307 / 339
第二章 青葉にて
二、大人びた横顔
しおりを挟む
「兄上!!」
槐の声に、道場へと向かって歩いていた白い背中がぴたりと止まった。
結い上げた長い銀髪を揺らして、千珠がくるりと振り返る。
すらりと伸びた背と、すっきりとした細面。夏の眩しい日差しを受けて、千珠の白い肌は更に輝いて見えた。
少し切れ長になった目元は流麗。今も見る者を惹き付けて離さない美しさは健在だ。そんな千珠の鮮やかな琥珀色の瞳が、槐を捉えて喜びに揺れた。
「お前……槐か?」
少し驚いた表情を浮かべ、低く落ち着いた声で千珠はそう言うと、顔を綻ばせる。
「大きくなったな、槐、何年ぶりだろう」
駆け寄った槐は、満面の笑みを浮かべて千珠を見上げた。少しばかり高いところにある琥珀色の瞳を、眩しく見上げた。
「男らしくなったじゃないか。お前、いくつになったんだ?」
「二十になりました」
「そうか、もうすっかり大人だな」
そう言いながらも、千珠はぽんと槐の頭に手を置いた。しなやかに細く細い手首が現れ、そこに珊瑚の赤い数珠が二巻巻かれているのが目に入る。
「あとでゆっくり、お話ししたいことがあります」
「そうだな。午後まで待ってくれ、今から稽古なんだ」
「はい!」
千珠は二十七になった。
小柄だった千珠も背が伸びて、舜海や柊に追いつきはしなかったものの、すらりとした体躯に成長していた。
中性的だった顔立ちにもようやく男らしさが備わりはじめていたが、尚もその顔立ちは端正で美しい。
まるで掛け軸の中から抜け出てきたような美貌を保ち続けている兄の姿に、槐は誇らしさからか胸がくすぐったい思いであった。
能登にて、陰陽師衆とともに大妖怪を封印した話は国中を駆け抜け、千珠の名を知らないものは居ないほどになっていた。
その強さが抑止力となっているためか、ここ数年は戦らしい戦は起こらず平和な世が続いている。
「千珠、相変わらずきれいだな」
もう一人の声に、千珠は槐の頭上を超えて視線を巡らせた。
「佐為じゃないか。お前までどうした?」
「久しぶりだね、千珠。そろそろ青葉の結界を締め直さなくてはと思っていたもので、槐を連れてきたんだよ」
「ああ、もうそんな年か。世話をかけるな」
「なに、君たちのためと思えば苦でもない。それに、君たちに子どもが産まれたと聞いたんだ、見に来ないわけに行かないだろう」
「本当ですか、兄上! おめでとうございます!」
「ありがとう」
千珠は微笑んだ。それはとても幸せそうな、満ち足りた笑顔だった。
木刀を担いで、眩しい太陽の下微笑む千珠の笑顔が、佐為は我が事のように嬉しかった。
人の世に迷い込み、孤独と寂しさに震えていた彼を知っているからこそ、今の千珠の笑顔が何よりも嬉しかったのだ。
槐の声に、道場へと向かって歩いていた白い背中がぴたりと止まった。
結い上げた長い銀髪を揺らして、千珠がくるりと振り返る。
すらりと伸びた背と、すっきりとした細面。夏の眩しい日差しを受けて、千珠の白い肌は更に輝いて見えた。
少し切れ長になった目元は流麗。今も見る者を惹き付けて離さない美しさは健在だ。そんな千珠の鮮やかな琥珀色の瞳が、槐を捉えて喜びに揺れた。
「お前……槐か?」
少し驚いた表情を浮かべ、低く落ち着いた声で千珠はそう言うと、顔を綻ばせる。
「大きくなったな、槐、何年ぶりだろう」
駆け寄った槐は、満面の笑みを浮かべて千珠を見上げた。少しばかり高いところにある琥珀色の瞳を、眩しく見上げた。
「男らしくなったじゃないか。お前、いくつになったんだ?」
「二十になりました」
「そうか、もうすっかり大人だな」
そう言いながらも、千珠はぽんと槐の頭に手を置いた。しなやかに細く細い手首が現れ、そこに珊瑚の赤い数珠が二巻巻かれているのが目に入る。
「あとでゆっくり、お話ししたいことがあります」
「そうだな。午後まで待ってくれ、今から稽古なんだ」
「はい!」
千珠は二十七になった。
小柄だった千珠も背が伸びて、舜海や柊に追いつきはしなかったものの、すらりとした体躯に成長していた。
中性的だった顔立ちにもようやく男らしさが備わりはじめていたが、尚もその顔立ちは端正で美しい。
まるで掛け軸の中から抜け出てきたような美貌を保ち続けている兄の姿に、槐は誇らしさからか胸がくすぐったい思いであった。
能登にて、陰陽師衆とともに大妖怪を封印した話は国中を駆け抜け、千珠の名を知らないものは居ないほどになっていた。
その強さが抑止力となっているためか、ここ数年は戦らしい戦は起こらず平和な世が続いている。
「千珠、相変わらずきれいだな」
もう一人の声に、千珠は槐の頭上を超えて視線を巡らせた。
「佐為じゃないか。お前までどうした?」
「久しぶりだね、千珠。そろそろ青葉の結界を締め直さなくてはと思っていたもので、槐を連れてきたんだよ」
「ああ、もうそんな年か。世話をかけるな」
「なに、君たちのためと思えば苦でもない。それに、君たちに子どもが産まれたと聞いたんだ、見に来ないわけに行かないだろう」
「本当ですか、兄上! おめでとうございます!」
「ありがとう」
千珠は微笑んだ。それはとても幸せそうな、満ち足りた笑顔だった。
木刀を担いで、眩しい太陽の下微笑む千珠の笑顔が、佐為は我が事のように嬉しかった。
人の世に迷い込み、孤独と寂しさに震えていた彼を知っているからこそ、今の千珠の笑顔が何よりも嬉しかったのだ。
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる