俺の幼馴染みが王子様すぎる。

餡玉(あんたま)

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夏の暑さと深まる関係

〈3〉※……賢二郎視点

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 そういったやりとりを経て、サーシャは徐々に賢二郎と累のデュオ活動を応援してくれるようになった。
 今では楽曲や演出についてアドバイスをくれるようになり、ずいぶん活動に理解を示してくれるようになったため、賢二郎としても胸を撫で下ろしているところである。

 そして今日の午前中にも、累との打ち合わせが入っている。
 大学院の講義、レポート、ここ最近少しずつ増えてきている音楽家としての仕事、そしてレッスン——帰国してしばらくは比較的自由な時間がたくさんあったけれど、新年度が始まってからの賢二郎は多忙だった。

 サーシャとの関係がより深まり、メンタルが平穏でいられるおかげか、忙しい毎日もさほど苦ではない。
 数年前は累への片思いに煩い、留学先ではスランプに陥り、帰国後はサーシャとの距離感に悩んでいたため、なんとなくずっと気忙しかったものである。

 だが今は、サーシャと過ごすふたりきりの時間は、忙しい日常の合間にあるオアシスのようなものだ。そう感じることができるようになり、ようやく落ち着いて充実感を得られるようになってきた今日この頃である。

 早く目が覚めてしまった割には、すっきりした顔をした自分が鏡の中に映っている。
 少し濡れた前髪をかき上げていると、賢二郎の視界の中に、ぬっとサーシャが入ってきた。

「ずいぶん早起きだね、賢二郎。まだ六時すぎじゃないか」

 朝からシャワーを浴びて汗を流し、歯を磨き終えた賢二郎の背後で、寝起きのサーシャが大欠伸をしている。洗面台の鏡に映ったサーシャのプラチナブロンドはくしゃりと乱れ、どこか眠たげな表情は無防備だ。

 賢二郎は眉を下げて小さく笑うと、「暑くて目ぇさめてしもたんや。せっかくやしパン屋でなんか買ってこよかなて」といって前髪をかき上げた。

 すると、サーシャが背後からぎゅっと賢二郎を抱きしめた。数日前に切ったばかりの黒髪に頬を寄せ、ほっそりとしたうなじに唇を寄せてくる。昨晩の愛撫の記憶はまだ新しく、賢二郎はふるりと肌を震わせて身を捩った。

「……ちょ、あかんて」
「てっきり、ルイとふたりきりのレッスンが楽しみだから早起きしたのかと思ったよ」
「はぁ、もー……またそんなこと言うて」

 今日はこれから、累との打ち合わせが入っている。
 鏡の中のサーシャを困り顔で見上げると、アイスブルーのいたずらっぽい瞳と視線が重なる。サーシャはじっと賢二郎を見つめたままうなじから耳の裏へと唇を滑らせ、耳もとに唇を寄せて色っぽく微笑んだ。

 同時に、オーバーサイズのTシャツの中に手を忍び込ませ、昨晩の愛撫をなぞるように賢二郎の肌を淡く撫でてくる。
 
 初めて身体を繋げることができてからも、サーシャはいつも賢二郎の身体と気持ちを慮って、がっついてくるようなことはしてこない。
 そういう紳士的な余裕をもったサーシャの態度は、賢二郎にとってもありがたかった。おかげで恋人らしいスキンシップにもゆっくりと慣れていくことができたし、あれほど怖かったセックスにも、時間をかけて慣れていくことができたからだ。

 だが、今朝は少し事情が異なる。サーシャは一週間に及ぶ出張の仕事に出掛けていて、昨夜賢二郎の部屋に帰ってきたところだった。
 ここのところ、どちらかの家でふたりで過ごすことが多くなっていたこともあり、一週間もまるきり会わないでいるということは珍しかった。

 それもあって、昨晩のサーシャはいつも以上に情熱的だった。ほんの数時間前までつながり合っていた場所が微かに疼き、込み上げる甘い痺れに、びくっと腰が震えてしまうのが恥ずかしかった。なので賢二郎はあえて鏡の中のサーシャを軽く睨みつける。

「こらっ……やめぇって」
「一週間ぶりだ。まだまだ足りないよ」
「っ……! い、いっぱいしたやん、昨日っ……」
「足りない、全然。……なのに君は、涼しい顔をしてルイのところへ行こうとしてるんだ。寂しいなぁ」
「だ、だからそれは、仕事っ……ん、ん……」

 かぷ、と肩口を甘噛みされながら、シャツの中で胸の尖りをいじられて、かくんと膝から力が抜けそうになる。

 白い洗面台に手をついてへたり込むのことは避けたけれど、サーシャはなおも指先で賢二郎のそれを捏ねたり、つまんだりと弄る手を止めない。そのうえ今度は、どうやら弱点であるらしい耳を甘噛みし、黒い小さなピアスを舌で軽く弄び……ぐっと賢二郎の双丘に腰をすり寄せてくるのだ。

 ハーフパンツ越しでも、サーシャのそれがすでに硬さをもっていることがわかる。甘い愛の言葉と共に最奥を暴かれることに、いつしか快感を見出せるようになってしまった賢二郎の身体もまた、気づけば熱を帯びていた。

「……っ……やめって……」
「ぜんぜんやめて欲しそうな顔じゃないな。……昨日の賢二郎も最高だった。自分から俺の膝に乗って、あんなにいやらしく乱れてくれて」
「あ、あさっぱらからそんなこというなやっ!」
「俺は嬉しいんだ。あんなに頑なだった君が、僕のこれで気持ち良くなって、声を殺すことも忘れて溺れてくれる。すごく幸せなんだよ?」
「んっ……ァ」

 耳元で、甘い低音で囁かれながら、ハーフパンツの中で勃ち上がったそれを握られた。すでに蜜をまとって濡れた屹立をゆるゆると扱かれて腰が砕けそうになってしまい、賢二郎はシンクに両手をつく。

「んっ……シャワー、あびたとこ、やのに……っ」
「もう一回、一緒に浴びよう。時間はまだあるだろ?」
「あるけど、っ……ァっ、ん、ん……」
「かわいいね。君は興奮すると白い肌が赤く染まってきれいだし、すごく淫らだ。目つきも、こんなに色っぽくなる。ほら、見てごらん」
「っ」

 囁かれた言葉に操られ、鏡の中の自分の顔と目を合わせてしまった。
 そこには、頬を薔薇色に染めて目を潤ませ、信じがたいほどにだらしなく蕩けた顔をした自分がいて、羞恥心が一気に燃え上がる。反射的に目を逸らせようとしたが、サーシャの手で顎を掴まれ、鏡の中の自分を見つめざるを得なくなってしまった。

「はぁっ……なにしてんねんっ……」
「中で感じてる時の君の顔は、もっともっと淫らでかわいいんだ。見てみたくない?」
「み、み、みたいわけあるかアホっ!!!」
「怒ってても、いつもの迫力が出なくてかわいいな。……ねぇ、ここでしてもいい?」
「はっ!? ここで? い、今!?」
「……挿れたい、君の中に。抱かせて、賢二郎」
「あっ……」

 くり、と濡れて熱く滾った先端を指先で撫でられて、思わず声を漏らしてしまった。

 もはや立っていることさえ難しく、シンクに覆い被さるように前屈みになった賢二郎のうなじに、ふたたびサーシャのキスが降ってきた。キスを受けながら前をやわやわと焦ったい強さで扱かれて、理性がちな賢二郎もとうとう快楽に負けはじめていた。

「い、いっかい、だけなら、ええけど……」
「お、ほんとうかい?」
「でも、遅刻してまうしっ……やるなら、早く……」
「うん、努力するよ」
「努力てっ……ァ、はぁっ……」

 する……とハーフパンツとボクサーブリーフが落とされて、足首に絡まった。
 白く小ぶりな双丘に愛撫を受けながら、賢二郎は目を閉じて、サーシャの愛撫に身を委ねた。



    + 


「おはようございます、石ケ森さん」
「ん……おはようさん」
「? どうしました? なんか疲れてます?」
「い……い~~や? 全っっっっ然そんなことないですけど!? ほら、とっとと始めんぞ!!」
「は、はい」

 出会い頭から察しのいい累に思わず突っかかってしまったことを反省しつつ、涼しいレッスン室に入り、賢二郎はふぅ……とため息をついた。

 夏の暑さを吹き飛ばすほどに爽やかな累を目の前にして、ほんの一時間前までセックスをしていた自分がひどく恥ずかしくなってしまったのだ。いちおう見えるところにキスマークなどがついていないか確認したが、なんとなく落ち着かない。

 累が買ってきてくれたコーヒーをがぶ飲みし、賢二郎はぷはぁ、と荒っぽく息をついた。

「サーシャと喧嘩でもしたんですか?」

 すると、ホワイトボードに曲名を書き並べていた累が、背中でそう問いかけてきた。どうやら不機嫌だと思われたようだ。賢二郎はハッとして、ごほんと咳払いをする。

「な、な、なんでやねんしてへんわ。外暑かったから、コーヒーが美味いな~思て、ため息ついただけ」
「ならいいんですけど」
「ありがとな、アイスコーヒーめっちゃおいしい」
「いえ」

 プラカップを掲げて礼を言うと、累が横顔で振り返って微笑んだ。

 去年の夏にここで再会したときとは打って変わって、最近の累はとても穏やかで自然体だ。
 少年の頃から大物感を漂わせていた累だが、あのスランプを乗り越えてからは、悠然とした余裕を漂わせるようになっている。それは彼の音にも明確に表れていて、安心して聴いていられる。音を合わせていても心地がいいのである。

 今日は、秋に行われる伊豆でのコンサートの曲目を決め、可能であれば簡単に楽譜をさらっておこうということになっている。累と次のコンサートについて話し合い、軽く音合わせをしていると、ふわふわしていた頭と身体がシャキッと目覚め、ようやくいつも通りの自分が戻ってきたような気分になってきた。

「石ケ森さん、サーシャとうまくいってるみたいですね」

 だが、レッスン室を出て廊下を歩きながら、累が何気ない口調でそんなことを言ってきた。
 
「……はっ!? な、なんで!? なにをもってしてそう思うねん!!?」
「えっ……? えっと……」

 今朝のセックスのことを見透かされてしまったのかと危惧するあまり口調にドスが効いてしまう賢二郎に、累が明らかに怯えている。
 その顔を見て、あまりに冷静さを欠いていたなと反省した賢二郎は、軽く咳払いして「……すまん」と謝った。

「なにをもってしてと言われると……音の雰囲気、かなぁ」
「ん? 音? 今日、ちょっとしか弾いてへんやん」
「そうなんですけど。なんというかこう……石ケ森さんの背後にお花畑が見えるような感じというか」
「お、お、お花畑ぇ? なんやそれ、そんなわけあるかい」

 ふいっとそっぽを向きつつも……ヴァイオリンの音で、なんとなく互いの感情や体調の変化でさえ察してしまうふたりだ。
 サーシャと交際を始めてから、何度も互いの音を聞く機会はあったものの、こんなことを言われるの初めてだった。

 ——お花畑やと? この僕が? くっそ……ここにくる前までイチャイチャしてもうたし、そういう空気引きずってきてしもてるってことか……!? ありえへん、ありえへんで……もしそうやったら恥ずかしすぎて死んでまうわ……!!

 恥ずかしいし、決まりが悪いしで、じわじわと顔が熱くなってきた。
 赤面していることまで累に気づかれてはたまらないので、賢二郎はレッスン棟を出るやいなや「ほな僕授業いかなあかんし、またな!」といってダッシュで逃げた。

 外は暑いし顔も熱いしで、さんざんな朝である。
 これからは二度と打ち合わせ前にああいうことになるまい——……と、賢二郎は固く心に誓うのだった。



おしまい♡
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