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清々しい風が窓を吹き抜ける。少し肌寒くもあるが、かえって心地よい。慣れない緊張に火照った体を冷ますには、ちょうど良かったから。
「病めるときも、健やかなる時も、帝国の太陽を支え、民を慈しむ存在として____」
神官の声が、ぼうっと、どこか遠くに聞こえた。
だめだめ、ちゃんと聞かなくちゃ。今日は一生で一度の、人生で1番大切な日――私とあなたの、結婚式なんだから。
私がこの世で最も愛する男、――この国の皇帝、ヴァージル=オルガンテッドとの。
すっと目を閉じた瞬間、神官の息を飲むような音がした。心なしか、参列席も騒がしい。
「……シャロン?」
今から夫になる男の、動揺した声が耳に届き、やっと目を開ける。目の前の男は、日を浴びて輝くタキシードに負けないくらい真っ白に、顔の血の気が引いていた。
珍しいわ、この人が、こんなにも動揺を顔に出すなんて。一体何があったって――
「……え?」
ぐらり、と体が揺れる。体勢を崩した私の視界に、赤く染まった床が映る。この血は――私の?
「シャロン!シャロン!!おい、宮医を呼べ!すぐに!」
そう叫ぶ彼の声が、なんとか私の意識を外に繋ぎ止める。けれどその声も、段々と遠くなり――。
次に目が覚めた時。私の傍に、彼の姿はなかった。
それどころか私は、彼と婚約する前、あの結婚式から5年前、13歳のシャロン=モーフェットの姿になっていたのだ。
この姿に慣れるまで、実に数日かかった。ついさっきまで皇后になる予定だったし、そのために正妃教育も受けていた。長年の訓練の末に体に染み付いたものは、周りの人間を驚かせるには十分だった。たった13歳の公女の仕草には、とてもじゃないけど見えなかったはずだ。
「リエッタ!」
私が名前を呼ぶと、彼女は元気よく返事をする。高い位置でひとつに束ねられた栗毛が揺れていて、可愛らしい。
「はい!お呼びでしょうか、公女様!」
「今日はお茶会に行くわ、ここのところずっとお断りしてたから」
どうやら私は目を覚ますまで、熱病で1週間ほど寝込んでいたらしく、意識を取り戻してからも体調がまだ回復していないからと、令嬢間でのお茶会や、皇室からのお呼び出しなんかも、全て断っていた。
確かに前の人生でも、幼い頃に熱病で寝込んだということは聞いたことがある。
(皇室……)
我がモーフェット公爵家は、帝国誕生の功労者として、帝国でもっとも栄誉ある公爵家と言われている。皇室の良き隣人となり、手を尽くしたという。
その甲斐あってか、私は5歳の頃から第1皇子の話し相手だった。皇宮に呼ばれてはお茶を飲み、お喋りをし、日が暮れる前に帰る。そんな生活を、私はずっと続けていた。
「彼」に会うのは、結婚式ぶりだ。もちろんこの年齢の頃の皇子殿下は、後に私と結婚することになるなんて夢にも思っていないんでしょうけど……。
「皇后陛下にいただいた髪留めに合うドレスを持ってきて」
「はい!お持ちします!」
あの日、私は死んだようだった。あれだけ血を流していたし……でも、体のどこにも違和を感じなかった。痛いどころか、不快感もなにもなく。
だが、あの血の量を見るに、おそらく体内に損傷があったことは間違いないだろう。意図的な暗殺だとしたら、誰にそんなメリットがあって、あんなことを?
……いえ、メリットならあるわ。
たった1人、あの人にだけ。
___そうでしょう?ヴァージル。
「病めるときも、健やかなる時も、帝国の太陽を支え、民を慈しむ存在として____」
神官の声が、ぼうっと、どこか遠くに聞こえた。
だめだめ、ちゃんと聞かなくちゃ。今日は一生で一度の、人生で1番大切な日――私とあなたの、結婚式なんだから。
私がこの世で最も愛する男、――この国の皇帝、ヴァージル=オルガンテッドとの。
すっと目を閉じた瞬間、神官の息を飲むような音がした。心なしか、参列席も騒がしい。
「……シャロン?」
今から夫になる男の、動揺した声が耳に届き、やっと目を開ける。目の前の男は、日を浴びて輝くタキシードに負けないくらい真っ白に、顔の血の気が引いていた。
珍しいわ、この人が、こんなにも動揺を顔に出すなんて。一体何があったって――
「……え?」
ぐらり、と体が揺れる。体勢を崩した私の視界に、赤く染まった床が映る。この血は――私の?
「シャロン!シャロン!!おい、宮医を呼べ!すぐに!」
そう叫ぶ彼の声が、なんとか私の意識を外に繋ぎ止める。けれどその声も、段々と遠くなり――。
次に目が覚めた時。私の傍に、彼の姿はなかった。
それどころか私は、彼と婚約する前、あの結婚式から5年前、13歳のシャロン=モーフェットの姿になっていたのだ。
この姿に慣れるまで、実に数日かかった。ついさっきまで皇后になる予定だったし、そのために正妃教育も受けていた。長年の訓練の末に体に染み付いたものは、周りの人間を驚かせるには十分だった。たった13歳の公女の仕草には、とてもじゃないけど見えなかったはずだ。
「リエッタ!」
私が名前を呼ぶと、彼女は元気よく返事をする。高い位置でひとつに束ねられた栗毛が揺れていて、可愛らしい。
「はい!お呼びでしょうか、公女様!」
「今日はお茶会に行くわ、ここのところずっとお断りしてたから」
どうやら私は目を覚ますまで、熱病で1週間ほど寝込んでいたらしく、意識を取り戻してからも体調がまだ回復していないからと、令嬢間でのお茶会や、皇室からのお呼び出しなんかも、全て断っていた。
確かに前の人生でも、幼い頃に熱病で寝込んだということは聞いたことがある。
(皇室……)
我がモーフェット公爵家は、帝国誕生の功労者として、帝国でもっとも栄誉ある公爵家と言われている。皇室の良き隣人となり、手を尽くしたという。
その甲斐あってか、私は5歳の頃から第1皇子の話し相手だった。皇宮に呼ばれてはお茶を飲み、お喋りをし、日が暮れる前に帰る。そんな生活を、私はずっと続けていた。
「彼」に会うのは、結婚式ぶりだ。もちろんこの年齢の頃の皇子殿下は、後に私と結婚することになるなんて夢にも思っていないんでしょうけど……。
「皇后陛下にいただいた髪留めに合うドレスを持ってきて」
「はい!お持ちします!」
あの日、私は死んだようだった。あれだけ血を流していたし……でも、体のどこにも違和を感じなかった。痛いどころか、不快感もなにもなく。
だが、あの血の量を見るに、おそらく体内に損傷があったことは間違いないだろう。意図的な暗殺だとしたら、誰にそんなメリットがあって、あんなことを?
……いえ、メリットならあるわ。
たった1人、あの人にだけ。
___そうでしょう?ヴァージル。
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