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王女と公爵令嬢とエルフからの救援要請
最悪な貴族
しおりを挟む「…………ゃん…………いちゃん!…………お兄ちゃん!」
「ぅあ?」
なんだ?呼ばれたか?
「お兄ちゃん起きて?もう朝だよ?」
そうか、もう朝か。
俺の腕の中にいるミーシャが教えてくれた。
腕の中?
あれ?俺昨日どうやって寝たんだっけ?
「なんでミーシャが俺の腕の中にいるんだ?」
「さあ?私は起きたらこうなってたからわかんない。昨日は髪を乾かしてもらってる途中で寝ちゃったし」
「髪……あー!思い出した!」
愛花とちょっと深い話をした後にミーシャを抱き枕にして寝たんだった!
「ごめんなミーシャ。すぐ離れるから」
いくら一緒に寝たがっているからって勝手に抱き枕するのは駄目だろうよ昨日の俺。
「……もうちょっと抱き枕にしてもいいよ?」
「魅力的な提案だが、他の二人が動いているのにそれは駄目じゃないか?」
愛花とサーシャは既にベッドから抜け出ていて、音から察するに朝風呂に入っているようだ。……風呂好きめ。気持ちは分からないでもないが。
「それもそうだね!でも起きるのが一番遅かったのはお兄ちゃんだよ?」
「……そういうことは主人の名誉のために黙っていなさい」
「はーい!」
うむ、元気があってよろしい。
さて、ミーシャが風呂に突撃しに行ったので俺はその間に着替えなり今日の準備なりを整える。
今日はまた国王達と世界樹関係の話をする予定だ。俺達もまだ、より詳しい話は聞けていないのでしっかりと話し合う必要がある。
とまあ、なんとも軽い感じで言っているが、実はこれとんでもない問題らしい。世界樹の魔力が完全に切れると世界を構成する物質が徐々に消えてしまい、最悪は世界が破滅するのだとか。おお怖い。
だがそもそもの話、世界樹の魔力が完全に切れることなんて、数千年に一回とかそんなレベルらしいので国王達でさえも実感が沸いていないという。しかも今までの歴史で失敗したという事例はないらしく、今回も上手くいくだろうとのこと。とはいえ資料が少ないということもあるので、ここらへんはまた今日詳しく聞くつもりである。
「それにしても、まだサーシャとミーシャのあの目は治らないか……。まだ信頼されていないかもしくは、心的外傷《トラウマ》……。どちらにしても、そろそろどうにかした方がいいかもな」
トラウマを長く持ち続けるのは辛いだろうし、信頼が得られていないというのも今後の関係に響きそうだ。
でも、今までのことを顧みると信頼はされている気がするからやっぱりトラウマがあるのかなぁ。俺達の前の主人な中々にひどい奴だったらしいし。
「なーんか嫌な予感がするんだよねぇ。気を付けといた方がいいかな」
ーーそしてこの外れてほしかった予感は大当たりする。
・~・~・~・
ホテルを出て王城へ向かう俺達に、後ろから声がかかった。正確には、サーシャとミーシャに、だが。
「おや?おやおやおやぁ?そこにいるのは私のペットだった子達じゃないですかぁ?」
それは、ねっとりとした聞くだけで気分が悪くなりそうな声。否、実際に気分が悪くなった。そんな気持ち悪い声を発した奴は誰かと後ろを振り向けばそこには気持ち悪いくらいに太った、趣味の悪い金の装飾品をつけたとにかく気持ち悪い男がいた。
そしてそいつはサーシャとミーシャに深い関わりがあるようで。
「ぁ……ぁぁ……ワルーノ、様……なん、で……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
………………トラウマの原因、こいつっぽいな。
二人が我を忘れて跪き、何もしていないのに謝罪を始める。この異様な光景を見ればもう答えは出たようなものだろう。
「おやおやぁ?そんなに怯えなくてもまた可愛がってあげますよぉ~?」
二人に近付こうとするキモ男。
だが勿論阻止する。
「この二人は俺達の所有物だ。近付かないで頂きたい」
「あん?誰だ貴様は?コイツらは僕のペットだったんだ!部外者が口をだすな!!」
「ペットだったんだろ?ということは今はお前のペットじゃない。この二人は俺達の所有物。部外者なのはお前だ」
俺に対してあからさまに態度を変えたキモ男。
もうこの時点でなんとなく察したが、こいつとはまとまな会話が出来そうにない。
面倒なことになる前に退散したかったが残念なことにサーシャとミーシャの二人があの状態から動かないため、移動は出来そうにない。一応愛花が二人を落ち着かせようとしているが正直効果は期待できなさそうだ。
「僕に対してその口の聞き方はなんだ!?僕は子爵だぞ!貴族である僕にそんな口の聞き方をしていいと思っているのか!?」
「うわ出たよ。言われたことが図星だからって話題すり替える奴」
今出来るのはこうやって時間を稼ぎ、愛花が二人を落ち着かせるのを待つこと。二人が動けさえすれば逃げられるのだ。
「すり替えてなんかいない!僕は君の口の聞き方を直そうとしているだけさ!君みたいな平民が僕に生意気な口を聞くな!!」
「すり替えてんじゃん。さっきはあの二人がペットかペットじゃないかで争っていたはずだぜ?」
「その話はもう終わったのさ。あのペットは誰がなんと言おうと僕のペットだ!!」
ーーダメだコイツ。想像以上に終わってる。会話が成り立たない。こんなのが子爵ってまじで言ってんのか……?
それからも数分、似たようなやり取りが続きもう俺のメンタルは限界に来ていた。
愛花よ……。速く二人を落ち着かせてくれ……。コイツの喋りが気持ち悪すぎてもう相手したくないんだが。
だってコイツさっきから唾飛びまくってんだよ!体もなんか香水臭いし!その上会話が破綻してるとか最悪だろ。
はあ。こんなことになるならホテルに籠ってれば良かった。
誰でもいいから助けてくれ。
そんな願いが通じたのか、救世主が現れた。
「海斗さん達が来ないと思い迎えに行こうとしたら、なんですかこの状況は?」
「ーールーシャ、様!!」
公爵令嬢《ルーシャ》である。公の場なので様は付けといた。彼女ならきっとこの場をどうにか出来るだろう。このキモ男も子爵だと言っていたし、階級ならルーシャの方がよっぽど上だ。
「おや、これはこれはルーシャ様ではありませんか。何故このような場所に?」
「お待ちください。私は一人しかおりませんので、二人同時に喋られても困ります。どちらか片方ずつお話しください」
おっといけない。焦りすぎた。
ここはあのクソ貴族に先を譲ってやるか。その方が落ち着いてるとして印象はいいだろう。昨日までのことがあるので今更かもしれないが。少なくともこの場ではがっつくよりもプラスになるはずだ。
「では僕から。………………で…………した所を…………というわけです」
「なるほど」
なんかあのクソ貴族、嘘しか言ってない気がする。口の動きでなんとなくわかった。
「では次に、あなたの言い分を」
「簡単に纏めると、城に向かう途中であの者に出会ったのですが、サーシャとミーシャが激しく怯えてしまったのです。その後に彼が二人に近付こうとしてきたのでそれを阻止したら言い争いになったという感じです」
体裁を保つために一応丁寧語にしてある。
「分かりました」
さて、どんな言葉がルーシャの口から飛び出すのか。
あまり事が大きくならなければいいのだが。
「率直に申し上げますと、双方ともに主張が食い違っており私だけでは判断致しかねます。なので、周囲の方々を頼ろうと思います」
「何だと……?」
「周囲ってどういうことだ?」
パッと見た限り周りに人はいないが。
あっ、ルーシャがウィンクしてきた。ということは彼女に任せておけばいいのだろう。
・~・~・~・
一等地って凄い……。
皆よく見てるんだね。
あの後何が起きたかを簡単に説明すると、まず周囲の人というのは店の中にいる人の事だった。皆、外には出てこなかったが店内から事のいきさつを窺っていたらしい。結果、悪いのはあちら側ということに落ち着きその場は収まった。
だがあくまでその場では、だ。
つまりは、あのキモ男を王城へと召集するらしい。そこでまた詳しく話を整理し、場合によっては罰を与えられるということだとか。
とはいえ俺達は完全に被害者なのでお金を貰うことはあっても払う必要はなく、また罰を受けることもないとのこと。そりゃそうだろう。ここで俺達に罰やら何やらが来るってんならすぐにでもこの国から逃げ出すね。
と、こんな感じで今回の一件は収まった。
……サーシャとミーシャは関してはもう少し時間をおいてから、四人だけの時に話し合おうと思う。
とりあえず今は俺だけでも国王との話に集中すべきだろうから。
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