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第3章1部【仇討ち編】
第63話【墓〜戻らぬあの頃の日常〜】
しおりを挟む「あ、あぁ……」
「と、とうま!大丈夫!?」
「おい、しっかりしろよ!」
「大丈夫!?」
お姉さんの言葉を聞いた俺は、その瞬間膝から地面に崩れ落ちる。
エスタリが……死んだ……?あの、何時も陽気でオネメルが大好きな、エスタリが……?
有り得ない、そんなの有り得ない。
俺の頭の中では、そんなまるでまだ事実を受け止めたくないという考えがグルグルと回っていた。――――
それから数分して、やっと何とか事態を飲み込んだ俺は、お姉さんにこの街で一体何が起こったのかを教えて貰う事にした。
正直まだエスタリが死んだなんて認めたくないし、今すぐにでもケロッと冒険者ギルドに顔を出すんじゃないかって思ってる。
――でも、だからってずっとここで止まってたらエスタリに怒られそうだからな。ここはひとりの冒険者として頑張るぜ。
「――まず、そちらの大陸でも出現したと聞いていますが、こちらの大陸でも第1発見者の報告が正しければ、サラマンダーが、それも全身が真っ黒の変異種が現れました。」
「やっぱりか……」
でも、てっきりこっちでは普通の赤いサラマンダーが出たのかと思ったぜ。
まさかこっちでもあの変異種が出ていたとはな。
「そして、1人でラペルを歩いていたエスタリさんを入り口付近で偶然発見した第1発見者は、助けてくれ、早くあいつを討伐してくれ、そう言ったのだそうです、」
「それであいつは1人で……」
「はい、その時エスタリさんはすぐに加勢出来そうな冒険者を呼んできてくれと言ったのだそうですが、その後すぐに加勢しに行ったオネメルさんとヒルデベルトさんが現場に着いた頃には……もう身体が――」
身体が真っ二つになっていた。と、お姉さんはそう言った。
あの変異種サラマンダーに1人で立ち向かうなんてな……確かにエスタリならやりかねんが……
身体が真っ二つ。その言葉を聞いて俺は吐き気がした。
って、待てよ……?じゃあ最初に加勢しに行った、オネメルとヒルデベルトはそれを生で、目の前で見たという事だよな……?
「お2人曰く、駆け付けた直前にはまだ息があったそうです、」
そして、身体が半分になったエスタリが死んで行くところを、目の前で見たという事になる。
――もし俺がそこにいたとしたら……考えるのも怖かった。
「な、なぁ、そのオネメルとヒルデベルトはどこに居るんだ?」
「お2人ですか……?おそらく冒険者たちのお墓に居ると思うのですが、」
冒険者の墓?そんなとこがあるのか。知らなかったぜ。
というか、俺たちがこの街で冒険者をしている間、誰1人死人が出なかったからな、知る必要も無かったのかも知れない。
――出来れば一生、知りたくは無かったぜ。
だが、とりあえず今はオネメルとヒルデベルト。2人の精神状態が心配だ。
俺たちはお姉さんに場所を教えて貰うと、すぐに冒険者ギルドを後にし、冒険者の墓へ向かった。
---
冒険者ギルドから東へ歩いて行くと、メディー牧場がある。
モーウのう○こを拾うという、今思えばモンスターを討伐するなんかよりずっと精神的に疲れる仕事をしたあの牧場だ。
そのメディー牧場の更に奥には、そこまで高くは無い、丘の様な場所があるらしい。
メディー牧場の目の前まで来た俺たちは、そこから言われた通り右側に逸れた砂利道を歩いて行く。その道は、丘の頂上へと続いていた。
「なんだかさっきからずっと山道ね……」
「だな、ほんとにこの先にあるのか?冒険者の墓ってのが」
「お前ら、きっともう少しだ……!頑張れ……!」
正直、俺もこの先にまず人工物があるなんてとても思えない。それに、ずっと上り坂でめちゃくちゃ辛い。
だが、お姉さんの言う通りに行くとこの先にあるはずなんだ……!
するとそこで、やっと登り切ったのか急な上り坂は段々と緩やかになって行き、周りの景色も全く見えないくらいには生えていた草木も無くなって行った。
そして、それと同時に俺たちは見つけた。
数え切れないくらいに並んだ、墓石を。
「こ、これは……」
全ての石にはそこに眠っているのであろう冒険者の名前が刻まれており、人によってはその等級や、使っていた武器なども一緒に刻まれている。
石は手前から奥にかけて古くなって行っており、今俺たちの立っている場所に並んでいる墓石に眠っている冒険者は……きっと数十年前、もしかしたら数百年前の人なのかも知れない。
「とりあえず、オネメルとヒルデベルトを探そう」
「そうね」「だな」「うん」
そうして俺たちは奥へと歩き出した。
それからしばらく歩き続けると、やっと俺たちはオネメルとヒルデベルトを見つけた。
オネメルは墓石のすぐ横にしゃがみ込んでおり、ヒルデベルトはその横に立ち尽くしている。2人とも、やはり表情がものすごく暗かった。
「オネメル……ヒルデベルト……」
俺の口から自然にそう言葉が漏れる。
するとそれで2人は俺たちに気が付いた。
「――って、貴方たち……」
「とうま殿、帰って来たのですか」
「あぁ、エスの報せを聞いてな。」
「「……ッ!」」
「――ねぇ、とうま?」
「なんだ?オネメル」
そこで、オネメルはそう手に持った紫色のチューリップを見つめながら、優しい顔、口調でこう言う。
「今こうやって現実を受け止めきれて無い私が言うのはおかしいかも知れないけれど……」
「あぁ」
「エスは……最後まで立派だったわ。だから貴方たちにはこの事で止まって欲しくないの、きっとエスもそう思ってるはずよ」
「オネメル……」
でも、本当にきっとエスタリもそう思ってるだろう。
『なに止まってんだよ、俺の事なんて気にせず早く前に進めって』そんな具合にな。
しかし、我慢強そうなヒルデベルトはともかくオネメルがそこまで落ちぶれて無くて良かったぜ。
てっきりもう立ち直れないくらいになってると思ってたからな。
そこで俺は、安堵のため息を吐く。
――しかし、全然そんなこと無かった。
「あれ……?おかしいわね……?」
そこでオネメルは、そう言った。
それに対してすぐに俺たちは顔をオネメルの方へ向ける、すると気が付けば、オネメルは先程の優しい顔のまま、目から大粒の涙を流していたのだ。
今思えば当たり前だったのに、なんでさっきの俺はそれに気づかなかったんだろうな。
俺たちはそんなオネメルを見て、4人顔を合わせるとみんなでオネメルを抱き締める。
ヒルデベルトも、1番最後に大きな手で俺たち全員を抱き締めた。
全く……本当にヒルデベルトは強いリザードマンだな。俺でさえ今にも泣き出しそうなのによ。
「グスッ……エス……やっぱりまだ私貴方と一緒に居たいわよ……エス……うぅ……」
そんなオネメルを、俺たちは何時までも抱き締め続ける。
気が付けば、エスタリも一緒に抱き締めてくれている様な気がした。
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