初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

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番外編③ 郁也視点

雷が聞こえたら……

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「っ、郁也。もうさすがに大丈夫だって……」
「怖いなら、僕がずっとこうしてる」
「え?」
「澄斗が怖くなくなるまで、ずっとこうしてる」
「……郁也」

 外では雷鳴が轟いている。
 澄斗を脅かす全てのものから澄斗を守るべく、僕は薄い胸の中で澄斗を強く抱きしめた。
 
 すると、そっと腰に腕が回る。そのままぐっと引き寄せられ、つんのめった僕はバランスを崩してしまった。

「うわっ……!」

 視界がぐらりと傾ぐ。
 気づけば僕は——……澄斗をソファの上に押し倒すような格好になっていた。

(……あ、やばい……)

 薄暗い部屋の中、ソファに横たわる澄斗の上に跨っている。普段見ることのないアングルで澄斗を見下ろす格好になってしまった。
 
 どこか困ったような顔で僕を見上げる澄斗の表情はやたらめったら色っぽく、なんだかひどくいけないことをしているような気分になった。 

 しかも澄斗の浴衣の裾ははだけ、引き締まった脚が露わになっているのが視界の端のほうに見え隠れしていて……

「あっ! あの、ごめん……すぐにどくから」

 慌てて澄斗の腹から降りようとしたが、ぐっと腕を引かれてそのまま倒れ込んでしまった。

 抱き留められ、そのまま強く強く抱きしめられて、澄斗の胸に頬を押しつけていると……どくどく、どくどくと早鐘を打つ心音が聞こえてきた。
 
「……怖い」
「へ?」
「雷、やっぱ今もすげー怖い。だからもうちょっと、このままでいてよ」
「いや、やっぱって……」
「このままでいたい」

 どことなく駄々っ子のような口調だ。それが無性に可愛くて、僕は澄斗の上でこくりと頷く。

 澄斗の心臓の音ばかりが、静かに僕の耳の中にこだましている。

 あたたかくて大きな身体にぴったりとくっついていると心地が良くて、僕はいつしかくったりと脱力していた。

 すると、ぽつりと澄斗がつぶやいた。

「……郁也、軽い」
「……へ? 体重?」
「そう。こんなに軽いんだ」
「失礼だな。これでもちょっとずつ筋肉を増やしてるとこだから」
「そっか……」

 する……と澄斗の手がむき出しの僕の太ももに載った。
 思わずピクッと反応するも、澄斗に触れてもらえると嬉しくて、僕はみじろぎをしなかった。

「……こんなふうに触られて、やじゃねーの?」
「……嫌なら抵抗してる。いいよ、もう。毎回確認しなくても」
「ほんと?」
「うん……」

 澄斗の胸の上で頷くと、ふ……と吐息で微笑んだのがわかった。

 さらりとした澄斗の手で、捲れ上がった甚兵衛の裾から伸びた僕の足を淡く摩られ……ぞくりと背筋が甘く震えた。

「こんなふうに、やらしく触られても?」
「う、うん……っ、くすぐったい」
「はぁ……そっか。俺、もっと郁也に触っていいんだ」
「い、いいよ……っ、てか、くすぐったいって……!」

 不慣れな心地よさと羞恥心とがあいまって照れ笑いを浮かべつつ、僕はふと顔を上げた。 

 すると、幸せそうな薄笑みを浮かべた澄斗と間近で視線が重なった。

 綺麗な瞳がまっすぐに、愛おしげに僕を見つめていて——……

「……ん……」
 
 僕は、自ら澄斗に唇を重ねていた。

 なぜそうしたのかわからない。
 ただ、澄斗が綺麗で、可愛くて、好きで、触れたくて、身体が勝手に動いたのだと思う。

 澄斗の真似をして、軽く押し付けた唇を離し、角度を変えて小さく下唇を啄む。 
 僕が上になっているから、やめようと思えばいつでもやめられる。

 だけどやめたくない。澄斗の唇は柔らかいのに弾力があって、蕩けるように気持ちが良くて、いつまででもこうしていたかった。

「っ……郁也……」
「ん……」
「……は……やばいって、これ以上、されたら……」
「ん……? あっ」

 かすかに乱れた吐息とともに聞こえた澄斗の苦しげな声で僕はふと我に返った。
 
 唾液で艶やかに濡れた澄斗の唇から、気絶してしまいそうにセクシーなため息が漏れた。

 上気した頬は桃色に染まり、しっとりと濡れた瞳で僕を見つめていた澄斗が……妖艶に微笑んだ。

「まさか郁也から舌挿れてもらえるとは思わなかったよ」
「……舌……。えっ、あっ……!? ご、ごめん……!!」
「ううん、全然。びっくりしたし、エロすぎてどうかなりそうだったけど……」
「う、うぁぁぁ……」

 かぁぁぁぁ——!! と全身の血が沸騰しそうなほど恥ずかしくなってしまう。

 澄斗の上から即座に飛び退いてしまおうと思ったけれど、やっぱり澄斗は僕の腰から手を離してくれなくて、むしろ強く抱き寄せられた。
 
「ご、ごめん! 僕……なんか、澄斗とキスしてると気持ちよくなっちゃって、あたまぼーっとして……なんか、夢中になっちゃって……」
「……ふはっ……あはははっ、ほんと?」
「う、うん……。ごめん、いきなり……気持ち悪かったよね、ごめん」
「全然、逆だよ。エロいし可愛いし、気持ち良すぎて……俺、ちょっと理性ぶっとびそうになった」
「うぁぁ~~……」
 
 澄斗の胸に顔を埋めて呻き続けていると、もぞ……と僕の下で澄斗が身じろぎをする。

 そこに僕は、れっきとした澄斗の昂りを感じ取ってしまった。

(う、うわ、僕のキスで……こんな? 澄斗……気持ちよかったのかな。僕に舌を挿れられて……?)
 
 テクもなにもあったものじゃない。気持ちよくて、幸せで、愛おしくて、本当に無我夢中だっただけ。

 なのに澄斗は、こんなに興奮してくれていたのか……?

 となると、この後は……?

 得たばかりのBL知識が突然ぶわっと脳裡に花開いてしまい——……僕は、気絶寸前になりながら澄斗の上から飛び退いた。
 
「あ、あの、ごめん!! その……ええと……!!」
「あぁ~なんか俺、刷り込まれちゃったな~」
「へ?」

 澄斗がむくりと身体を起こすと、その拍子に片方の肩からするりと浴衣がはだけた。

 鼻血を噴き出してしまいそうなほど色っぽいのに、澄斗はさらにいたずらっぽくニヤリと笑う。

「雷が鳴ったら、俺は郁也にディープキスしてもらえるんだなーって」
「そ、そんなことを刷り込んだ覚えは……!!」
「へへ。あー、ほんとエロかった」
「いや、だからそれは、僕も夢中で」
「夢中になるほど気持ちよかったんだ。……郁也のえっち」
 
 自分の唇を小さく舐めて、お色気たっぷりに笑いながらのこのセリフだ。

 キャパシティを超えるセクシーを浴びて、なんだか気が遠くなってしまい——……

「わっ、郁也!」

 ソファにバタンとひっくり返ってしまった僕を、澄斗が慌てて抱き起こす。

 すると遠くで、どぉん……と花火が弾ける音がした。

「あれ? 雨止んでる」
「ほ、ほんとだ……てか、もう花火の時間?」
「俺たち、そんな長い時間イチャイチャしてたのかな」
「イチャイチャ……」

 時計を見上げると、時刻は19時半を過ぎている。

 花火のスタートを告げる音と同時に、僕の腹の虫もぐううと鳴る。
 それが聞こえたらしく、澄斗はいつものように明るく笑った。

 その笑顔を見ると、やっぱりすごくホッとする。
 色っぽい澄斗もすごく素敵だけど……やっぱり、僕にはまだ少し早いのかもしれない。

「よーし、たこ焼きでも作るか」
「う、うん……。あ、僕は焼きそば作るよ! ホットプレートなら火事にならないし!」
「うん、頼むな」

 澄斗がブラインドを上げ、僕らは並んですっきりと澄み渡った空を眺めた。
 さっきまでの曇天が嘘のように、冴えた夜空が広がっている。
 
 窓を開けると、意外なほどに涼しい風が僕の頬を撫でて吹き抜けた。きっと土砂降りの雨が、空気を綺麗に洗い流してくれたのだろう。 

 僕らは自然と手を繋ぎ、顔を見合わせて同時に笑った。


 間違いなく、今日の花火は綺麗に見える。
 


 おしまい♡
 
  



 番外編も最後までお付き合いいただき、まことにありがとうございました!
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