺は、セーラー服に身を包んでいるのだから。
白地に紺色のセーラーカラー、赤いスカーフ。そして紺色の膝丈プリーツスカートという、オーソドックスなデザインのセーラー服。膝下には紺色のハイソックスを穿き、もちろん下着も女物の可愛いやつ。
無造作に放ってあった髪の毛にもきれいに櫛を入れ、サラサラ度をアップさせておいた。眉の上で揺れる前髪を少し気にしつつ、俺はうつむいて緊張と羞恥心をぐっと噛み殺す。
「……見て、けっこう可愛いくない……? 俺」
恥ずかしいという感情よりも、気持ち悪がられて嫌われたらおしまいだという恐怖のほうがはるかに大きい。心臓は痛いほどにバクバクと拍動し、緊張のせいで指先やつま先は氷のように冷たかった。
だけど、もうこのままじゃいられない。雪兄への気持ちを秘めたまま女装して自慰をして、報われず泣いてしまう情けない自分を終わりにしたい。
俺は顔を上げ、雪兄をまっすぐ見つめた。
「俺……雪兄のこと、好き」
「えっ……」
「ちっちゃい頃から、ずっと好きだった。好きっていうのも……家族みたいに好きとかじゃなくて、キスとかエッチがしたいっていう……そういう方向で好きって、意味」
雪兄の目がわずかに見開かれる。それは、今までに見たことのない表情だ。
驚いているのだろうし、困ってるんだと思う。俺を傷つけないようにどうやってこの告白を断ろうかって、今、必死になって考えているに違いない。
その時間をあげるためにも、俺はさらに募る想いを言葉にすることにした。
「でも俺、男だろ。男だから、どうやったって雪兄に選んでもらえるわけないじゃん? だからこうやって女装して、俺も女だったら雪兄に好きになってもらえてたのかなぁとか……女だったらエッチとかしてもらえたのかなぁなんて妄想しながら、ひとりで……してて」
「柊生……」
「ごめん、引くよね。わかるよ。だって俺も、抜いたあといつもがっくりするもん。こんなことしてたって何にもなんないのに」
冷たい両手をスカートの前で握り合わせながら、俺は俯いて唇を噛んだ。
——……ああ、おしまいだ。
これで終わりだ。雪兄はきっとこのあと、優しい笑顔で俺の女装を褒めたあと、一人で家に帰っていく。そして……二度と俺には連絡してこないだろう。
だけど、もういい。全部、全部ぶちまけてやるんだ。
「けど、どう? けっこう似合うだろ? 俺、チビだけどさ、女装したらけっこう可愛いじゃん? 物足りないからって理由で雪兄ふっちゃうような女たちよりずっといいと思うんだよね。……だって俺、ずっとずっと、雪兄のことだけ好きだったんだよ。絶対、誰よりも絶対、雪兄のこと大切にするのに……」
雪兄の沈黙が怖くて、恥ずかしくて、いたたまれない気持ちが俺を苛む。笑っているつもりだが、目からは涙があふれそう。もうこれまでみたいに雪兄と会えなくなるのかと思うと、心が痛くて痛くてたまらない。
ふと、スカートをきつく握り締めて小刻みに震えている俺の肩に、ふわりとあたたかいものが重なった。
見上げると、想像通り。雪兄が優しい笑顔を浮かべて俺を見つめている。
「柊生。可愛いよ、すごく」
「あ……ありがと。まぁ、そんな無理して褒めなくてもいいんだけどね。ま、これ見てもらえて俺もスッキリしたかな。もういいかげん女装オナニーなんてやめて、雪兄に執着するのも終わりに……」
「待って、柊生」
「……えっ?」
肩に乗せられていた手が、そっと俺の頬に添えられた。予想していなかった行動に出てきた雪兄に戸惑いながら、俺はかすかに小首を傾げる。
「柊生は可愛いよ。その格好も可愛いけど、素のままの柊生も、すごく、可愛い」
「え……?」
「……女の子と付き合っていれば、そのうち彼女たちを好きになれるかもって努力はしたんだ。そうすれば……柊生への気持ち、忘れられるかもしれないなって」
「えっ……? え? い、いまなんて……?」
——なんだ? 今のセリフは……。
なんだか耳の奥がすごく熱い。
さっきとは違った意味で、ドキドキドキと心臓が暴れている。
「俺も怖かった。柊生に嫌われたら、俺は絶対に立ち直れない。だからずっといい兄貴づらをして、抱きしめたりできなくてもいいから、柊生のそばにいようとしてた。けど……結局諦められない自分が、もどかしくてたまらなかった」
「ゆ、ゆき兄……それって、つまり」
雪兄はふわりと泣き笑いのような表情になり、俺の頭を柔らかく撫でた。
「俺も柊生のことが、好きだよ」
「は……!? え!? うそ……ほんとに!? うわぁぁ……っ」
これまで止まっていた血流が勢いよく駆け巡るような感覚に突き動かされ、俺は思わず雪兄に飛びついた。
喜びのあまり、ぼろぼろと涙が溢れてとまらない。それを受け止め、しっかりと抱き返してくれる雪兄の匂いに包み込まれながら、俺はしばらく大声で泣いた。
「うぐっぇ、うぇぇっ……ゆぎにぃ……うれじいよぉ……っ、うぇぇ」
「勇気出してくれてありがとう、柊生。俺は本当に臆病で、はっきりしなくてダメだな」
「そんなことあるけど、そんなことないよ! おれは雪兄のそういうとこも好きだもん……!」
「優柔不断なところも?」
頭の上から苦笑が聞こえてきて、俺は雪兄にしがみついたまま顔を上げた。
ああ……なんだろう。これまでとは笑顔の温度がまるで違う。俺を見つめる瞳の優しさにも、これまでにない甘やかさがあるような気がする。
俺はずびっと鼻を啜って、雪兄を見上げたままこう言った。
「相手のことを考えすぎて、自分の意見押し通せなくなっちゃうんだろ? 不器用だなって思うけど、俺はそれ、雪兄の優しさだと思うし」
「柊生……」
「ちっちゃい頃からそうだったもん。俺は全部わかってるんだ」
そう、俺は歴代彼女たちが知り得ない幼少期の雪兄を知っているのだ。優越感に浸りながらドヤ顔をして笑うと……ふわり、と柔らかなものが額に触れた。
——お……おでこにチュー……!?
再び全身の血流が良くなって、俺は真っ赤になって言葉を失ってしまった。雪兄はどこまでも愛おしげな笑顔のまま、俺の髪を優しく撫でている。……それだけでもう、かなりイキそう。
「ありがとう、柊生」
「ぅ、うん……うん……」
「さっきの子のことも、きちんと断る。柊生を不安にさせないようにする。だから……さっき怒らせたこと、許してくれる?」
「ゆゆ、許す!! 許すに決まってんじゃん!! 好き……雪兄、大好きだよ……!!」
申し訳なさそうに眉を下げて俺の表情を窺う雪兄の目つきの可愛さに、俺は思わず大興奮。小さい頃のように、勢いよくしがみついた。
すると雪兄は「うわっ」と後ろによろめいて、そのままふたりそろってベッドのほうへ倒れ込んでしまう。
……気づけば俺は、雪兄を組み敷くような格好で上に乗っかっていた。
「ごめん……勢い余った」
「い、いや……いいんだ。けど、ちょっとそこに乗られると……」
「へ?」
気づいてしまった。俺が今またがっている場所は、雪兄の股間の真上だと。
そして、薄手のショーツを穿いているからよくわかる。雪兄のそれが、硬さをもちはじめているということが。……俺は、ごくんと生唾を飲み下した。
「あ……! こら、柊生っ……!」
ゆす、ゆす……と、俺は雪兄の股間の上で微かに腰を前後してみた。すると雪兄は頬を桃色に染めて、慌てて俺の下から逃げて行こうとする。
「待って、雪兄! ……も、もうちょっとだけ」
「い、いや……でも」
「こういうの、いや? 気持ち悪い?」
雪兄の胸板に手をついて、腰の動きを止めずに訊いてみた。俺のショーツの下で、みるまに硬さを持ち始めている雪兄の反応を感じながら。
「気持ち悪いわけないよ……! だから余計、やめたほうが」
「なんで?」
「だって、やっと告白できたって日に、いきなり柊生を襲うわけには……!」
真っ赤な顔でそんなことを言う雪兄の可愛らしさに、愛おしさが爆発する。
一旦天を仰いで「ああ~~……」と呻いたあと、俺はさらに腰の動きを激しくした。
「ちょっ……柊生! こらっ……!」
「こら、なんて怒ってるくせに、雪兄のこれ、どんどん硬くなってるよ?」
「な、なんてこと言うんだ! そんな、エロ漫画みたいなセリフ……!」
「だって……スゴイよ。おっきくて、かたくて……」
しっかりと硬く盛り上がっている雪兄のペニスの形を、薄いショーツ越しにはっきりと感じ取ることができる。俺を相手に、雪兄が昂ってくれているってことだ。嬉しくて嬉しくて、自然と顔がとろけてしまう。
「雪兄……俺、エッチしたいよ」
「えっ!? いや、早すぎるだろ! 俺とそうなっていいのかどうかちゃんと考えて、」
「もうとっくに考えてある! 俺、何年も前からずっとこうなりたいって思ってたんだよ?」
「……そうかもしれないけど」
俺を股ぐらに乗せたまま、雪兄が身体を起こす。てっきり降ろされてしまうかと思ったけど、雪兄は俺を膝の上に抱いたまま、大きな手で腰を支えた。視線が急に近くなり、ますます心臓がうるさく高鳴ってゆく。
「雪兄が大好きだなんだ。もうぜったい、誰にも渡さない」
「柊生……」
「諦めなきゃって思ってたのに、雪兄も俺を好きだって言ってくれたんだ。……もう、嬉しすぎて我慢できないよ」
俺は雪兄の首に腕を回して、欲望のままに唇を押し付けた。不器用なファーストキスだ。だけど俺は夢中で雪兄の唇を味わい、キスの隙間で「すき、すきだよ……雪兄、大好き」と感情を吐き出した。
すると雪兄は、がっついて舌を突っ込む俺をなだめ、あやすように舌を絡めてくる。粘膜のやわらかいところを舐めくすぐられ、優しく愛撫されて、あっという間に骨抜きにされてしまった。
「んっ……ン。……ふ……ぅ」
うまく息継ぎができなくて、甘えた声音が鼻から抜ける。ふと唇を離した拍子に目が合った雪兄の表情は、妄想していたのよりもずっと妖艶で、色っぽくて、可愛くて——……腹の奥が、きゅうぅぅんと甘く疼いた。
「こんなエロいキスされたら……もっとしたくなっちゃうじゃん……」
「エロい……かな」
「エロいよ……!! くっそぉ、こんなキス、彼女たちにもしてたのかよぉ……!」
「ま、まぁ……キスくらいは、したことあるけど……」
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