異聞白鬼譚

餡玉(あんたま)

文字の大きさ
318 / 339
第二章 青葉にて

十三、にぶい兄弟

しおりを挟む


「あれ、宇月と珠緒は?」
 城での武士たちへの稽古を終えた千珠が城へ戻ってみると、宇月と珠緒は留守であった。 

「離れにいるのかもしれませんね」
と、槐が言い、二人は連れ立って離れの方へと足を向けた。
 城で立ち働いている者たちが、千珠に笑顔を向けて会釈をし、忙しげに通り過ぎていく。

「槐は昔、学問よりも剣術が好みだと言っていたが、未だにそうなのか?」
「はぁ……でも。最近はちゃんと学問にも勤しんでおります」
「そっか。しかし、腕を上げたな」
「いえ……まだまだです」
 槐は苦笑した。千珠はぽん、と槐の頭に手を置いて微笑む。

 槐は、千珠が稽古をつけている若武者たちに混じって、剣を振るってきたのである。
 千珠の兄弟だとは明かさずに、都からの客人ということで稽古に参加していたのだが、槐の剣の腕は青葉の若者の中では群を抜いて強かった。

 しかし、忍衆の一人、雪代ゆきしろという名の少年には善戦したものの負けてしまった。槐はそれを気にしているのである。

「雪代は忍衆の一人だ。あいつはちょっと、特別だから」
「はい。とてもお強い方ですね」
「よく戦っていたよ、お前も」
 千珠に慰められるのも、少し情けないと思いながら、槐は眉を下げた。

 離れにやって来た二人は、開け放たれた障子の向こうで、佐為が石蕗に膝枕をされているのを見つける。その意外な姿に、千珠は目を丸くしていた。

「何甘えてんだ、佐為」
 佐為の頭を撫でていた石蕗は、仰天して突然立ち上がった。佐為は乱暴に床に転がされてしまう格好になり、迷惑そうに頭をさすりながら目を開く。

「お、おかえりなさいませ!」
 槐の前で、佐為に膝を貸していた所を見られてしまった石蕗は激しく動揺していたが、槐は何を気にする様子もなく、いつも通りに笑みを浮かべている。
「佐為さまも、そんなことをするんですね」
「槐、これは……その」
と、石蕗があたふたと言い訳をしようとしている様子を見て、佐為は起き上がって口を開いた。

「すまないね。疲れていたので、神祇省を通さずに彼女の膝を借りてしまった」
「あれだけの大技を行われた後ですから、仕方ないでしょう。なぁ、石蕗」
「……ええ」
 石蕗はばつの悪そうな顔で、うつむく。千珠はそんな石蕗の態度を見て、目を瞬かせた。未だに恋愛の機微といったものには疎いのである。

 佐為は大きく伸びをして、千珠を見上げた。
「宇月なら、青葉の寺へ行くって。山吹さんの傷を見ると」
「ああ、そっか。じゃあ俺達もここで食事にしよう。石蕗殿も、ゆっくりされるといい」
「あ、ありがとうございます」
 千珠に名を呼ばれ、石蕗はたどたどしく礼を言う。
「俺、着替えてくるよ。ついでにこちらへ食事を運んでもらうように言ってくる」
と、千珠はふっと姿を消した。
「私も、着替えさせて頂きます」
 槐もそう言って、離れの続き間へ入ると襖を閉めた。

 石蕗の落胆した顔に、佐為は眉をハの字にしてあぐらをかく。

「あの、すまなかったね。本気で寝入ってしまって……」
「あ、そんな……。いいんです。どのみち、どうにもならないことなので……。わたくしの想いのことは、内緒にしていて下さいませ」
「あ、うん」
 手を着いて一礼する石蕗を見ながら、佐為はため息をついた。

「千珠も鈍かったが、槐も相当だな」
 石蕗は顔を上げ、苦笑した。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...