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第5幕 ——夜顔の記憶、祓い人の足跡——
14、そして高校三年生
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季節は巡り、季節は春。
四月になり、珠生は高校三年生になった。
ついこの間京都へ来たと思っていたのに、あっというまに最高学年になってしまった。
心配していたクラス替えであるが、珠生は湊とも亜樹とも同じクラスにはならなかった。
なんと、亜樹と湊が同じクラスになったのである。
朝一緒に登校し、新しいクラスの貼りだしを見た湊は、まるで殴られたような、くぐもったような、声にならない悲鳴をあげていた。
一方珠生は、戸部百合子、空井斗真、梅田直弥、本郷優征が同じクラスである。
「空井や梅田が同じクラスやん。よかったな、平和そうで」
「そうでもないよ。本郷がいる」
「ああ、なんか天道にちょっかい出してた……」
掲示板を見上げながら、二人はブツブツとそんな話をしていた。
珠生は3-E、湊は3-Aと、かなり教室自体も離れてしまった。珠生は心細くなってしまい、浮かない顔で湊を見上げた。
「俺もA組が良かったな」
「替われるもんなら替わってやりたいわ」
「あ、そっか。こっちには戸部さんもいるもんね」
「それはいいねん。どうせいつでも会えんねんから」
「いいなぁ、湊は」
「ん? お前には舜平がおるやろ。付き合ってんねやろ?」
「えっ、つ、つきあう……ってか、付き合って……んのかなこれ……」
「ま、形なんてどうでもええか。お前らが幸せなら俺も嬉しいぞ」
「……あ、うん……ありがと」
珠生は照れながら苦笑した。
+ +
新学期が始まってから一週間が経ち、彰がいないという違和感にも徐々に慣れ始めた頃、新学期最初のテスト結果が掲示された。
珠生は登校してすぐに、下足室の向こうにある掲示板の前に人だかりができているのに気づき、そちらへと脚を向けた。ふと、見知った背中を見つけた珠生は、その隣に立って声をかける。
「おはよう」
「お、おはよう。沖野」
そこにいたのは今年も同じクラスの空井斗真だった。斗真は珠生を見ると、やや顔を赤らめて目を瞬かせる。記憶を消されても、斗真は珠生に対して仄かな恋心のようなものを抱き続けているのである。
目線を外さない斗真を珠生が不思議そうに見上げると、斗真はふっと目をそらして掲示板を見上げた。
「柏木、一位やで。すごいな」
「へぇ、さすが。天道さんは?」
と、珠生は亜樹の名前が湊の横にあるだろうと予測して掲示物を見上げる。
「あれ?」
上位に亜樹の名前はなかった。ずっと下を見ていくと、”二十二位 天道亜樹 四四九点”とある。そのもう少し下に、”三十八位 沖野珠生 四三七点”とある。もはや定位置のようになってきた四十位前後の自分の名前はともかくとして、亜樹の成績がこんなにも振るわなかったのを見るのは初めてだった。
「調子悪かったのかな」
と、珠生は少し心配になった。
「最近大人しいらしいやん、天道さん」
と、斗真がそんなことを言う。
「そうなの?」
「女友達と和気あいあいしてるんやて。A組のバスケ部のやつが言っててん。学校楽しいならそっちの方がええんちゃう?」
「それは言えてる」
珠生はふと、最近亜樹に会っていないことに気づいた。深春の高校進学の件が落ち着いて以来、柚子の家にもあまり顔を出していない。
不意に、亜樹の憎まれ口が聞きたくなって、珠生はじっと掲示物の名前を見上げた。
四月になり、珠生は高校三年生になった。
ついこの間京都へ来たと思っていたのに、あっというまに最高学年になってしまった。
心配していたクラス替えであるが、珠生は湊とも亜樹とも同じクラスにはならなかった。
なんと、亜樹と湊が同じクラスになったのである。
朝一緒に登校し、新しいクラスの貼りだしを見た湊は、まるで殴られたような、くぐもったような、声にならない悲鳴をあげていた。
一方珠生は、戸部百合子、空井斗真、梅田直弥、本郷優征が同じクラスである。
「空井や梅田が同じクラスやん。よかったな、平和そうで」
「そうでもないよ。本郷がいる」
「ああ、なんか天道にちょっかい出してた……」
掲示板を見上げながら、二人はブツブツとそんな話をしていた。
珠生は3-E、湊は3-Aと、かなり教室自体も離れてしまった。珠生は心細くなってしまい、浮かない顔で湊を見上げた。
「俺もA組が良かったな」
「替われるもんなら替わってやりたいわ」
「あ、そっか。こっちには戸部さんもいるもんね」
「それはいいねん。どうせいつでも会えんねんから」
「いいなぁ、湊は」
「ん? お前には舜平がおるやろ。付き合ってんねやろ?」
「えっ、つ、つきあう……ってか、付き合って……んのかなこれ……」
「ま、形なんてどうでもええか。お前らが幸せなら俺も嬉しいぞ」
「……あ、うん……ありがと」
珠生は照れながら苦笑した。
+ +
新学期が始まってから一週間が経ち、彰がいないという違和感にも徐々に慣れ始めた頃、新学期最初のテスト結果が掲示された。
珠生は登校してすぐに、下足室の向こうにある掲示板の前に人だかりができているのに気づき、そちらへと脚を向けた。ふと、見知った背中を見つけた珠生は、その隣に立って声をかける。
「おはよう」
「お、おはよう。沖野」
そこにいたのは今年も同じクラスの空井斗真だった。斗真は珠生を見ると、やや顔を赤らめて目を瞬かせる。記憶を消されても、斗真は珠生に対して仄かな恋心のようなものを抱き続けているのである。
目線を外さない斗真を珠生が不思議そうに見上げると、斗真はふっと目をそらして掲示板を見上げた。
「柏木、一位やで。すごいな」
「へぇ、さすが。天道さんは?」
と、珠生は亜樹の名前が湊の横にあるだろうと予測して掲示物を見上げる。
「あれ?」
上位に亜樹の名前はなかった。ずっと下を見ていくと、”二十二位 天道亜樹 四四九点”とある。そのもう少し下に、”三十八位 沖野珠生 四三七点”とある。もはや定位置のようになってきた四十位前後の自分の名前はともかくとして、亜樹の成績がこんなにも振るわなかったのを見るのは初めてだった。
「調子悪かったのかな」
と、珠生は少し心配になった。
「最近大人しいらしいやん、天道さん」
と、斗真がそんなことを言う。
「そうなの?」
「女友達と和気あいあいしてるんやて。A組のバスケ部のやつが言っててん。学校楽しいならそっちの方がええんちゃう?」
「それは言えてる」
珠生はふと、最近亜樹に会っていないことに気づいた。深春の高校進学の件が落ち着いて以来、柚子の家にもあまり顔を出していない。
不意に、亜樹の憎まれ口が聞きたくなって、珠生はじっと掲示物の名前を見上げた。
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