【完結】転生したのは俺だけじゃないらしい。〜同時に異世界転生した全く知らない4人組でこの世界を生き抜きます(ヒキニートは俺だけ)〜

カツラノエース

文字の大きさ
21 / 88
第1章2部【エルフ編】

第20話【決闘〜元ヒキニート、奮闘する〜】

しおりを挟む

 家の形や場所は、住む者によってそれぞれ変わる。
 人間なら出来るだけ平坦で移動のしやすい場所に作りたいと思うし、動物なら木の上に巣を作ったり、あるいは地面に穴を掘ってそこで生活する者もいるだろう。

 俺たちが今訪れているエルフ族の家も、人間のものとは少し異なっていた。

「すっげぇ……!本当にこうやって生活してるのか……!」
「まるで異世界みたいね!」

 いや、まるでって言うか異世界なんだが。
 目をキラキラさせながらそう言うみさとに頭の中でツッコミを入れる。
 
 俺たちはあれから木の鳥居の様な物の下に立っていた見張り役のエルフに連れられて、今は長の所まで案内されている途中だ。

 それで目前に広がるエルフたちの町を見た訳だが――これは凄い。

 まず、俺たちが住んでいる家とは異なり、地面に建物はほぼ無く、ほとんどがツリーハウスの様な感じになっていて、それが空中にかかった橋で繋がれている。
 これはおそらく森の中だから、モンスターが家に入って来ない様にだろうな。

 そして家の材質は、俺たちは石の建物が多いのに対して、こっちは木と葉オンリーだった。
 こりゃ火事になったら終わりだろう。

 そんなことを考えながら歩いていると、どうやら目的地に着いたようで、先頭を歩いていたエルフは止まり、こっちを振り返るとこう言った。

「長の家はここです。さぁ、私が先導するのでギルドのお姉さんと、オーガを倒した方のみ着いてきて下さい。」

 なるほど、やはり村の長ともなると会う人間は絞られるんだな。
 まぁそれも当然だろう。仮に長と会った時に俺たちが全員で攻撃を仕掛ければ、それを殺す事なんて簡単だ。

 まだ完全には信用されてないって訳だな。
 もっとも、そんな事絶対にしないが。

「分かりました、さ、とうま様、行きましょう。」
「あ、あぁ。――」
「ん?なんだ?頑張って来いよ?」

 俺はお姉さんの声に答えながらも本当にオーガを倒したエスタリの方を凝視する。
 しかし、エスタリは何が何だか分かっていない様子で、首を傾げながら応援のセリフを吐くだけだった。

 たく……本来お前が俺の立場に立ってなきゃいけないんだぞこの野郎……!

「はぁ……」

 俺はそう文句を吐く気力すら湧かず、脱力仕切った口からため息を漏らし、お姉さんと共にエルフの背中を追い始めた。

 ---

 それから俺とお姉さんとエルフ3人で建物の入り口へと続く木に沿って造られた螺旋階段を上がって行き、扉の前へとたどり着いた。

「じゃあ開けますね。この先には長がいらっしゃいますので、礼儀正しくお願いします。」
「分かりました。」「お、おう……」

 事前にそうやって念を押されたら変に緊張するじゃねぇか……
 そんな俺にお構い無しで、エルフは扉を開ける。

「どうぞ、お入り下さい。」
「失礼します。」「し、失礼します……」

 俺とお姉さんは建物の中に入る。
 そこは長の家にしては広く無く、大学生が住んでいそうなアパートの一室、それくらいの大きさだった。

 そして、その部屋の真ん中にはひとつの椅子があり、そこにひとりの老人――いや、老エルフが杖を片手に座っていた。

 ん?てっきりあんな念を押すくらいだから恐ろしい人物なのかと思っていたが――
 俺は目の前で座る優しい笑顔の老エルフの顔を見ながらどこか拍子抜けした。

「おぉ、お主が森に居たオーガを倒した戦士かの?」
「は、はい。そうです。」
「そうかそうか、本当にありがとう。」
「い、いや、とんでもないです。仕事なので……」

 俺は片手を握って感謝を述べてくる老エルフに萎縮仕切っていた。
 なんだこれ……すごく不思議な感覚だぞ……

 この人とこうやって言葉を交わすと心が浄化される様な、そんな感覚がする――きっとこの一族を1から繁栄させたんだろうな。
 そう思ってしまうような、そんなパワーを感じるぜ……

「本日はお招き頂き誠にありがとうございます。早速ですが本題の方に――」
「おぉ、そうじゃったそうじゃった。」

 すると、そんな老エルフにお姉さんがそう言葉を掛けると、老エルフは何かを思い出したかの様にそう言い、掴んでいた俺の手を離す。

 そこから老エルフとお姉さんの、難しい話し合いが始まった。
 
 正直俺は途中で度々相槌を挟む程度しか発言をしていないが(というか俺みたいなバカが発言していい空気じゃ無かった)話の内容はほとんどが事前に知っていた事のみで、決闘をする事を了解したり、それのルールを決めたりとそんな感じだった。

 そしてその会話も10分程で終わり――

「よし、じゃあこれから、決闘をしてもらおうかの。」
「そうですね、準備は大丈夫ですか?とうま様。」

 とうとう俺がエルフと決闘をする時が来た。
 準備は大丈夫ですかって言われても、準備も何もねぇだろ。
 まず相手がどんなやつかも知らないのによ。
 だがまぁとりあえず、

「お、おう。」

 お姉さんにかっこ悪いとこは見せられないから出来るだけの笑顔でそう答えたよ。

 ---

 それから俺とお姉さんは螺旋階段を降りると、下で待っていたみさとたちと合流し、決闘を行う場所へエルフの案内の元、歩き始めた。

「ここです。」

 少し歩いたところで、案内役のエルフが足を止めるとそう言う。
 そこは、木々に囲まれた小さなグラウンドだった。

 半径10メートルと言ったところだろうか、ちゃんとした仕切りは無く、そこだけ草が生えておらず学校の運動場の様になっている。周りに生えた木がおそらくそれをだいたい仕切る目印だろう。

 そしてそのグラウンドにひとりの男エルフが立っていた。

「あいつが今回の対戦相手か?」
「はい、そうです。このエルフ族の中では勢いが今一番ある戦士ですよ。」

 そこに立っていたエルフは案の定今回の俺の対戦相手らしく、俺たちが見ている事に気づいたのかこっちを向くとさっきからしていた準備運動を止め、爽やかな笑顔でペコッと頭を下げてきた。

 うぅ……あの爽やかな顔、んでもって引き締まった細いボディ――明らかに俺より(色々と)上だろあれ……

「おいおい、ありゃまずいんじゃないか?」
「うん……これは勝てないわね……」

 おい!なに戦う前から諦めてんだコイツら!
 俺はそんなに心細いかよ!

 そんなこんなであっという間に時間は過ぎ――決闘の時間になった。

「では、これからオリアラの森使用権を賭けて決闘を行っていただきます!!」

 周りからの拍手の音が一気に飛び込んで来る。
 やっべぇ……めっちゃ緊張してきた。

「とうまー!絶対勝つのよ!」
「とうま様!頑張って下さい!」
「お前ならやれるぞ!多分!」
「多分ってなんだよッ!」

 はぁ……戦う前にツッコミを入れてしまったじゃないか。
 ちなみに俺は今、1本の木の剣を持っている。
 ここでルールを簡単に説明しておくと、制限時間は無し、先にこの木の剣で先に一撃を入れた方の勝ちっていう単純なやつだ。(何本先取とかがある訳でもない)

「では、開始の合図を致します……」
「……ッ!」「……ッ!」

 審判のエルフがそう言った瞬間――周りの人たちは静まり返り、俺は相手のエルフを睨みながら剣を持つ手に力を入れる。

「始めッ!!」
「はぁぁぁぁ!!」

 開始早々、いきなり動いたのは相手のエルフだった。
 地面を強く蹴り、一瞬で俺との間合いを詰めてくる。
 そして、目にも止まらぬ速さで最初の斬撃を繰り出してきた。

「くッ!?」

 あ、あぶねぇ!何とか防ぐ事は出来た……!
 そしてここから何とか反撃したい……!

「やぁぁぁ!!」

 俺は相手を後ろに突き飛ばすと、剣を振りかぶって――それをすぐに振り下ろすッ!!――が、

「甘いです――よッ!」
「ぐはぁ!?」

 相手はすぐに綺麗なバックステップでそれを回避。更にその反動を利用して再び間合いを詰めてくると、俺の腹部に蹴りを入れてきた。――って……!

 こ、こいつ……!マジで早い……!
 正直最初の攻撃から全然追えねぇ……!
 しかし――そんな俺を相手は待つはずが無い。

「これで決めますッ!!はぁぁぁぁ!!」

 相手は剣を構え直すと、そう叫びながら俺の方へ走り、剣を振り下ろす。
 しかも、今回は一撃だけでは無く、俺がいくらガードしても何度も何度も、休むことなく斬撃を放って来た。

 カンカンカン、木と木が強くぶつかり合う音が聞こえる。

「はぁはぁ……!」
「はぁぁぁぁ!」

 これは本当にやばい。
 さっきから何とか寸前のところで防いではいるが――おそらくこれも時間の問題だ。

 俺はもう……諦めかけていた。
 まず、俺なんかがずっと鍛えてるエルフなんかに勝てる訳無いんだ。
 そもそも、俺はオーガを倒していない。

 もう、ダメだ……
 手に入れていた力が抜けて行く。
 相手が剣を力いっぱい握って振り下ろしてくる。
 あぁ…………

「上からの斬撃!!右に避けてッ!!」
「!?」

 そんな俺の耳に飛び込んできたその声は、みさとが発した物だった。
 な、何言ってんだよあいつ!?でもとりあえずは従うしかない……!

 今のセリフで我に返った俺は、足に力を入れて言われた通りに右へ身体を動かす。

「おらッ!」
 
 すると――みさとの言った通りに攻撃を避ける事が出来た。

 そうだ……!みさとはユニークスキルの力で相手の心を読むことが出来るから、どんな攻撃をして来るのかも分かるのか!

「上半身を狙った左からの斬撃!!」
「右足を狙ってる!!」
「頭を狙った上からの攻撃!!」

 そこからみさとは、相手が攻撃をする度にそう叫んだ。
 これには流石の相手も混乱していた。当然だ。観客の美少女が突然自分のしようとしている行動全てを読んできているんだからな。

 正直――こんな形で勝つのは相手に申し訳ないという気持ちもあるが……俺は負けられないんだ!!

「とうま!次にデカいのが上からくるッ!」
「おうよッ!」

 ここで決めるッ!!

「はぁぁぁぁ!!」
「おらぁぁぁ!!」

 パコーンッ!!
 その瞬間、そう木が頭に激突した音が森に鳴り響き、観客たちから声が上がった。
 そして――その光景を見て審判のエルフが一言、

「この勝負、冒険者側の勝利ッ!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...