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第5幕 ——夜顔の記憶、祓い人の足跡——
10、求められる幸せ
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彰はホテルに残り、中高生を送って帰ることになった舜平は、いつも以上に安全運転で車を転がしていた。
車のタイヤの後が轍になり、黒く汚れた雪が車道の端に積み上がっているのを、珠生は何となく残念そうに見下ろしている。
宮尾邸、湊の家を回ってから珠生の家へと向かう。
久しぶりに珠生と二人きりになり、舜平は少しばかり緊張していた。
「……雪道って、怖くないの?」
「ちょっとはな。まぁうちはもっと山奥やし、このへん走る分には余裕や」
「ふうん」
「深春は随分お前に懐いたな。聞いたで、ヤクザ相手に怖いことしたらしいやん」
「……あぁ。誰に聞いたの」
「彰に決まってるやろ」
「……ほんとになんでも知ってるな……」
「夜顔のこととなると、お前はやっぱり無茶するな」
「まぁ、ちょっとはね」
珠生は苦笑して、窓枠に肘をついた。
「深春のことも、助けてやりたいと思ってるんか」
「ん……できれば、ね。俺に何が出来るか分からないけど、力になりたいんだ」
「そうか……。もうあんな無茶、すんなよ」
「うん……」
しおらしくそう言われてしまうと、舜平も弱い。深春のことについてそれ以上何も聞けないまま、二人はしばらく沈黙していた。
「そういえば……ちょっと前に先生から聞いたんやけど。お前、またうなされてるらしいな」
「……父さんが言ってた?」
「心配になって声かけると、びっくりするくらい大人びた顔で強がるんやって、言ってはったで」
「……うん。まぁね」
「戦の夢、見てるんやろ?」
「……舜平さんも、俺のことはお見通しか」
「お前が悩むことくらい、想像つくわ」
珠生はため息をついて、暗い車窓を見やる。暗がりの中、カーステレオのかすかな明かりを受けて光る珠生の横顔を見つめながら、舜平は次の言葉を待った。
「罪の意識がさ……なかなか消えないんだよ。……やっぱり、すぐには整理できなくて」
「そら……そうやんな」
「でもいいんだ。この痛みをなくしてしまおうなんて、思ってないから」
信号で停車し、舜平は珠生を見た。珠生も舜平の視線に気づいて、こちらに顔を向ける。
「忘れちゃいけないと思うんだ。だから……これでいいんだ」
「珠生」
「信号、青だよ」
「え? ああ……」
珠生の家が見えてくる。舜平は胸を掴まれるような複雑な思いを抱えつつ、珠生の自宅マンションの駐車場へと車を入れた。
決意のこもった珠生の表情は、凛としてとても美しい。しかし、その裏にある不安や恐怖、苦悶を知っている舜平にすれば、そんな珠生を放っておけるはずもない。
手を伸ばして、シートベルトを外した珠生を抱き寄せる。驚いたように身を固める珠生の身体が、コート越しに感じられる。
鼻をくすぐる珠生の甘い匂いに、舜平は目を閉じた。
「舜平さん……」
「……」
「こんなとこで……やめてよ。ご近所の目が……」
珠生はぐっとと腕を突っ張って舜平を引き剥がす。
舜平ははっとして辺りを見回すが、真っ暗な上に凍りついた道の上には、誰もいない。
しかしながら、確かに誰が見ているとも限らない。それこそ健介にでも見られてしまえばどうなることやら分からない。舜平は苦笑して、ハンドルに手をかけた。
「はは、悪かったな」
「まったくもう。……上がっていく?」
「先生おるやろ?」
「今週末は教授会の懇親旅行だよ」
「あ、そうか……。今日やったか」
「だから大丈夫。あったかいもの、淹れるからさ」
「あ、うん……」
いかにも滑りそうな革のローファーを履いている珠生のあとを歩く。その背中で、片方だけ垂れ下がった白いマフラーが揺れていた。
朝から人のいなかった家の中は、しんとして冷え切っていた。真っ暗な玄関を入って電気をつけると、それだけで家の中が少しばかり暖かくなったように感じられる。
珠生はリビングのエアコンのスイッチを入れると、コートを着たままキッチンに立つ。舜平はダウンジャケットを脱ぎながら、ダイニングテーブルの椅子に座って、珠生を眺めた。
ふと、ここへ来るたびに珠生を抱いている自分に気づく。これでいいのかと自問自答していると、目の前に湯気の湧き上がるココアが置かれた。
「変な顔してるよ」
「そんなことはない」
「どうせまたいやらしいこと考えてたんだろ」
「考えてへんわ。いただきます」
舜平はつんとして、ココアを一口すすった。ほんのりと甘くしてあるホットココアで、冷え切っていた身体が緩んでいく。
もう一つ、目の前に置かれたものに気づく。えらく南国風な絵柄の小さな紙袋だった。
「これは?」
「修学旅行。沖縄のお土産」
着替えているらしく、部屋の方から珠生の声だけが聞こえてくる。
「なんや、買ってきてくれたんか。ありがとうな」
「いいえ」
かさかさと袋を開けてみると、中には陶器でできた小さなシーサーが入っていた。
いかつい表情をしているつもりなのだろうが、丸っこい愛嬌のある顔なので迫力はなく、掌の上でちんまりと舜平を見上げている。
「はは、可愛いやん」
「でしょ?」
珠生は部屋着に着替えて舜平の前に座った。ざっくりとしたセーターを着ている珠生の白い首筋が、否応なく舜平の目を引く。舜平はあえて目をそらしながら、シーサーを弄んだ。
「どうやったん? 修学旅行」
「楽しかったよ。俺、沖縄初めてだったから」
「そっか。あっちは温いしな」
「うん。俺寒いの嫌いだからちょうどよかったな。まぁほとんど基地の見学とか、慰霊碑をまわるようなプログラムで、あまり浮かれた空気じゃなかったけど。いろんな物見えちゃうしさ」
「あ、そうか……」
「うん……。まぁ、向こうは怖がって近寄っては来ないけど、ちょっとね。何とかしてあげたくなるから」
「……お前は優しいな」
「そうでもないよ」
珠生は首を振って、ココアを熱そうに飲んでいる。
「修学旅行となると、はしゃぐ奴が出てくるやろ」
「うん。まあ俺は湊と同じ班だし、大人しくオセロしてただけなんだけど……でも湊の彼女が友達連れてきて」
「え!? あいつ、彼女おるんか!」
「そうだよ。文化祭から付き合ってんだ。和風美人で大人っぽくて、すごくお似合いなんだよね」
「へぇ~。あいつ、大人しそうな顔してやることやってんなぁ」
「伝えとくよ」
「いや、いい。色々とやかましそうやから」
「あはは、そうだね」
珠生は楽しげに笑った。きっと修学旅行自体もとても楽しかったのだろう。舜平は微笑んで、珠生の話の先を促す。
「で、お前は何人に告られたんや?」
舜平は冗談半分にそう尋ねると、珠生は記憶をたどるように少し上を見上げる。
「ええと……九人、かな」
「えっ? まじでか!?」
「うん。全く知らない人もいたけど、一人は昔天道さんをいじめてた子の取り巻きとか、湊の彼女の友達とか……」
「……すごいなお前」
「そうかな。断るのも大変だったよ。傷つけないようにとは思って気を遣ったつもりだけど……」
「いやいや……すごいわ」
「それはどうも」
「断るんも一苦労やろな」
「まぁね」
珠生は苦笑して、またココアを飲む。そして舜平を見つめながら、こんなことを言った。
「俺には、舜平さんがいるから」
「……え?」
珠生はテーブルの上に身を乗り出して、顔を上げた舜平にキスした。不意打ちで珠生からそんなことをしてくることが珍しく、舜平はきょとんとして珠生の美しい瞳を間近に見つめる。
「……可愛いこと、言ってくれるやん」
舜平は手を伸ばし、珠生の後頭部に触れた。つややかな髪を撫でながら頭を引き寄せて、もう一度キスをした。
いつになくゆっくりで丁寧な口づけ。
舜平は、ココアで少し甘くなった珠生の唇を味わうように、角度や強さを変えて珠生の唇をついばんだ。
——あかん……もう、こうしてるだけで……やばい。
あまりの心地よさに、時間を忘れて何度も珠生と唇を重ねていた。テーブルに肘をついた珠生の身体が、さらに舜平に近づいてくる。
少し顔を離して、珠生は息をついた。軽く潤んだ目で、じっと舜平を見つめる大きな瞳が眩しい。
美しい……その一言に尽きる。
胡桃色の瞳に魅入っていると、珠生はすっと椅子を引いて立ち上がった。
「……こっち来てよ」
「え?」
「ベッド、行こう?」
言いにくそうに自分を誘う珠生が、また猛烈に可愛らしい。舜平は立ち上がると、珠生をぎゅっと抱きしめた。セーターごしに触れるのは肩甲骨だ。細い背中に手を回して、大切に大切に、抱きかかえた。
珠生の手も、舜平のシャツの背に回る。肩口に額を押し付けている珠生の吐息は、とても熱かった。
「……珠生」
「ん……?」
セータの中に手を差し込み、つるんとした背中に触れる。舜平の指先に反応して、珠生が微かに肌を震わせた。
「……キッチンや床は、もうイヤか」
「そうでもないけど……。でも、寒いのは嫌だ」
「昔から寒がりやな、お前は」
「うん……」
「すぐ……熱くしたるわ」
「んっ、う……あっ……」
耳元で囁きながら背中を撫で上げると、珠生は熱っぽいため息をついた。舜平は丁寧に珠生の肌に触れ、耳や首筋に唇を這わせていく。
ぎゅっとシャツを強く握る珠生の手を感じる。
珠生にキスを繰り返しながら、ベッドの上にゆっくりと寝かせた。つけっぱなしのリビングの明かりを受けてぼんやりと白く光る珠生の肌と、潤んだ大きな瞳を見ているだけで、舜平はひどく興奮した。
「……きれいやな」
「……今日は随分、優しいんだね……」
「そうか?」
セーターを脱がせ、触れるか触れないかの距離で指先を滑らせると、珠生はため息をついて舜平の首に腕を回した。
ゆっくりと瞬きをするたびに、長い睫毛が影を落とすさまは、何とも言えず妖艶だ。
「んっ……あ……」
「珠生」
名を囁きながら上半身を撫でているだけで、珠生の目には涙が光った。なんとも心地よさそうな声を上げる珠生に、舜平の理性にも徐々に限界が訪れていた。
「まだ上だけしか触ってへんのに……」
「あっ……! や……っ」
部屋着のコットンパンツの上から珠生の足の付根を撫でると、珠生はビクッと全身を震わせた。舜平は、涙目になりながら息を弾ませている珠生を見下ろして、猛りそうになる己を律するべく、かたく目を閉じた。
——めっちゃ可愛い。……あかんあかん、暴走したらあかん……。
舜平はシャツを脱いで、上半身だけで肌と肌を触れ合わせた。つややかな珠生の肌が、融け合うように舜平の身体に絡みつく。
珠生もまた、心地よさそうに息を漏らす。こうして体温を伝え合っているだけで、舜平はとても幸せだ。
——でも……もっと欲しい。もっと、感じさせて喘がせたい、泣かせたい……。
舜平は昂ぶる気持ちを何とか抑えながら、ゆっくりゆっくり事を運んだ。いつにも増して蕩けた表情の珠生が、舜平の首を引き寄せて唇を求める。
濡れた音が響き、珠生の唾液が媚薬のように、舜平の理性を溶かしてゆく。舜平は利き手をゆっくりと、珠生の下着の中へ忍ばせた。
「……珠生……」
「ぅんっ……あっ……」
「……していいん?」
「んっ……うん……いいよ……っ」
珠生のコットンパンツを足で脱がせてしまうと、舜平はジーパンをずらして珠生に覆いかぶさった。
珠生の目からは、すでにきらりと涙が流れ、薄く開いた唇からは浅い呼吸を繰り返す。ココアの甘い香りが、余計にいやらしく感じられ、舜平は気が狂いそうだった。
「珠生、もっと脚……開け」
「んっ……」
「ほら……」
時間をかけた前戯のあと、舜平は珠生の膝を掴んで脚を大きく開かせた。とろみを纏わせた指で後ろを慣らしながら、珠生の泣きそうな顔を見下ろしつつ、舜平は微笑んで珠生の涙を舐めとる。
「挿れるで」
「あっ……! んっ……んっ……! しゅん……ぺいさん……」
抵抗なく舜平を受け入れる珠生の身体はいつもより熱く、そしていつもよりも強く舜平を咥え込んだ。腰が砕けそうになるのを何とかこらえ、ゆっくりと腰を振る。
ゆっくりとした動きを続けながら、珠生の恍惚に堕ちた表情を見下ろした。長い睫毛が上下する度、大粒の涙が頬を滑り落ちる。
汗ばんだ肌が、更につややかになって舜平を誘う。言葉を交わす余裕もなく珠生を穿ち、何度も何度も唇を重ねた。
「あんっ……! んっ……んっ……!」
恍惚の表情で涙を流す珠生の表情を見ているだけで、舜平はぞくぞくするほどに興奮する。ひときわ深く珠生を穿ち、最奥で射精した舜平を見上げて、珠生は赤く艶めいた唇で訴えた。
「はぁっ……はぁ……。……もう一回、して。もっと、欲しい……」
「お前……いつもはしつこいとか文句ばっかり言うくせに……」
「……舜平さん……もっと、もっとしたいよ……」
舜平は珠生とつながったまま、もう一度キスをした。珠生の身体はそれだけでぎゅっと締まり、たまらず舜平は息を漏らした。
「んっ……お前」
「……なに……?」
「ほんっまに、可愛いやつ……」
「あっ……! ああっ……!! うっ……っん」
突き動かされるまま激しい腰つきで抽送を始めた舜平に、珠生はたまらず身悶えた。
全身で舜平にしがみついてくる珠生が、愛おしくて仕方がない。
求められる幸せを、ひしひしと感じた。
珠生の涙が、舜平の肩を濡らす。
珠生の甘い声が、舜平の脳をしびれさせる。
濡れた肌を掌で優しく撫でながら、珠生の求めるままに腰を振った。
窓の外では、また雪が散らつき始めている。
車のタイヤの後が轍になり、黒く汚れた雪が車道の端に積み上がっているのを、珠生は何となく残念そうに見下ろしている。
宮尾邸、湊の家を回ってから珠生の家へと向かう。
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「……雪道って、怖くないの?」
「ちょっとはな。まぁうちはもっと山奥やし、このへん走る分には余裕や」
「ふうん」
「深春は随分お前に懐いたな。聞いたで、ヤクザ相手に怖いことしたらしいやん」
「……あぁ。誰に聞いたの」
「彰に決まってるやろ」
「……ほんとになんでも知ってるな……」
「夜顔のこととなると、お前はやっぱり無茶するな」
「まぁ、ちょっとはね」
珠生は苦笑して、窓枠に肘をついた。
「深春のことも、助けてやりたいと思ってるんか」
「ん……できれば、ね。俺に何が出来るか分からないけど、力になりたいんだ」
「そうか……。もうあんな無茶、すんなよ」
「うん……」
しおらしくそう言われてしまうと、舜平も弱い。深春のことについてそれ以上何も聞けないまま、二人はしばらく沈黙していた。
「そういえば……ちょっと前に先生から聞いたんやけど。お前、またうなされてるらしいな」
「……父さんが言ってた?」
「心配になって声かけると、びっくりするくらい大人びた顔で強がるんやって、言ってはったで」
「……うん。まぁね」
「戦の夢、見てるんやろ?」
「……舜平さんも、俺のことはお見通しか」
「お前が悩むことくらい、想像つくわ」
珠生はため息をついて、暗い車窓を見やる。暗がりの中、カーステレオのかすかな明かりを受けて光る珠生の横顔を見つめながら、舜平は次の言葉を待った。
「罪の意識がさ……なかなか消えないんだよ。……やっぱり、すぐには整理できなくて」
「そら……そうやんな」
「でもいいんだ。この痛みをなくしてしまおうなんて、思ってないから」
信号で停車し、舜平は珠生を見た。珠生も舜平の視線に気づいて、こちらに顔を向ける。
「忘れちゃいけないと思うんだ。だから……これでいいんだ」
「珠生」
「信号、青だよ」
「え? ああ……」
珠生の家が見えてくる。舜平は胸を掴まれるような複雑な思いを抱えつつ、珠生の自宅マンションの駐車場へと車を入れた。
決意のこもった珠生の表情は、凛としてとても美しい。しかし、その裏にある不安や恐怖、苦悶を知っている舜平にすれば、そんな珠生を放っておけるはずもない。
手を伸ばして、シートベルトを外した珠生を抱き寄せる。驚いたように身を固める珠生の身体が、コート越しに感じられる。
鼻をくすぐる珠生の甘い匂いに、舜平は目を閉じた。
「舜平さん……」
「……」
「こんなとこで……やめてよ。ご近所の目が……」
珠生はぐっとと腕を突っ張って舜平を引き剥がす。
舜平ははっとして辺りを見回すが、真っ暗な上に凍りついた道の上には、誰もいない。
しかしながら、確かに誰が見ているとも限らない。それこそ健介にでも見られてしまえばどうなることやら分からない。舜平は苦笑して、ハンドルに手をかけた。
「はは、悪かったな」
「まったくもう。……上がっていく?」
「先生おるやろ?」
「今週末は教授会の懇親旅行だよ」
「あ、そうか……。今日やったか」
「だから大丈夫。あったかいもの、淹れるからさ」
「あ、うん……」
いかにも滑りそうな革のローファーを履いている珠生のあとを歩く。その背中で、片方だけ垂れ下がった白いマフラーが揺れていた。
朝から人のいなかった家の中は、しんとして冷え切っていた。真っ暗な玄関を入って電気をつけると、それだけで家の中が少しばかり暖かくなったように感じられる。
珠生はリビングのエアコンのスイッチを入れると、コートを着たままキッチンに立つ。舜平はダウンジャケットを脱ぎながら、ダイニングテーブルの椅子に座って、珠生を眺めた。
ふと、ここへ来るたびに珠生を抱いている自分に気づく。これでいいのかと自問自答していると、目の前に湯気の湧き上がるココアが置かれた。
「変な顔してるよ」
「そんなことはない」
「どうせまたいやらしいこと考えてたんだろ」
「考えてへんわ。いただきます」
舜平はつんとして、ココアを一口すすった。ほんのりと甘くしてあるホットココアで、冷え切っていた身体が緩んでいく。
もう一つ、目の前に置かれたものに気づく。えらく南国風な絵柄の小さな紙袋だった。
「これは?」
「修学旅行。沖縄のお土産」
着替えているらしく、部屋の方から珠生の声だけが聞こえてくる。
「なんや、買ってきてくれたんか。ありがとうな」
「いいえ」
かさかさと袋を開けてみると、中には陶器でできた小さなシーサーが入っていた。
いかつい表情をしているつもりなのだろうが、丸っこい愛嬌のある顔なので迫力はなく、掌の上でちんまりと舜平を見上げている。
「はは、可愛いやん」
「でしょ?」
珠生は部屋着に着替えて舜平の前に座った。ざっくりとしたセーターを着ている珠生の白い首筋が、否応なく舜平の目を引く。舜平はあえて目をそらしながら、シーサーを弄んだ。
「どうやったん? 修学旅行」
「楽しかったよ。俺、沖縄初めてだったから」
「そっか。あっちは温いしな」
「うん。俺寒いの嫌いだからちょうどよかったな。まぁほとんど基地の見学とか、慰霊碑をまわるようなプログラムで、あまり浮かれた空気じゃなかったけど。いろんな物見えちゃうしさ」
「あ、そうか……」
「うん……。まぁ、向こうは怖がって近寄っては来ないけど、ちょっとね。何とかしてあげたくなるから」
「……お前は優しいな」
「そうでもないよ」
珠生は首を振って、ココアを熱そうに飲んでいる。
「修学旅行となると、はしゃぐ奴が出てくるやろ」
「うん。まあ俺は湊と同じ班だし、大人しくオセロしてただけなんだけど……でも湊の彼女が友達連れてきて」
「え!? あいつ、彼女おるんか!」
「そうだよ。文化祭から付き合ってんだ。和風美人で大人っぽくて、すごくお似合いなんだよね」
「へぇ~。あいつ、大人しそうな顔してやることやってんなぁ」
「伝えとくよ」
「いや、いい。色々とやかましそうやから」
「あはは、そうだね」
珠生は楽しげに笑った。きっと修学旅行自体もとても楽しかったのだろう。舜平は微笑んで、珠生の話の先を促す。
「で、お前は何人に告られたんや?」
舜平は冗談半分にそう尋ねると、珠生は記憶をたどるように少し上を見上げる。
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「えっ? まじでか!?」
「うん。全く知らない人もいたけど、一人は昔天道さんをいじめてた子の取り巻きとか、湊の彼女の友達とか……」
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「いやいや……すごいわ」
「それはどうも」
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「まぁね」
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「俺には、舜平さんがいるから」
「……え?」
珠生はテーブルの上に身を乗り出して、顔を上げた舜平にキスした。不意打ちで珠生からそんなことをしてくることが珍しく、舜平はきょとんとして珠生の美しい瞳を間近に見つめる。
「……可愛いこと、言ってくれるやん」
舜平は手を伸ばし、珠生の後頭部に触れた。つややかな髪を撫でながら頭を引き寄せて、もう一度キスをした。
いつになくゆっくりで丁寧な口づけ。
舜平は、ココアで少し甘くなった珠生の唇を味わうように、角度や強さを変えて珠生の唇をついばんだ。
——あかん……もう、こうしてるだけで……やばい。
あまりの心地よさに、時間を忘れて何度も珠生と唇を重ねていた。テーブルに肘をついた珠生の身体が、さらに舜平に近づいてくる。
少し顔を離して、珠生は息をついた。軽く潤んだ目で、じっと舜平を見つめる大きな瞳が眩しい。
美しい……その一言に尽きる。
胡桃色の瞳に魅入っていると、珠生はすっと椅子を引いて立ち上がった。
「……こっち来てよ」
「え?」
「ベッド、行こう?」
言いにくそうに自分を誘う珠生が、また猛烈に可愛らしい。舜平は立ち上がると、珠生をぎゅっと抱きしめた。セーターごしに触れるのは肩甲骨だ。細い背中に手を回して、大切に大切に、抱きかかえた。
珠生の手も、舜平のシャツの背に回る。肩口に額を押し付けている珠生の吐息は、とても熱かった。
「……珠生」
「ん……?」
セータの中に手を差し込み、つるんとした背中に触れる。舜平の指先に反応して、珠生が微かに肌を震わせた。
「……キッチンや床は、もうイヤか」
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「うん……」
「すぐ……熱くしたるわ」
「んっ、う……あっ……」
耳元で囁きながら背中を撫で上げると、珠生は熱っぽいため息をついた。舜平は丁寧に珠生の肌に触れ、耳や首筋に唇を這わせていく。
ぎゅっとシャツを強く握る珠生の手を感じる。
珠生にキスを繰り返しながら、ベッドの上にゆっくりと寝かせた。つけっぱなしのリビングの明かりを受けてぼんやりと白く光る珠生の肌と、潤んだ大きな瞳を見ているだけで、舜平はひどく興奮した。
「……きれいやな」
「……今日は随分、優しいんだね……」
「そうか?」
セーターを脱がせ、触れるか触れないかの距離で指先を滑らせると、珠生はため息をついて舜平の首に腕を回した。
ゆっくりと瞬きをするたびに、長い睫毛が影を落とすさまは、何とも言えず妖艶だ。
「んっ……あ……」
「珠生」
名を囁きながら上半身を撫でているだけで、珠生の目には涙が光った。なんとも心地よさそうな声を上げる珠生に、舜平の理性にも徐々に限界が訪れていた。
「まだ上だけしか触ってへんのに……」
「あっ……! や……っ」
部屋着のコットンパンツの上から珠生の足の付根を撫でると、珠生はビクッと全身を震わせた。舜平は、涙目になりながら息を弾ませている珠生を見下ろして、猛りそうになる己を律するべく、かたく目を閉じた。
——めっちゃ可愛い。……あかんあかん、暴走したらあかん……。
舜平はシャツを脱いで、上半身だけで肌と肌を触れ合わせた。つややかな珠生の肌が、融け合うように舜平の身体に絡みつく。
珠生もまた、心地よさそうに息を漏らす。こうして体温を伝え合っているだけで、舜平はとても幸せだ。
——でも……もっと欲しい。もっと、感じさせて喘がせたい、泣かせたい……。
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濡れた音が響き、珠生の唾液が媚薬のように、舜平の理性を溶かしてゆく。舜平は利き手をゆっくりと、珠生の下着の中へ忍ばせた。
「……珠生……」
「ぅんっ……あっ……」
「……していいん?」
「んっ……うん……いいよ……っ」
珠生のコットンパンツを足で脱がせてしまうと、舜平はジーパンをずらして珠生に覆いかぶさった。
珠生の目からは、すでにきらりと涙が流れ、薄く開いた唇からは浅い呼吸を繰り返す。ココアの甘い香りが、余計にいやらしく感じられ、舜平は気が狂いそうだった。
「珠生、もっと脚……開け」
「んっ……」
「ほら……」
時間をかけた前戯のあと、舜平は珠生の膝を掴んで脚を大きく開かせた。とろみを纏わせた指で後ろを慣らしながら、珠生の泣きそうな顔を見下ろしつつ、舜平は微笑んで珠生の涙を舐めとる。
「挿れるで」
「あっ……! んっ……んっ……! しゅん……ぺいさん……」
抵抗なく舜平を受け入れる珠生の身体はいつもより熱く、そしていつもよりも強く舜平を咥え込んだ。腰が砕けそうになるのを何とかこらえ、ゆっくりと腰を振る。
ゆっくりとした動きを続けながら、珠生の恍惚に堕ちた表情を見下ろした。長い睫毛が上下する度、大粒の涙が頬を滑り落ちる。
汗ばんだ肌が、更につややかになって舜平を誘う。言葉を交わす余裕もなく珠生を穿ち、何度も何度も唇を重ねた。
「あんっ……! んっ……んっ……!」
恍惚の表情で涙を流す珠生の表情を見ているだけで、舜平はぞくぞくするほどに興奮する。ひときわ深く珠生を穿ち、最奥で射精した舜平を見上げて、珠生は赤く艶めいた唇で訴えた。
「はぁっ……はぁ……。……もう一回、して。もっと、欲しい……」
「お前……いつもはしつこいとか文句ばっかり言うくせに……」
「……舜平さん……もっと、もっとしたいよ……」
舜平は珠生とつながったまま、もう一度キスをした。珠生の身体はそれだけでぎゅっと締まり、たまらず舜平は息を漏らした。
「んっ……お前」
「……なに……?」
「ほんっまに、可愛いやつ……」
「あっ……! ああっ……!! うっ……っん」
突き動かされるまま激しい腰つきで抽送を始めた舜平に、珠生はたまらず身悶えた。
全身で舜平にしがみついてくる珠生が、愛おしくて仕方がない。
求められる幸せを、ひしひしと感じた。
珠生の涙が、舜平の肩を濡らす。
珠生の甘い声が、舜平の脳をしびれさせる。
濡れた肌を掌で優しく撫でながら、珠生の求めるままに腰を振った。
窓の外では、また雪が散らつき始めている。
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地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
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