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   形見の長剣を丁寧に磨く。お父様が持ち歩いていたこの長剣は素晴らしい出来で、装飾の美しさもさることながら切れ味もよく職人の技が光る業物だ。


「何度見ても美しいと感じる剣ですね」


   シャフラの言葉に思わず嬉しくなって笑う。


「お父様の剣だもの。当たり前よ」


   形見の長剣を仕舞ってもう二本の長剣の手入れをする。こっちの剣はお父様に勧められた職人に私のために打ってもらった剣でもちろんいい出来だ。


「そういえばラゼーネ様のお作りになりれた剣は装飾が少ない実用的な剣ですよね。その剣も凄い剣だということは分かりますけど」

「あんまり装飾が多いと重たいでしょう?ただでさえ折れにくくて重たい鉱石を使って作ってあるんだもの。これ以上重くなったら大変だわ。それにこの長剣はとってもいい剣なの。あと、そうね…私が介入しなければ200年ほど保つんじゃないかしら」

「それはっ、とても素晴らしい物ですね」


   私には神様から授かった加護がある。その加護の影響で父と母の遺伝の影響を受けずに月白色げっぱくいろの髪色をしている。光を受けると月暈の如く輝く髪は私の自慢だ。瞳の色は父譲りの二人静ふたりしずかで、顔立ちは母に似ているらしい。

   加護は全ての人が持っている訳ではなくて、神に愛された人が1000人に1人ほどの確率で授かるらしい。加護を持っている人の中には魔法という不思議なものを使えて何もないところから火を出せるらしい。他にも色々な加護があるが、私が持っているのは剣の天命の加護。剣の質はもちろんいつどのように剣が剣としての役割を終えるのかを見ることが出来る。その剣の運命に介入できるのは私だけ。

   剣の加護を持っている人は銀色に近い色を持って生まれるから月白色はその印。

   とは言え、貴族の令嬢が剣の加護を持っているなんて言えば風評が悪いので世間では先祖返りということになっている。


「ラゼーネ様の加護はやっぱり凄いですね」

「まぁ、隠れた私の自慢ではあるわ」


   デュハンが操る馬車に揺られながら答える。うっかり剣で指を切らないように気をつけながら磨いて、仕舞う。ガーターベルトから外した短剣も綺麗に磨き終わったところでシャフラに手を出す。


「シャフラの短剣も見てあげるわ」

「宜しいんですか?加護を使うことで不調とかはないんですか?」


   家族や従者にすら加護についてしっかりと話したことがないのは私も加護の力というものをあまり理解していないからだ。最近町の鍛冶屋に出るようになってようやく掴めてきたというところだろうか。


「大丈夫。いつもどおり、変わらないわ」

「ではお願いしても宜しいですか?ラゼーネ様」


   私が頷くと短剣を差し出される。触れると見ているだけだとぼんやりとしていた剣の未来がはっきり見えてくる。なかなか質の悪くないものであるようだ。


「5年ほど後に先端の方が使っているうちに弱くなるかもしれないわね。定期的に鍛冶屋で見て貰えば大丈夫」

「ありがとうございますっ。しっかり鍛冶屋に通いますね」


   確かデュハンに結婚指輪の代わりにとプレゼントされた短剣だったか。彼女が嬉しそうに話してくれたのをよく覚えている。指輪じゃなくて短剣を渡されても嬉しそうな彼女に当時の私はなぜ…?怒るところなのでは?と思ったのは今ではいい思い出である。

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