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3章 生死の淵

九十二、冥界

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「ん…ここは…」
「なんだなんだ、また人間が降りてきたぞ。
今度は普通の人間か?」

意識が少し朦朧とする中、その声の主の方を見てみると、頭に角の生えたにんげんが居た。

「…ここに人間の子供が来なかったか?」
「うげっ…お前、あの化け物の仲間なのか?」
「ああ、俺の…パートナーだ」
「なら、あっちに進むといい。というか、俺が道案内する方が良いか…取り敢えず、お前ら人間はここに馴染みがないだろうから、この場所の説明をしながら会いに行こう」
「…いや、場所なら分かる」
「…1度来たことがあるのか?」
「いや?ただ、俺とあいつは魂を分けたから、居場所はずっと分かるんだ」
「んじゃ、走りながら説明だけしよう」
「分かった」
 
ガラハドの眼には、薄らと光の道が見えていた。
そしてそれは直感として、朝陽の元に繋がっていると分かった。

「まず、この世界の名称だが…俺らは全員、ここを"冥界"と呼んでる。
ここに来る奴らは1度死んだか、もしくは死んだことのあるやつらが殆どだな」
「死んだ奴…ってことは、お前も死んだのか?」
「ああ。だが、ここに来る奴らは殆どが、死んでもなお何かしらの理由で死ねない奴らだ。
 んで、そういう奴らは大抵、妖怪や冥霊となる。
俺の場合は妖怪だな」
「妖怪…」
「ま、結局何が言いたいかっていうのは…お前もあの化け物も、何か理由があってここに来たってことだ」
「理由…そういえば、ここには光の概念がないのか?空もそうだが…」
「光?そんなものないさ。言ったろ?ここは冥界だって…
生と死の淵にあるこの冥界だが、ここは死の淵に寄ってある。
つまり、死者にとっての光っつうのはそれが希望でも絶望でもあるから、ここに光は作られないんだ。
だがまぁ、光があるとすりゃあ…それは、まだ死んでない奴くらいだろうな」

その言葉を聞いて、ガラハドは少しばかり希望を持てたように、光の見える方へスピードを上げた。

「…あ、それと…その化け物の話だが…恐らく、ここの創始者であるハデスという神に会いに言ったんじゃねぇかな。
神がどうたらと呟いていたのを聞いたからな」
「なるほど…説明はそこまでで十分だ。じゃあ…お前はここまででいい。ここからは…俺の領分だ」

そう言った瞬間、ガラハドは聖杯の力を解放した。

「なっ…しょ、正気か!?
死者にとって光は毒だぞ!」
「自分の心配だけしたらいい。俺とパートナーは…だ」

そう言った途端、彼の前からガラハドが一瞬にして消えたかと思うと、遥か先で聖杯の輝きが出現した。

「ま、マジか…」
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