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第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】
第45話【開会式〜レザリオさんのざっくりとした説明〜】
しおりを挟む「こりゃすげぇ眺めだな……」
「だろ?今日も戦ってる時はこんなにまじまじと眺める事は出来ないだろうから、しっかり目に焼き付けておけよ」
あの後、俺たちはフィールドの中心に立っていたレザリオの言う通りに観客席から裏の階段で下へ降り、フィールドに入ったのだが――それはそれは凄まじい光景だ。
フィールドに入場した瞬間、天から照りつけてくる太陽、そして周りから聞こえてくる歓声。
まるで自分がこの場所の主役なのかと錯覚してしまいそうなくらい、瞬時に脳を焼かれたぜ。
「凄い……!ねぇとうま!私主役になったみたいよ!」
「ほんとだ!みんな私を見てるよ~!」
俺と同じく脳を焼かれた人物が2名。
そしてそれを冷たい目で見るちなつ――と、そこで前からレザリオがこっちへ向かって走って来た。
「お~いお前ら!」
「お、レザリオ。お前勝手に消えるなよな?」
「すまんすまん、お前らにワイが開会式の司会するって事言い忘れててなぁ」
頬を指先でポリポリと掻きながら謝ってくるレザリオ。
なるほど、先程スザクも言っていたが、やっぱりこいつが帝都ティルトル剣術祭を仕切るって訳か。
「ま、別に良いけどよ――って事は、これから俺たちは開会式をするって事か?」
「あぁ、せやで」
レザリオが言うには、帝都ティルトル剣術祭では毎回、この開会式の時に各部のルール説明もするんだと。
ま、言ったら最終確認を含めた開会式って訳だ。
「――なるほど、だから俺たちはこうしてフィールド内に集められたって事か」
「せやせや。やからお前らはとりあえず、周りの出場者に合わせて並んでくれ」
「あいよ」
---
その後、俺たちは同じ部に出場するスザクについて行き、スザク、俺、みさと、ちなつの順に整列をした。
右側にも同じく剣の部に出場するのであろう冒険者が4人並んでおり、それぞれ見た目は全然違うが、流石賞金の出ないこの戦いにも出場して来ただけあって、全員強そうだ。
やべぇ……なんか緊張して来たぜ……
離れているくるみは大丈夫だろうか?
俺は軽く背伸びをして右側に視線をやる。
俺たち3人とは違い、魔法の部に出場するくるみは、少し離れたところで整列しているのだ。
するとそこには、ミラボレアの後ろでぴょんぴょん跳ねながら観客席に向けて手を振っているくるみの姿が。
あ、あいつ……
見た目がロリロリしてやがるからなんか心配してしまっていたが――そうだ、こんなやつだった。
まず、人前とか全然怖くなさそうだし、何よりああ見えてあいつはもう30手前のほぼおばさんだからな。(とうま個人の意見です)
はぁ……俺もあんな図太い神経が欲しいぜ。
と、そこで並んだ俺たちの前で立っていたレザリオが口を開いた。
「では、これより今年の帝都ティルトル剣術祭を始めるでぇ~!!」
「「ウォォォォ!!」」
レザリオがそう言った瞬間、ベイユ競技場全体から地鳴りの様な歓声が響く。
す、すげぇ……!何よりもこんなにデカい会場全体に声を響かせるレザリオが!
いや、だってあいつマイクも何も持って無いのによ、まるでマイクを使ってるかのような声量を簡単に出しやがるんだぜ?
まさかこれも、最強と謳われる冒険者の強さの秘訣なのだろうか?
「なぁスザク、今のレザリオの声、どうしてあんなにデカいんだ?」
俺は前のスザクにそう尋ねる。しかし、返って来た答えは、この世界にとってはとても現実的だった。
「ん?あぁ、それはあいつがドーブルを使ってるからだ」
「ドーブル?なんだそれは?」
犬の犬種か何かだろうか?
「は?お前、ドーブルを知らないのか?」
「あぁ」
マジかよ、やっぱり変わり者だなお前は。
スザクは俺にそう言いながらも、それがなになのかを説明してくれた。
ドーブル、それは拡大魔法の一種らしく、今回の場合は自身の声量を上げるという効果があるらしい。
だから、まるでマイクを使っているかのように声が競技場全体に響いていた訳だ。
てっきりレザリオは脳筋バカで魔法に関しては全くなのかと思っていたが、案外使えたりするもんなんだな――って、この世界では魔法は義務教育だから使えるのは当たり前なんだっけ。
――っと、こうしている間にも開会式は進んでいたらしく、気が付けばレザリオの開会の挨拶が終わっていた。
「――次は剣の部と魔法の部、それぞれのルール説明をするで。」
「まず、剣の部の説明から。剣の部では1体1でのタイマン勝負を行ってもらい、勝った奴は2回戦、決勝と進んで行ける。――あ、敗者復活とかそんなややこいもんは無いで。」
レザリオの相変わらずな説明に、競技場全体が苦笑いをする。いや、でもあいつの説明、丁寧では全然無いが、なんか分かりやすいんだよな、安心して聞けるって言うか。
俺が日本に居た時、関西に住んでいたという事ももしかすると関係しているのかも知れない。
「で、試合ルールやけど、制限時間は無くて、どっちかが倒れるまでやって貰うで。もし降参したい時はフィールド内におる審判に手ぇ降って忠告してや。」
「武器はフィールドに入るまでの空間に色んな形の木で出来た武器を置いてあるから、自分の使ってるやつと似た様な形のやつ探してくれ。あ、もちろんこれは魔法の部やなくて剣の部やから試合中の魔法の使用は禁止な。――とりあえずこれで剣の部のルール説明は終了や、質問あるやつ!」
シーン
気まずい沈黙が横たわる。
いやだってよ!こんなハイスピードで説明された後に、その流れのまま質問出来る奴なんていねぇだろうよ!!
――それに、思ったよりもレザリオの説明は分かりやすいからな。
少なくともバカな俺からしたら堅苦しい単語をダラダラと並べられるよりかはよっぽどマシだと思うぜ。
すると、そんな気まずい空気になんて全く気付いてもいないレザリオは、そのまま魔法の部の説明へと入って行った。
「――よし、質問は無いな。じゃあ次は魔法の部のルール説明や。」
「まず、魔法の部が剣の部と一番違うところは、どっちかが倒れるまでタイマン勝負をする訳やなくて、互いに魔法を放ってポイントの高い方が2回戦に進めるって所や」
「ん?どういう事だ?」
そこで俺はそう呟いた。
いや、だってポイント勝負ってどうやって決めるんだよ?ゲームでもあるまいし。
するとそれにはまたまたスザクがレザリオの説明に補足を入れてくれた。
「お前らは初めてだからそりゃあ今の説明じゃ分からないよな。――実は魔法の部はタイマン勝負じゃ無くて、用意された木の板に魔法を放ち、その木の板がどれだけ無くなったかで審判がポイントを付けるんだよ」
木の板ってのはあれの事だ。スザクはそう言いながらフィールドの端を指差す。
そこには、縦横5メートルくらいの木の板が何枚も重なって置かれていた。
なるほど、確かにそれなら魔法でどちらかが大怪我を負うことも無いだろうし、妥当なルールなのかもしれない。
先程の剣の部の説明でもあった様に、ここに出場した冒険者たちが出来るだけ怪我をしない様に出来てるよな。
まぁそりゃ、本業がモンスター狩りの冒険者が、こんな関係ないところで怪我でもしたら意味分かんねぇし、そうして貰わないと困るんだが。
とにかく、今のスザクの補足のお陰でルールの把握が出来たぜ。
(俺以外のみさとやちなつ、横に並んでいる冒険者までもがスザクの補足に耳を傾けてたくらいだから、よっぽど今のレザリオの説明は適当だったんだろうな)
さっきは分かりやすいと言ったが、頼むぜレザリオさんよ。
――っと、どうこうしている間にルール説明が終わり、開会式も終わりを迎えた。
「――じゃあ、これで開会式を終わるで。もう後5分後には第1試合を始めるから、該当者はさっき言ったフィールドの入り口で、武器を取って戻って来てな。」
「え?もうそんなに早く試合が始まるのか?」
「らしいな。とりあえず俺たちじゃないから、観客席に戻って試合を見るとしようぜ」
「お、おう」
こうして帝都ティルトル剣術祭が幕を開けた。
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