異聞白鬼譚

餡玉(あんたま)

文字の大きさ
130 / 339
第四幕 ー魔境へのいざないー

終 旅立ち

しおりを挟む
 見送りには行かないと言っていた千珠は、宣言通り、現れなかった。

 光政と宇月、忍衆に見送られ、舜海は城門に一人立つ。

「ほんなら、いってきますわ」

 舜海の明るい笑顔に、皆笑顔を見せて応じた。

「さぼるなよ、お前は昔から目離すとすぐに気を抜くからな」
と、光政。
「そんなことしませんて。それがきの頃の話やろ」
「二年か。幼い頃からずっと、お前は俺のすぐそばにいたことを思うと、ちょっと寂しい気もするな」
「殿、ご冗談を。ほんまはせいせいしてるんやろ」
「その通りだ」

 光政と舜海のやり取りに、回りから笑いが起こる。二人は主従であると同時に、幼馴染でもあるのだ。

「お身体に気をつけてくださいませ、舜海さま」
と、宇月。舜海は頷くと、宇月と柊を見やる。

「千珠のこと、頼んだで」

 二人は目を見合わせて、頷いた。

「千珠さまはどこに?」

 柊の部下である竜胆りんどうが、あちこちを見回している。そういえば……と周りの忍達もあたりを見回し始めた。

「ええねん、あいつは。集団行動できひんやつやねんから」
「まぁ、確かに……」

 竜胆は納得した様子である。
 舜海は、皆に笑顔を見せると、ひらりと馬に跨がった。

「ほな、行ってくるわ」

 手を上げ、くるりと馬の向きを変えて、舜海は城門を出てゆく。

「いってらっしゃいませ!」
「お気をつけて!」

 遠くなる、聞き慣れた仲間たちの声を聞きながら、舜海は晴れ渡った空を仰ぎ、馬を駆った。

 ここをこんな風に一人で後にすることなど、初めてのことだ。だが心許なくはない。自分はこれから、強くなるために、青葉の確固たる守りとなる為に、都へゆくのだから。

 そう、そしてかけがえのない存在である、千珠のために。

 城下町を過ぎた辺りで、ふと、舜海は後ろを振り返った。
 青空にくっきりと浮かび上がり、そびえ立つ三津國城。その天守閣の上に、誰かが立っている。
 既にその姿は小さく、影のようにしか見えなかった。しかし、舜海にはそれが誰なのか分かっていた。

 きら、きらと風にたなびく長い銀髪と、赤い耳飾りが、太陽に反射して煌めいている。
 千珠が天守閣の真上に立ち、舜海を見下ろしている。

「あいつ、あんなとこで……」

 それに気づいた舜海は、唇に笑みを浮かべながら高く手を挙げた。
 そしてそのまま馬を駆り、走り去ってゆく。


 どんどん小さくなっていく舜海の背中。風に靡いて顔にかかる髪を、千珠はそっと手で押さえた。


 舜海の声と笑顔を想いながら。
 いつまでも、いつまでも、見送っていた。

 








しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...