ケンカするほどなんとやら

餡玉(あんたま)

文字の大きさ
17 / 25

17、美味しい朝食?

しおりを挟む
 
 その日以降、ミハエルからの連絡は途絶えるかと思いきや……以前よりも激しさを増している。

 俺に対する好意が云々というようなメッセージではなく、『早くあのアバズレと別れた方がいい』とか『あんなクソビッチよりも、僕の方が大和を幸せにできる』といった感じで、佐波に対する攻撃が加速していて……それはちょっと、俺の気持ちを重くしていた。

 佐波は俺の大事な恋人だし、ミハエルは仲の良かった友人だ。別に、二人に仲良くして欲しいってわけじゃないけど、いがみ合われるのはなかなかつらいものがあるわけで……。

 だが、あれ以来佐波との関係は比較的良好。
 ミハエル問題には頭を悩ませつつも、佐波とのスキンシップは前よりずっと増えている。初エッチを経てからこっち、俺たちは時間があれば家に引きこもって、互いの身体をまさぐり合った。

 抱けば抱くほど佐波の身体は素直になるし、どこをどう触られるのが良いのかってことも分かるようになってきた。口ではつれないことを言っていても、俺にべたべた甘えられることに弱いっていうのも分かってきた。


 セックスは究極のコミュニケーションだと聞いたことがあるけど、全くその通りだなと最近よく思う。


 +


「おはよ、佐波」
「おう、おはよ……っ……アホ、朝っぱらから何してんねん……」

 キッチンでコーヒーメーカーをセットしている佐波の背後から、チュッと首筋にキスをする。さらにうなじを甘噛みしながら、スウェットの中に手を忍び込ませ、きゅっと締まった尻を揉んでみた。すると佐波は、真っ赤になって怒った顔をしながら、ギロリと俺を睨みつけた。

 でも、険しい表情は長続きしない。こっちを振り向いた佐波にキスをして微笑みかければ、すぐに鋭い目つきから尖りが消えて、照れ笑いの表情に変化する。

「くすぐったいやん。あと、痕つけんなよ」
「へいへい、分かってるよ。……首、寒くねーの?」
「まぁ、ちょっとは寒いけど。撮影やったししゃーないわ、すぐ伸びるやろ」

 これから寒くなるっていうのに、佐波はつい最近、撮影の都合でバッサリ髪を切った。トップとサイドは残しつつも、襟足を潔く刈り上げたオシャレな髪型だ。

 前髪はさほど切らずに残しているため、佐波が俯くと、黒髪が顔の半分をさらりと隠す。それを鬱陶しげに耳にかけたり、ざっと搔き上げる仕草がやたらめったら色っぽく、ついつい佐波の耳や首筋に唇を触れてしまう。

「っちょ……やめって……」
「寒そうだし、あっためてやるよ。お前のうなじ、すげぇエロい。いい匂い」
「んんっ……も、あかんていうてるやろ……こらっ!」
「ちょっとだけ。いーだろ?」

 後ろからちゅ、ちゅっと佐波のうなじに唇を這わせつつ、だぼっとしたトレーナーの中に手を挿しこみ、引き締まった上半身を抱きしめる。昨日も散々舐め回した乳首の周りを思わせぶりに指で撫でると、佐波はビクッと肌を震わせ、ちょっと怒ったような顔でこっちを見上げた。

 顔も首筋も、耳まで真っ赤。きつい目つきをしてるけど、もう全然怖くない。潤んだ瞳が可愛くて、もっといじめて困った顔をさせたくて、むずむずとスケベ心が盛り上がる。

 だが、調子に乗ってさらにエッチなセクハラをしてやろうと身を乗り出したものの、ぐいと下から顎を押されて、突っぱねられてしまった。

「はい終了! パン焦げる!」
「ううっ……わかったよ」
「ちょうどトースト焼けたとこや。はよ食べよ」
「うん。うわ、すげぇいい匂い。何これ、いいパン?」
「スタイリストさんにもらったやつ。なんや小一時間並ばな買えへんやつやねんて」
「へぇ~すげぇ」

 キッチンに漂う甘い小麦の香りと、コーヒーの香り。ちょうど良いこんがり感に焼きあがったトーストとハムエッグ、そしてレタスとプチトマトのサラダ。真っ白な皿に小洒落た感じに盛り付けられた朝食に、思わずテンションが上がってしまう。

 ちょっと前まではパンとコーヒー(もしくは牛乳のみ)だけだった朝食が、ここ最近急にグレードアップしている。スキンシップが増えて喧嘩が減ると、佐波の機嫌もいいらしい。朝から鼻歌交じりにキッチンに立ち、焼き加減にこだわったトーストを出してくれるんだ。夢のように幸せで平和な朝ごはん……しかも、出てくるものが全て高級品だから、何もかもがびっくりするくらい美味い。機嫌のいい佐波と美味しい朝食とか最高すぎかよ……。


「ところで、さっき藤間からLINE来て知ったんやけど、英誠大との合同合宿があるらしいな」
「……うぐっぅ……」


『英誠大』というワードが出てくるや、ダイニングの空気が一気にひゅう~っと冷えていく。


 佐波はキリッとした目に冷たい光を宿らせつつ、じーっと俺を見据えている。


「お、おう…………らしいな」
「ほんで、あのハーフゲルマン野郎と仲良しのお前が幹事で、両校の調整役らしいな」
「お、おう…………そーなんだよ」
「いつ決まったんやそれ。聞いてへんで」
「え、えーと。一週間くらい前かなぁ?」
「ふーん。……で、進捗は?」
「え、ええとですね」

 一ヶ月後に迫った英誠大学との合同合宿。これも、うちのバスケサークルにおける毎年恒例行事だ。

 幹事は代々一年生が担当することになっている上、俺はミハエルと面識がある。それを見た先輩たちが、『今回の合宿の仕切りはお前らに任せる!』と言って、俺とミハエルを幹事に据えたのだった。それが決まったミーティングの日、佐波は仕事でサークルを休んでいた。このことをどう伝えれば良いのやらと迷っているうちに、一週間が過ぎていたわけなのだが……。


「んで、あいつと連絡取り合うてんの?」
「まぁ……色々な。でも、合宿がらみのことだけだぞ!! 全部メールで済ませてるし! 飯に誘われても断って……」
「へぇ、性懲りも無く誘ってきはんねんなぁ、あいつ」
「うぐ……でも断ってるし!! て、ていうか、合宿所の予約やらスケジュールの調整やら……連絡っていってもその程度のもんだしさ、別に何も……」
「向こうはウハウハやろうな。お前と一緒にお泊まりできて、バスケできて、最高やろな」
「……そうかもしんねーけど、でも、俺は何とも思ってねーから!」
「そんなら何で俺にいちいち隠すねん。お前のそういうとこが何や分からんけどイラつくんや」
「だ、だってさ……ミハエルの話なんて聞きたくねーだろ。お前すぐキレんじゃん」
「別にキレへんし。ていうか、どうせすぐにバレることをコソコソ隠す大和に腹立つねん。……このヘタレ」
「うぐ……」


 佐波の言うことがもっともすぎて、言い返そうにも言葉が浮かばない。
 そんで淡々とした冷静な口調だからこその威圧感がすげぇ……。


 まぁ確かに、メールの文面からも伝わってくるくらい、ミハエルはテンションが上がっている。そして同時に、佐和への敵対心のほうも燃え上がっている…………なんてことを佐波に言えるわけもなく、俺はサクサクもちもちのトーストをもぐもぐと咀嚼した。バターの風味がほんのり甘くて、舌触りも良くて、こんな時だがめちゃくちゃ美味い。


 上品な仕草でマグカップのカフェオレを飲んでいる佐波からは様子を窺いつつ、俺は気を取り直してこう言った。


「でも、俺が好きなのは佐波だけだって、お前ももう分かってんだろ」
「っ…………そ、そら……まぁ……」

 不意打ちで、ストレートにそんなことを伝えると、クールだった佐波の表情がぽわぽわと緩んでいく。流麗だった所作が急にぎこちなくなり、白い肌がまた赤く染まって、照れているのが丸分かりだ。俺が思わず吹き出すと、佐波はムッとしたように俺を見据えた。

「何やねん」
「ううん。……あははっ、いや、かわいいな~と思って」
「……ば、馬鹿にすんなや!! 俺は別に……」
「佐波は今日の講義昼からだろ? 俺、午前中は二時間目のスポコミ(スポーツコミュニケーション、つまり体育)だけなんだけど」
「……だから?」
「今すぐ佐波とエッチしたい。学校サボって一日中セックスしねぇ?」
「は、はぁ!? お前、こないだのレポートもひーひー言うてたやん。せやのにサボるとか、そんなん……あかんやろ」

 と、いかにも理性的なこと言おうとしているらしいが、佐波の全身から醸し出される空気は、すでに甘くてエロエロしい。これはイケると踏んだ俺は、すぐさま椅子を引いて立ち上がり、佐波の手首をぐっと掴んだ。

「ちょ……大和」
「ベッド、行こ。それともここでする?」
「え……」

 ただでさえ赤くなっていた佐波の顔が、ますます赤々と紅潮していく。こんな可愛い顔を見せられて、俺が平気でいられるとでも思っているのだろうか。

 気恥ずかしげに目を伏せる佐波をやや強引に引っ張って立たせ、ぐっと腰を抱き寄せる。そしてそのまま寝室に引っ張りこもうとしたのだが……。


 佐波はハッと我に返ったような顔で目を瞬き、いつもの刺々しい目つきで俺を見上げた。


「……ていうか、そんなんで俺の気を逸らせるとでも思ってんのか?」
「っ……ち、ちげーよ! 俺は純粋にお前と……」
「ほれ、今から大学行くで。合宿の準備がどないなってんのか、俺にも逐一説明してもらうで。一年全体で幹事なんやろ? せやのに何の情報共有もされてへんとかおかしいやろ。ちゃんと段取りできてんのか!?」
「うぐ……そ、それはまだ……」
「ハァ~~~……。ほら、とっとと支度せぇこのヘタレ。あと一ヶ月あるいうてもあっという間やで。諸々手配せなあかんこともあんねんから、しゃきっとせなあかん! セックスにうつつ抜かし過ぎやねんドアホ!」
「すみません……」

 ぐうの音も出ないとは、まさにこのこと……。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

処理中です...