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〈一〉
しおりを挟む私は、この山奥で庵を結んでおります僧侶、翠円と申します。
三年ほど前までは、都の寺院にて仲間たちとともに御仏にお仕えしておりましたが、故あって寺を出て、今はここで日々仏像を彫って暮らしております。
もともと器用な質であったものでございますから、私の掘る木像はそれなりに見目のいいものばかりでございます。そのためか、近隣に住む農家の人々がそれを求めてくださるようになりました。代金を頂戴するつもりは毛頭なかったのでございますが、皆さまは、仏像をいただくかわりにと、私に米や野菜を与えてくださいました。そのため、私は日々潤った生活を送ることができております。この良縁はきっと、御仏が巡りり合わせてくださったものに違いありません。
さて、とある日の夕刻。
半刻ほど前まで激しく降り続いていた雨がやみました。久しぶりに見上げた空は澄み渡る茜色で、ここ数日垂れ込めていた分厚い雲が嘘のようでございます。
私は身支度を整えて、すぐそばにある古びたお堂へお勤めに出向くことにいたしました。いつから人の手を離れてしまったのか、そのお堂は苔むすほどに古く、今にも朽ち果ててしまいそう。かつては、たくさんの方がここで手を合わせていたのでしょう。広々としたお堂ではございますが、今は床板は剥がれ天井からは雨漏りをしておりますゆえ、棲み着いているのは小さなけものたちくらいのものでございます。
すでに盗賊の手にでもかかってしまったのか、ご本尊の仏像もお姿を消していらっしゃいます。なので私は、畏れ多きことと存じながらも、手ずから拵えた木彫りの仏様をそこに安置させていただいているのです。そして日々念仏を唱えながら、人々の安寧と世の泰平を願うのでございます。
「……ん?」
私はふと違和感を感じ、足を止めました。
いつもならば人の気配など微塵も感じない場所であると言うのに、なぜだか今日は妙な胸騒ぎを感じます。そっと息を潜めつつ、雨に濡れた木々の陰からお堂の方を覗いてみますと、何やら中から男の騒ぎ声が聞こえてきます。そしてそこはかとなく漂ってくるのは、むっとするような酒の匂い。
——ひょっとして、最近ここいらを騒がせている盗賊たちが……?
嫌な予感はいたしましたが、あのお堂は私が日々慈しんでいる大切な場所でございます。そこを荒らされてしまうというのは、到底気分のいいものではございません。私は意を決し、袈裟をぎゅっと握りしめました。そしてかすかに震える足を踏みしめて、お堂の方へと進みます。
「……ああ、やはり……」
お堂の中では、薄汚いなりをした三人の若い男が酒を飲み交わし、大声で喋り合っていました。げらげらと下品な笑い声を撒き散らしながら、女がどうだ酒がどうした、あそこの蔵には金がある、燃やしてしまえ……などと物騒なことを口にしながら、さも楽しげに騒ぎ立てているのでございます。
よくよく聞いていると、私が懇意にいしてる村長の名まで口にしている始末。さっと血の気が引く思いがいたしました。つまり次に狙われているのは、この麓にあるあの村ということ。村長のところには、昨春お孫さんが生まれたばかりで、ついこの間、私もお祝いの席に呼ばれ、楽しいひと時を過ごさせていただいたばかりなのに。
——そんな……そんなことは許せません。なんとか、なんとか村を荒らすことをやめてもらわなくては……!
村を守りたい一心で、私はさらなる一歩を踏み出しました。ぎっ……と床板が軋む音が思いの外高く響き、お堂の中で騒いでいた男たちの視線が、一斉にこちらに向かいます。さあぁ……と全身から血の気が引くような思いがいたしましたが、もう後へは引けません。私は拳を握りしめました。
「こんなところで何をなさっているのです」
がらんとしたお堂に、私の声が響きます。男たちはそれぞれに剣呑な目つきでこちらを睨みつけていて、中には、とっさに刀の柄を掴んだ男も見て取れました。……ああ、最悪の場合、私はあの刀で首を飛ばされてしまうのかもしれません。不穏な予感が脳裏を過ぎりましたが、もはや、ここで引くわけにはいきません。
「なんだぁ? 誰かと思えば坊主かよ。俺たちに説教でも垂れに来たのかい?」
と、一番奥で瓢を傾けていた男が、すっと立ちあがりました。
胸板が厚く上背のある男で、片方の目には黒い眼帯を巻きつけています。眼光の鋭いその男の視線はいかにも野性的で、視線で射抜かれた瞬間身が竦みました。
いどかどかと大きな足音を立てて私のすぐそばまで歩み寄ってきたその男が、にぃっ……と唇を釣り上げます。
「へぇ……どこの説教坊主かと思ったら、これはこれは。こんな別嬪な坊主見たことねぇぜ。なぁ? 見ろよ」
「どれどれ?」
眼帯男に声をかけられて立ち上がったのは、すらりとした痩身の男です。眼帯男よりは一回り小さな身体つきなれど、垢じみた着流しの着物から覗く胸元は引き締まっており、身のこなしに隙がございません。おまけに、女性と見紛うほどの美しい顔でございます。私は目を見張りました。
「ふん、俺に比べりゃ大したことねぇ。ま、幻はこういうおっとりした美形が好みだものな」
「ははっ、よく分かってるじゃねぇか! なぁ、こっちへ来いよお坊さま。一緒に一杯やらねぇか」
「ちょっ……私は、あなた方を追い出しに、」
「へぇ、俺たちを追い出したいのかい? ははっ、そりゃいい。説教なら中で聞くぜ」
眼帯男は私の肩を強引に抱き寄せて、そのままお堂の中へと連れ込んでゆきます。その腕を解こうといたしましたが、びくともしないほどに強い腕です。まるで鋼のような。
気づけば私は、眼帯男のすぐ傍に座らされ、薄汚れた盃になみなみ酒を注がれていました。
「若いな、お坊さま。歳は幾つだ?」
「に、二十二にございますが……あの、私は酒はやりません。私は御仏に仕える身。こういったものは……」
「細けぇこと言うなって。ふふ……ああ、いい匂いだ」
「っ……お、おやめください!」
「へへっ、お前のような美坊主じゃ、餓鬼の頃は苦労しただろ? 助平坊主たちの相手をさせられてさ」
「そっ……そんなことは……」
今朝方きれいに剃り上げたばかりのうなじや首筋の匂いをくんくんと嗅がれ、不快さとくすぐったさのないまぜになった感覚に、私は身震いいたしました。何日も風呂に入っていないのでしょう。男の匂いはけもののそれと変わらない、それはそれは不快なものでございます。
ですが、野性味溢れる男の逞しい身体に抱き込まれていると、なぜだか妙な気分が湧き上がってくるのもまた事実。いかにも性的な雰囲気を漂わせながら私の耳たぶを食む男の唇に、私はぶるりと身震いをいたしました。
「おい幻兄、坊さん困ってんだろ。そんなことしていいのかい?」
にやにやと好色の浮かぶ笑みを浮かべつつ、眼帯男を親しげに『幻兄』と呼んだのは、頬に幼さの残る少年ございます。見たところ、まだ齢十五、六というところでしょうか。大きな目に滾るほどの好奇心を宿し、じっと、めくれ上がった着物の裾から覗く私の足首を見つめています。
ひょろりと背丈は伸びておりますが、体つきはまだまだ未完成。世を知らぬ少年がこのような盗賊風情に身を落とさねばならぬとは……と、私はふと、少年を見て物悲しい気持ちになりました。
すると、幻と呼ばれた眼帯男は、にぃっと唇を歪めて雄々しい笑みを浮かべました。
「ま、年端もいかねぇくそ餓鬼には、この坊主から漂う雌の匂いなど分かるめぇよ」
「……雌ぅ? そりゃ、べっぴんだとは思うけど、男だろ?」
と、少年が怪訝な表情を浮かべています。すると幻殿は袈裟の上から私の魔羅をぎゅっと握りこみ、べろぉ……っと私の首筋を舐めあげました。
「あっ……なにをっ……」
「身体がすっかり熱くなってきやがった。……ははっ、思った通りだぜ。坊さん、あんた男を知ってるな?」
「そっ……そんなことはございません! わたしはただ、一心に御仏の道を……!」
「さぁ、どうだか?」
幻殿に後ろから抱き込まれ、あろうことか着物の裾を捲りあげられてしまいました。おまけに膝を掴まれて、脚をはしたなく開かされてしまいます。白い足袋と同じくらいに白いふくらはぎと内腿が露わにされ、私は羞恥のあまり顔が真っ赤に染まるのを感じました。
しかも、下履きを押し上げる、自らの雄芯を目の当たりにしてしまっては、恥ずかしさのあまり顔を上げることもできません。
「お、おやめください……!」
「見てみろよ、この坊主の魔羅を。こんなに立派におっ勃てて、たっぷりよだれを垂らしてやがるぜ? これは俺たちでご奉仕してさしあげねぇと、可哀想だろうが」
「……いやです……っ。おやめください……!」
少年が、食い入るように私の魔羅を見つめています。好奇の目に晒された恥部を隠そうと脚をばたつかせようといたしましたが、幻殿の手は固く私に膝を掴んで離さないのでございます。
すると、先の美貌の男が妖艶な笑みを浮かべながら、私のそばへにじり寄ってまいりました。そしてあろうことか、指先で私の下履きをずっとずらし、ぶるんと撓って立ち上がる屹立を、手の中に包み込んだのでございます。
「あっ……あぅ!!」
「……へぇ……けっこう良い物をもってるじゃねぇか。こっちは使わないのかい?」
「つかいませっ……ァあっ……!」
「あはははっ、感度も抜群だ。かわいいね、あんた」
美貌の男は、私の魔羅を上下に扱きながら、幻殿と同様に私の首筋や耳元に舌を這わせ始めました。それはあまりに淫らで、あまりにも蠱惑的な快感です。
遠い昔に忘れ果てていたはずの甘い甘い快楽が、私の全身を淫らに溶かし始めました。
「ァっ……ぁ、あっ……おやめくださぃ……んッ、ァ、あん……」
「ははっ……伊佐もお前を気に入ったようだぜ? お坊さま」
と、幻殿が耳元で低く嗤い、するりと私の尻の方へと手を回しました。そして少年に向かい、「おい、そのへんに女衒から分捕った椿油があったろ。それ寄越しな」と命じています。
「なっ……何をなさるおつもりですか……!」
「決まってんだろ? あんたを気持ちよくして差し上げるのさ」
「いやっ……いやです! 私は、あなたがたに、麓の村を襲って欲しくなくて……っ!」
「ああ、そういうこと? なるほどね」
幻殿は、はぁはぁと吐息を乱す私の顎をぐいとっ摑み、強引にご自分のほうへと向かせました。首を捻って見上げた幻殿の瞳には、すでにぎらぎらと燃えたぎる欲望が見て取れます。
「いいぜ。お前がおとなしく俺らに抱かれるってんなら、そこの村は見逃してやってもいい」
「ほ……本当、ですか?」
「ああ、でもな。俺たちが満足するまで、お前はここを出られねぇ。それでもいいな?」
——ああ……なんということだ。私はここで、この男たちに、ひどいことをされてしまう……。
見ず知らずの男に……しかも三人もの盗賊に取り囲まれ恐ろしいはずなのに、どういうわけか私の尻の奥深くは、ずくんと甘く疼き始めます。
私が小さく頷くと、幻殿は待ってましたとばかりに、私の唇に激しく接吻をいたしました。
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