初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

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第5章 

2 レベチなご家庭

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「いらっしゃい! 暑かったろ、さ、入って入って!」

 澄斗がにこやかに僕らを出迎えに出てきてくれた。
 玄関は二階まで吹き抜けで、ものすごく天井が高い。感心しつつ見上げていると、澄斗が笑った。

「ほら、郁也も入って」
「う、うん。お邪魔します……すごい家だなあ」
「ま、デカさだけはな」

 澄斗はさらっとそう言って、先に立って白いフローリングの廊下を歩いていく。こんな家に住んでいる澄斗を、手狭な僕の家に招いたことが今更ながら恥ずかしい……(悠巳くんは暑い暑いといいながらさっさとリビングに入っていった)
 
 前をゆく澄斗は、偶然僕と似たような格好をしていた。
 オーバーサイズの白いTシャツにダボッとした黒いパンツという飾り気のないでたちである。
 といっても、スタイル抜群の澄斗だ。服がシンプルだからこそ澄斗の長い手脚や小顔が際立って、まるでスーパーモデルがそこにいるかのように華があった。
 
(たぶん、僕の服の何倍も高い服なんだろうな……)

 引け目を感じつつ通されたリビングの明るさに、僕は感嘆のため息を漏らした。
 庭に面した窓は特に大きく切り取られていて、すっきりした雰囲気のリビングの中に清々しい陽光が差し込んでいる。

「ま、ふたりとも冷たいお茶でもどーぞ」
「おっ、気ぃきくやん。ありがとう」
「ありがと、いただきます」

 キッチンで立ち働いていた澄斗が、背の高いグラスによく冷えていそうな緑茶を注いでくれた。
 促されるままダイニングチェアに座り、ぐるりと部屋の中を見回してみる。
 
 天井が高く、まるでリゾートホテルのような開放感だ。行ったことないけど。

 壁や床は淡いグレーで、リビングに鎮座したL字型のソファも同系色。あまり生活感がなくてモデルルームのようだ。
 見たところキッチンも整理整頓が行き届いていて、家電にも統一感がある。とっちらかった僕んちの台所とは大違いである。

「家もキッチンもめちゃくちゃ片付いてて綺麗だね。料理が上手い人はキッチンもきれいなのかなぁ」
「人それぞれだと思うけどね。まぁ、うちは散らかす人がいないから」
「いない?」

 何気なく聞き返すと、ごくごくとお茶を一息に飲んでいた悠巳くんが澄斗の代わりに答えた。

「澄斗のご両親、今も海外出張中なんやろ?」
「えっ、そうなんだ。すごい、かっこいいなぁ」
「てか、郁也くん知らんの? 澄斗の親、『Artemi』の日本支部のお偉いさんやねんで」
「ん? あるてみ……? ってなに?」

 純粋に知らない言葉が出てきたので問い返してみると、悠巳くんがさらに追加で説明してくれた。
 
「フランスのハイブランド、知らん? そこの日本支部の偉い人やねんて」
「あー……なんか名前だけはちらっと聞いたことがあるような……」
「ご両親どっちも美男美女で、業界では有名やねんな。俺、雑誌で見たことある」
「美男美女か……そりゃ澄斗のご両親だもんね、当然か」 
「せやんなぁ。写真でしか見てへんけど、特にお母さんが——」
 
 悠巳くんはまだまだ何か言いたそうだったけれど、澄斗が「もういいって」と強めに遮る。 

 その語気の強さに僕らはちょっと驚いて、同時に澄斗を見上げた。すると澄斗は我に返ったように目を瞬き、取り繕うにように微笑んだ。

「……まあ、そういう仕事柄だから、うちの親はしょっちゅう家を開けるんだ」
「へえ、そっか。じゃあ澄斗も一人暮らし期間がたまにあるってことか」
「まあね。といっても、近所で店をやってる祖父がときどきお目付け役みたいに顔を出してくるから、羽目を外せる感じではないんだけど」
「店?」
「うん、隣町で喫茶店やってんの」
「へえ、すごいね。なんて店?」
「『喫茶あかつき』っていうんだ。馴染みの高齢者しか来ない古~い店だよ」

 自虐っぽい言い方をするものの、澄斗の表情は優しい。お祖父さんがやっているというし、店自体に愛着があるのだろう。

「あ、料理はおじいさんに教わってるとか? だから澄斗は料理うまいの?」
「うん、まあそんなかんじかな~。親はいい顔しないけどな」
「そうなんだ。料理なんてできるに越したことないのにね」

(凄そうなご両親みたいだだけど、きっと自慢の息子だろうなあ。僕もそんな人間になりたかった……)

 すごい遺伝子の家にはすごい息子が生まれるのだなぁとしみじみ感じ入っていると、悠巳くんがまた口を開いた。
 
「あと、お兄さんいはったよな。大学生の」
「うん、大学四年生のな。春からアメリカに留学するんだって」
「へぇ、お兄さんまですごいんだ……!!」

 聞けば、澄斗のお兄さんは都内にある英誠大学の経営学部に所属しているとのことだ。ここから通っても一時間半くらいで大学には着くけど、一人暮らしをしているという。 

 なにからなにまで朝霞家とはレベルが違いすぎて、テレビドラマに登場するキャラクターのように非現実な感じがする。

 ひたすら感心している僕を見て、澄斗が眉を下げて笑った。
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